第235話 作戦会議
目が覚めた。現在の場所はドワーフの里であるため朝日はないが、周りは朝のように明るく、外からは活気のある声が聞こえてくる。
ただ――
「――すぅ」
「……アルトの格好に異常なし。部屋は変な匂いもしない。やっぱり相変わらず美少女」
すぐ隣ではアルトが寝ている。残念ながら、ノータッチであった。少なくとも、俺自身の意識がある時には一歩すら踏み出せなかった。ソラとファラが変な気を効かせて用意してくれた二人部屋であるのに、変わらず俺は今日もボディータッチすらままならない。
「……寝ようかな」
つまり、夜の営みはしていない。
――俺が女の子に興味が無いってことはないのだ。昨夜も今朝も、精力に満ち溢れている。つまりは非常に元気だということだが――
「触れたら、壊れそうで怖い」
体の本能としては触れたい、今すぐに本能のままに動きたい気分であるのだが、俺の人間としての意識が邪魔をする。
これで嫌われたらどうしようか、初めてでも度があるよと言われたりしてしまうと、立ち直れなくなる気がする。
(はぁぁ……何言ってるんじゃ。ここまで来て触れないほうが幻滅じゃよ。百万年の恋も冷めるレベルじゃって。割とマジで)
(ありえません……ここまで、本当にここまでとはちょこっとも思いませんでしたよ)
「いや、その、うん……なんだろうな、いざ動こうとなると、体が震える」
寒くもないのに、ぶるぶると震える。比喩ではなく、本当に怖くて震えているのだ。まるで大鬼を目の前にしたあの時のように恐れと自身の保身がぐっちゃぐちゃになって、頭が真っ白になる。
(……ユウよ、冗談抜きで我らの知らない過去に何かあったのかの?)
(間違いなくこれはあった反応ですよね)
「その男は幼少の過去に少々難があってな。吾は契約者の記憶を隅から隅まで読み取ったが故に知っているが、わざわざ言うことでもあるまい」
「――シャナク」
声が聞こえたのは部屋の隅から。目を擦りながら起き上がると、そこには無傷の軍服の男が居た。どうやらソプラノを前にしても戻ってくることが出来たらしい。
「俺はそんな記憶全くないんだが? 嘘をでっち上げてまで守らなくてもいいぞ」
「自らの苦痛な記憶を嘘と言い張るか。人間らしいものだな契約者よ。――なら、その事件があったその年から、あの幼女と出会うまでの二年間、お前は一度でも他人と話したか? 家族とも話せなかったお前が、他人などという危険性の代名詞に自ら近づこうとでもしたのか?」
「……」
この言葉を聞いて確信した。なるほど間違いなどでは無かった。シャナクは間違いなく俺の記憶を識っている。誰にも話せないような、俺の奥の奥に秘めた内緒事を彼はつらつらと常識を語るかのように話していた。
「そんなに思い出したいのなら語ってもいいが――」
「止めてくれ。俺が悪かった」
その声は自分でも驚くほど感情が乗っておらず、冷たいものであった。その反応を感じ取ったのか、ソラとファラはそれ以上何も話さず、シャナクはフンと鼻を鳴らした。
「そこの女が寝ているうちに言っておく。吾と同じく暗き深淵より封じられし邪龍が復活した。まさかあの女ががあそこまで考えているとは思わなかったがな。だがあの程度、吾本来の体を取り戻せば数秒でカタがつく――」
「まてまて。邪龍? 暗き深淵? まるで分からないんだが」
彼は腕を組み、圧力を高めながら物事を語っていたのだが、俺の追求に嫌気が刺したようで、不満げな表情を作る。
「……つまりは吾の体を取り戻すのを早めろという事だ。あの邪龍は元はといえば吾が召喚したものでな」
「んっ? ……はぁ? 龍を召喚したって?」
「あれほどの魔力を持つ魔物を創り出すなぞ、並大抵の者が出来るはずがないだろう」
彼が目を瞑ると身に纏うオーラは多少自慢げなものへ変わったが、それ以前におかしい点がある。魔物を創る、だって? 彼の生前はどのような立場でこの世界を生きてきたのだろうか。
(むっ……女が目覚めたな。契約者よ。吾を呼びたくば、汝の深淵へ声を届けるがいい――)
「――ゆ、う?」
「あ、おはよう」
「……ゆうが、いる。ふふっ、しあわせだなぁ……」
ふと気がつけばシャナクは闇に溶けて消えており、塵すら残っていない。一方で起きたばかりで未だ寝ぼけている彼女は手を顔に引き寄せ、頬ずりするかのような態度をとってくれる。まさにドロ甘いデレデレ状態であるため、非常に気恥しい。
「ねぇ、ゆうはボクと一緒に居て嬉しい?」
「そりゃもちろん。……んで、そんなに甘えてどうしたんだ?」
「ふふっ、嬉しい。誰もいないこの時ぐらい、甘えてもいいよねっ」
「いや――まぁ、いいか」
聖霊たちのことは彼女の眼中にはないようで、嬉しそうな雰囲気を作り出す。
暫く猫のように甘えた彼女は満足したのか、起き上がり大きく背伸びをする。
そのときに胸に目が行ってしまうのは……仕方ない。とんでもなく余談だが、寝巻きの彼女は恐らくノーブラである。
「んん? どーこみてんの?」
「ぼんやりしてただけだ……って、何でそんなにニヤけてるんだ?」
「バレバレだよ。興味あるでしょ? 視線がいやらしいもん」
「うっ、男だもの……」
ひたすらご機嫌の彼女は笑顔を絶やさずベットから抜け出し、魔法を唱える。すると光に包まれた彼女の服装は普段着へと一瞬で切り替わった。
元いた世界の未来ではこのような技術が発達しているのだろうか。もはや戻る気などサラサラないが。
「たしか今日は、魔導書のダンジョン攻略の参加者発表、あとその後には作戦会議があるよ」
「あ、そんなのあったな。完全に忘れたわ」
「ダンジョンは一回だけ個人的に行ったことあるんだけど、いまのユウとボクなら簡単に攻略できると思う!」
「だといいけどな」
まだ確定した訳では無いが、彼女考えている通り、その最深部にあるのはこの世界のラスボスである魔王が作った魔導書だ。その書物が世間に露呈すればどのような悪意が沸き立つか分かったものでは無い。
「じゃ、ボクはレムたちを起こしてくるね」
そう言い放って彼女は部屋から出ていった。
その後の聖霊たちの会話はいつになく不満そうで、その大半はシャナクに向いている気がした。また、会話の後に彼に正体を尋ねたところ、呆気なく追い返されたそうだ。
朝食を食べた後、俺たちが転移をして向かったのは自立して移動する都市マチェベル。
大きな門の前に転移先したところ、いきなり人混みの中へ入り込んでしまったようで、その場にいる多数の人々から非難の目を当てられた。その場の人口密度はなかなか高く、意識せず歩いていると周りの人々と方がぶつかるまである。
「おおっと、めっちゃ人多いな」
「うぅ、はぐれそうです……手繋いでください」
「そうだな。アルトは大丈夫か?」
「ボクも!!」
「はいよ」
レムとアルトという両手に華の状態で人混みをかき分け、非難の目を当てられながもやっと到着したのはマチェベルのギルド。入口には会場案内を促す看板が幾つかあり、そこには多数の人々が群がっていた。
「他の人たちが邪魔で見えないですっ」
「えーっと、受付を済ませてからあの看板の指示に従うらしいな。人越しに情報を透過できる観察眼さんまじ便利」
所属している冒険者ランクにより行き先が違うようで、FからDランクまでは十階、Cランクは階十一階、Bランクは――と徐々にランクが高くなる事に向かう階層も高くなっている。
受付を済ませたところ、自分たちは最高階層である十五階層に向かえとの指示を受けた。Fランカーの冒険者証明のカードを提示したのにも関わらずである。良くも悪くもこの世界は実力主義ということなのだろう。俺の場合かなりサービスされている立場ではあるが。
人でいっぱいのキツキツのエレベーターに乗り、階層が上がる事になぜ降りないのか、と疑問の目を当てられながらも向かった先は最上階である十五階。すっかりガラガラになった密室に居たのは俺たち以外に――二人居た。
「……」
エレベーターが開き真っ先に出ていった二人いるうちの一人目は暗柴色の髪を持ち、やせ細った男性だった。彼は俺たちを不審がるようすも見せず、まるで存在していないかのように気配を薄くし、無言でエレベーターを降りていく。どう見ても関わらないでくださいオーラ全開であった。
「むぅ……」
「……なんすか?」
そしてもう一人。俺よりも遥かに歳上であろう風格と外見を持った老齢の男性である。
彼の年齢は恐らく七十前半といった雰囲気で、腰はわざとらしく曲げており、俺へなにかを伝えたげな視線を当て続けていた。
……エレベーターに乗った当初から。
「これ、危ないおじさんですか?」
「もうちょっと声小さくね」
「いや二人とも……この近距離なら聞こえてるからな」
アルトとレムは未だ俺の後ろに居り、彼はエレベーターが目的階層へ到着し、扉が開いたのにも関わらず未だこちらをじっと見続けている。正直気味が悪い。
「……見えた」
「は?」
「うっしっし、見えたぞ……やっとなぁ!」
うっししと突然大笑いし、彼は笑顔でエレベーターを降りていった。謎に謎を重ねた彼の行動は、不安を超えて恐怖で鳥肌が立つレベルである。
「……あんな感じな人もいるから、知らないおじさんについていっちゃだめだからな。特にアルト」
「え、ボクなの!?」
「だめですよっ!」
「ここでいうならレムだよね!?」
「レムもな」
「はーいです」
エレベーターを降り、向かったのは目の前にある大部屋。
静かに扉を開くとそこは豪華絢爛な大部屋で、長いテーブルの上には名前プレート、そして食事の用意と思われる高価な皿が置かれていた。
時刻はまだお昼には少々早いが、恐らくこのまま食べながら話すつもりなのだろう。
部屋の空気は入った瞬間に押しつぶされそうな錯覚を受けるほど重く、如何にも高い実力をもっていそうな老若男女が長い机を囲んでおり無言でこの場で座り、待ち構えている。ボスラッシュでも始まりそうな雰囲気だ。
「久しいな」
「あ」
その部屋の最奥にはどこからか持ってきたのか玉座が置かれており、その上に座るのは闘魔姫の異名を持つテュエル姫であった。
服装は身軽で動きやすいものではなく、黒いフリルが無数につけられたプリンセスドレスであった。初めて見たならば間違いなく見惚れるほど美しい姿であろう。
「どしたよふんぞり返って」
「偉いのだからふんぞり返っても良いだろう? まぁ座れ」
「あ、そういえば竜人の里で――」
思い出したことを言いかけたその瞬間、頬を何かが掠めた。熱い、魔力の塊のような何かであると思う。ただ、全く反応できないほど迅く、鋭いものが高速で通り、傷つけられたことは確かである。傷口から少しだけ溢れる血がその事を証明していた。
「竜人の里で、何だって?」
「聞かれたくない感じ?」
「……察しろ。ばか」
耳まで真っ赤に染めてそう応答するのはいつもよりも乙女なテュエル。対して別の色の猛々しい赤色を見せるのは魔界の王女様。
「ねぇ、ユウに向けていきなり何してんのさ。 宣戦布告?」
「そ、そうではなくてだな!! こう、恥ずかしさが極まって……」
「ゆう、あると、落ち着くです。物凄いみんなに見られてるです!」
俺とアルトの後ろに隠れていたレムは自分たちの服の裾を引っ張り、小声でその旨を伝えてくれた。
久しぶりの会話であったためか、ついつい大声になってしまったようだ。
諭されてよく周りを見てみればこちらに当てられる視線は驚き、感嘆、呆れ、無視、など様々な反応が伺えられた。つまり重々しい空間を意図せず壊してしまったという事である。
「とりあえず指定されたところに座ろうか」
回復魔法を纏った指で切り傷をゆっくり擦れば傷口は消失した。
アルトをなだめ、それぞれ隣に着席する。その後暫く無言の空気が場を占めており、いつ始まるのかとアルトがテュエルに催促しようとしたその時。
「遅れてすまんな。――怪我人と先ず連絡があった者たちを除いて、揃っている……いや、いないな」
「ごめんなさい! 遅れました!」
二人の人影が両開きの扉を破壊せんばかりの勢いで押し開けた。その向こうにいたのはどちらも見知った顔で、一人は静かな白髪の人形ともいえる完成された美少女で、もう一人は我らがギルドマスターである。
「ましろさんも来たのか――って、二つ星だから当然か」
「っ、ぅ――!?」
彼女は至って真面目で無機質な表情で居たのだが、俺と目が合った瞬間に彼女の顔がみるみる紅潮していく。なぜに照れているのだろう。もしかして男性が苦手なのだろうか。
そんなことよりもだ。彼女らの後ろにある幾つもの気配は――
「あははっ、ごめんね。お待たせしたよね?」
「サンガは悪くない! この人がきっつい依頼を参加に押し付けるからこの人が悪い!」
「「そーだそーだ!」」
ワイワイと騒ぎながら入ってきたのはどこまでも神々しいオーラをもち、眩いばかりの存在感がある勇者とその一行。特にこの世界の勇者である旭 山河はギルド連合の中でも最高位に値する三つ星なのだ。この場に来ない理由は無い。
背後に付いて来ている小さめな彼女たちの実力は殆ど測れないが、この部屋に来ることを許可されたのだからSSランク以上の力はあると予想できる。
この部屋の総人数はおよそ二十人程度。選りすぐられた実力者たちだ。双剣使いであるカシアを見つけたが、目で挨拶された程度ですぐに目を閉じてしまった。
それと同時に勇者はこちらに向けた輝きに満ちた笑顔を見せ、テュエルに最も近い席に堂々と座り込む。アルトたちを見つけてどこか嬉しそうな彼らではあるが、俺たちとしては不快の極みである。
ギルドマスターはましろさんを勇者一行の隣に座らせた後、テュエルに耳打ちをした。
「……これで全員だそうだな。点呼は取らない。さっさと始めるとしよう」
全員の顔に目配りをし、厳しさを取り戻した表情でテュエルが軽く指を鳴らすと、俺たちの目の前にある巨大なテーブルの中心に青白いホログラムが浮かび上がった。その未来的なようすに目を丸くしたのは俺とレムだけだったのだが。
「おお」
「この場に集まっている諸君らは数ある冒険者の中でも非常に実力のある者たちと私は確信している。よって、本作戦の攻略の最前線を頼みたいと思う」
ホログラムは切り替わり、枯れ木の森の中にある人工的な下層への階段が映し出された。そのようすはなんとも違和感があるもので、コラージュ画像のような場違い感が胸にくすぶる。
「このように、入口もハッキリと区画されている事から、人工的なダンジョンであると推定できる。そして、徘徊する魔物についてだ」
「――なるほど」
そんな声が聞こえたのは何処からだったか。そのダンジョンに徘徊しているであろう魔物の姿が映し出された途端に、部屋の中から小さな驚愕の声が多数発生する。
「これは、俗にいう《変異種》だ。強大な魔力の影響を受け続けた結果、魔物や幻獣の枠組みから逸脱した存在の事を指す。当然、持つ能力も桁違いに高い」
「最近変異種が増えているのはこれが原因ですか」
細めで薄い青の長髪をもつ男は水を口に含みながらあっさりとした感想を述べ、テュエルが首を大きく縦に振り、同意を示す。
「貴殿らの依頼内容に変異種討伐が増加しているのは事実だ。そして、変異種の母数が増えているのもこのダンジョンのせいであるといえる。なにせ魔力密度の高さが異常だからな、あの場は。どんな魔物や幻獣であろうとも、一日もあれば変異種だ」
「あぁ、俺たちが辿り着けた最奥の場所ともなると、空気中の魔力が濃すぎて呼吸器にも影響が出るレベルだからね。今回の攻略は風魔導師が鍵だね」
勇者が手を広げ首を横に振りながら呆れたようすでものを語る。
魔力は体を強化し、あらゆる性能を上げるものなのだが取り込み過ぎてしまうと呼吸すら危うくなるらしい。どの世界も吸収しすぎに気をつけなくてはならないようだ。
「そうだ。今回の一つ目の注意として、貴殿らのパーティに一人以上の風魔導師をつけることを強く勧める。知り合いに風魔導師が居なければこちらで手配しよう」
「ああ。先ず風魔導師は別枠で待遇している。多いくらいに確保しておいたから遠慮なく言ってくれ」
ギルドマスターは胸を張り、厳しい表情で語る。だが、ここで苦情が出たのは文句ありげなごつい肉体の冒険者からだった。
「ちょっと待ってくれ。なら風魔導師がいない俺たちのパーティはその風魔導師を介護しながら攻略しろとのことか?」
「そうだな。だが別に強制はしていない。己の許容魔力量に自信があるなら付けなくてもいいだろう。魔力の回復が早まるからな」
「ただし、俺たちでさえあの場は風魔導師なしでは生き延びることが無理な環境だってことは伝えておくよ」
「こ、の……っ!」
「落ちつきなさい。私たちがやることは変わらないでしょう」
テュエルのセリフに勇者が追い打ちをかける。実力者とはいえ、勇者という強さの代名詞が耐えられない環境に猛者の冒険者たちが居座れるはずがないのは明らかである。ごつい冒険者の言動を差し止めたのは妖艶な魔女の格好をした女性で、彼女になだめられると男性はすっと落ち着いた。そのようすをみてなんか彼がちょっと羨ましい気がしてき――
「ごほん、二つ目の注意だ。ダンジョンの最奥部に近づけば近づくほど魔物は強くなっていく。護衛の実力者たちも魔物に苦戦し始めると、情報や食糧などの供給が間に合わなくなることが予想される。先に言っておくが、深層にもなると食糧どころか情報すら届かない。これは覚悟しておいてくれ」
「なら、浅い層での早めの蓄えが必要ってことか」
「そうだ。まだ侵入して一日ほどならば補充部隊は迅速に動くことが可能だ。予め勇者が探索活動してくれたおかげで非常に優秀な地図が作れたからな。届けられるものならなんでも、どんな量でも何でも配達させよう」
テュエルが淡々と説明を述べ、その後両手を叩き、近くにいた執事らしき人物を呼び出して、あるものを渡すように伝えた。
その後しばらく待つと大型のカートを引き、ふたたび正装の老人が現れた。まだ遠くてよく見えないがその中身はおもちゃが入っているかのようにごちゃごちゃしている。
「次だ。このカートの中に入っているのは貴殿らの位置を妨害のない限り常に発信する魔道具だ。深層で効力があるかのうかは不明だが、トラップなどの不慮の事態に遭遇しても、本部で情報を統合して指示し、はぐれた場合にも直ぐ合流できるように仕向ける。いわば位置情報発信機といえよう。これは貴殿らにそれぞれ管理を任せるが、攻略する際には確実に持っていってくれ」
それぞれ配布されたのはバッチ型の魔道具であった。装備しておいて損は無さそうである。やはり大企業が背後についているとなんとも言えぬ安心感がある。
「ここまでで質問などはあるか?」
ここで手を挙げたのは先程エレベーターの中で遭遇した怪しい年老いた人物。相変わらずニマニマと笑顔を浮かべていた。
「テュエル様、あなた様もこの攻略に参加するおつもりで?」
「無論だ。もちろん、同じ最前線でな」
「うっしっし、姫とあろう者がなんとも無謀じゃな」
「ここで戦果を上げなくては闘魔姫の称号が廃る。もっとも、そのつもりでなくても私がこの攻略に参加することは王会にて事前に可決済みだ。貴殿らが気にすることではない」
「それはそれは……」
なんとも無表情で語るテュエルのその可決の本意は全く読み取れなかった。個人の意見、言わばその攻略に参加したくないなどの小さな感情すら漏らさないのは流石王族ともいえるだろう。
「……じゃ、ちょっといいかな」
ここで手を挙げて立ち上がったのは勇者サンガである。彼の言動にこの場にいた全ての人間が神経を尖らせて反応し、一気に場の雰囲気が冷たく爆発しそうなものになる。
「あははっ、やだなぁこの雰囲気。俺が質問したいのは――魔導書の管理についてだよ。もし俺たち、または別の人間が魔導書を確保したとする。その魔導書は開けることも、読むことすら厳禁ってなってたよね。――なんでかな?」
「決まっている。危険だからだ」
「なんで? 魔導書なんてどこかしこにもあるでしょ。 しかも、ここにいるのはSS越えの強者ばかりだ」
「だからこそだ。……これは未確定の情報が故あまり言いたくは無かったのだが――目的の物は《初代魔王サタンニアの遺物》と考えられる」
その言葉を聞いた途端、周囲がざわめく。人間でいえば天敵ともいえる魔族のトップに君臨するアイテムであると分かったのだ。その魔導書への興味は当然盛り上がる。
「へぇ、やっぱりね」
「魔王の遺物は人間にとって扱いきれないものだ。だから絶対開かないでほしい。どんな被害が起こるか全く予想がつかない」
そう言い放ったテュエルは息を呑み、回りを見渡す。この内容については誰も触れたがらないようで、ひとしきり観察を終えると〆の言葉に入る。
「以上が注意事項で……以下重要なことは用意してある書面を見てくれ。口頭で説明するのには限度がある。書面について聞きたいことがあれば魔法便でも、直接訪ねても構わない。しばらくはこの街にいることになるだろうからな。最後に質問は?」
そういってテュエルは席につき、再び見回す。今度ばかりは手を上げたものは居なかった。
「では、以上で大元の作戦会議を閉じる。食事はこちらで用意してあるが、時間の都合があるならば部屋を出て行っても構わない」
そういうとおおよそ部屋の中の五分の一人々が席を立ちこの部屋から出て言った。勇者は部屋に残っているが。俺たちの考えることはダンジョン攻略の鍵となる風魔導師についてである。
「さて。風魔導師……ね」
「きっと頼める……ですよね?」
「ボクもあの人しか頭に出なかったよ」
小さく、孤独な風魔導師。彼女はSSランカーというものもあり人気は免れない。
だが俺たちには彼女は俺たちに付いてきてくれるという謎の信用感があった。彼女に、頼んでみよう。
気が付いたら1ヶ月も遅れてました
申し訳ございません
ご高覧感謝です♪