第30話 闘技大会初日 Aブロック アルトvs多人数
それからというもの、闘技大会の予選はブロック別に分けられて戦うらしく、待機部屋はアルトとは別々になった。
彼女はBブロックに出場するが、俺はDブロック。予選でいきなり衝突する、ということはない。あくまで決勝までだが。
彼女はとても残念そうな声を上げていたが俺的には一安心だ。とりあえず賞金が欲しいので頑張ることにしよう。
また、青年枠の予選では、魔法学校という場所からから力試しに出場するという選手が殆どであり、俺たちのような飛び入り参加をした者は非常に少ない。彼らは学園に通っているということもあり、すれ違う選手たちは比較的年下が多い。もちろん歳上もいるが。
「うわ、あの召喚士出場するのかよ……」
「ええーあの子召喚士なの? ぼこぼこにされそ」
「あのガキ、バンリ様の代わりに潰してしてやるよ」
――などと、俺を目の敵にしてるのは大体歳上の方々で、なおかつ俺のクラスを知っている人々である。情報が広まるのは早いことで、俺が召喚士ということも既に世間に知れ渡っている。珍しいと思われがちな黒髪なので目立つことも理由の一つかもしれないが。
Dブロックに配属されたので、指示された場所に入る。待合室は意外と広く、体育館ぐらいの大きさがあった。
俺が大会ということで勝手に想像していた、待合室の中で筋トレや魔法の練習をしているという光景は見受けられなかったが、緊張感はしっかりと伝わる。
「おい召喚士お前よっわいらしいな!」
「私よりよわそー」
「きゃはははっ」
「ウルトラめんどくせえ……」
やはり俺が召喚士ということで、わざとらしいほど冷たい視線が俺に刺さり、中には一方的に声をかけてくる者もいた。その内容はどれもこれも俺の存在を貶すようなものであったので、ひたすら無視を貫いていた。多少手を上げそうになったが、色々大変なことが起こりそうなので必死で抑えている。
しかし、召喚士ってだけなのに、ここまで扱いが酷いのか? 俺は座っているだけなのにバカにされるとは――
「あら? そこにいるのは召喚士ではなくて?」
ほらなこういうやつだよ。
「誰だお前」
近寄るなオーラを出してたが、彼女には全然無意味らしい。
「今回優勝させてもらうダ二ア=レニメルですわ! 覚えておくといいですわよ。召喚士さんの悪そうな頭に私の活躍を刻み込んであげますわ!」
そういって青のブロンドで、弓を背負ったダ二アという少女は背筋をピンと伸ばして悠々と去って行った。彼女は俺と同じような年齢に見えたが、アルトより胸が大きく、そこに目がいってしまったのは内緒である。
とりあえず次から彼女のことを巨乳――じゃなくて、高飛車さんとよぼう。
それにしてもな、言いたいだけ行って去ったよあいつ。名字を持っていたから多分貴族サマなんだろうな。
だからといって戦闘で手を抜く気はゼロであるが。
その後は近寄るなオーラを強くしたのだが、ダ二アとかいう少女が来てからというもの、同じような男子、女子が堂々と勝利宣言してきてくれた。
俺が最弱って分かってるなら話しかけなきゃいいのにって思うがな。
そんなことを思いつつ、目を周りに向けると――
「おいおい……あいつ出るのかよ」
見回していると、ふっと目につく水色の髪の少女がいた。それはシーナという以下にも三角帽に、ローブと、いかにもウィッチという装備で、非常に冷たい雰囲気を宿している。
彼女は苦手なので、俺としては今すぐここから逃げたい気分である。
じっと見ていると、当の本人もこちらの視線に気がついたようで、目を向けてきてくれた。
その瞬間俺は視線を外し、知らない人のフリを徹することにしたが――どんどん彼女はこちらへ向けて近づいてくる。俺の周りの人混みも彼女を避けていくように離れていく。
「……貴方も出場するんですね」
「不本意ながらな」
周りの魔法学園の生徒たちから彼女に向けられる視線がどうにもおかしい。畏怖、嫉妬のような負の視線だ。どうやら彼女もわけありのようだ。
「……はぁ。貴方が出ても、出てなくても関係はありませんが、とりあえず警戒させていただきます。では」
そういって彼女は静かに出口に向かっていった。それだけのためにこっちまで来て話しかけたのか? ほかのヤツらのように勝利宣言なのだろうか?
『今から開会式を始めますので全ブロックの出場選手はフィールドに集まってください。繰り返します……』
耳に届いた放送により、開会式があること知る。どうやら無意味な開会式はこの世界にも存在しているようだ。どこの世界でもこの式があるのは意外だが、俺からしたらめんどくさいの一心である。
~~~~~~
ざわざわと騒がしい中、一つの声が俺の耳に入ってくる。
「あっ、いたいたっ! おーい! ユウーっ!」
「あっアルトちゃん!まってー」
「俺らをみてくれー!」
この黄色い声は俺ではないぞ。
確かにこちらへ向けて手を振ってくる彼女はアルトだが、この短時間で幾つもの男を虜にしたようだ。彼女の後から数人の男が追いかけてきている。やはり彼女は色々な意味でも魔王である。
再会を喜んでいると――
「おいそこの君、アルトちゃんとどんな関係なのかは知らないけどその子は僕の女だ。離れろ」
なぜだか、追いかけていた男が嫌な雰囲気で喧嘩を売ってくる。ついつい面倒くさくなって……
「そーなのか。アルト行って来い」
「いやちょっと待って?! 何それ初耳?! てかもっと否定してよ?!」
「何無視してくれてんだコラ? こちとら貴族だぞ? てめぇなんて余裕で潰せるんだぞ?」
貴族とは、元の世界で知られているお金持ちの家系と判断して良いのだろう。平民は貴族の権力の大きさにより貴族には逆らえない様だ。
まぁこの世界をそこまで知らない俺は関係ないが。
「おーこわこわアルト、無理してこっちこなくていいんだぞ。貴族様の胸へ飛び込んでこい」
「無理してないからね?! やだよあんなの!?」
アルト、貴族様だぞ。あんなの呼ばわりはちょっと――
「おい女、誰があんなの『静粛にぃぃぃッ!!』……覚えていろ」
突然のラウドボイスが会話のドッチボールを途切れさせると、その声を聞いて貴族サマはこの場からは早足で離れていく。開始直前のおっさんの声で途切れてしまった、可愛そうに。
「始まるみたいだな」
「そーだねっ! 楽しみだなぁ……」
そこからは適当な説明。大会主催者たちの激励と、いかにも開会式な感じだった。眠くなったのは内緒だ。
――彼女が出るまでは。
『いいかお前らァァ!! 大怪我はしねぇ!! 女神様の加護を受けたサイバルだからなぁッ!! 気合入れて戦えよおおお!!』
『ウぅォォォッ!!』
画面の向こうでマイクを握りしめ、スカートの裾なんてなんとやら。机の上に足をかけ、女の子とは思えない野太い声で試合の激励を送る。
これが、初めて見た、この世界の、お姫様でした。
ティアラをかぶっていたので、恐らく間違いない。
「えっ、……えぇっ」
言葉使いぐらいしっかりしてください。イメージ崩れまくりです。――と思っていたのに、会場とフィールドの両方の会場が割れんばかりの声が上がる
『『うおおおおおおおおおおおっ!!』』
もう祭りだなこれ。耳ふさいでもうるさいぐらいだ。
そんなこんなで開会式が終わる。
熱が冷めないまま、Aブロックの試合が始まるので
なかなか盛り上がった。俺は全然つまらなかったが、アルトは取り巻きから逃げてるため、俺の隣で眠っていた。周りが煩かろうが、揺れていようが寝られるのはもうスキルだと思う。
『うおおおお!! 決まったぁあぁぁ!! Aブロックの二人は獣人の男と、エルフのカップルだァァ!!』
現在戦っていたのは虎のような体で、ハルバートを持つ獣人と、耳の尖ったエルフ。ここで思いだした。この街に入る前のあのカップルか。お似合いだこと。
「ほら、行って来い。まさかとは思うが負けるなよ?」
俺はアルトを立たせ、背中を押す。
「うんっ! 頑張るね!」
顔が真っ赤に染まっているが、胸の前で拳を二つつくり、やる気を見せる。
さて、魔王様は人間の試合に混ざるようだがどんな試合をしてくれるのかな。見ものだな。
そうして俺はアルトを見送った。
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『さぁ!! 続いて青年枠枠Bブロック!! 将来有望な戦士よ!! 入場せよ!!』
そんな姫様とは思えない声が響くと、会場に続々と人が入っていく。
っと、見つけた。黒髪の彼女がアルトか。またもやかの女は入場しながらひたすら他の男に話しかけられている。やはり色んな意味で魔王様なんだな。
話しかけられても本人完全にスルーだが、俺があんな対応を取られたら完全にくじけそうだ。
ふと気がつけば、彼女がこちらに向かって手を振っていた。
俺は軽く手を振り返すと、アルトは喜んで更に振りを強くした。
召喚士のくせに、というセリフと共に嫌な視線が俺に向く……やらなきゃよかった。
『さぁぁぁ!! 試合開始ぃぃぃ!!』
開始の合図として、姫様が手を振り下ろしたその瞬間。俺が魔法創造使った時のような突風が、彼女の足下から凄まじい勢いで吹き荒れる。それも突然で、なんの脈絡もなく。
『うわぁぁぁっ!!』
そ屈強で鍛えられた年が軽々と吹っ飛ぶ。魔力を解放しただけでこれとはな。
Bブロックで戦っている人々の半分が吹っ飛ばされたようだ。
おおよそ100人はいたが、今現在かなり減っている。
「むうううっ!!」
そこで、俺より歳上で、かなりの大男が斧をアルトに向けて振り降ろそうとして――
「殺されたい?」
斧を指先で受け止め、その指を男の顔に向けた瞬間、男は気絶。おそらく威圧感で失神させたのだろう。恐ろしい子。
「これが人間の今なんだね……」
再び大きな魔力が吹き荒れる。どうやら上級魔法を使うようだ。
「さて、どれだけの人間耐えられるかな――《精神喰》」
アルトは手を振り払うと、不可視の衝撃波を生み出し、辺りの人間たちは抵抗することも無く飲み込まれていく。
外に飛ばされることは無かったが、衝撃波を食らった人間はどこかようすががおかしい。
「ぐぅおおおお……!?」
と選手たちはおのおの頭を抑えて悶えている。どこかぶつけたのだろうか。
会場で立っていられているのはアルトただ一人である。
「……勝ちでいいよね? お姫さま?」
アルトは画面の向こうにいる実況姫に向かって話かける。
その姫様の顔は興味深々といったようで、笑顔で満ちていた。
『しょおおおおりぃぃぃ!! Bブロック優勝は アルト ただ一人だァァァ!!』
静まり返っていた会場に姫様の声が響く。
すると
『衝撃波、なのか?』
『すげぇ……すっげぇ!!』
『うおおおおおおおおおッ!!』
先ほどより大きな声援が会場から上がる。
アルトは魔法を解き、一礼して悠々と去っていく。
流石は魔王様だな……カリスマっぷりもなかなからしい。一気に気絶させたとしてもこの歓声の嵐である。
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