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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
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第249話 森の魔物

 急な魔物の来襲に先手を打たれてしまった以上逃げられるとは思えないし、逃げ切ったと思った矢先に不意打ちなんて食らうのは御免である。

 ついでに言えば、相手の姿はこちらでは捉えられておらず、未だ魔物の種別、そしてレベルすら不明だ。

 現状で分かることは襲いかかってきた魔物は非常に強い相手である事のみ。


「……来ない?」

「ううん。待ってるだけだよ。あいつは必ずこの周りの何処かに居る」


 数十秒が経過したが、その間は物音一つ聞こえなかった。気配探知は使い物にならないため、今でもなお己の感覚を研ぎ澄ませている……が、このままでは埒が明かない。


「ッ!」

「聞こえたッ!」


 お互いに固まったままさらに数秒後、ついに雑木が揺れる音を耳にする。

 その瞬間にアルトは黒い槍を打ち出す魔法を、そして俺は白い雷を打ち出す魔法をほぼ同時に放つ。

 魔法同士が交差した一点で衝突し、静かな森の中で爆発が巻き起こった。


「音……?」


 ――仕留めたと思っていた矢先、後方から小さな音が後ろから聞こえる。

 爆発の残響に紛れてしまうような本当に極わずかな、木の葉が掠れたような音であったが、急いで振り向けば……


「おいおいまじかよっ」


 成人男性を丸々飲み込みそうなほどの巨大な口が開かれ、人の手の甲よりも大きな牙があった。食べられる寸前である。


「仕留め切れてない!?」

「コッチにも居るのかよ!」


 俺は背後から迫り来る魔物へ向けて刃を振りぬき、アルトは先の魔法を受けたはずの魔物へ向けてもう一度同じ魔法を放つ。


「づぁ!?」


 手に持つ得物は最後まで振り抜けず、壁を殴ったかのような、あまりに硬質な感触と反動が跳ね返ってきた。


 刃の先に噛み付いて離さない魔物の姿はまるで巨大な鮫のような姿をしており、その全長は三メートルを超えているだろう。


「こ、の……ッ!」


 空中に浮かぶ鮫は刃を捉えて離さない。そればかりか、刀を持つ俺ごと地面に叩きつけてしまいそうな強烈な力が加えられているため、このままでは押し負ける可能性すらある。


地牙ガイアソードッ!!」


 バランスを取りながら足を踏み鳴らしたその時、大地から勢い良く生え出すのは鋭利な黒い岩である。アルトとの戦いで使った魔法で、汎用性のある魔法だ。

 魔物は上空へと吹っ飛んだものの、まだ仕留めきれていない。


「スフォルツァートッ!」


 背後にいる彼女の魔力が急に高まったかと思えば、片手を床に叩きつけていた。

 その後もう一体の魔物である黒豹の足元から闇魔法の奔流が吹き抜け、相手は魔法の中へ、魔法は上空へと登っていく。


 ――だが、それでもまだ倒せていない。


「アルト! 避けてくれ!」


 上空で体制を立て直した巨大な鮫はこちらへと向けて牙を見せ、さらに加速して真っ直ぐ降ってきた。


「分かってる!」


 一時的に離れると、俺たちが元いた場所には巨大な牙が突き立てられ、大地は爆砕する。

 砂煙が舞う中、小さな足音が耳に届く。もう一体の魔物である。


嵐弾ストームバレッ――」


 観察眼で相手の姿を捉えていたため、砂埃で姿が見えなくても豹の魔物への狙いは十分だ。

 攻撃は狙い通り魔物の急所へと吸い込まれていく――はずだった。足元への警戒が甘くなければ。


「っ!?」

「ユウッ!?」


 大地が盛り上がったかと思い足元を見れば、俺をまるまる呑み込んでしまうほどの大口が生え出す。地面ごと丸呑みしようという魂胆であろうか。

 その牙の並んだ口の中は踏んでいた地面越しに眺めることが出来た。口蓋垂が見えたので恐らく声帯はあるのだろう。


「焦らない体質で良かったよッ!」


 召喚魔法陣からマシニカルのギルドを攻める際に作った魔法の付与された小剣を取り出し、空中へ離脱すると同時に魔物の口腔目掛けてその魔道具を投擲していく。


 巨大鮫は勢いのまま上空へと消えていき、数秒後には上方から花火のような爆爆音が耳を劈く。まずは一体目――って!?


「ウキャ」

「いつの間に……!?」


 上空へ逃げたその先に黒い体表の巨大猿が居る。

 悦に入った笑顔を浮かべたその魔物は既に脚部を振り抜いており――魔法纏による防御も間に合わない。

 腕を交差して衝撃に備える以外道はなかった。


「ユ――」

「ぐぅぅ……ッ」


 アルトの声が聞こえた時には既に遠く吹き飛んでいた。俺も、そして彼女も、である。


 上空から木々を何本か倒しつつ地面に叩きつけられてしまい、肺の空気が圧力によって押し出され、呼吸困難になる。

 にも関わらず目の前には――黒いおさるが。


 認識したその刹那に二刀を魔法陣から召喚して交差する。その交点となる部分にはピッタリと黒猿のドロップキックが炸裂し、横たわった俺の体はさらに沈み込み、衝撃波に押しつぶされてしまう。

 先程の攻撃の影響もあって腕が激しく痛むが気にしてられない。


「な……めんなよッ!!」


 勢いが弱まったところで二刀を振り抜くと猿はその勢いを利用して上空へと大きくジャンプし、再びこちらへ向けてライダーキックの構えをとり、そして急降下し始める。


「ソラ! ファラ! プニプニ!」

「任せるのじゃ!」

「ガッテンです!」

「了解ですぞ!」


 召喚された三人は魔法陣から直ぐに現れ、それぞれ攻撃魔法を解き放つ。

 聖霊たちから放たれた黒い雷と執事姿のプニプニの水魔法は相手を目掛けて真っ直ぐ向かっていく。


『ギャァァッ! 』


 が、まるで効かないと言いたげな魔物は炸裂した魔法の爆煙を吹き飛ばして未だ蹴りの姿勢を解かない。それどころか先ほどよりも加速し、こちらへ向けて変わらず蹴りを打ち込もうとしている。

 よく見れば足元が赤く光っている気もする。


「あの猿公、脚部に爆発系の魔法を付与しておるぞ!」

「なら、大きく回避して――ズバンと一発行きますッ!」

「ふぉほ、それならば私は強化魔法をば!! ユウ殿はアルト様の元へ!!」

「助かる!」


 爆発ライダーキックは四散する事で皆で回避し、この場は聖霊たちに任せて、アルトの元へと全速力で向かう。


 先ほどアルトも攻撃を受けていたので相手も同じく手練の魔物であるのだろう。


「らぁッ!!」


 気合いの声共にこちらへ向かってきたのは――太陽色の光線であった。


「っと」


 大きくジャンプすることで回避し、大木の枝の上に着地。

 アルトの姿は数メートルはありそうな長くて宙に浮いた髭をもつ黒豹と鍔迫り合いになっており、相手の爪の振り下ろし攻撃を刀で受け止め、辺りには火花が散っている。


「エ、ネ ……ルジコッ!!」


 彼女の発する圧力がさらに高まったと同時に鍔迫り合いをしていた豹を大きく吹き飛ぶ。その追い打ちとして、空中で身動きが出来ないようすの魔物へと向けて片手を大きく広げて構えている。


「はぁぁッ!」

『ゴロォゥゥ!』


 アルトの黒炎と、魔物の口から放出された太陽色のビームが衝突し、エネルギーの本流が吹き荒れて細い木々の枝を吹き飛ばされ、残響の鳴る森の中新たな轟音と気合いの声が響き渡る。


 お互いに魔法をぶつけ合っているこの瞬間こそ、第三者が介入するのにはうってつけのチャンスであった。


「終わりだ」


 飛び出しながらも武芸の滅閃を発動し、灰色の光を引き連れ、最高の力で振り抜く。

 回避のしようがない一撃に黒豹は当然反応出来ず、大きな袈裟懸けの斬撃はかなりの手応えである。


「いくよッ!」


 アルトの放つ黒炎はさらに強まり、危険を感じてその場を離脱し終えた時、魔物は既に魔法によって蒸発していた。


「流石の威力だ」

「ふふっ、ユウの一撃あってこそだよ!」


 笑顔でハイタッチを交わし、彼女は武器を闇の中へしまい込んだ。

 背後から猿の魔物が飛んできたのはそのすぐ後であった。


「ふふん。我らに適うもの無し!」

「ズバッと決めていきましたね」

「ふぉほほ、まだまだこのような歳でもいけるものでありますな!」


 その魔物は既に絶命しており、目を向けた時には塵へと消えていった。

 聖霊たちの方へ目を向ければ、ドヤ顔でシンメトリーなポーズをとっている。もしかして魔物を倒す度に彼女らはポーズをとるのだろうか。


「あ、戻ってて大丈夫だぞ」

「うむ。そうさせてもらおうかの。本当に、ほんっとうに残念であるがな」

「今回ばかりは我らの魔力もグイグイ吸われていくのでふざけたことが出来ないのが実に残念です」


 聖霊たちもこの場の魔力吸収は感じられるようで、大人しく戻っていく。魔力が常に吸収されてしまうことを考慮すれば、召喚もあまり使わない方が良いのかもしれない。


 アルトの方へと向き直し、回復魔法をかけながら彼女の顔をまじまじと見つめる。緊張状態から解放され、少しだけ蕩けた表情であった。かわいい。


「結構強かったな。吹っ飛ばされてたけどそっちは大丈夫か?」

「ありがと……あ、ボクは全然平気だよ。それよりユウは大丈夫?」

「結構痛かったけど……回復魔法を使えば大丈夫だ。やっぱり魔力が常に吸われているって結構辛いもんがあるな」

「そうだね。しかも相手は強いから本当に気合い入れないとね」

「アルトもサンキュな」

「ふふっ、お互い様だよ」


 彼女も回復魔法をかけて返してくれたため、袖を捲ると痣になっていた腕の痕も痛みも消え、見慣れた素肌がある。


 現在の魔力の残量でおよそ八割といったところだ。

 が。正直いってこのペースでは非常に不味い。たった一戦で二割も魔力を消費してしまったのだから。あと何度戦闘があるかも不明であるのに。


「それとユウはさ、レムとミカヅキの気配は掴めた?」

「それが全くだ。出現する魔物もかなり強いし早く合流したいところだよな」

「とにかく進も――っ!?」


 一歩踏み出して歩きだそうとしたその時、彼女の足は動いていない上、呻き声のような苦しみの声がした。

 急いで振り向くと表情は非常に厳しいもので、片手で頭を抑えふらふらと足元も覚束無いようすである。


「っ、大丈夫か?」

「……ク、はっ、あ、あ……!」


 アルトを抱きしめて支え、声をかけてみたものの彼女は苦痛と戦っているようすで、こちらの声は聞こえていないようにも見える。

 唐突な痛みに苦しむ彼女を支え続けて数秒後、彼女は涙の光を帯びた片目を重々しく開き、必死の形相で俺へと訴えかける。


「ユ、ウぅ……ユウっ……!」

「大丈夫だ。俺はここに居るって」

「思い、出しっ、たんだ……っ、ボ、クは、この場所のことを知ってる!」

「……知ってる? それってつまり、魔導書を置きに来た時の記憶が――!?」


 支えていた彼女の目の前から飛んできたのは風魔法である。

 不可視であるため、観察瞳サーチアイを発動していなかったら確認することは出来なかったが、間違いなく敵意を持った魔法ということは瞬時に理解出来た。


反射リフレクションッ! 」


 急ぎで魔法を発動して難を逃れたが、次は俺の後ろから高速で接近するかのような足音が耳に届く。


 確認した限りでは敵は二体ほどである。慌てずに相手の姿を確認するため、彼女を抱えつつ大ジャンプを行ない、再び木の上へと着地する。


「――外したか」

「……結構距離あったかと思ったんだけどな」

「流石は愚弄の召喚士サマに、闘技大会の優勝者サマだね。完全に気配消してたと思ったんだけど」


 猿の魔物の攻撃で脆くなった障壁の一枚が壊れてしまった。つまり、避けたと思った攻撃が当たってしまったということである。


 そして、襲いかかってきた者たちの姿は自らこちらへと顔を向ける。

 彼らは――人間だった。それも間違いなく、ギルドのダンジョン攻略員の一員である。


「ユ、ウっ……逃げて!」

「りょーかいだ! 人間がなんで俺たちを襲うのかは知らんが、それに尽きる!」


 深く考えるのは後である。アルトの不調が改善されるまで魔物と出会わないことを祈りつつ、ひたすら逃走だ。


「逃げたか」

「逃がす訳ない。いくよ」


 二人の声は小さかったが、このような声は確かに聞こえた。レムやミカヅキがこのような不審者たちに出会って居ないことを信じつつ、この場を急ぎ後にするのだった。


ご高覧感謝です♪

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