第24話 パーティー結成書
大きな採取ナイフとして使った刀に苦労しつつ、残り一つの薬草と蜘蛛たちの堅殼を採取した。本当は薬草が目的だったのだが、蜘蛛の甲殻などを黙々と剥ぐ。剥いだものは魔法陣を展開して投げ入れる。薬草もポイだ。
もう既に外は真っ暗だが、女神の試練で体を改造させられたのか、夜目がきくので問題はない。
「こいつが、この森の魔物を全滅させたのか。だからこの森に魔物やら動物やらは居なかったのか」
そんな予測を呟き、使えそうな部分を剥いでは回収。剥いでは回収。剥いでは――
「はぁ。めんどくさい。だるい」
現在、俺は魔力はゼロである。魔力切れのデメリットである倦怠感が酷いこともあり、一秒でも宿に早く帰り、ベットインしたいのだ。
「……もうこいつごと魔法陣に突っ込もうかな」
そう結論を出したのは剥ぎ初めて数十分ほど経過した頃であった。
しかし、巨大なボス蜘蛛の剥ぎ取りは流石に断念し、魔法陣を空中に展開して固定し、ピクピク足が動いている蜘蛛の死体を後ろから押す。
「う……重いな……」
だけど、動かないほどではない。無理矢理に蜘蛛を魔法陣の中へ押し込む。ズズズ……と吸い込まれていき、蜘蛛の死体は白い魔法陣の中へと消えていった。
「はぁぁ……きっついな……最初からこうすればよかったよ」
終わったかと思ったらまだ仕事は残っている。
「……ぁ」
物質創造で創り出した刀は、大半は蜘蛛に刺さっていたのだが、狙いが雑だったこともあり、目標から大きく逸れて樹木に刺さっていたり、地面に刺さっていたりする。貴重な武器であるため、回収しなくては。
「これも……相当危険な状況での奥の手だな」
ブツブツと文句呟きながら魔法陣へ放り込むように回収する。本当に召喚士でよかったよ。常時アイテムボックスなんて早々ない。
更に数十分後、辺りには何もなくなり、やっと回収を終える。
「これで終わり、か? よし、転移――ってああ、畜生。魔力ないんだったか。歩いて帰るのか。はぁ……」
魔力切れのため、夢の転移魔法は使えず、しっかりと自分の足で帰路につく。色々な意味で足取りが重い。
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人里から遠く離れた漆黒の王城に、玉座に座るものが一人。そしてその付近には、般若の仮面をかぶった数十人の兵士たちが人形のようにピクリとも動かず、槍を構えて佇んでいる。
青い炎が揺れて照らされたその床は、血潮で赤黒く染まっていた。
「ほう」
玉座に座る者は、あることに非常に興味を持ったようすで、肘をかけながら報告を耳にしていた。
「それで、どうだ?」
「……どうやら敗北したようですね」
水晶を手にかざしているのは男性であった。とても信じられないといったようすで、映像が移り込む球体を覗き込んでいる。
「ほう……あの玩具を倒せる輩がサイバルに居たとはな。贄を確保するために一番安全と思われるあの森を選んだのだが……その倒した者たちは何人で戦ったのだ?」
この話す人物は、女性であるのに、声だけでも空気を揺らすほどの威圧感があった。男性はしどろもどろしながら話す。
「それが……一人です。姫」
「何? ……ふっ、は、はははっ! それは本当だな?」
思わず腰を抜かしてしまいそうな魔力が声の主から発せられ、突風が巻き起こる。
白髪の男は怯えたように跪くが、玉座に座る者は気にもかけない。
「確か、あの蜘蛛はレベルが100を超えていたはずだが……興味深いな。いつか対面したいものだ」
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「で? 他に言うことは?」
「なんでお前が俺の部屋にいる?」
「そこじゃないよ? 影の中で窒息死させるよ?」
怒気を放っていてぷりぷりと怒っているのはアルトだ。彼女の場合は本当に出来そうなので、影云々に関しては突っ込まないでおこう。
彼女も無事、麻痺毒を克服したようだ。よかったよかった。
「……助けてくれてありがとうな」
「そこでもないんだけど……うん、ユウ一つ貸し!」
魔力が不足してぐるぐるしている頭を必死に回し、感謝の言葉を述べる。
「まぁ確かに助けられたしな」
「そ れ で ね。幾つか聞きたいことがあるんだけど、いいよね?」
否定出来ない雰囲気だ。経験したことないが、これが修羅場というのだろう。
「……まず俺とお前は同じ目的で同じ行動を取るわけでもないし伝える義務は無いだろ?」
力を振り絞り、聞くことを拒否する。かなり疲れているので、今すぐにでも眠りにつきたいのだ。
しかし、その質問を待っていたかのように、アルトは笑顔浮かべる
「……ふふふ」
完全に悪役の笑みだった。なんか面白いこといったか? 全く覚えがない。
「なんも面白いことは無かったはずだが?」
「ふふふ……これを見てみて」
目の前に出されたのは一つの羊皮紙。
そこには“パーティ結成書”とあった。
パーティとは、よくよくRPGで聞くそのものと考えていいだろう。俺はギルドの受付での説明は聞き流してしまっていたが、目的を同じとする人々が集まり、依頼の遂行度を高める団体、と聞いた覚えがある。
一つの依頼で解散のパーティや、共に生活しながら家族同様の扱いをするパーティなど、種類は豊富であるそうな。
アルトが突き出す紙にはアイテムの分配方法、解散時期など、ズラズラと書いてあった。ほぼ未記入であるが。
そして一番下はパーティメンバーの名簿となっており、そこには
ユウ ナミカゼ アルト(苗字なし)
と書いてあった。
「お互いの同意が必要じゃなかったっけ?」
まさか勝手にパーティーを組まれていることなど予想だにしなかった。
「今聞く!……いいよね ?」
空気が破裂しそうなほど凄い威圧感である。
「もう組んじゃった?」
「この判子はギルドの了承済みの判子だよ!」
「……はは。ほんとに俺でいいのか?」
「わぁぁっ! うんっ! むしろユウじゃないとやだよ!」
なんて無理矢理なのだろう。彼女にはいろんな意味で勝てなさそうだ。
結局押し負けて、笑みを浮かべながら彼女に返事をした。俺としては彼女がパーティを組んでくれるのは万々歳である。魔王だなんて言うんだし、実力はお墨付きだろう。それに、類を見ないほどの美少女だ。男としてこんな嬉しいことは無い。
「召喚士で色々迷惑かけるかもしれないが……ホントのホントにいいのか?」
「僕がいいっていったら、いいのっ!」
「そっか。……これからもよろしくな」
「うん! よろしくねっ!」
手を差し伸べ合い、握手を交わす。
だが心しておけ俺よ。世界一と言っても良いほど極めた美少女なのだ。確実に夫か、もしくは彼氏は居る。昔みたいな事にならないように、勘違いしては――だめだ。俺と彼女はパーティメンバー。それ以上でもそれ以下でもない。
「喜んでるとこ悪いが、魔力回復のために寝たいんだが……」
「うん!! お休み!」
「出てけよ……」
アルトはあくまでも出ていかないつもりのようだ。
不動ですか。そうですか。
「そ、添い寝してあげてもいい――」
「帰ってくれ。彼女もいたことない俺を誘惑しないでくれ」
「えっ、彼女さんいたことないんだ――って、早いよ!? 誰もが恐れるこの僕、魔族の魔王様が添い寝してくれるなんて魔界が興されてから誰も経験したことがないんだよ!?」
まぁ、普通だったら恐怖とか立場とかで寝れないよな。って本当に添い寝してくれるつもりだったのかよ。ちょっと心が揺らいだのは気のせいだ。して欲しいとか思ったりしない。相手は彼氏持ち。俺が寝取るのは断じてNGである。その趣味もないしな!!
「後で俺が使う魔法について一つだけ話すから。だから大人しく部屋に戻ってくれ」
するとはっと何かを思いつき、片手を開き、五本指を出す。
「五こなら戻ってあげるよ?」
「……」
今までで彼女に見せた魔法は物質創造が累計三回、魔法創造が二回。創った魔法が多数。
研究段階のが殆どであるので、すべて教えるわけにはいかない
「教えて三つだ」
「その条件ならいいよ? ふふっ……約束だよ」
「なんでそんなに魔法を知りたいんだかな」
どうやら折れてくれたようだ。
「んじゃ、お休みー!」
彼女はニヤニヤしながら部屋から出ていく。怪しいなあの表情。
やっと落ち着いた部屋で目を瞑る。ご飯ならおばさんが起こしてくれるだろう。軽くシャワーを浴びてから寝よう。
薬草の納品期限は後一週間はあるので明日出すことにししようか。
魔力を結構消費したので疲れていることもあり、すぐ眠れそうだ。
「熱いシャワーを浴びられる幸せ。これが元の世界では当然だったんだよなぁ」
そう言いながら、俺は浴室へと向かった。
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