第28話 報酬は多めに
あれから結局しばらく彼女の泣き状態は続き、落ち着いたと思ったら直ぐに寝てしまった。俺のベットで。
とりあえず寝かしつけたあと、夕食を食べに行こうとしたが。
「あら? もう食べないと思って片付けちゃいましたよ」
だそうだ。またか。またなのか。
「晩飯も食べ忘れたし、討伐部位を出しに行くついでにギルドのフードコートにでも食べに行こうか。今日は行かないつもりだったが空腹がきつい。あいつが居ないことを祈ろう」
俺が言うあいつとはシーナだ。彼女は色んな意味でスペックが異常だ。観察眼で彼女のレベルを調べられればいいが、他人のレベルや能力を“見る”ためには相手方の許可が必要で、それがないと相手の情報は全く伝わってこないのだ。
なので、彼女は下手したら俺よりレベルが高いかもしれない。
「食欲には叶わないよな。《転移》」
考えたあげく俺はギルドで食事を取ることにした。
ギルドに転移したが、この時間帯は冒険者の仕事が最も活発な時間帯であるため、その転移を沢山の人に見られてしまった。そのおかげで、なにやらよからぬ噂がたっているようである。
「うわ、転移石つかってるよ、召喚士の癖に」
「どうせ親の脛をかじってるんだろ。召喚士があんなに高い物使えるわけが無い」
などなど、と酷い言われようだ。
ちなみに転移石とは一瞬で目的の場所へ転移出来る優れたアイテムだ。俺のような転移魔法がない者が、歩いて移動することが面倒な時によく使用されるアイテムである。
しかし、転移石は一回使で使い切りタイプだし、値段も相当高い。だから転移している人は金持ちと考える人が一般的な考えだ。
とりあえず、ゴブリンの指売って薬草を納品するか。
「すいません。薬草の任務の依頼品とってきました」
俺はクラス判定をしてくれたお姉さんの受付に進み、薬草がたくさん入った依頼品の袋をお姉さんに渡す。
「はい。って、薬草の依頼品……?! 貴方北の森にいったんですか?! いま現在立ち入り禁止ですよ!?」
「……結構前からもってたんですって。取り敢えず終わらせてください」
「そ、そうですか……とりあえず、あそこは危険ですよ! 絶対行かないように! 噂ではランクがSほどある化け物がいるらしいです。なんでなのかは分かりませんが……」
「ってあの蜘蛛そんな高いランク付けがされていたのか……」
「? なにか仰られましたか?」
「いや、なにも。……そういえばSランクってどれぐらいの実力があるんすか?」
少々気になっていたことをやっと質問に移せる。
知っていたらもし「俺はSランクだぜっ」って自慢されても、その人の実力がどれぐらいだか分かるだろう。
「Sランクになればギルド本部へ移籍することが可能で、収入も一仕事で凄まじい量のお金が手に入りますよ。わかりやすい例を挙げるならば、Cランカーが一般社員で、Sランカーが部長って感じですね! Sランカーになると、国からの依頼を受けることができます!」
「それは、すごいんだよな?」
イマイチ分かりにくいな。
「とりあえず、依頼は完了です。お疲れ様でした。報酬金の7000Gは振り込んでおきますね」
「あれだけ薬草をとって7000Gか……」
「Fランクなので……仕方ありません。Bランクぐらいの魔物の素材を売れば、三日は遊んで暮らせるぐらいのお金が手に入りますので、ランク上げも頑張ってくださいね」
ほうほうBランカーにもなればかなり稼げるようだ。とりあえずつぎはこれだ。
「ならこれを買ってくれるか?」
「は、はい。ゴブリンの討伐ですね」
俺が出したのは大量のゴブリンの指――が入った袋を四つ。
「うわっと、ええっとこれ全部ゴブリンですよね?……はい。これで5万Gです」
数百もあったのにこれだけとは……ならこれはどうだろうか?
俺は魔法陣から沢山ある子分蜘蛛の脚一本を出す。森での戦いでの戦利品の一つである。
素材として売りに出すと分かっていたなら雷で蒸発させなければ良かったと後悔が湧き上がってくる。
しかし、その部位をみて、受付嬢は精算行動には全く動かず、じっとこちらを見ている。その視線はなんとも冷たいものであった。
「ユウナミカゼ様。これは軍隊蜘蛛の足ですね。なんであなたが持っているんですか?」
……不味かったか? とりあえず誤魔化さないといけない。
「あの森の中で拾って「ユウ ナミカゼ。ちょっと来てもらえるか?」……どなた?」
どこから現れたのかは分からないが、見るからにくノ一姿のギルドマスターが俺の肩に手を回してきた。気配探知には映らなかったので少々驚いてしまった。ちなみに大剣を背負っている女性である。
「マスター?! 会議は終わったのですか?!先程出たばっかりでは……」
「まだ行ってない。それとコイツのおかげで色々大変なことになりそうだ」
「とりあえずお腹すいたんではやく済ませてもらっていいですか?」
俺は心からの本音を言い放つ。お腹すいたと。
「なら良いものを用意しよう。だから私の部屋にこい」
「乗った」
いいものとは間違えなくいい物なんだろう。食べ物の。
そんなこんなで慌てている受付のお姉さんを無視して俺たちは二階へ移動した。
~〜~~~~
「さて、いきなり本題を話そう。これをどこで手に入れた?」
椅子にふんぞり返ってギルマスは威圧感を放ちながら俺に話しかけてくる。
だが俺はそれどころではない。昼飯を抜いた体は食料を欲しているのだ。
「食べ物をお恵みください」
「私はギルマスなんだが、お前は飢えた狼か?まぁいい。もうすぐ作られるから待て」
「くっ、お腹すいた……」
水分は水魔法で補給できるがぬるく、美味しくない。水分補給出来るだけありがたいが。
「さて話を進めるが、これはどこで手に入れた?」
「森で拾った」
「それが嘘なのはしっている。あのガキが伝えてきたからな。これに魔力を流してみろ」
投げ渡されたのは、若草色をした六角柱の水晶だ。
不思議に思ったが、指示通りに水晶を握りしめ、魔力を流すと、声のような音が聞こえ始める。
『そこで貴方は、大蜘蛛を討伐しましたね?』
『ほう、なんでそこまで知ってるんだ? 辺りに人の気配はなかったはずだが』
……おいおい……俺の声。貴様なんて事を。
「これで分かってもらえただろ?」
「ああ。あの女の子が只者じゃないってことは確実に分かった」
必死にポーカーフェイスを貫く。ポーカーフェイス検定なら準二級ぐらい取れそうだ。どんな検定だよという質問は受け付けません。
「あのガキに感謝しろよ? オマエをギルド本部に知らせず私に知らせたんだからな」
殺しても奪い取るとはなんだろうか。ギルド本部の報告が何がダメなのかも、感謝すべきところがどこなのかも分からないが、少しぐらいは感謝するべきなのだろう。殺されかけたが。
「さぁ。正直に話してもらおうか」
「……討伐しましたよ。ええ」
「……あいつらは最低でも幻獣難度はAランクで、脱皮した蜘蛛はSにまでは及ばないとはいえ、凄まじく強いんだぞ?! お前が強いとはいえ、召喚士のクラスで……」
驚いて立ち上がっているマスターを見てると コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「失礼します。ジャイアントウルフのステーキです」
「ほうほう、ステーキ。ステーキか」
美味しそうなお肉が盛られた皿が置かれると、ギルマスも座り込んだ。食べるらしい。
「くっ。タイミングがいいのか悪いのか」
「いただきます」
俺は彼女を無視して食べ始める。
ステーキは全く抵抗がなく切れ、食欲をそそる匂いが辺りに充満する。すごく美味しそうだ。
遠慮なく口に入れる。
味は美味しいのは勿論、食感は牛、味は鶏の肉の様な食感なのに大量に肉汁がでてくる。そしてすぐ溶ける。
これはうまい……!
「さて、食べながらで悪いが討伐を証明するものはあるか?」
「おう……もぐもぐ……蜘蛛本体でもいいか?」
食べながら魔法陣を展開する。勿論蜘蛛に刺さっている刀は全て抜いてある。
「本体を入れてきたのか?! ……まったくお前の魔力量はどうなっているんだ。ただでさえ召喚の魔法陣を出せるようになるまでかなり魔力を使うというのに……それと目だけで十分だ」
「食い終わってからでいいよな?」
「できればそうしてくれ。もぐもぐ」
ギルマスも食べることに夢中なようだ。まぁ美味しいもんな。
~〜~~~~
食べ終わったあと、蜘蛛の解体はギルマスに任せて討伐証明部位である目だけを買い取って貰った。素材は加工してもらえとのこと。因みに討伐報酬は70万Gで、レトリバーもどきの角より値が張る。
武具屋さんの紹介状も貰ったし、美味しいものも食べられたしまぁよかったかな。
勿論このことは他言しないことを約束してもらった。
目立ちたくないからな。
次は武具を加工して貰うため、紹介された鍛冶屋へ向かおう。
ここが紹介状されたとこだが……外見はちょっとおんぼろだ。木を無造作に貼り付けたような古い酒場のような雰囲気を持っている。
「いらっしゃい」
中に入れば、受付らしき子供がいた。目の前の子はニット帽の様な帽子に、緑色の髪色をした五歳ぐらいの子だ。耳は尖っている。エルフのようにもみえるが、いささか小さい。
「加工屋はここでいいか?」
「お父さん、仕事」
少女はカウンターから奥の空間に向けて話し掛ける。
すると暗闇の向こうから背の低いおっさんが、とても大きいハンマーを肩に担ぎながら俺へと向かってくる。まさか、これがドワーフなのか!?
「お前があいつが一目おく人間か。なかなか面白そうだな。まずは……素材をだせ。作ってやる。防具がいいか? 武器がいいか?」
何故か目が輝いているのようにみえた。
ドワーフの血が騒ぐってやつか?
「この蜘蛛の素材で防具を作ってくれないか? 出来れば動きやすい全身ローブみたいな装備が欲しい。色は任せる」
俺は魔法陣からボス蜘蛛の素材をゴミを出すように取り出す。解体はギルドの人たちがやってくれたのでバッチリだと思う。
「……お前。いい素材もってる。だけどこれはSランクの素材。普通のとはちがってリューグォの角っていう素材が加工には必須。接合とかに――」
「ああ。それならある」
リューグォの角万能だな。だからあんなに高く売れるのか
俺は《物質創造》を使用し、創り出す。万能すぎるな。
「ほらよ。これでいいか?」
「!……お前。おもしろい」
なにやら興味を引いたようだ。まぁ普通だよな。
「加工には最低でも二週間はかかる……が、いいよな」
「闘技大会までに間に合ってくれればいい。じっくり加工してくれ。んでお代は幾らだ?」
「ざっと……70万Gだ。だが、お前、おもしろいから半分でいい」
そりゃ助かるな。興味を惹かれたのはなんか怖いが。
「ならそれで頼む」
「……任せておけ。しっかり二週間で仕上げる」
俺はお金を払い、店を後にする。やっばり楽しみだな。
闘技大会まであと三週間。
アルト参加するのか?起きたら聞いてみるか。
宿に帰ってくると、アルトは起きてもいなかったようで、未だ俺のベッドの上で寝ていた。流石に俺自身がアルトが寝ている場所に飛び込んで、添い寝することは無理である。仕方が無いので、ソファーで寝よう。
所持金は増えたので、しばらく依頼をしなくても大丈夫だろう。
明日はスキルを創って魔法をつくって……いっそ魔界までいってレベルでもあげてみるか?
とりあえず明日までスキルは創れない。今日は早めに寝よう。おやすみなさい。
ご高覧感謝です♪