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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
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第248話 再準備

 予想以上に作戦会議の時間は短く終わり、参加者が俺たちに対しての試練の質問をしてくることも無く、非常にスムーズな流れで終えてしまった。

 その主な要因となったのは、攻略者たちの人数と態度にある。


「あのさぁ、来てた人めっちゃ少なくなかった?」

「というか話聞いてない人が殆どな気がしたです」

「そういえば俺たちFランカーだもんな」


 Fランカーでも攻略できたという事実がある以上、圧倒的な実力の持ち主であるSSランカーたちは最低実力者のFランカー意見など聞かなくても攻略に至ることが出来る。このように考えるのは自然であった。


「説明義務は果たしたし、あとはもうあいつら次第だよな」

「それよりもさ! ご飯いこ!! 国上げての作戦だから配給食も豪華らしいよ!」


 魔導書のダンジョンの外は何とも暗い雰囲気なもので、赤黒い空に、枯れきった草木、荒廃した大地、などなど明らかに魔王城の外、という言葉が似合うダークな場所である。――のだが。


「そこ! もっと早くしろ!!」

「もうすぐAランカー達が帰ってくるぞ! 飯の用意はまだか!!」

「支給品が足りない!! もっと持ってこい!!」

「結界維持装置に魔力結晶の補充を急げ!!」


 とんでもなく忙しそうだ。

 人々は自由に走り回れないほど大量に溢れかえっており、支援組は多忙を極めているため、まだまだ人員が足りないようすである。


「わぁ……こんな土地なのにすごく賑やかだね」

「もはや一種の祭り状態なんだろうな。テュエルたちからしたら国を挙げての攻略作戦なんだろうけど、意識の違いが良く見えるよ」


 迫り来る馬車に道を譲りつつしみじみとした感想を抱く。

 ダンジョンに入ることが出来るのは比較的高いランカーのみとなっているため、ギルドの冒険者の大半を占める中、低ランカーたちはご飯の準備や物資運搬などの作業に追われているのだ。


 余談であるが、これほどの人数を集めることが出来たのもその給与が凄まじいためだとか。


「バレッタ! 次の補給行くよ!」


 配給所へと歩いていく最中、見知った顔が非常に慌てたようすで俺たちの横を通り抜けていく。こちらに関して意識は向いていない雰囲気であった。


「……ルカ?」

「わかってる! ローグも今向かう――って……お前らは!?」


 急ぎの足を止めつつ俺の顔から頭の先まで見上げ、驚愕の色を表したのはパーティ演習にて同じ依頼を遂行したバレッタであった。彼も俺たちと同じFランカーである。

 彼らに召喚士について散々罵られたのは記憶に新しい。


「おい!何止まって、やが……る……」


 続いて彼らのパーティのタンク役であるローグが現れた。どうやら彼らのチームも無事この仕事に従事する事が出来たらしい。


「……誰?」

「俺のパーティ演習で一緒になった人たちだよ」

「な、なんでお前がこんな所にいる!? 演習で外されたんじゃなかったのか!?」


 アルトは首を傾けて記憶を掘り返しているものの、彼らの事はあまり覚えていないらしい。

 対して二人はまるで水を掛けられたかのような驚きっぷりである。

 彼らの呟きを聞き取るに、俺は演習にて成績評価が悪いと思われていたため、この攻略支援に参加出来ていないと考えられていたようだ。


「お疲れさん。そっちも頑張ってな」


 質問を無視して軽く挨拶し、皆で横を通り抜けようとしたその時。「待て!」と強めで静止の声が掛かる。

 アルトやレム、ミカヅキはあちらへと振り向いたが、俺は振り向く気すら起きなかった。

 またどうこうの言われるのは癪に障るのだし、関わらない方が良い……と思っていたのだが。


「念のために聞いておくが……王都に魔族が現れたって知ってるか?」

「……どういうこと?」

「カムロドゥノンを守護する冒険者たちが少なくなった頃合で、大量の魔族たちが奇襲をかけてきたって話がある……が、お前たちのそのようすを見るに、知らなそうだな」

「おい、ルカが呼んでるぞ。行くぞバレッタ」


 あまり際立った反応をしなかったためか、あっさりと彼らは離れていき、人混みに紛れて見えなくなってしまった。

 召喚士に関して何ら言われなかったのは幸いであるが、気になることを残していった。


「王都に魔族、ですか?」

「アルトは関係ないはずだから――ソプラノの采配だろうな」

「お姉ちゃん……遂に人間界に手を出し始めたんだ。一刻も早く魔導書を取り返さないと……」

「とにかく、メシ行こ! おれたちはなるべく早く魔導書を手に入れるんだろ? だったら尚更だぞ!」


 ミカヅキに背中を押され、人の波に呑まれながらも配給所へとたどり着く。

 全席の8割ほど埋まっているものの、座れないことはなかった。


 巨大なテントのような食事場は食券により欲しいものを選び、購入できるようだが……品数は非常に多い。


「ここでも食券システムか」

「ここで欲しいご飯を選ぶですよ」

「うおぉ! こんな機械からご飯が出てくるのか!?」

「いやいや、出てこないよ? これを渡してご飯を買うんだ。今回はお金必要ないけどね」


 ご飯を前にして柔らかい雰囲気に変わっていくようすを見てほっと心を撫で下ろす。

 魔導書のダンジョンは文字通り命懸けの攻略戦なのだ。この場でしっかり休憩しておかなくては後々どんな悪影響を及ぼすか分からない。

 ソラとファラも疲弊し、召喚すら出来ない状況でもあるため、今後の作戦についても良く話し合わなくては。


 それぞれが好きなものを注文して受け取り、席に着く。俺たちが陣取った場所はテントの外の席であるため、周囲に人は居ない。


 今回選んだ料理はハンバーグもどき。

 ハンバーグのような形と見た目をしておるが、中身にはかぼちゃ味のペーストが入っている。高級食材が使われているらしいのだが、ものの価値が全くわからない。


 それぞれの料理には特殊なスキルが付与されているようで、口にする度体力の回復と魔力の回復、そして疲労が吹き飛んでいくような爽快感が得られた。


「さてと。勇者のおかげでこのダンジョンに試練ってのがある上、敵もべらぼうに強いってことが分かったんだが、今のところそのようすは無さそうだ」

「真っ向から戦ってないから、だね。ちょっと前にボクは一人でこのダンジョンの攻略に行ったんだけど……この試練にすら辿り着けなかったんだよ」

「確かに、これまで逃げてきましたけど……魔物さんたちはかなり強い気がしたです」

「でも、吹っ飛ばしてたよな?」

「ずっと敵がこの調子なら大丈夫だけど……敵は一体じゃないし、今回の階層では前と比べてかなり魔物の数が少ない気がしたかな」


 ダンジョンは階層が深くなっていく事に敵の強さも比例して大きくなっていく。

 先行して奥部へ転送されたとはいえ、比較的浅い層であったのにも関わらず敵の強さは予想以上であったのだ。

 今後の魔物と戦う際においては変わらず逃げる作戦、もしくは多数と戦うことを極力避ける意識を持った方が良いだろう。


「あと、この先何があるか分からないし、試練とかでも無理矢理パーティを崩されることがあると思う。だから絶対に、油断しちゃ駄目だよ。……ね?」

「うっ……仰る通りで」


 俺へと視線を向けられたが、反論の余地はない。常に命懸けの戦いの中なのだ。油断は命取りとなるだろう。


「ドリュードに説経されたんだ。二度と同じヘマはしない」


 この言葉は己に何度も言い聞かせなくてはならない。俺だけの戦いではないし、皆がみんな命懸けである。

 そんな仲間のために俺が出来ることといえば、これまでの経験を自分の心に負けずに最大限に引き出すことだ。

 観察眼サーチアイに頼りきりにならず、状況を適切に把握すること。逃げるか、戦うかを戸惑いなく選ぶこと。そして、この戦いのために一生懸命な皆を命を賭して守ること。

 どれもこれも忘れてはいけない俺自身の約束だ。


「仮眠でも取っておくか?」

「昨日いっぱい寝たので大丈夫です!」

「――ああ、ここに居たか」


 背後から声をかけられて振り向けば、その場には軽鎧を纏い、腕には豪華な装飾が施された篭手を付けているテュエルが居た。武装しているようすであるものの、彼女の表情は疲れているように見える。


「すまないが、私はもう一度王都に戻らなくては行けない用事が出来てしまった。故にお前たちには魔導書のダンジョンに今すぐにでも出撃の準備をして欲しいんだ」

「この攻略よりも重要な用事? それって――」

「ああ。王都に魔族が再度攻めてきたのだ。王の三剣(キングスソーズ)を中心として各個奮闘してくれているが……如何せん数が多い。対策はしていたのだが、それを大きく上回る数だった」

「それって……もう戦争になるんじゃないの?」

「状況が状況だ。何としても避けたい。未だ人命の損失は報告されてないが、このままでは時間の問題だし、我らの戦力も足りなくなることが推測される。だからこそ、直ぐにでも魔導書を回収し、迅速に魔族への鎮圧を行わなくてはならない。これ以上戦火を広げない為にもな」


 魔族が人間界に進行したというバレッタたちの情報は嘘ではなかったようだ。

 ソプラノの仲間のマモンのような七つの大罪(セブンス・シン)という化け物集団は人間界に現れただけで甚大な被害を巻き起こすはずなので、鎮圧という言葉が出た以上、彼らはまだ投入されていないというのが現状だろう。

 魔導書のダンジョンには多分居るんだけどな。


「つまり! 勇者とか強いやつはこっちで頑張って、なるべく早く魔導書を取りに行ってくれってことだろ!」

「……そうだ。お前たち――特にアルト、ユウは闘技大会での優勝者なんだ。その実力、信じているぞ」


 元から裏切る予定であったので多少調子が狂う気持ちになる。ゴメンな、テュエル。俺たちは俺たちの目的のために動くからさ。だから――


「任せとけ。勇者よりも先に魔導書を取ってやるさ」

「すまないな。急かしてしまって。ダンジョンの入口付近に転送魔法陣は用意してある。行先はさっきと同じ場所だ。これを使って魔法陣を起動してくれ」


 早口のまま渡されたのは四つのクリスタルであった。これが転移する際の鍵のようなアイテムであるのだろう。


「それと、これは通信機だ。魔力濃度に関しても危険だと警報を鳴らすように作ってある」


 次に渡されたのはブリーフィングの時に渡された時と同じ形をしたバッチ型の魔道具であった。これを二回とも全員に配布していると考えると――予算オーバー間違いなしである。

 国の攻略に対する姿勢が伺われるというものだ。


「ついでに、あのマスクをした馬鹿者を見つけたらそれで連絡してくれ」

「えーつさんのことですか?」

「そうだ。また見失ってな。この緊急事態というのに……」

「分かった。これで連絡すればいいんだろ?」

「ああ……なら、私はこれで失礼する。女神様の加護があらんことを」


 形式なのか、女神へと祈るポーズを取り、彼女は早足で兵士を引き連れてこの場から立ち去って行った。

 レムとミカヅキがこちらを見ているが、言いたいことは大体分かる。


「これが大人になるってこと、なんだな。自分でも分かるくらいにどんどんお腹が黒くなってくよ」

「罪悪感が凄いです……」

「騙すってなんかやだなぁ」

「元からこの考えで参加してたから別に騙してなんかないよ! さぁ、皆は準備いい?」


 ここでふと気がついたのが召喚魔法陣が再び一部封じられる可能性である。回復アイテムを持つのは俺だけではなく皆に渡しておいた方が良い気がする。


 その旨を話すと皆は快諾し、レムは魔法のポーチの中へ、ミカヅキは服の中へ、そしてアルトは霧の中へとアイテムをしまい込んだ。

 エーツの奢りとはいえ、使い切る覚悟で行きたい所存である。


 トイレ等の可能性も考慮して数十分後。

 皆は魔導書ダンジョンの入口へ集合を終えていた。


(うぬ! 我らの体調もバッチリじゃな!)

(あの時はどうなるかと思いましたが……ハラハラものでした)


 聖霊たちもこの時をもってして復活可能となっている。

 話を聞くに彼女らの魔力は体を構成する魔力を含めて三割を切っていたため、非常に危なかったとか。


「忘れ物ないよな?」

「もう、遠足じゃないんだから」

「準備万端、です!」

「あのエーツって奴いないけど……まぁいっか!」


 全員に確認を取り準備も体力も万端である。あとは転移して、先へと進むのみ。


「……っ」


 ――だったのだが、ここまで来たのにも関わらず、緊張のためなのか、はたまた今後に来るであろう困難への恐怖なのか、少しだけ俺の手は震えており、鼓動のペースが上がっていく。

 その影響を受けてか、脳裏に何度も白神による身体の破壊が思い起こされて腹部が気持ち悪くなっていく。


「……大丈夫だよ。何があってもボクがキミを守るからね」


 ――握りしめられた右手に暖かい感覚。

 それはアルトの手だった。固く握り締められた拳は開かれ、手は繋がれていく。

 繋いだ彼女の手は柔らかく、恐怖と震えは次第に溶けて消えていった。


 この情けない姿を見ていたのは彼女だけであったが……なんとも恥ずかしい。


「俺、なっさけないなぁ。そういうのは俺のセリフなんだけどなぁ……」

「可愛いから気にしなくていいよ?」

「はぁ……カッコよくありたいよ」

「ふふっ、ならちゃんとカッコイイとこ見せてね」

「ああ……今回のこそ、やってやるさ」


 光に包まれて転移が始まり、同時に思考は真っ白に溶けていく。

 レムやミカヅキでさえ凛と立っているのにも関わらず、本当の死の恐怖をつい最近知った俺は少しだけ力んだ姿だった。

 今はカッコ悪くてもいい。不格好でも皆を救えれば――


『ああ。また、来たんだ。なら今度こそ――』

「ぐぅっ!? 」

「わっ!?」


 声が聞こえたや否や急な重圧に押しつぶされるような感覚を受け、繋いでいた手は離れてしまった。


 その離れた手からは凄まじい勢いで体温が抜けていく感覚がある。指先が凍ってしまったかのように急速な体温消失である。

 異変に目を開けるとそこは――


「ここ、は?」


 黒い、森の中だった。

 先程居た四方を壁に囲まれている場所では無い。これだけは確かだ。


「寒、い? いや、違う。これって……!」


 寒い理由は気温が低いからじゃない。

 寒いと感じる理由ワケは体温が奪われているためじゃないんだ!


『ぼくの糧となれ。侵入者ども』

「魔力が吸われてる!?」


 既に体は臨戦態勢。魔力が吸われていようが慌てている場合ではない。

 気配探知に集中し、周囲の状況を確認。


「レム? ミカヅキ?」


 が、いない。

 気配探知に彼女たちの反応は無い。

 同じく転送されてきたのにも関わらずである。


「ユウっ!二人がいない!!」

「どうなってる――って!? アルト伏せろッ!」


 アルトを押し倒し終えたとほぼ同時に魔物の反応が俺たちの数センチ上方を通過する。

 茂みに魔物が消えたと思いきや、気配探知で捉えていたその反応は消失してしまう。


「とりあえず、現状把握は魔物を倒してからだ。逃げたところで不意打ちなんて食らってたまるかっての!」

「うん! 分かった! やろう!」


 彼女を引っ張りあげて互いに背中合わせになり、正体不明の魔物の来襲に備える。


 その黒い森の中は、虫一匹の声もなく、風に揺れる木の葉の音さえ聞く事が出来なかった。


ご高覧感謝です♪

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