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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
274/300

第274話 悪魔の契約舞台

 白髪から黒髪へと一瞬で変わった彼の姿は、まさにおぞましいものである。

 伊達に姿が変わっただけではないようで、放たれるプレッシャーや鋭い視線はまさに怪物そのもので、大鬼と対峙しているときのような緊張感があった。


「私があの村を襲ったのは“女神の気まぐれ”など、曖昧なものではない。“主”が入念に練られた計画の内の一つです。あの村のことをどれだけ存じ上げているかは不明ですが、彼女たち以外生き残りは居ません。だから尚更、内情を知っている貴方には興味がありますよ」

「……」


 コツコツと足音と立てながら彼はステッキを振り回し、左へと数メートル移動する。

 隙があれば今すぐにでも襲いかかってきそうな雰囲気であるため一瞬でも気を抜けない。


「さぁ、お互いの利益のために手札を差し合いましょう。まず一つ目――」


 彼が床に強くステッキを叩きつけると、肌にピリリとした痛みが一瞬だけ感じられた。

 観察眼サーチアイを使い、彼が何をしたか調べようとしても、結果は浮かび上がってこなかった。


「貴方はユウ ナミカゼである。間違いありませんね」

「そうだ」

「私の手番は以上。次は貴方ですよ」

「……は?」


 彼のした質問の意図が全く掴めない。

 俺の名前を知っているからこそ彼は話しかけたのだろうに。


 この問答はいつの間にか交代制の流れが作られており、どうやら俺はそれに従わざるをえない雰囲気である。

 もっとも、その雰囲気ごとぶち壊して戦闘を始めてもいいのだが、相手の戦力が未知数である以上、無理な行動は控えた方がいい気がする。


「お前はシーナに対して何をしたんだ」

「私は彼女に悪魔を授け、魅了し、きっかけを与えたに過ぎません。体を成長させたのは彼女自身の心です」

「その目的は――ッ!?」

「貴方の手番は終了しています。手番を無視した身勝手な発言は“主”の許しがない限り不可であると身をもって知りなさい」


 彼がステッキをこちらへと向けた瞬間、雷に撃たれたかのような激痛が全身を包み込む。

 あまりに不意の出来事であったため、なんら防御行動を取ることも出来ず、思わず膝をつく。


「ぐ……ッ!」


 呻きながらも歯を食いしばり、カウンターとばかりに天雷の魔法を撃ち放つ。

 手を出された以上もはや会話なんて有りはしない。

 今すぐこの場から離れ――


「無駄です。この場は悪魔との公開契約舞台。人間である貴方が台本を投げて良い場などでは無い」


 右手から放った白い雷の魔法は意志を持っているかのような軌跡でねじ曲がり、こともあろうか発動者である俺を一瞬にして飲み込む。


 先程よりも強い電撃が体を包み、頭と視界が真白く染まり、感じられたのはより増した激痛であった。


「ぐッ……て、めぇ……ッ!」

「クフフフッ、良い顔です。さて次に参りましょう。貴方は私の定義する“主”の存在を理解している」

「……知ら、ねぇよ」

「置かれた状況をご理解しているようで何よりです。手番終了。どうぞ」


 先程受けたピリリとした感覚が今おかしな状況になっている発端だろう。

 しかし、観察眼サーチアイで見ても何も無かった事実がある上にステータスの中になんらかの状態異常バッドステータスが存在する訳でもない。


(見えない魔法。そんなのあるのか?)

(いいや違うのじゃ! これは表示されてないだけじゃ!)


 独り言に対して不意に聞こえた声は頼り甲斐のある一方、どこか切羽詰まったようにも聞き取れた。


(ファラ?)

(悪魔との契約舞台、あの言葉でピーンと来ました。恐らく、ユウは強制契約を結ばされています!)

(ふぉほ!恐らく、彼の魔法によってユウ殿は回答せざるを得ない状況にあるかと)

(三人とも起きてくれて何よりだが――この状況をどうすればいいか分かるか?)


 契約魔法とは状態異常バッドステータスでもなければ、能力強化バフでもない。ステータスの内に表示されない理由とはそのためなのだろう。


 しかしそうなると困ったことになる。

 状態異常バッドステータスでないため状態解除ディスペルでは解けず、解除方法すら不明であるのだ。


(残念ながら逃げるのは無理そうじゃ。契約は完全に結ばれておる……が。まだ希望はあるのじゃ)

(契約関係はぺったり対等です。あちらもこちらと同じ制約をずしっと課せられています)

(何とか相手を出し抜き、この空間一体に貼られた魔法を壊すしかないでしょうな)

「如何しました? 貴方の手番ですよ」


 長い間(うずくま)っている俺を見かねてオニキスが声をかける。

 ふらふらと立ち上がりながら恨めしそうな目を向けると、彼は楽しげに黒い牙の並んだ口を細く開く。


「俺をこの魔法から解放しろ」

「はぁぁ……不可です。貴方は大切な“主”のにえ。勝手に降参されては困ると先程申しましたばかりであるのに……残念です」


 彼の口元は小さく開き、落胆の息が漏れる。どうやらこの回答には問題ないようだ。

 何とかこの魔法から脱出したいが、真に不可視であるため一体どれほどの範囲で魔法の効力が発動されているのかも分からない。

 ついでに言えば、無理やり肯定の回答を引き出す魔法かと思ったが、どうやら否定は可能であるらしい。

 なんならこのまま全て嘘の回答で否定し続ければ――


「言っておきますが、嘘はいけませんよ。この空間の中で嘘偽りは言葉そのままに我が身に返ってきます。さて私の手番ですが――」

「……ちっ」

「貴方は“悪魔”に関する物語を知っていますか?」

「そんなものは知らない。俺の手番か?」


 その言葉を述べた途端、彼の口元が更に大きく緩む。一体何を考えているのか分からないが、次なる質問は――


「慣れてきてくれたようで何より。そして――“その通りです”」

「お前は――がぁあぁっッ!?」


 質問を述べようとした途端、再び雷撃を受けたような衝撃が走る。

 ソラとファラにもダメージがあるようで内より高い悲鳴も響いてきた。


「く、そ……っ」

(ユウ殿、どうやら先程の会話が問答と判定されたようですな……)

(くぅ……せこいのじゃぁ……)

(バチバチ来ましたね……いてて……)

「クフフフッ……どれだけ貴方の体が持つものか見ものですよ。さぁ次に参りましょう。――貴方は異邦人である。どんな回答でも構いませんよ」

「っ……」


 この世界はサンガのような勇者召喚がある時点で異邦人は珍しいとはいえ、絶対に無いものとは言えない。

 なので直ぐ回答すれば良かったのについ回答を躊躇ってしまった。

 もはやこれでは何か隠していると無言の回答をしているようである。


 ひたすらポーカーフェイスを貫き、相手の出方を伺う――


「……そうだ」

「クフフフッ。なるほど。完全に繋がりました。あなたはつまり――勇者サンガの後継勇者になる予定だった者、ですね」

「……」

「しかし、彼はあの大戦後も生き長らえており、王都側としては召喚された側(貴方)の存在は邪魔になった。よって召喚の事実は隠され、無責任にもこの世界に放られた、ということが伺えますね」

「……ッ」

「貴方は知らないかもしれませんが……この世界にとって、“悪魔”の話は子供でも知っているほど有名なものです。それを知らないとあれば――異邦人以外にありえないのですよ」


 視線を逸らすこと以外に、俺は回答も行動も出来なかった。

 俺にそんな事実は勿論、毛ほども、微塵たりとも存在しないが、この空間の中では嘘は封じられている。

 故に肯定はしないし、否定など以ての外である。あちらが勝手に信じ込めばいいだけの話で、いい気持ちになってくれればそれで良い。


「それでは、貴方の手番ですよ」

「これで最後だ。お前はなんでシーナの村を襲った?」

「ではこちらも最後にしましょう。至って単純、女神の杖があの村に在ったからです……が、このままで終わるのは何とも可哀想だ。捨てられた貴方には悪魔の慈悲を授けましょう」


 彼が再び数歩動き元の場所へ着くと、指を鳴らす。

 肌のピリピリとした感覚は無くなり、静まり返った空気で包まれる。


 どうやら彼の強制契約状態は解除してもらえたようだ。


「女神の杖は勇者の剣、つまり天ノ剣(アマノツルギ)と同等の品です。つまり、女神級武器ゴッデスウェポンになります。女神の杖に強力な悪魔を宿し、反転させ、それを贄にすることで“主”を復活させる。これが彼女の村を襲った理由ですよ。満足しましたか?」

「はっ……問い質したいことは散々あるが――よくもシーナの日常を壊しやがったなぁぁぁッ!」


 彼女の本音を聞いた。彼女の涙を見た。

 そもそも彼女が冒険家になぞなりたくはなかった。しかし、彼女はならざるを得ない状況にあった。


 諸悪の根源は、彼が悪魔をシーナに押し付け、魅了の魔法を与えてしまったことだ。


 シーナに苦しい思いをさせたのは俺も同じだ。しかし、彼女のあの顔を一度見てしまった俺に、この衝動を止めることは出来なかった。


 目の前で激しく火花が飛び散り、黒色の刀と漆黒の腕がぶつかり合う。

 あまりにも硬い感触であった。


「どうやら、魔法を解除すべきではなかったようですね。やれやれ、素直に答えて差しあげたというのに」

「お前は――斬るッ!」


 お互いに弾かれ、衝撃波は辺りの書架を一瞬にして薙ぎ倒す。

 少し広くなった視界の奥には四枚翼を広げ、呆れた様子で漆黒の視線と魔力を迸る悪魔が居る。

 戦うにはその理由で十分だ。


「ソラ、ファラ、プニプニ、戦闘――!?」

「とにかくこれは回収させて頂きましたが……本当に残念です。ユウ ナミカゼ」


 彼の右手には黒い宝玉が握られており、それを闇の中へと消し去ると彼の目から真っ黒な閃光が放たれていた。

 あまりにも莫大な魔力の奔流はもはや目の前であり、避けることも、また、防御をとる事も不可能である。

 ノーモーションで放たれた魔法に対処することがまるで出来なかった。


「くっ――」


 全身を強ばらせ、衝撃に備えた――


 が、未だにその衝撃は襲いかかってこない。

 何ら気配を感じられないため、恐る恐る薄目を開くと――


「ガル――」

「――へんたい。目ぐらい瞑ってよ。こんなやつの相手をするより、君はやることがあるでしょ?」


 世界が止まっており、ガルドラボーグの空気のような抱擁が俺を閃光から守っていた。

 彼女が何故ここにいたのか、何故俺を守ったのか、その一瞬だけで判断などつく訳がなく――


「やっぱり、ぼくは君が来てくれるって分かってたんだ。知らないうちに、期待をしてたんだ」

「何の話――!?」


 世界は彼女が語り終えた瞬間に動き出し、俺は無理やり転移させられたのか、真っ黒な視界の中で急激な加速感に襲われる。


 その加速はみるみる強くなっていき、光の出口が見えた先には――


「――消えてください」

「レムっ! 落ち着けって――」

「何がどうなってるんだぁぁ!?」


 俺が転移させられたのはレムのすぐ真上である。つまり、足場のない空中だった。

 眼下にあるのはボロボロの床、そしてレムの狐耳である。混乱しながらも辺りを見回して瞬間的な状況把握を行うと、周囲は広い範囲にかけて何かが爆発したように塵一つ無い空間が作られており、その中心部にエーツ、ミカヅキ、そして何故か二人に攻撃を行おうとしているレムが居る。


「!? ゆう!?」


 落ちてくることに気がついたレムは、魔法を放つことを中断し、落ちてきた俺の姿を見て目を丸くしていることが確認できた。

 彼女に上からダイブするかのような形で送られてしまったため、抗うことも出来ずそのまま彼女を押し潰してしまう形になる。


「あ、受け止められた……」


 彼女の行動はまさに迅速で、エーツヘと向けていた尾は、俺を受け止めるクッションの役割へとシフトチェンジし、優しく支えてくれた。


「あ、ありがとう?」

「どうやってきたかよく分からないですが……会えてよかった、です」


 傷だらけのレムは、それを感じさせない笑顔を向け、大変嬉しそうな表情を作るのであった。

ご高覧感謝です♪

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