第31話 闘技大会初日 Cブロック Dブロック
お姫様とアルトが画面越しにアイコンタクトしたあと、アルトは笑みを浮かべたままから表舞台から出ていった。
やはりお互い高い身分ということで通じ会えるものがあるのだろうか。彼女の正体がバレたら大変な事になるのは確実なのだが。
『それと! 先程の試合では勝者が一名のため、敗者復活戦を全ブロックを終えたあと行うのでお楽しみに!!』
その言葉を発した途端、観客と出場者は大いに盛り上がった。予選敗退したものでも、でも全員にチャンスがあるのだから、負けたやつもそりゃ嬉しいだろう。
ちなみに総ブロック数はA~Gまで。沢山参加しているようだ。
『さぁCブロックが始まるまでしばしお待ちくださいっ!!』
なんともこの姫様は盛り上げ上手である。俺にはついていくのもしんどそうだ。
なにより、異世界の姫様ってのはおしとやかで、気品があって、とても美しい女性――と、思っていたのだけど、そんなことは無かったな。実際、口調は荒いし、姫様はあんな感じだしな。イメージ崩壊もいいところだ。
『さぁぁぁて!! お待たせしました!! Cブロックの選手の入場っ!!』
どうやら準備が終わったらしく、フィールドは綺麗になっていた。観客はやたら物を投げ飛ばすので掃除にも手間が掛かる。始まるのが楽しみなら投げないほうが早く準備が終わるのにな。相撲と同じだろうか。
姫殿下が一人一人選手をクラスと共に紹介していく。
クラスと名前を紹介していく中で、拍手や応援の声は多数上がっていたが、急に盛り上がる場面が幾つかあった。
『バリアント魔法学校の中でも屈指の実力と人気を合わせを持つこの大会のダークホース! ミリュ=バルゾディア!! クラスはなんとユニーククラスである二属性属性魔術師だぁぁぁ!!』
「ミリュー! 頑張れー!」
「こんな奴ら蹴散らせー!」
「学園の名に恥じぬように!!」
このミリュと言われた女性は、金髪で、アルトと同じく腰まである長いストレート、頭の上にあるアンテナのアホ毛がよく目立つ。ついでにカチューシャをしている。
さらに彼女はユニーククラスという世にも珍しいクラスである。召喚士や、騎士などの枠組みから少し離れた存在だ。
さらに、当然とばかりに可愛い。恐らく年齢は俺より少し下だろうか――ってどうでもいいか。
ユニーククラスとは非常に珍しいクラスで、例を上げるならば、七属性以外の魔法使い、詳しくいえば時空魔法など、通常のクラス枠に収まりきれないものたちである。また、二属性以上使いこなせるものもユニーククラスと判別されるようだ。
彼女は二属性魔術師なので名前の通り二属性使えるのだろう。普通の人間は扱える属性は一生で一個とされている。ので、その点からしてもやはりすごい。
俺はデュアルマジシャンなんてジョブはないので、基本的に卑下されている召喚士の俺は、刀と、一つの属性魔法だけで戦うしかないということだ。召喚士は魔法クラスだが、魔法を使えるのは極少数らしい。
なので目立たないようにする……ってのは無理かもしれないが、できる限り不審な行動は抑えろとのこと。
そんなことをいっても、賞金のためなら最善を尽すまでだが。
ぼんやりと考えていたら、再び盛り上がる声が聞こえた。
『やるときはやる男! バリアント魔法学園の戦闘犬! リンクス=バトラー!』
「きゃー!!バトラー家!!!」
「リンクスー!ぶちのめせー!」
照れながらも会場に出てきたのはリンクスと呼ばれた少年。彼は茶髪で短髪、そしてミリュと呼ばれた女の子とも同い年に見えた。また、勿論のことイケメンである。なんだこいつら普通なのいないのかよ。やばいなこの世界。
彼は鎧を着ているが、両手には短剣持っている。なんともアンバランスに見えるが、それが彼の丁度いい戦闘様式なのだろう。
『さぁぁぁ!! 出場者選手は揃った!! では始めるっ!! 試合――』
大きな試合会場にピリピリとした緊張感があたりに立ち込み始める。やはりここが一番の激戦と考えられているようだ。
『開始っ!!』
開始と合図と共に動いたのはリンクス。彼は持っている双剣で辺りの人を辻斬りのように、ばったばったとなぎ倒していく。衝撃波に変換された一撃はまるでトラックが人ごみに突進しているようにも見える。
「でやぁぁッ!!」
彼は鎧を着ているのに、そのスピードには目を見張るものがあった。
「ぐぅぅっ!?」
切られた男は思いっきり吹っ飛び、またある場所ではリンクスより屈強な体つきをした男性が槍を盾代わりにして、短剣の一撃を呻きながら受ける。しかし、それだけで止まる彼ではなかった。
「《旋風脚》ッ!」
その言葉を放った途端、彼のぐるりとひねりを加えた回し蹴りが炸裂する。
すると、その屈強な体つきの男が軽々吹っ飛ぶだけではなく、その周りにもいた人々も巻き込み、大いに激しく吹っ飛んでいく。どうやら武芸を使用したようだ。
なかなか使い込んでいるらしく、動作も流れるように綺麗だった。
旋風脚の勢いを殺さず、さらに人をなぎ倒していく。
なかなか強そうだ。
もう一方の注目の的であるミリュは、五人の男女による攻撃をひたすらに避けていた。
「このっ?! なんで……! 当たらないっ!?」
「貴方の攻撃が遅すぎるから、よっ!」
彼女は回避能力に自身があるようで、回避に全く焦りがなかった。
しばらくの間回避しつづけていると、彼女は回避しながら敵を引き連れ、このままリンクスに近づくようだ。どうやら最初からふたりで協力することを決めておいたらしいな。
「お願いっ!リンクス!」
「サンキュー! ミリュ! はああっ!《二閃!!》」
どうやら息がぴったりのようだ。もう結婚しろよってぐらい。
そうして、結果はあっけなく、彼らのコンビネーションに圧倒され、他の人たち負けてしまったようだ。
『勝者ぁぁっ!! ミリュ=バルゾディア!! リンクス=バトラー!』
『オオオオオオオオオオッッ!!』
観客が割れんばかりの歓声を上げる。十代でかなり動けるのは才能だろう。盛り上がる気持ちもわかる。
「勝ったわよ!! 皆!!」
「あっはは、ありがとー!」
彼らは手を振ってこたえている。俺とは真逆だな。
しみじみとそんなことを考えてたら肩をトントンと叩かれる。
「やっほー勝ってきたよ!!」
アルトだ。やはり笑顔が可愛くてつい見とれてしまう、いかんいかん。
「よう、お疲れ様。流石の戦いっぷりだったな」
「えへへ、まぁ普通に見せれば嫌われる戦い方だったけどね」
「俺は普通にいいと思ったよ。ゆっくり決勝まで休めよ」
すると彼女はとても嬉しそうな表情を見せてくれた。
「うんっ!! ありがとう! 次はユウだよね?」
「ああ。そろそろ行ってくるよ。」
「ユウ、絶対負けないでね? 絶対だよ?」
やはり戦いたいらしい。魔族怖い。視線が急に猛禽類如きの視線に変わる。まるで俺は肉食獣にターゲットされる草食獣である。
「ああ。いってくる」
「行ってらっしゃい!」
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待合室に行くとやはり緊張感は先程の比ではないくらい部屋に満ちていた。
いつか話しかけてきた高飛車さんたちは緊張こそしているものの、どこか余裕がある。彼女らも大人になったら化けそうだ。
俺はというものの、正直あのシーナという女の子しか警戒していない。
いや、あの彼女以外は警戒する必要もなさそうだ。
なんとなくで強さが大体把握できるのはスキルの恩恵では無く、俺の経験によるものだろう。
と、考えていると、最近俺のことを目の敵にする少女、シーナがこちらに近づいてきた。
「貴方の実力は分かりませんが、勝つのは私です。決勝までしっかりと生き残れるようにしてください」
「いきなり全員吹っ飛ばすつもりかよ」
「そうです」
彼女は初っ端から魔法を全開にするようで、俺に防御に徹しろといいたいようだ。
だが、俺はこの日のためにレベルを上げたんだがら、少しは腕試しをしたい気分だ。少しは。
そういってシーナは悠々と去っていく。あれ実際二十歳ぐらいあるんじゃないか? という大人な雰囲気であった。見た目は完全に中学生であるが。
『今から入場を開始します。入場口へ移動してください。繰り返します……』
どうやらついに始まるようだ。
少しは緊張するが、そんなに相手は強い気がしないので心配はないだろう。
俺は人混みに紛れて入場することにした。
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『さあああぁ!! お待たせしました!青年枠Dブロック選手を紹介しましょう!!』
相変わらずの元気の良さで姫様が選手を紹介していく。
高飛車さん本名はダニアというらしいが、彼女も意外と魔法学校でエリート生であるようで、応援が凄まじかった。
それともう一つ驚いたことがある。
『おおっと!? 今回の優勝に一番近い人がギルド本部からこの闘技大会にきたぞぉぉ!!』
『なんとランクはSSっ!! 破竹の勢いでランクを上げる美少女!! シーナ=レミファス!! クラスは風魔術師!!」
SSってことは……相当高いよな。
ふと彼女のほうに視線を向けると、無表情だが、どこか誇らしげな顔でこちらを見ていた。拍手ぐらい送っておこう。
その俺の反応を見て、彼女は少し驚いたをようす見せ、すぐに無表情になる。俺に精神揺らがされているのでは無いのだろうか。
そしてまたお姫様は再び選手の紹介を始めた。
――が途中でお姫様は面白そうな声を上げて、イントネーションをかえてから選手を紹介する。
『!!……これはこれは!」
『なんと!! 久しぶりの人間が来た!! その名はユウ ナミカゼ!! クラスは召喚士ぁぁぁ!!』
あのギルマス、俺の苗字までだしやがった。
と思っていると会場が一気に静まり返る。
「おい、なんで召喚士がこんなところに来てるんだ?」
観客の誰かがこんなことを俺に向けて言い放つと、これをきっかけに会場中が俺に敵意を向いてくる。
「召喚士が出る枠じゃねぇぞ!!」
「あっ、あの黒髪! 転移石つかってたボンボン野郎だ!!」
「出てけ!! この神聖な会場から出ていけ!! 昔にあんな大きな罪を犯したクラスであるのに、この会場にいるなんて!!」
と、色々と言われ始めると、どんどん会場は俺への敵意で染まってくる。これは酷い。
って、昔に大罪を犯しただって? やっぱりそれが原因なのかよ。その召喚士は何をしでかしたんだ?
すべての観客、選手から言葉の暴力が俺に向かって降り注ぐ。
が、問題はそんな軽いところではない。
「……人間……ふざけないでね……ユウは……何にも悪くない……!!」
アルトが相当怒っていることだ。会場中に先程の衝撃波を解き放ちそうな雰囲気だ。なんとかして止めないと賞金どころではなくなる。
どうしようかと考えていると、突然耳を劈くような爆音、いや叫び声に近い音が響き渡る。
『静まれぇぇぇぇぇぇええええッ!』
突然の出来事に会場は再び静まりかえる。
アルトも驚いたようで威圧感が解けた。
『さぁ次っ!! ラリド!! クラスはナイト!!』
俺へのヘイトを減らしてくれたのか、一括した後、普通に解説を進めてくれてた。なんとも恐ろしい姫君である。いろいろな意味で。
この姫様には叶わないらしく、俺への暴言は減ったが、ぼそぼそと聞こえる。気持ちのいいものではないな
『さぁぁぁ!! Dブロック!! 試合開始!!』
警戒するのはあの幼女だけでいい。風魔法の先読みの仕方はアルトに習った。取り敢えず対処は間に合うはずだ。
「《スクリュ》」
そんな呟くような声が聞こえた刹那、凄まじい風が激しく吹き荒れる。台風なんて比ではないくらい凄まじいもので、常時ジェットコースターを下っているかのような風圧を受けているような感覚である。
しかし、来ることは分かっていたため、風魔法の弱点である、継ぎ足しの風の隙間を抜いて、なんとかいなす。
風魔法というものは、バースト銃のようなもので、永遠には放てない弱点がある。その一拍を縫って回避をするのだ。
「「うわぁぁっ!?」」」
大体の参戦者が風をよけられず吹っ飛んでいく。たまにこちらにも人が飛んでくるので邪魔なことこの上ない。
「はぁぁぁっ!!!」
この突風の中、高飛さんことダニアが弓を取り出し、数発放つ。やはり一応エリートとして出来る子らしい。
「無駄」
しかしシーナは矢を全て別々の方向へ加速させて受け流す。
勿論のこと受け流されたそれは俺にも飛んでくる。
だが、風の流れは今ところ渦を巻くように流れているので、この流れに従えば、なんの影響もない。
「ぐぁぁぁっ!?」
矢の攻撃と、風の加速が組み合わさり、必死で耐えていた選手はそれらに被弾してしまい、暴風の外へと消えた。
「こんのおおおぉ!! ちびなくせにぃ!!」
ダニアが風に耐えながら矢を撃ちまくるが狙いも合ってない攻撃が当たるはずもなく――全部俺に向かって飛んできた。
「……これって完全にとばっちりだよな」
俺はもうよけるのも面倒くさいので風魔法で逆に押し返す。
勿論のこと矢を返され、返された高飛車は
「ッ!? こんなのどこからっ!?」
全く想定外であった俺の攻撃により、彼女も暴風の外へと飛ばされていった。
「さて、終わりか?」
気配はないが、風はやまない
「っ!落ちろぉぉぉぉっ!!」
何やらシーナは無理してでも俺を落とそうとしているようだ。魔力の使いすぎなのか、非常に汗だくであった。
俺をこの場所から落とそうと全力であることは伝わる。が俺はアルトとの約束を破るわけにはいかないのでこの場を治めることにする。
「さて、その杖を離してもらおうか」
俺は暴風の中、まっすぐに走り出す。
魔法に集中していたシーナは認識出来ていないようだ。
彼女の真正面まで辿り着くと、より一層風が強くなり、かまいたちすら飛んできて軽く頬を掠めるが、関係ない。
「杖を、離しな!」
俺は思いっきり杖をアッパーで吹き飛ばす。体勢が崩れたので吹っ飛びそうになったが、空中歩行 で一度体勢を立て直し、地面に足をつく。
最後の最後で一人だけ飛んでいってしまった人間を、視界の端で確認できた。ふっとんだ彼が俺たちを除く最後の生き残りの一人だったのだろう。もう少しだったのにな。
あまりの暴風にカメラが……あるのかどうかは不明だが、映像録画の機械はあまり仕事していないことがわかったので、彼女しか空中歩行のスキルを発動したことを見ていないだろう。
杖が カラン と乾いた音をたてて落ちると風が何事もなかったように止んだ。
いま、ステージに残っているのは二人、
杖を飛ばされ、漠然とした表情のシーナ
ドヤ顔で佇む俺。
『決着!! 召喚士とシーナぁぁぁぁ!!』
静寂。そして
『『Booooooooooooo!!』』
ブーイングの嵐であった。
ご高覧感謝です♪