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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
244/300

第244話 過去から今へ

 私は、誘惑に負けたのだ。

 オニキスという人物に魅了されるがままに色欲の罪に捕われ、その心に体を動かさせられ続けた。

 その結果が……あの光景だ。

 何ら罪のない村の人たちに魔法を振るい、手をかけてしまった。

 何人なんにんも、何人なんぴとでも、その時私の邪魔をするものは皆殺してしまった。


 しかし、それはあの時あの場所で彼に助けられるまで知らなかったことだった。

 私は過去の世界を見るまで、子供の頃(さっき)に何をしたのかは明確に覚えていなかったためである。


 あの過去世界は作られたもので、余計なものが混ざった世界。故に私が体験したであろう本来の過去とは違ったものだ。

 実際にその場で覚えていたことといえば、気がつけば村が全壊していたこと。私の体は血まみれであったこと。お母さんが隣に倒れていたこと。その三つだけだった。


 しかし、あの光景は間違いなく混ざる以前の過去と似たものであったことは、体が覚えていたのだ。


 彼女は生きていたが、あの日を境にお母さんは人が変わったように態度が豹変した。

 今までの少しだけ厳しく、優しさを持ち合わせていた母親は見られなくなり、まるで忌物を扱うかのような嫌悪感に満ちた応対を受け続けて数年。あの日以来、元の母親の姿はずっと見られていない。


 成人も近くなり、なぜ彼女があの日をきっかけになぜ対応が変わったのか、聞いてみたことがあった。


 その時言われたのがこの一言だった。


『お前は悪魔だ。あの血濡れの惨劇はすべてお前が引き起こした。私も殺そうとた悪魔のお前には適切な対応だろう? まぁ……親としての義務を果たすために成人までの面倒は見るがな』


 そう言うならそうなのだったのだろう。私が村の人々を殺し、母までも殺そうとしたのだ。

 伝えられた当初は流石に全く信じられなかった。しかし、私がやっていないという証拠もない。母の言うことは絶対と考えていた私にとっては、三日三晩泣き続けて悩み、今後とも思い出そうとすると吐き気を催すものとなったが、時が経つにつれてこれは私の罪であると分かったのだ。私一人ではもう対応のしようがない。

 私のことが嫌いで、女神様の最悪の敵である『悪魔』と判断し続けているのであれば、親の義務ですら放棄すれば良いというのに彼女は……それをしなかった。

 ずっと不思議だったし、それを聞いてしまえば全てが壊れると考えてしまって、聞けなかった。


 今回の過去世界を見たことで分かったことがある。なぜ母がこのような態度であるのに私を子供として育て続けたのかだ。


 女神様に愛を捧げ、母は私を救った。その代償として母は親の愛を失った。

 故にあの冷酷な接し方であり、本来の母の感情はなんら関係なかったのだ。


 彼女について分かったのはこの一つの可能性だけだった。


 ――私は本来の親の愛を持った母親に嫌われてなかった可能性、である。


 この可能性は非常に意義のあるもので価値がつけられないほどに喜ばしいものだ。


 過去の世界によれば、女神の杖に母親の『愛』が悪魔ハルファスと共に封印されているという。この情報だけでも命をかける価値が上乗せされるものである。


 どんな支払いを求められようとも、どんな犠牲を払おうとも、私は今回の攻略を絶対に成功させなくてはならないのだ。


 ――力を手に入れ、そして元の母親をから取り戻すために。


 ~~~~~~


「あははっ、俺が行かなくても帰ってこられたんだ。予想以上に早かったね」


 サンガは面白そうな声で呟く。その背後には小さな女の子たちが忙しなく料理を行い、大きな机にはシーナを含めた人数分のお箸が並べられていた。


「お兄ちゃん! もうご飯できるよ!」

「わかった。あ、シーナのご飯も用意してあげておいてね。多分戻ってきたから」

「あれ? 兄さんこの女は戻ってこられないって言ってなかったっけ?」

「そうだね。でも、俺が手を貸すまでもなく彼女は戻ってきた。これは褒めていいくらいだね」

「ふんっ、自分の過去ぐらい一人で解決するものですわっ! お兄ちゃんは甘過ぎです!」


 不満そうな声を上げるクレアに対し、サンガは優しい声で宥める。

 皿に乗せて運ぶのはごく一般的な家庭料理であるハンバーグである。


 全員の配膳を終えたが、しばらく待ってもシーナは目が覚めない。

 彼らは全員が揃っての食事と決めているため、彼女を置いて食べようとするものは誰もいなかった。


「料理には冷めない魔法をかけてるからいいとして……ちょっと時間が空いたね。いい機会だし、彼女にも話を聞いてみようか」


 まだしばらくシーナの目覚めまで時間がかかると見たサンガは席を立ち、この場から離れていく。それを見たフードで顔の隠れたマリエルもついて行き、残された女の子たちは不満そうな顔をする。


「マリエルばっかりずるいですわ。いつもお兄ちゃんの側にいて!」

「羨ましいけど、仕方ないよ。そういう呪い(おまじない)だからね」

「あーあ。私もお兄ちゃんにかけられたいなぁ」

「かけられても自由に話せなくなるのが辛いところですわね」

「私はお兄ちゃんと一緒に居られればそれでいいんだけどなぁ」


 彼女たちは羨ましそうな声を上げるも、席を離れなかった。その理由として、サンガたちがこれから会いに行くものに『近づくな』と命令されているためである。


「さて。君はこの眠ったシーナに対して何をしようとしてたのかな?」

「悪魔を消します。故に邪魔なものも消します。勇者様、邪魔をしないで頂きたい」


 ギチギチと火花が飛び散る鎖に繋がれていたのは、シーナと共に居た十字騎士団の一人、セリアであった。

 今にも両手両足に繋がれた光り輝く鎖を引き千切りそうな彼女は、横たわっているシーナへと本能的な殺意を向けている。その様はまるで狂犬である。


「うちの仲間に手出ししようとしてるんだから大人しくしててね?」

「拒否します。私はこの目で確認しました。彼女の背後に悪魔が存在していたことを!!」

「別に悪魔だっていいじゃん。俺たちの力になってくれるんだからさ」

「あなたは……ッ!? 女神様を侮辱する気ですか!? 今すぐ女神様の名の元に勇者様の存在を――!」

「侮辱なんてしてないし、どちらにせよこれから君は拘束したまま進ませてもらうよ」

「この……!」


 もはや彼女は怒りのあまり勇者へ殺意を向けているが、当の本人は余裕の表情を崩さない。

 無表情とはうって変わり感情を露わにするセリアは魔法を使おうとして――不発。


「無駄無駄。魔王でさえこの拘束は解けないよ。実績あるからね」

「あなたは一体何をしたいのですか!? 悪魔を放置するという愚行、国家への反逆以外の何ものでもない!」

「別にいいじゃんさ。やばい時には俺が全部収めればいいんでしょ?」

「そういう問題ではなく――!」

「いいから任せなって。君は時が来るまで眠ってればいい」


 勇者が彼女へ向けて手をかざしたその瞬間。まるで糸が切れたあやつり人形のようにペタリと倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。


「あーあ。君、白神みたいなアンドロイドかと思ったけどただの人間じゃん。俺はそういうの求めてないんだけどなぁ。確実に命令通りに任務を遂行するって聞いてたから期待してたけど……ちらほら洗脳のムラが見えるね。こういうのは來奈らいなは完璧にやってくれるんだけどなぁ」


 そう吐き捨てると勇者は身を翻し、元きた道を戻っていく。残されたマリエルは勇者に気が付かれないように何かを呟き、何らかの感情を残し、急ぎ足でこの場から去っていく。


 またしばらく時間が経ち、寝泊まりの準備をしていた所、勇者がまた皆に声を掛ける。


「お姫様から連絡だ。もちろん人間界の、だけどね」

「あの女……ですか」

「あははっ、そうそう。君が大嫌いなあの女さ。テュエルは色々察しがいいから連絡はできる限り遠慮したいんだけど……出ない方が怪しまれるか」


 マリエルの纏う空気が変わったのはこの場にいる全員が感じ取ったが、それも彼らにとっては日常茶飯事。誰も気にかけることはしない。


『……聞こえるか、勇者』

「はーい。聞こえてるよ。カムロドゥノンの公務おしごとが終わったの?」

『当然。それよりも――無事か?』


 勇者の襟元に着いているバッチから聞こえてきたのは人間界で屈指の実力をもち、王都カムロドゥノンの姫君であるテュエルである。彼女の声は切迫しており、勇者の飄々としたものとは真逆である。

 彼が如何にも余裕であるという旨を伝えると、彼女からは胸を撫で下ろすかのような安堵の吐息が流れてきた。


『良かった。勇者がやられたとなったらこの作戦を中止せざるを得ないからな』

「さて、それよりどうしたの? こんな夜遅くに連絡して」

『攻略に参加した殆どのSSランカーがある一点に集い、留まり、動かない。そのようすと原因をお前に確認してきてほしい』

「あははっ、やっぱりね」

『やっぱり、というと……何か知っているのか?』

「そりゃね。俺たちも足止めくらったから。むしろ、無事な人はいるの?」

『反応はあるが、安否はこちらでは確認できない。故にお前に向かってほしいのだ』

「面倒くさいなぁ……まぁいいけど。確認してくればいいのかい?俺たちがいるのはまだ上の層だし、すぐ向かうよ」

『申し訳ない。そしてありがとう。私もそちらに着き次第その座標に向かう。頼んだぞ』

「あーらら。お姫様なのに護衛もつけないとか。あははっ、流石は闘魔姫だね」


 彼女は連絡を切り、ブツリという音が静かな部屋に鳴り響く。

 シーナはまだ起きていない。ただ、勇者には彼女の魂はこちらに戻ってきているという確信があった。


「さてみんな。聞いてた通り今から向かわなきゃだ。俺たちが怪しまれないためにはね」

「お姉ちゃんのお願いはまだ大丈夫……?」

「すぐ行ってすぐ帰ってくれば大丈夫さ。ちょっと時間は掛かりすぎてる気もするけどこんなの誤差誤差」


 そう言って勇者は指を鳴らすと一瞬でテントや寝泊まりのアイテムが光に包まれて消失する。


「さぁ、行こう。」


 ~~~~~~


 ――目が覚める。

 いつの間にか運ばれていたのか、俺は非常に狭い場所で隔離されていた。姿勢はまるで体育座りで、現在はエイリアンの巨大な卵のような形状をしている容器に閉じ込められている。壁の中でないだけマシなものだろうか。


 中に閉じ込められているものの、半透明であるため、くもりガラスのように向こう側の景色が見え――


「――ユウッ!!」

「アルト!?」


 ゆっくりと瞼を開けば、目の前には額をピッタリとくっつけ卵の容器に勢いよく両手を連続で叩きつける魔王様がいた。この容器がいつ壊れるかも不明であるため、殴られるまで秒読みである。


「あると落ち着くです!!」

「落ち着けって!!」


 二人に無理やり引き剥がされ、彼女は悔しそうにその場から離れたその時。

 目の前のくもりガラスは霧のように消えていき、俺は晴れて自由の身となっていた。


 本来の意味で地面に足を付き、深呼吸と伸びを行う。

 今まで見ていたのが幻覚だなんて信じられなかったが……現にここに俺という存在がある以上、あれは過去世界と断定していいのだろう。


「いててて……変な姿勢で寝かされてたのか。もうちょっとゆとりというものが欲しかったところだ」

「ユウッ! 大丈夫!?」

「大丈夫だ。そっちこそ大丈夫だったか?」

「ボクは大丈夫! もう何回も経験してるし!」


 ぎゅっと抱きつくアルトを感じていると暖かさと共に現実であること嬉しく思えた。

 レムとエーツの二人が近づいてきたため、抱擁を止め、全員がどこも怪我をしていないことを確認する。


「二人も大丈夫そうで良かった」

「ワタシも怖かったですっ」

「アツアツだなお前ら――ってそんなことよりだよ! あのチビ……ミカヅキが居ねぇんだ!」


 レムの頭を撫でていたところ、エーツから驚きの言葉が発せられ、手の動きが止まる。

 その一言で全員が現実に戻されたのか、慌てたようすで辺りを見回し、やっぱり居ない、という声が上がる。


「……居ない? ほかのポッドの中にもか?」

「ボクが一番早く過去世界から脱出したんだけど、その時にはもう居なかったんだ。こっちまで連れ去られてないって可能性があるんだけど……そうとも考えにくくて」

「ワタシもあの吹雪の幻術からは逃げられないって思う、です」

「すげぇ魔力だったよ。俺様の聖域サンクチュアリがまるで歯が立たなかったしな」

「なるほど、結局お前が聖属性使ってたのか」

「……やっぱ気づいてたか。悪いな、隠すつもりはなかったんだがタイミングがな」


 ガルドラボーグが俺を過去世界に飛ばす前に言ったセリフを思い出す。彼の魔法の効果で俺たちはそう易々と気絶しなかったとか。


「気配探知――って、戦ってる?」

「え……? ユウはミカヅキの場所が分かるの?」

「これ、間違いなく戦ってる!」

「待て……っての!落ち着けよ! 」

「っ!? ……なんで止める?」


 走り出そうとしたところでエーツに肩を捕まれ、思わず驚きの声を上げてしまう。

 しかし彼はその声に動じず、ただひたすら落ち着いて話し出していた。


「助けるも何も、第一にまず俺様たちがここから出ないといけないんだ。ここの壁は相当固くて砕けたもんじゃねぇぞ」

「……確かに、出口がないが、俺でもアルトでも砕けないのか?」

「そうなんだ。ちょっと慌てて言い忘れちゃったけど、相変わらず隔離されてるのは同じ状況で、ここから出る手段をまた見つけなきゃダメなんだ」

「ワタシも……試してみましたが、ダメです」


 周りを見回しても脱出口らしき扉も穴もなく、ただドーム状の中に閉じ込められた閉塞感と窮屈感が感じられた。

 どこから運ばれたかすらも不明である。


 気になる点があるとすれば、黒い液体の詰まったポットが四つ、俺たちがいる場所とは反対側の壁に埋め込まれている点である。


「あれが何だか分かるか?」

「分かんない。ただ、ボクが見た限りだと、一人過去世界から帰る度あそこの黒い液体が対応して満たされてたよ」

「恐らくあれがヒント……ですよね?」

「とにかく、近づいてみようぜ」


 エーツの声をきっかけに俺たちはおそるおそる黒い液体の詰まったポットへと近づいてみる。

 特に変わったようすは感じられないが、全身を気味が悪い。


「ねぇ待って。あの黒い液体から魔力を感じるんだ」

「んん……? 俺様は何も感じないんだが……」


 四つのポッドまでおよそ十メートルほどの距離にまで近づいたその時、アルトが嫌な予感を感じ取ったためか、右手を横に広げ、俺たちの動きを差し止める。


 気配探知でもポッドから反応はないものの、何が起こるかわからないこの状況はひたすら体に緊張が走る。


「ッ!? 下がって!!」


 全員が警戒していたため、アルトの声に皆素早く反応し、一気に距離を開く。

 その声と同時に四つのポッドからは黒い液体が溢れ出し、それらは早送りで粘土を固めるように人の形を確立していく。


「おいおいおい。どんな魔物だ? 俺様でもあんなの見た事ねぇぞ!」

「ボクも知らない。けどあれは――!」

「ワタシたちと同じ姿……!?」

「いや……対応しないやつが一人いる」


 四つの液体から、四人が造られており、姿はアルト、エーツ、レムにそっくりな魔物の反応が相手から感じられた。しかし、感じられる圧力はそれぞれ本物と遜色ないものである。


 一方で俺のそっくりさんに対応するであろう魔物は――


「真っ黒い……ワタシたちとしーな、です?」

「なるほど? こりゃ俺様たちが見た過去世界に対応してるって口か。ユウがなんであのSSランカーになってるかって話だが、どうせお前はその過去世界に飛ばされたってことだろ?」

「ご名答だ。あの世界には別のヤツもいたが……これは後で話す!」

「はっ、ほんとにどうやって戻ってきたんだかな、お前は……!」


 黒いアルトたちの模倣体は使用する武器すら完全にコピーしているらしく、手の内から武具を造り出し、こちらへと剣先を向けて明らかな敵意を解き放つ。どうやら戦わざるを得ないようだ。


「偽物になんか負けるはずないけど、気をつけて。強さも再現してるみたいだよ」

「じゃ、シーナもどきは俺がやる。こんなところで止まってられないしな」

「なら、ワタシはワタシのそっくりさんと戦う、です!」

「この流れから察するに――」

「そういう事だねッ!」


 彼女は声を張り上げたその瞬間、まるで溶けてしまったかのように姿が消えて――


 向かいの壁から強烈な炸裂音と土埃が舞う。突風と衝撃波が広がるが、俺たちと模倣体たちはまだ一歩たりとも動けていない。


「よっと。流石に一発じゃ無理だったかな」

「アルト……また強くなってる?」

「ふふっ、さぁね?」

「すっごい綺麗な蹴りでした……!」


 先制攻撃を加え、長距離バックステップでこちらに戻った彼女は嬉しげで張り切っているかのように見える。

 一方で先制を取られたアルトの模倣体は土埃の中から無傷なようすで復活。体に付いたホコリを払うかのような動きを見せていた。


「えー……結構真面目に打ったんだけどなぁ」

「これが闘技大会優勝者の動きか……! すげぇな。目で追えなかったぞ!?」

「感動してる場合じゃない。俺たちの相手も来るぞ」

「自分には負けたくない……です!」


 彼らも何故か相手を弁えているようで、それぞれ対応した者に狙いをつけ、突進を行っていた。

 シーナの模倣体が相手である俺の行動は防御である。


反射リフレクション。やっぱり魔法で攻撃してくるか。」

 

 相手が風の刃を飛ばしてきたため、手を横に払い、無効化。反射した魔法は相手に向けて真っ直ぐ進んで――避けられた。


「仲間とぶつからないように気をつけないとな」


 相手も俺しか狙ってこないため、充分な間隔は取り易い。


「闘技大会以来だ。かかってきな。泥人形」


 人差し指を相手に向けて曲げ、意図的に挑発する。その効果があるのかは不明であるが、己の意識が戦闘へと切り替わっていく感覚があった。

ご高覧感謝です♪

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