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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第四章 闘技大会
32/300

第32話 闘技大会初日 E~Gまで

『『Booooooooooooo!!』』


 凄まじいブーイングである。ここまで酷いブーイングは聞いたことがない


「なんで召喚士サマナーが居るんだ?!」

「あの風を召喚士が耐えられる筈がないだろ?!」

「あいつイカサマしやがった!!」

「あいつを降ろせ!!」


 今までにないくらい凄い批判の嵐である。

 アルトはもう人混みにまぎれて見えないので、もう彼らの未来の安否はもう分からない。


 視線を前に戻し、シーナを見る。彼女は死んだような目で呆然としており、両手のひらを見つめて座ったままだ。


『えええい!! 静まらんかあぁぁぁぁっ!!』


 再び姫様が一喝するが収まらない。やはり召喚士サマナーが召喚を使わずに単身で勝つのはおかしいのだろう。もうやっちゃったのだが。


『不正はない!! 繰り返す!! 不正はないっ!!』


 その言葉が言い放たれると、会場はさらにざわつく。カメラさんは仕事していないかと思っていたが、実はしていたらしい。


「嘘だっ!! 召喚士サマナーが不正なしに生き残れる筈がない!!」


 観客のブーイングは鳴り止まない。やはり俺は濡れ衣を着せられる運命なのだろうか。


 取り敢えずアルトが居るであろう場所に向かい手を振る。ここで彼女が暴走しては元も子もないのだ。

 しかし、更にブーイングは増して。


「こいつ調子にのってやがる!!」

「誰かあいつを殺せ! 召喚士サマナーなんて盗賊シーフより弱いだろ!」


 ひどい嫌われっぷりだ。しくじった感は否めないけども。


 未だに杖を持っていないシーナは、先程と相変わらずだ。座り込んで動かない。

 決勝に出たんだから喜べばいいのにな。


 取り敢えずこの暴言の嵐から抜け出るため、フィールドを後にする。


 出口には先ほどの試合で吹き飛ばされた選手たちが、冷たい目でこちらを見ていた。勿論のこと凄い嫌悪の視線だ。とにかく人の壁をよけながら出口へ目指す。


「この人でなし。そんなことまでして勝ちたいのか?」

「最悪よあんた。これだから召喚士は――」


 と、横を通るたびに貶しの一言が貰えるので、なんとも嬉しくないボーナスである。人間って敵がいるととにかく叩くよな。


「あ、ユウっ!」


 人混みをかき分けた先に、魔王様がうずうずしながら佇んでいた。一人でも味方がいて良かったな俺。


「よ、よう。勝ってきたぞ」

「人間達ほんとになんも分かってない!! 殺す!?」

「俺は大丈夫だから落ち着け」


 初めて会ったときのように興奮しているようだ。外野に対して怒っていることは簡単に理解出来た。俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、異世界スペックの代名詞である彼女が本気をだしたら、大陸が消し飛ぶのではないのだろうか。


「もう気にすんなって」

「でも――ッ!」


 まだまだ落ち着かなさそうだ。彼女が人間に対して何を起こすのかも予想ができない。気分転換になるのかは分からないが、飲み物でも奢ってやるか。


「なんか飲み物でも買いに行こうか?」

「人間やっぱり嫌い――はぁ、別にいいけど、ユウは悔しくないの?」

「どうせ七十五日も経てば忘れるさ」


 不機嫌そうな彼女ではあるが、とりあえず落ち着ける方向に持っていけたようだ。人の噂も七十五日っていうしな。

 なんにせよ、200Gで人類が救われた瞬間である。


 ~~~~~~


召喚士サマナーには売りません」

「なん……だと?」

「はぁ? それはどうかと思うんだけど?」

「不正行為以外にあの嵐をくぐり抜けた説明がつきませんので」


 一気にピンチである。人類悪ここに顕現せり。人類のためにこの販売員を洗脳しなきゃ駄目ではないのだろうか――おおっと、アルトのご機嫌メーターがどんどん下がっていく。目の光が消えていくぞ!


「おい、売ってやれ。私はそんな差別をするような者を職員に選出した覚えはないのだが?」


 と、ここで後から声がかけられた。どこかで聞いたことがある、本来の立場から想像できないくらい品が足りない声であった。絶対大人しくしてた方が人気出るって――


「だーれが品のない声だって? 黒髪の召喚士サマナー?」

「……心を読まれた?」

「ああ、確かに心を読んだな」


 後ろを振り向けば、見た目女子高生ぐらいの可愛らしい女性がいた。

 髪色は若草色で、長いツインテール。なんとも珍しい配色だが、口調とは裏腹に、不良のような匂いは感じられなかった。むしろ、その色でこそ、お嬢様感を高めているとも言える。瞳の色もその髪色に対応するような色で、これまた元の世界では絵でしか再現できなさそうなクオリティである。


 そして、心を読んだという、眉唾物のセリフ。この世界のお姫様事情はどうなっているのだろう。口調から矯正した方が良いのではなかろうか。


「おいおいそこの全属性魔術師オールマジシャン、私はこいつに恋心など微塵たりとも抱いてないわ。勘違いするなよ?」

「心読まれたっ!?」

「あっ ひ、ひ、姫様!?」


 そう。この品の――ある姫様は、先程の男らしい口調で闘技の実況をしていた女性である。


「私は心を読むことが出来るのはもう判っただろう? とにかく、早く売れ。女王であろうと、召喚士であろうと、客は客だぞ。そんなことも分からないのか?」

「は……はい! 姫様っ!」

「じゃ――これでいいか? アルトのお嬢様?」

「僕もそれがいいな。それよりさ、その呼び方ちょっと嬉しいけど恥ずかしいんだけど……」


 とりあえず彼女が満足してくれればそれでいいのだ。当の本人は頬を赤く染めて照れていて、ごく普通に受け止めたのだ。からかいのつもりだったのだが。

 ジュースを受け取り、照れ気味の彼女を見れたので今日はもうこれで十分である。近くに美女がいるという幸せはなかなか変え難い。


「――ひょっとして、お前らデキてるのか?」


 するとこの姫様は何事もないように小指を立てながら聞いてくる。このジェスチャーは異世界でも共通なようだ。

 ――当然、答えは決まっている。慌てることなんて、何も無い。


「出来てないって。それって、アルトにも失礼じゃないか?」

「!?」

「!?」


 二人して驚いている。なんか変な事言ったかな。


「こ、こいつ、気づいていないというのか……!?」

「結構――したのに!?」


 何のことだかさっぱりだな。

 まぁいいか。俺のぼでぃーは休息を欲しているのだ。飲み物を飲みながらゆっくりしたいのだよ。


「それより人が居なくてゆっくり出来る場所を知らないか? ひどい嫌われっぷりだからゆっくり出来なさそうなんだが」

「……あ、ああ。なら私の部屋に来い。休憩時間に誰もいないもので退屈してるんだ」

「……姫様?」


 アルトが敵意を込めた目線で睨みつける。


「そう言う事じゃないと何度言ったらわかる? まったく、これだから最近の若者は」


 腰に手を当て、嘆息しながら彼女は目を瞑る。

 彼女の服はフリフリのドレスではなく、姫様というより遊撃士のような格好であり、様々な武器が吊り下げられている。デザイン性もあってか、そのおかげで、アルトよりも大きな胸が強調されているような気もする。


 ここでやっと移動しながら自己紹介を済ませていない事に彼女はふと気が付き、急に自己紹介を始めた。


「私の名前はテュエルだ。テュエル=ランクルサリーという。知ってのとおり王族だ」

「……え? 本当に王族なんすか?」

「他になんだと思っていたんだ?」

「芸人の類かなと」

「……不敬罪で処罰してもいいが、これほどまで気軽に話せる者もいないしな。これまで通りで構わないさ」


 格好からして旅芸人のような、姫様(偽)だと思っていたが、どうやら姫様(真)であったようだ。少々動揺してしまったが、あの店員の態度で気がつくべきだったか。

 とにかく、ここから敬語で話すというのもじれったいので、優しさに便乗してこのままの口調でいかせてもらおう。


「じゃ僕ね。……僕はアルト。苗字は無いよ」

「ナミカゼ ユウだ。そっちからしたら変わった名前だろうが、気にしないでくれると助かる」


 今更ながら自己紹介を済ませる。

 和やかな雰囲気でこのまま部屋に着くのかと思っていた――が、彼女の放った一言で全てが凍りついてしまう。


「苗字なしのアルトか。ははっ、良くそんなことが言えるな、……魔王、サタンニア」

「……あ」

「……はぁ。やっぱり僕には気がつくよね。流石はランクルサリーの血筋かなぁ」


 このときのテュエルはアルトにも負けず劣らずの冷たい目で足を止め、俺たちを見る。


「いつから気がついてたのかな? 僕は君を殺す準備はもう終わってるんだけど」


 心を読まれる時点でちょっと危機感は感じてたが、まさか、王族のお偉いさん方にバレるのはちょっと不味い気もする。人間と魔族の関係性も未だよくは分かっていないとはいえ、な。

 対して、アルトもアルトで戦う気満々で、辺りが彼女から溢れ出る魔力で緩やかな陽炎が見られる。


「戦っていた姿を見た時からな。あの禍々しい魔力――私なら分かるさ。さて、聞こうか。なぜ魔王である貴様が闘技大会に参加し、人間に混ざろうとする?」

「混ざろうとなんてしてないし、したくもないよ。僕はユウと一緒に居たいから居るだけ」

「――ん? そーなのか? これは惚れてくれてる可能性が微粒子レベルで存在する……?」


 俺は一緒にというフレーズについつい反応していまい空気の読めない男の無様な結果を作り出してしまった。仕方ないよね。彼女がいたことない男だもの。ワンチャンあるかと思ったのよ。

 でもまぁどうせ、彼女は魔王なんだし、お見合いを終えて結婚しているどころか、逆ハーレムすらも所持していると予想している。男に慣れてるイメージがとんでもなく強いのだ。


「え…………ぇっ、えぇぇぇ!? ほほほほほ、惚れ!? ちちち、違うよ!? とととと、突然なななななにいってんの!?」

「……ナミカゼ ユウ お前は焦るということを知らないのか? 少しは危機感を感じるとかないのか? というか、なぜ人間のお前が魔王と一緒に――」

「多分運命かな?」

「ユウは少し黙ってね!?」

「うぃっす」


 顔を真っ赤にした彼女に胸ぐらを捕まれ、ブンブンと揺らされた結果、脳震盪を起こしかける。空気の読めないからかいって時と場合を選ぶよな。


「……ふ、はは、ははははっ」


 突然テュエルは乾いた笑い声を上げて――しゃがみ込んでしまった。急にどうしたんだろう。俺がなんかやらかして――しかなかったか。


「貴様は何者なんだ? ナミカゼ ユウ。お前は人間だろう?」

「何度聞かれようが俺は俺だ。取り敢えず案内してくれないか? 話は部屋ででもいだろ?」

「……それも、そうだな。そこにいるサタンニアの魔王の気にやられたとでも思ってくれ」


 どうやら彼女の威圧感、緊張感に耐えられなくてへたりこんでしまったらしい魔王ハンパないな。


 警戒をしながら俺たちはテュエル姫様の専用部屋に向かっていこうとして――不意にアルトが クイっと ローブの裾を引っ張る。


 そして先行するテュエルに聞こえない様な小さい声で俺話す。


「ああああのね、ちょっと聞くから素直に、こ、答えてね? あの人間と、ぼ、僕、さ。どっちが、可愛いか、な?」


 と恥ずかしがりながら質問をしてきた。突然の質問に意味が見いだせなかったが、とりあえず聞き返す。


「どうしたんだ?」

「どっち?」


 質問は受け付けないようだ。どこか緊張した目でじっとこっちを見ている。


「――アルトに決まってるだろ? まさか初対面の奴に俺が惚れるとでも?」


 俺は心からそう言った。するとアルトは安心したように声を和ませた。


「そっか、よかったぁ」


「どうしたんだ急に?」


「……何でもないよ!」


「こいつら、やはりデキてるのか? まさか、魔族と、人間が?」


 そう呟いたテュエルの声は彼らには聞こえなかった。


 ~~~


『えー、先程からいない姫ですが、彼女はお花を摘みにいったようでしばらく実況は休止です』


『『えええーー』』


 やはり姫の実況は人気だったようで不満の声が上がる。召喚士サマナーに対する事柄は完全に忘れて流されているようだ。

 いじめの現場である。非常に不服だ。


『さぁ! 続いてEブロック開始しましょう!』


 それからというものくにと面白い試合は無く、ただ単に試合が流れていった。


 最初に面白いのを出し、ボルテージをあげる


 というのを姫から聞いたので間違いがないのだろう。

 なんか裏を知った気がする。


 それともう一つ変化があった。


「ユウー、これ、あーんして?」


 アルトがさらに俺に対して積極的になった。


 なにか考えがあるのだろう。騙されてはいけない。


 なので丁重に断わっておいた。

 また、そういうのは好きな人にやれとしっかりと伝えておいたのでもう機会はないのだろう。

 やっとけば良かったと後悔したときはもう遅かった。


 なぜか魔王様は不機嫌だったが。



 ~~~~


 時は流れ、Gブロックまで終わった。


 GブロックはAブロックに比べやたら長く時間掛かったが、見るからに小学生ぐらいの子が多かった。


 やはり調整してるんだな。この世の闇だ。


 テュエルからは部屋を自由に使っていいと言われ、実況のため彼女は出て行った。なかなか忙しそうだ。


 今更ながら闘技大会はしっかりと時間を掛けて行われる。なので一日では終わらない。俺たちは明日もまた出撃である。


ご高覧感謝です♪

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