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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
242/300

第242話 シー■ レ■ファス

 巨大な敵とはマシニカルで戦った以来で再び相見えるのは遠慮したいと考えていたし、ここまで早い段階で巨獣討伐の依頼が来るとは思わなかった。


 しかしだ。異能の力を持ち合わせているとはいえ、今は本当に仲間も居らず一人きりの状態である。まず勝てるはずがない。

 ただでさえ巨人と敵対した時にあれだけ恐怖を感じたのだから、ファンタジーの代名詞であるドラゴンに立ち向かえる気は微塵もない。

 故に、断る方向で話を進めよう。何度も繰り返すが、間違いなく勝てない。勇者なんかよりも本能的な恐怖が勝っている。


 今までは大して考えず無謀に突っ込んだが、どれもろくな経験がない。その結果がマシニカルの戦いだ。あんな事態は二度と避けたい。


「えっと、な? ちょっとアレは俺一人じゃ厳しすぎるぞ」

「もうカムロドゥノンには報告した! しかし返事は待ったく無いし、使者すらくる気配がないのだ! このままでは我らは餓死してしまう!」


 村長のセリフを口火に村の住民たちもざわめき出す。この村で初めて会った村人も話していたように、備蓄がもうないのだろう。当然、冬真っ只中のこの季節では食料を確保するのも難しいものがある。


「おい、待ってくれよ……? この村には冬を越せるだけの備蓄はぎりぎりあるって話だよな……?」

「そう、あんたも言ってたじゃないか……っ! なぁっ!?」


 村の中の空気が一気に剣呑なものになっていき、居心地が悪く、段々と悪い方向へ変わっていく。まるで起爆寸前の爆弾が目の前にあるかのように。


 ――そして、その時はあっという間に訪れる。


「――ええい! 嘘に決まっているだろう!? 今年の作物の凶作ぶりを見てまだ分からないか!?」

「ならっ!? あんたたちはオレたちを騙してたってことか!?」

「私の家にはまた産まれたばかりの子がいるのよ……? どう、養っていけば……ぁあっ」


 村長が話し出したこの瞬間、村人たちは地面に座り込んだり、怒鳴り込んだりと、まさにパニック状態になってしまう。村長とシーナの母が止めにかかるが、その反動として批判は彼女にも飛んでしまう。

 その原因は誰からだったか、村人たちの群衆の中から彼女に向かって何かを呟き、指を向けた者がいた。

 そのようすと言葉を見て聞いた屈強そうな男が、震えた声で告げる。


「お、お前らだ……お、お前たちの親子が悪魔を呼び込んだんだッ!」

「なっ……!? それは誤解――」

「確かに、そうだ。お前たちの親子がこちらに来てからだ!!俺たちが明かな凶作に困り始めたのはっ!!」

「違うだろう!? 私たちがマトララからこちらに来たのはもともと酷かったこの凶作を救うために学園から――」

「そうだわッ! 私は元々都市からこの辺境のに来るのもおかしいと思ってたのよ!!」

「貴族ってのも嘘だなっ!?」


 凶作の理由は全く検討がつかないが、彼女たち親子のせいではないのは明らかだ。当てつけとはいえ、まさかこんな事態になるとは全く考えていなかった。早急に止めなければ親子共々傷つける者が出てきてもおかしくはない。


「おい! よく考えろ! 明らかに凶作とは関係ないだろ――!」

「いや、確かに」


 より強くなりつつある喧騒を止めようと自ら話し出したその時。村長が口を開き、途端に辺りのざわめきが一瞬で静まり返る。

 話し出した彼の目は――どこかぼんやりとしていて、意識が何処か別のところへ向いている気がした。


「……マージャ・レミファス。お前が来た翌年、疫病が蔓延したな」

「あの原因は話しただろう!? 崇拝の時間に咳き込んでいる者がいたのは覚えているな? それがきっかけで皆感染した!」

「いいや。それは違う。女神様の目の前で疫病など発生しない。つまりだ。貴様が女神様の前で悪魔が如き病原を持ち込み、広めた。違うか?」

「違うッ!! 現に私は村の全ての者の命を魔法薬によって救った!!」

「いいや! それこそ悪魔の甘美なる罠だった! その後、我々の信頼を勝ち取った貴様はこの村の秘宝である杖を研究させろと望んだ。女神様から授かった秘宝中の秘宝だ!」

「それとこれとなんの関係があるというのだ……?」


 もはや責められている側も呆れるほどの応答だ。村長はまともな精神状態出ないことが予想されるが、この喧騒の状況の中ではその点を指摘する者など誰もいなかった。


「そこで貴様は悪魔との契約に我らの秘宝の杖を使い、その杖に悪魔を堕ろし、この村を自然な形で滅ぼそうとした。杖を我がものにせんとの意思で!」

「違うといっているだろう! だいたいなぜ私が悪魔と関わりがあるような言いがかりを――!」

「あの杖はずっと前の勇者様の遺物として隠されつつ慎重に村々を渡っている。その理由は知っての通り、女神様への祈りを一点に集約し、悪魔を滅する力を蓄えるためだッ! それを、貴様は――っっ!!」

「私は女神様の忠実な信者だッ!! 決して悪魔への対抗策を我がものにしようとする下劣な思想など持ち合わせていない!」


 どうやら村長の考えを纏めると、元々シーナの母と娘は杖を盗みに来たと思われており、その副作用として更なる凶作などの害が発生していると考えているようすだ。

 そして、新たに湧いたもう一つの疑問が、どうして彼女が今まで知りえなかったその秘宝の杖の存在を研究したいと言い始めたのかである。


 何もかも怪しくなり、誰も信じられなくなってきた。

 ……とは言っても、俺こそがこの中で最も村の人々からは得体がしれない存在だろうが。


「悪魔っ!!お前は悪魔の遣いだ!」

「出ていけ!! 悪魔は出ていけ!!」

「あのドラゴンに捧げればこの凶作も終わるかもしれない!!」


 彼女の弁明が全く通らなくなり、完全に部が悪くなってしまったシーナの母は黙り込んでしまった。そして、ここぞとばかりに村人たちは非難の嵐を巻き起こす。

 騒ぎはもうどうやっても止められなくなり――ついには彼女へと向けて雪や、転がっていた石を投げる者も現れ始めた。


「おいっ、やめろっての!!」

「君……っ!?」


 流石に見過ごせなかったため、素手で投げつけられた雪や石から彼女を守る。魔法を使えば良かったが、咄嗟の動きであったため完全に抜けてしまった。


「悪魔を守るとは……!? やはり貴様も悪魔の味方か!! これだから外からの者は信用出来ない!」

「あいつも悪魔だ!!」

「女神様の加護のもとに処刑を!」

「どうしたらそうなるっての――!?」


 ――今後の対応を考えていたその瞬間、本能に直接衝撃を与えてくるかのような重みのある気配を感じ、この村から全ての音が一瞬で消失する。村人たちも硬直したように動かなくなった。


 気配探知に発信元となる対象は捉えていたのだが、それはすぐに消失し――俺たちの数メートル後ろに現れた。


「ッ!」


 既に真後ろにいることは分かっていたため、振り向きつつも魔力を込めた手のひらを向け――


「うっしっし、まぁまぁの反応速度だ」

「お前、は……?」


 たが乾いた音を響かせ、いとも簡単に腕を振り払われてしまった。

 そして、その腕の向こうに居たのは……見たことがある顔で、初めて出会った当初から警戒していた人物だった。


「特異点、貴様を待っていた」

「あんたは……誰だ!?」

「お前も……悪魔なのか!?」


 村人たちは長い硬直が解けたようで、少しずつ口を開き始める。

 恐ろしいほどの存在力を彼から一瞬だけ感じられたが、今では何の変哲もないただの……老人だ。


 彼はマチェベルのギルドのエレベーターの中で出会った如何にも怪しい老齢の男性だった。覚えている限り、こちらを見ながら笑っていた気がする。

 今もその当時も笑いの意図は全く読めず、一度や二度会っただけでは理解し難い人物であると言えよう。


 そんな彼が曲がった腰のまま服の中を漁り、取り出したのは鋼で作られた一枚のエンブレムだった。

 それには女神と思われる姿が掘られており、両手には剣と盾を抱えている。


「そ、それは……十字……騎士団のッ!?」

「ワシは……こんなものじゃよ。悪魔が蔓延っているとの連絡を受けてな。団長であるワシが直々に出向いてやったわい」

「だ、団長自らぁぁぁぁ!?」


 その瞬間、周りにいた人々が片膝を付き、両指を祈るような形に絡め、まるで彼を神であるかのように崇め、ひれ伏したのだ。

 その対象は村人だけではなく、シーナの母も、村長もだ。


「さて、先程見たあのドラゴン、あれが諸悪の根源か?」

「はい! この者が呼び出したかと見て間違いないかと!」

「違います!! あの正体は私でさえ分かっていませんッ! 女神様に誓って!!」

「どうれ、ワシが判別してみよう」


 ひれ伏した人々は俺には一切目をくれず、ただ目の前の老人が神であるかのようにただ祈りを捧げている。

 その最中、彼はしわくちゃの手を二人の前にかざし、目を閉じた。

 数秒経った後ゆっくりと腕を下ろし、目を開けて口を開く。その行為の中に魔法を使った形跡はまるで見られなかった。


「ふむ、こやつは悪魔ではないな」

「なっ……それは本当ですか!? しかし、彼女が来てからというもの……!」

「あのドラゴンが原因じゃ。丁度こやつが来た時にあのドラゴンも来たのだろうよ」


 そう言い放ち、次は俺へと向かって手を広げて語る。嫌な予感だけが、背中を伝っていた。


「あのドラゴンを倒せば、この雪も止み、冬が終わるだろうよ。そうなれば、食料も王都から運んでくることが出来る。どうじゃ、ワシらにあのドラゴンの討伐を任せてくれんかの?」

「し、しかし! いくら騎士団長と言えど……!」

「心配には及ばん。ワシには女神様がついておる。それに、もともとこの男もドラゴンの討伐に参加しているからな」

「えっ」


 ……しれっと混ぜられてしまった。あの危なっかしい相手と闘うなんてご遠慮願いたいのに。

 だが、この状況はチャンスとも言える。このままであればシーナたちの悪魔としての冤罪がなかったことに出来るのだ。無理に口を出してこの好機を逃すわけにはいかない。ここは乗るべきだろう。


「ああ。そうだ」


 明らかに先程の俺が述べた意見とは食い違っているがその事に文句をつける住民は一人たりともいなかった。間違いなく皆は神聖騎士団長という名前の重みに影響を受けているだろう。これはこれでラッキーである。


 ――どうせ、戦いになったら逃げれば良いのだから。


「では、早速ワシらは討伐に向かうとしよう。今一度言うが、その者は悪魔ではない。女神様よりの伝言だ、決して手を出すな。しかと受け止めよ」

「は、はい!!」

「ゆくぞ」


 そう言い放って彼は去っていき、俺も何となくの雰囲気で一礼してついて行く。そのなんとなくに効果があったのかは不明であったが、どうやら村人たちは俺も十字騎士団の一員であると勘違いしてくれたらしい。先程とは真逆の尊敬の念を背中から感じられた。


 ~~~~~


 雪道を歩き続け、ドラゴンがいるであろう山の入口に立つと、何も話さなかった神聖騎士団長が突如笑いだし、如何にも楽しそうな声を出す。


「うっしっし、やっと見つけたぞ。やっとな」

「びっくりしたんだが。どうしたんだよそんな笑って。ていうか、これまでの道中は何で無視を……」


 村から出てすぐ彼になぜ俺をかばったのか、という疑問を投げかけたのだが、全て無視されてしまっていたのだ。


 そしてやっと今、彼が口火を切った。


「もうこの世界が()()()だか忘れたが、間違いなくお前が特異点だろうよ。女神の加護を持った男よ」

「……特異点? なんの事だか」

「この世界は何かがおかしいと思わないか? お前が知っている人物がお前の事を知らない、思い通りに魔法が使えない、とかな」


 そう言って大変嬉しそうなようすで山の奥へと向けて足を進める。

 彼の言っていることを聞いて言葉の意味は一瞬で理解ができなかったが――足を止めてよく考えてみれば居たのだ。その人物が。


『――誰ですか? 私はあなたのことを知らないのですが』

「シーナ……か!?」

「うっしっし。よりにもよってこの世界の中心人物とはな。お前が知ってるなら尚更都合がいい。とにかく、先へ急ぐぞ。もう時間が無いのでな」


 彼は鋭い目でこちらを振り返り見た後、まるで山を垂直へ登っていくかのように、地面を踏み壊しつつ急加速を行って進み出したのだ。その速度は異常に迅速で、気配探知さえなければ瞬く間に見失っていただろう。


「あいつ……!」


 俺には圧倒的に情報が足りないし、何があろうと彼を問い詰め、何がどうなっているのかを確認する必要がある。

 ドラゴンと戦う前に体力を温存したかったのだが、彼が気配探知の外へ逃げる前に何とかして追いつかなくてはいけない。

 ここは追いつくことに専念すべきだろう。


「待ちやがれっ!」


 身体を魔力で強化し、風の魔法纏まで使用して同じく急加速を行う。接近方法は山を登るというより、空中歩行により空を蹴って上昇である。

 鳥型の魔物が空中に漂っているが気にすることなく突っ込んでいく。


「邪魔ッ!」


 魔物を踏みつけ、その勢いでさらに加速。

 ――なのに、未だ彼に追いつけていない。彼は道に沿って山を登っているのにだ。


「どんな速度だよッ!」


 その数拍後、彼は止まったかのようにペースダウンしたようだ。恐らく俺が追いつけていないとみたのだろう。

 こうなれば先回りして驚かせてやろうと考えた結果――魔法纏の雷を纏い、全身に激痛を抱えながらさらに加速を始める。

 当然ながら、その速度で行けば頂上はあっという間で、眼下には白い巨体が寝転がっていた。災厄の竜と呼ばれていた西洋型ドラゴンである。


「ついでに寝首も刈り取って――!?」


 空中に浮いていたが、急降下して目の前にまで迫っていた白い火炎を既のところで回避。

 もう既に魔物は俺の存在に気がついていたようだ。


「……」

「威嚇もしないってか――」


 ドラゴンはでっぷりとした巨体を持ち上げて立ち上がっており、その丸太の如く太い腕を伸ばす。

 その速度も凄まじいもので、反応が遅ければ捕まっていた、と脳裏にちらつくほど。


「へぇ……っ、強いなッ!」


 体に纏った雷を放出させるが如く、ドラゴンの眼前へと向けて右手から全力の砲雷撃を放つ。


 ――が、相手もその程度では動じないらしく、もう伸ばした方ではないもう片方の腕で雷撃をいとも簡単に受け止めてしまった。竜の鱗とは伊達ではないようでダメージらしきものを負ったようすはなかった。


「ヒットしても効果なしかよ。きっついな」


 なら作戦変更である。魔法纏を水に変え、吹雪く雪に対して魔力を加え、変換させる。

 言うなら、ドラゴンの全方位に氷柱の矛先が向けられ、それらを発射させる魔法だ。


 ――しかし。


「……」

「結構魔力込めたんだが……弾かれたか」


 ――堅い。ひたすらその感想に尽きる。この相手は攻略の手立てすら見つけるのに手間取りそうだ。


「おっと、凄そうなのが来るな」


 気がつけばドラゴンは口を大きく開けており、その中心には閃光が溢れんばかりに漏れ出しており――


 その数瞬後、勇者の極光とも思わせる閃光が発射された。俺が元いた空中には分厚い雲が無くなり、その場からでも星空が垣間見ることが出来た。

 昼だったならば晴天が拝めただろう。


「災厄の疫竜。白いのに疫竜ね。なんか幾つか魔法ついてるのに読み取れないし、レベルって……うわ。400ちょっともあるのかよ。そりゃ俺なんか虫みたいなもんだわな」


 地上に降りた俺は観察眼を使い、弱点を探すついでに情報収集を行った

 ――しかし、弱点らしき弱点がまるで見当たらなかった。ドラゴンの体力魔力その他諸々は読み取れない上に、恐らく破格の攻撃力。認識阻害の魔法がかけられているし、完璧にイベントボスである。どうしよう。


 近距離戦では武器がない以上どうしようもないし、もし素手での雷槌が当たったとしても効果はほぼゼロだろう。むしろ、打ち込んだこちらの手と腕がやられる予感がする。そうなれば当然答えは一つである。


「逃げるに限る――!」

「ガァゥッ!」


 その時、白竜の後ろより飛び出してきたのは先程村の中で見た巨大な狼のフェンリルである。

 その魔物は竜の腕を伸ばす速度と同じような素早い身のこなしで竜の足元を潜り抜け――


「俺に迫るなよ!?」

「ガゥァアァァ……」


 その猛進を避けたところ、大変恨めしそうな顔で威嚇された。俺は何も悪いことをしてないのだが。

 彼の気配探知のマーカーによれば黄色、こちらに対して敵ではなく、中立であるため攻撃はしてこないはずだが……何故こちらに向かってきたのか。気配探知すらおかしくなってしまったのか?


「――って、なんだそれ」


 ふと気がつけば彼の牙の隙間にペンダントが挟まっていた。それには光さえ反射しない黒い宝石が埋め込まれており、魂が震えるほどの嫌な感覚が発せられている。


「って、危ないっての!」


 白竜攻撃であるの巨大な尾の一薙ぎをジャンプしてなんとか躱す。下を見れば綺麗に木々が円状にへし折られており、何度見ても破壊力に身が震える。


「お礼にそれくれるなら貰うが?」

「……」


 変わらず恨めしそうな狼は空中を蹴り、再び村へと向けて山を降り始めた。どこか何かの意思を断念したかのように思える。


「さて、どっからあんなもん拾ったかと思えば……あそこか」


 白竜の足元には金銀財宝といった言葉が似合うほど、キラキラ輝く財宝郡が無数にあったのだ。

 狼でも宝石を狙うとは考えにくいし、どこかの主人に命令されたのだろうか。


「じゃ、逃げ――!?」

『オ、オ……オオォォォォッ!!』


 白竜が叫び声を上げたその瞬間、魔物の口や体などから毒霧とも思われる気体が吹き出した。


 その吹き出したものは 紫緑が混ざったような色をしており、火を見るより明らかに危険な気体だった。

 その証拠として霧に飲み込まれた木々を見ると、恐ろしい勢いで腐り落ち、謎の粉塵が周囲に舞う。


「へぇ、あれが災厄っていわれてる原因か。たしかにあれ吸ったら……死ぬよな」


 当然観察眼にも警告が発されており、腐食コロージョンポイズンが混ざった気体であることも分かった。

 恐らく、フェンリルがこれを吸って状態異常バットステータスの腐食に掛かったのだろう。


「って――白竜サン?」


 正面を見ると、美しい色をしていた白竜の体が みるみるただれ落ちていき、肉が腐り落ちて溶けていく。それと同時に、認識阻害であった魔法も消えてなくなった。


「あーぁ。やっぱ、まだまだ未熟じゃねぇか。よくてめぇもそんな実力でこのダンジョンに潜ったもんだよ」

「おい、遅いんだが?」

「あぁ。ちょっと魔法組むのに時間かかってな」

「……なんか口調変わってないか?」

「そりゃあなぁ。もう隠す必要なんてねぇんだからよ」

「って――なにをしてるんだ――!?」


 彼はいつの間にか俺の背後から飛び出し、毒霧の中へと躊躇せず歩いて進んでいく。止めようとしたのだが、時すでに遅し。彼は濃霧の中へと溶けていった。


 流石にこのまま彼を毒霧の中に置いておくのはいけないと考え、風の魔法纏を使い、飛び込もうとしたその時。


 中心部にいた腐りかけのアンデットのようなドラゴンが――比喩なしに消し飛んだ。

 瞬き一つしたその後、まるでその場で爆撃が発生したかのような轟音と衝撃波が体を貫き、俺の体は数メートルほど吹っ飛ばされてしまう。


 受け身を取り、何とか着地できたが、気配探知には異常な反応が見られた。

 気配探知では存在して“いない”扱いであるのに、目の前では紫色リーゼントの大男が確かに“存在している”。

 この反応は、何度か記憶にあった。


「ソプラノと、同じ反応……っ!?」

「あ? オレの正体がジジイじゃなくてビビってんのかぁ? うっしっしっ――て、もうなりきらなくていいのか。忘れてたぜぇ」

「……お前は、誰だ」


 必死に低くした声が、震えている。その原因は嫌でも分かる。かの圧倒的な魔王を彷彿とさせる存在を目の前にしているからだ。

 ドラゴンでもない、人間でもない。本能的に絶体絶命の危機感を煽るこの圧力。間違えるはずがない。


「ぁー説明すんのもかったりぃ……って、完全にスロースの口癖が移っちまったかぁ? まぁどうでもいぃか」

「それが、お前の本当の姿か」

「ああ。お前が竜人の里で暴れてくれてるあいだにこの世界に認識傍受の魔法を使わせてもらってなぁ。おかげでスムーズにこのダンジョンに入れさせてもらえたぜ。信用っていいよなぁ?」


 大男が俺に背を向け、地面を踏み鳴らし、気合いの声を上げる。

 すると、彼の体はみるみる隆起していき、巨大な体はさらに大きく、感じられる圧力は強いものとなっていく。


 ――かの者の姿は圧倒的な絶望と称して間違いがない。


 頭には二本の黒い角。巨大なコウモリの翼。鎖の繋がった巨大な鉄球を装備し、背中にはおびただしい数の極太の棘が生え揃っていた。


七つの大罪(セブンス・シン)が一人。強欲のマモン。てめぇのことはソプラノからよく聞いてるぜぇ?」

「なんだ、それ」

「ほうら、オレが正体をバラしたら――“世界のやり直しが始まる”ぜぇ?」


 風に乗って聞こえた小さな炸裂音。その方向へと視線を向ければ――村が、炎上していた。


「さぁ? ここからはてめぇの出番だよ。特異点、ナミカゼ ユウ」


ご高覧感謝です♪

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