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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十二章 異なる世界と境界線
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第299話 従軍

 馬車の荷台に乗せられて、体感で1時間が経過した。

 アルトとの距離とは離れていく一方であり、今すぐにでも向かいたい気持ちではあるが――


(ボクもホントは今すぐ会いに行きたいけど、今は我慢しようね)


 念話のスキルによって意思疎通を図ることは出来ていた。

 回線状況が不安定であるためか、途中で急に切れてしまったり、会話に時差を感じることが多い。


(俺は何も見えないまま未だ運ばれてるけど……そっちはどうだ?)

(ボクの方はついさっき城の地下に連れてかれて、今は軟禁状態だね)

(っ……できる限り早く向かうから待っててくれ)

(ボクなら大丈夫! 多分相手も手を出してこれないだろうし。でも、こういうのもなんか新鮮だなぁ)


 今から抵抗してアルトを追いかけてしまうことは出来る。しかし、彼らが俺たちを押し潰してしまう一手を持ち合わせていることを忘れてはならない。


(新鮮? 何が?)

(だってここ最近ずっと動いてばっかりだったからさ! こうやってのんびり話せる状況なんてなかったからね)

(いや、お互い連行されてるけど……でも、やることはないから確かにのんびりか)

(うん! 距離は遠いけど、ユウとこうやって話せてるから楽しいよ!)


 無垢なのか、それとも計算済みなのか、どうにも心を撫でられるような感覚にくすぐったくなってしまう。

 ……危機感が欠けすぎた。先程彼女へ伝えたとおり、連行中の身であることを忘れてはならない。


(でも今は話せる内に今後について決めておかないと)

(そうだね。申し訳ないけど、ボクたちにいま出来ることはまだなさそう。連れてかれた原因もハッキリしてないし)

(こっちもだ。どこに向かってるのかも分からないし、何一つ進展がな――)

(――っ、気付かれた!?)



 突然アルトの切羽詰まった声が届いた途端、ぶつりと回線が切断されたかのような不快な音が脳内に響き、彼女の声は聞こえなくなってしまった。


(ふぉう、どうやらこちらも目的地に到着するようですな)


 入れ替わりざまにプニプニの声が響く。

 少しずつ速度が下がっていき、体が傾いて……隣にあった硬い何かにぶつかる。


「っ、すいません」


 隣から小さな声が漏れる。

 肩に当たった感触は人肌にしては冷たく、骨ばった硬さを感じた。

 ただ、返事があった以上、生あるものには間違いない。


「こちらこそ。周りが見えなくて――ごふっ!?」

「無駄口を叩くな」


 腹部に鈍い衝撃。恐らく蹴りを叩き込まれた。

 身に纏う障壁スキルに阻まれ、威力は減衰しており、痛覚半減によってほぼ痛みを感じていないが――なかなかの衝撃で気持ちが悪くなる。


「ぐ、ぅ……」

「……なるほど。技能スキルを持ち合わせているか」


 感嘆したような声が響いた後に追撃が飛んでくることは無かった。

 荷車が完全に止まるまで俺たちは動くことも話すことも出来なかったが、ついに変化は訪れる。


「降りろ」


 腕に繋がれた紐に引き寄せられ、強引な力で道を示される。

 気配感知を使用していたため分かっていたが、俺たちは多人数で荷車に乗せられていたようだ。

 前から、後ろから、そして無数の足音が無理やり下ろされる。

 言わば奴隷のような扱いである。普通の人間であれば視覚が機能しない以上、恐怖感はより一層強くなっていることだろう。


 引き連れられる最中、降りたくないと抵抗の意を示していた声も聞こえたが、鈍い音がした途端に声は聞こえなくなった。


(ふぉ……ユウ殿、なりませんぞ)

(……分かってる。けど)


 ここで暴れたとして返って様々な危険を呼び込むだけだろう。そんなことは分かっている。

 しかし、今という一瞬だけでも助けられる力があるのに、それを行使せず我慢するというの辛いものがある。


 どうしようもない気持ちを繋がれた両手の中で握りしめ、引き連れられるまま歩き続ける。

 五分ほど歩いたところで、おびただしい気配を感じて思わず足を止めそうになった。


(ふぉほ、なるほど、ここに向かっていたと)

(見えないけど、間違いなくここが目的地だな)


 その数、概算でも2000人。魔物も敵兵士と思われる人間も混ざっているため、その時点でいい予感はしない。

 非常に広い施設であることは入る前から分かるが、実際に確認しないと分からないことも多い。


 例えば――セキュリティ関連。


「開門せよッ!!」


 最前に居ると思われる亜人が凄まじい声量で叫ぶと、重々しく巨大な扉が大地を揺らしながら開かれていく。

 もちろん、袋を被せられているため実際の様子は目に見えないが、前後の流れからなんとなくは推測がつくだろう。


(プニプニ、内部の簡易的な状況を教えてくれ)

(ふぉほ、端的に申し上げまして……非常に堅牢な収容所ですな。特にユウ殿に問題になりそうなのは周囲に張られた結界と見ました。魔法を封じる結界、そして触れたモノを石化させる結界がそれぞれ2枚づつ貼られております」

(石化、ね)


 プニプニは手の甲にて目玉を作り出し、俺のスキルである観察眼サーチアイを利用して状況を伝えてくれた。この情報に偽りはないだろう。

 俺のスキルにて魔法破壊耐性は存在するものの、封印耐性は残念ながら無い。大人しく肉体一つで出口を見つけなくてはならない。


(現在ユウ殿は検問、というよりは身体検査の順番待ちですな。しまえるものがあれば魔法陣の中へ収納しておきますぞ)

(……いや、持ってるものはないから大丈夫だ。ありがとう)


 ふと意識してしまった空虚感を感じる魔法陣。

 ソラとファラが居た魔法陣に入っているのは、彼女らが外遊びした時に買ってきてくれたワッペンの一つだけ。


 だから俺は縋るようにプニプニに聞いてしまう。


(ソラとファラは――)

(戻ってきますとも。そのためにユウ殿は必ず生き延びて彼女らの居場所を守りきらなくてはなりませんぞ)


 たとえ嘘だとしても、俺はその一言に救われた。

 そうだ。今はともかく、生きのびて、皆と合流して――合流し……て……?



「合流して、どうすればいいんだ……?」

「頭の袋を袋を外せ」

「ハッ!!」


 身体検査が俺の番になっていた。医療着のままであるため、特に持ち込んでいるものなんてないが、素直に受ける。

 久々の外の光に目が眩む。電球から差し込む人工的な光であるが、視界が機能することに一抹の安心を覚えた。


「班長、こいつは技能持ちです」

「なるほど、なら配属は決まりだな。連れて行け」


 班長と呼ばれた人物は流れ作業のように検査を指示し、俺は為す術もないまま指示された事を遂行する。


 荷物等はそもそも持ち合わせていなかったので特に何も言われなかったが、問題はここからである。


「入れ」

「……」


 ほぼ全裸になってしまった。唯一ぼろい腰巻だけは与えられたが、他に身につけられるものはない。


「これは技能持ちです。手筈通りに」

「分かった。ご苦労」


 荷物を引き渡されるかのように俺を引き連れている紐は別の人物へ手渡される。

 この世界に来て何度も辛い体験をくぐり抜けた結果、かなり肉体は屈強になっていたと自負していたのだが、あくまでも人間基準の話である。


「細ぇ」

「小せぇ」

「弱そう」

「食いてぇ」


 俺の肉体に対しての評価が飛び交う。すれ違い様に笑われ、虫を見るような視線を当てられており、良い評価はつけて貰えなかった。

 評価を下したのはゴリラのような亜人、像のような巨大な亜人など、誰も彼もが屈強そうで正直勝てる気がしない。

 一応俺もスライムの亜人扱いなのだが、見た目は変わっていないため、周囲の視線は明らかに痛い。服を脱がされていたため、尚更そのことを感じてしまう。


 腰蓑のまま連れていかれたのは一つの講義室のような場所だった。一応現状の説明はして貰えるようで地味に丁寧な扱いを受けてしまっている。


「座れ」


 席に着いた途端、両手両足を鉄のような枷で拘束させられ、動けなくなってしまった。

 周囲を見渡せば同じような扱いを施された亜人がチラホラと――


「ぁ」


 小さな声と自然に反応し、目と目が合う。

 ……目と言うより、その奥に宿る青白い光に。


「が、骸骨……」


 一言で表すならば、餓者髑髏がしゃどくろ。理科室で見るような、皮も肉もない骨の人体模型が、こちらを見つめてきた。

 正直なところ、魔物よりも何倍も怖いビジュアルである。

 彼は丁寧にこちらへ向けて軽くお辞儀をしてくれたので、なんとなくこちらも返してしまう。


 こんな丁寧な骸骨はなかなか会えないだろう。


「揃ったな、では諸君。ようこそ。我が軍へ」


 教壇の上に立っているのは軍服と思われる装いをした男である。

 男とは言っても、彼はゴブリンとそっくりな容貌をしてきた。

 緑の体表、高い鼻、見え隠れする牙、そして通常の魔物のゴブリンとは異なる凛々しい体躯と強者の雰囲気。


 たとえ初対面であれ、逆らえないようなプレッシャーを感じる。


「私はブリンゴ。君たちの教官となるものだ。本日よりよろしく。挨拶と言っては何だが、最初にここの鉄則について伝えておこう」


 彼が口元を歪めながら教卓にあるパネルを操作する。

 その途端、周囲から空気を割くような悲鳴が無数に湧き上がる。


「ぐっ、ぅ……」


 苦痛に満ちた声が漏れてしまったのは俺も例外ではなく、拳を握りしめ歯を食いしばることしかできる行動はない。


 この場に拘束された者たちに一斉に与えられたのは電撃だ。

 白神のように直撃して死ぬような電撃ではないため、多少威力は控えめであるが、痛めつけを目的としているため、鬱陶しいことこの上ない。

 俺の場合は慣れや、スキルの痛覚半減が働いたため、大きな反応はしなかったが、これらが無い者からすれば相当苦痛であることだろう


「鉄則第一。上官の命令は絶対である。鉄則第二、許可なくして上官より先に話すべからず。鉄則第三、私語厳禁。これが守れないものはもう一度先程の制裁を受けることになる」


 先程の電撃で俺の中のスイッチがようやく入ったのか、途端に頭が冴え渡る。

 この施設や現状に対し、自然と受け止めようとしていた自分にも驚いたが……軍隊だって?


 俺は何ら説明もなく軍隊に加入させられそうになっていたのか。


「ふ、ざ」

「25番。抵抗の意思を持っているようだ。この施設には相応しくない。君は脱落だ」


 俺の一列前の席にいた獣人のような男は、何かを述べようとした途端、強烈な電撃が与えられ――言葉を述べる隙もなく絶命した。


 その状況を見ていた全員は一気に戦慄し、顔の色が青くなっている。


「分かるかな。君たちの命は私の手一つで消すことが出来る。そして、私は流れる血がゴブリンに近いこともあってか敵意に敏感でね。今抵抗の意図を感じたよ、52番」

「待ってくれ!? 俺は全くそんなことは――!」

「聞こえなかったようだな。鉄則第二。許可なくして上官より話すべからず、だ」


 二列後ろの席から命が潰えていく悲鳴が響き渡る。

 振り向くことは出来ないが、あまりにも簡単な死を目の前にして、俺の心臓は凄まじく早く脈を打つ。


 このままでいいのか。もう2度目はない。出力の限度が分からない以上、次あの電撃を喰らえば、なんの抵抗も出来ずに死ぬ可能性だってある。


 なにか動かなきゃ、抵抗を――


(いけませぬ……!)

「ダメだ。その感情を持つな」

「17、6、29、貴様らも脱落だ」


 プニプニと、隣から響く声にハッと我に帰った瞬間、電撃が周囲の者達の命を枯らしていく。

 偶然にも俺はピックされなかったが、声をかけられなければどうなっていたかは分からない。


「このように、抵抗の意思があるものは我らの軍には必要ない。これにて挨拶を終わる。諸君らの屈託のない従軍を心より期待している」


 教官の笑い越えが響き、淡々とこの施設についての説明が始まるが、誰一人として口を出せるものはいない。

 当然、俺の抵抗の意思も戦慄の表情の中に押し込める他なかった。

ご高覧感謝です♪

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