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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
265/300

第265話 vs悪魔シーナ

 俺を押し飛ばした聖霊たちの体には微かに裂傷が走っており、赤く切れた肌が見られた。

 シーナの様子は見るからに平常でないことは分かるが、俺たちへの殺意も紛い物ではないようである。


「ァァァッ!」

「くっ……!《反射リフレクション》!」


 彼女の放った黒い鎌鼬の魔法は非常に強烈で、立ち上がると同時に使用した反射の魔法はあまり機能してくれなかった。

 何とか逸らすことには成功するものの、手には凄まじい反動による痺れが残る。


「くっ……痺れる……皆、戻ってくれ。超電磁砲を放ったばっかりの魔力不足の状態じゃ共倒れだ」

「はっ、何を言うか。我らだって多少余力は残してある。我らも主殿と共に戦おうぞ。しんどいのには変わりないがの!」

「そもそも、我らの魔力は元々マスターのものです。戻った途端に我らの回復は始まりますが、そちらの魔力が急激に減って動きがノロノロになっても困りますよ」

「ふぉほほ、そういうことです。今は皆で彼女を鎮圧するのが最善手かと」

「……鎮圧、か」


 殺さず生かして、動きを止める。

 完全に自我の飛んだ相手にその矛盾を押し付けるのはなかなか厳しいものである。

 今の彼女は恐らく悪魔纏バフォメットコートに蝕まれた状態だ。過去世界で状態解除ディスペルの魔法をかければ事態は解決に導く事が出来そうにも思えるが――周囲に渦巻く竜巻が何をしてくるか分からない。


「来ますぞッ!」

『ギョオアアアァァァッ!』


 杖を足元へ突き刺し、広がる黒沼から召喚したのは、全てが漆黒に染まった巨大なコウノトリの姿をした魔法生物であった。羽を広げた姿は5メートル以上あるようにも見える。

 会話をする時間すら与えないとでも言いたげに、こちらへ突っ込んでくるため、指示を出しつつこの場を散開する。


「あの鳥は任せる!」

「了解じゃ! 我らの電撃で焼鳥にしてくれるのじゃよ! なははッ!」

「ドンと任せてください。すぐに終わらせます」

「プニー!」


 頼り甲斐のある声を背後にシーナに向けて全力で駆け抜ける。

 接近させるのを許さない魔法生物は、翼を広げ、一面を制圧するかのような弾丸羽のようなものを射出し、俺たちの行く手を遮る。


「我らを無視して主殿を狙うとは随分余裕じゃの!!」

「こんがりおつまみにして差し上げます!」


 ソラとファラの電撃により、魔法同士が衝突して爆発が巻き起こる。

 発生した爆煙は大きな鳥の魔物の視線を遮り、プニプニはゲル状の体を魔物状態へ変化させて、魔法の水球を撃ち放つ。


『ギョオオオ……』


 効いているのか否かは不明であるが、魔法生物の矛先は聖霊たちへと向けられており、今の俺の行動を差し止める要素は見当たらない。気功術を使用して足の回す速度を早め、一気に距離を詰める。


「ぁ……?」

「シーナ……ッ!?」


 虚ろな黒い瞳で俺を睨みつけたかと思えば、彼女のすぐ隣にある左側の竜巻から巨人の手のような魔法が生えだし、俺を掴もうと伸び出す。


 比較的ゆっくりとした速度であるが、対象があまりにも巨大であるため、避ける手法をとることが出来ない。


「なら――ッ!」


 召喚魔法陣を展開すると同時に取り出し、投擲したのは火属性爆発の魔法を封じ込めた短剣であった。

 着弾と同時に大規模に炸裂するため、使い所に困っていたが、今こそ使う時であろう。


「……ぅ」

「くぅぅぅ……!」


 伸びた巨人の風腕の中心部分で炸裂し、爆発は七色の空間すら揺るがしていく。

 猛烈な突風が吹き荒れる中でも彼女は虚ろに俺の姿を認識しており、未だに放たれる殺意が収まることは無い。


「シーナぁぁッ!」


 爆風の中を駆け抜け、シーナは既に目の前である。しかし未だ彼女は抵抗する様子を見せず、揺らぎながらも突き刺すような視線を放ち続けていた。

 嫌な予感は留まることらず発せられているが、状態解除ディスペルを纏った腕を伸ばして掴む――


「――ッ!?」


 ――既のところで、ゆらりと奇妙な動きで俺の伸ばした腕は躱された。

 バランスを崩し、通り抜けるような形で彼女を追い越してしまう。


「って。まじか」


 離れゆく彼女は未だ口を開けながらぼんやりしているものの、その右腕には強大な魔力が注ぎ込まれており、魔法の発動に一刻の猶予もなかった。


「《黒風奔ストリーム》」


 慌てず落ち着いて振り返った時には、杖の先に溜められた魔力が解放され、ビームという言葉が似合うような奔流が猛烈な勢いで迫ってきていた。


 回避行動を取ったものの背中を掠め、激痛が走る。辛くも直撃は回避出来たが、未だ彼女の魔法の手は収まらない。


「《鎌鼬カマイタチ》」


 杖を持つ腕ではなく、反対の手から黒い風の円刃が放たれる。

 闘技大会にて以前シーナが放った《速風刃》の魔法とは比較できないほど疾いその刃は――目視して、僅かに体を捻るのが限界であった。


「ぐぅ、ぁ……痛てぇ……」

「主殿!?」

「マスター!?」


 無理な回避をしてしまったがために、七色の空間を赤い血で汚しながら転がり落ちる。

 気功術で体を強化していたとはいえ、太腿と左腕は予想以上に深く切りつけられており、恐怖を感じる程の勢いで暖かいものが流れ出ていく。


「回復っ――!?」


 立ち上がれない状態であったため、うつ伏せのまま魔法で止血と回復しようとしたが、中断し、この場を転がり回る。

 彼女が魔法を放った認識したその時には俺の体は地面を跳ねて転がっていた。


「ぁ……逃ゲる……なぁッ!」


 元いた場所には《風槌エアハンマー》の魔法が炸裂しており、その余波で地面に伏した俺の体は吹き飛び、またうつ伏せの状態に戻ってしまう。


「ぐっ……容赦、ねぇなっ」

『ギョオオオォォッ!』


 聖霊たちと魔法をぶつけ合っていた巨大な魔物は、急遽俺へとターゲットを変更し、爪を立てながら鳥脚を向け、まさしく急降下の勢いでこちらへと向かってきた。


 またも回復を中断し、迎撃用の土魔法を使おうとしたが――


「やらせぬぞッ! この鳥公めが!」

「マスターはちゃっちゃと回復を!」

「……助かった!」


 聖霊たちの《電磁撃マグネティックボルト》が見事にクリーンヒットし、俺の体に触れるか否かのギリギリのところで……大鳥は体に電撃を纏いながらも上空へと戻る。

 この隙見て己の体に回復魔法を全力で注ぎ込み、軽い止血処理は終えられたものの、あまりにも効きが悪い。どうやら、先程受けたシーナの魔法に阻害されているかのようである。


「邪っマぁぁッ!」

「プニ二……ッ」


 プニプニが《水縛アクアバインド》の魔法で彼女を数秒抑えてくれたため、追撃が飛んでくることはなかった。しかし、拘束時間を見るに拘束魔法もまるで効かない様子である。


「接近はやめた方が良さそうなんだが……シーナを元に戻すには接近しなくちゃいけないんだよな」

「ゥあァぁ……ッ!」


 唸り声を上げながら、シーナは目の前に竜巻を発生させると、その中から新たな風を圧縮して作られた巨人の拳が出現する。どうやらあちらは手を緩めるつもりが微塵もないらしい。


「《天雷》ッ!」

 

 迫り来る巨大魔法に対して白い雷の魔法を放つが……物の見事に通り抜けてしまう。俺の体を何倍してもまだ足りないほどの大きさの魔法であるため、魔法反射の手立ては悪手である。


「これなら……どうだッ!」


 水の魔法纏を使い、足元に手を当てる。

 すると、足元の七色は一気に半透明へと変わり、その氷の侵食はシーナへと向けて進行していく。


 これはサウダラーの死神との戦いで使用した氷の魔法である。当時は魔力を放出して辺りを一気に凍結させ、相手の自由を奪う目的であったが、今回は違う。


「出てこい」


 指を曲げ、合図とともに氷の床から生えだしたのは、先の尖った非常に大きな氷塊であった。

 半透明な巨大な造氷塊は巨人の腕を貫き、凍らせ、魔法の構造諸共崩壊させていく。


「まだまだ……ッ」

 

 水の魔法魔を使っていることで、己が貼った氷魔法の床で意図しない方向へ滑ることは無い。

 シーナが再び《鎌鼬カマイタチ》を使用する動作を見せたので、距離を狭めず、そして離れず、今の間合いを維持したままスケートの要領でこの場を離脱する。


「ゥ……!」

「危な――」


 風の刃は氷の床を深く切りつけながら元いた場所を通り抜け、なんとか被弾せず次の行動に移ることが出来た。


 足元で氷の魔法を張っているため、非常に魔法の構築が楽になってる。

 土属性の魔法が大地をベースにすると、威力も構築速度も増す。

 つまり、足元などを適した属性で固めると、床を経由する魔法の発動までの一手順が省けることで、結果的に魔法の発動が早くなるのだ。

 ――だからこそ、不利状況は足元を固めるのに尽きる。


「《氷創牙アイスブランド》!」


 シーナの追撃として放った《黒風奔ストリーム》を床を滑りながら回避し、カウンターとして放つのは先程と同じ氷塊を創造し、攻撃する魔法である。


 彼女の足元に生やした巨人の剣のような一撃は――当たらず。

 魔法が当たる直前に上空へと逃げており、攻撃が届かなかったのだ。


 空中で浮遊しながらも、再び魔力を高める様子が見て取れたのでこちらも同じく迎撃の準備を進める。


「《黒散粒エアクラスター》」


 彼女が上空から放ったのは無数の風の砲弾だった。

 辺り一面を制圧するような圧倒的な物量で降り注ぐ魔法に対して俺が取れる行動は防御しかない。


「ぐっ……っうう!」


 両手を開き、魔法纏を使用しつつの《氷創牙アイスブランド》を盾にしているのに、降り注ぐ砲撃を幾つか受け止めただけで氷塊に亀裂が走る。


「だが……チャンス……だッ!」


 魔法が俺へ集中している以上、彼女は無防備だ。

 魔法に意識を集中しつつも、未だ戦闘を繰り広げる聖霊たちに求める。


「ソラ……ファラ! やってくれッ!」

「プニプニよ!この一瞬だけ止めておけッ!」

「ガツンとお仕置きをお見舞いしますッ!」


 滑空する黒鸛に対して彼女らは銃撃を放ち続けていたが一時中断し、距離の離れた俺の方へと向かってくる――が、魔物が戦いに背を向ける行為を許すはずもない。


 狙いを見切られ、同じく無防備な俺へと向けて急降下してくる。


「プニィ!」


 ここぞとばかりにプニプニがゲル状を体を伸ばして変化させたのは、何処までも細長く、先の尖った槍のような形である。

 まさか上空にまで彼の体が伸びると思っていなかった黒鸛は、不意を付かれて翼の中心への被弾を許してしまう。


『ョギァゥァァァァッ!?』

「あやつ、くっついてから《吸血》を使いおったか! 見事にスライムらしい戦いじゃの!」

「足止めには充分です。さすがプニプニしてるだけだけありますね」


 《黒散粒エアクラスター》は勢いを増して降り注ぎ、シーナは範囲を広げてソラとファラをも風砲弾の雨に飲み込もうとするが――攻撃の間合いに踏み込んだのは、こちらの方が早い。


「「《二滅閃光ツインコラプス》ッ!!」」


 二人の銃口から放たれたのは俺の使う武芸である滅閃と同じ、薄灰色をした光線であった。

 彼女が魔法へ振り向いた時にはもう手遅れで、閃光に飲まれたのが目に映る。


『ォォァォオァァッ!』

「プニー!?」


 反対の方向でおぞましい鳴き声が響渡れば、プニプニは振り落とされてベチョリと七色空間に落下する。無事であるが、今直ぐには動けなさそうだ。

 再び魔物が高速で向かってくるが、ソラとファラは再び《電磁撃マグネティックボルト》を使用してその手を阻む。


「今度こそ――!」


 力なく上空から落下してくシーナに向けて滑り込み、両手に《状態解除ディスペル》を纏って完全に準備を終える。

 今度こそ本当に邪魔するものは……ない!


「戻ってこいっ……シーナッ!」


 スライディングと共に落ちゆく彼女をキャッチして抱え、すぐさま魔法を発動する。

 邪悪なオーラが《状態解除ディスペル》を阻むが、あとは時間の問題――


「なんで、だ?」


 阻まれている感覚はある。しかし、間違いなく彼女自身に状態解除の魔法は届いているのだ。

 網の細かいふるいに水を通している。そのような例えが似合うものの、何故か彼女に変化はない。

 どれだけ注ぎ込んでも、どれだけ魔力を高めようとも、変化は微塵も起きなかった。

 まるで、それが平常であるかのように――


「ッ!?」


 ゾクリと嫌な予感が背中を押し、シーナを抱えてこの場をジャンプして離れたその瞬間。


 ――真っ白な光が足元を灼き尽くす。


 一際の生を許さない光がどこからともなく飛んできたのだ。

 閃光が引けば、その通り道に存在するものは無い。

 彼女の血痕も、俺が張った氷の魔法も、挙句には七色の空間でさえ跡形もなく消し飛んでいた。


 その下に在るのは、底の見えない深い闇である。


「おいおいっ……この魔法には覚えがあるぞ――神聖騎士、セリアッ!」

「――悪魔は排除。悪なるものは浄化。闇の侵食は女神の使徒たる私が許しません――」


 彼女の白銀の鎧は所々崩れており、生々しい傷跡が目立つ。

 しかし、剣を構え、こちらへと殺意を向ける様はまさにシーナと同じだ。


「どんな小さな悪も、この世を覆い尽くす大いなる闇も、私が女神様に変わりこの世から浄化()します。お覚悟を」

「くっ――」

「それこそが、私の存在価値なのですから」


 彼女にとって俺の意見など元より存在しないものなのだろう。

 一つの小言を述べる間もなく、浄化の閃光が再び放たれたのであった。


ご高覧感謝です♪

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