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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
230/300

第230話 修理されるのは

 ましろさんの次は背の高い女性に出会った。なんというか、この世界の女性たちは非常にアグレッシブである。魔法という概念があるおかげか、男女差別らしいものは今のところそれほど見られない。非常に良い傾向である。

 さてさて、フローは先ほどの女性を知っていたようだが、事情の説明をしてもらわなければ。


「で、ドリュードが連れていかれたんだけど……誰あれ」

「あのお方はな、王の三剣(キングスソーズ)と呼ばれる、ユーサー王直属の護衛が一人――って言っちゃまずいんだったぁ!」

「えぇ……」


 勝手に驚き、勝手に頭を抱えるドワーフを見て、アルトは半目で見つめる。

 この世界はどうも称号が多いようで、一般住民ですら覚えきれないほどある気がする。ギルドのランクだけではなく、円卓の騎士に七魔衆、そして王の三剣(キングスソーズ)とは……まだまだありそうだ。


「んで、その王都の王女って言ったらテュエルか、もしくはそのお母さんか」

「ドリュードを連れ出したってことは魔導書のダンジョンに関係するんだろうね。国を上げて頑張るってギルドマスターも言ってたし」

「ワタシたちも負けていられないですっ!」

「で、どうすんだおめぇは。その嬢ちゃんの刀を修理する覚悟は出来たのか?」


 覚悟、ということは伝説級武器レジェンダリーウェポンに精神を乗っ取られる可能性があるということを心に決めておけということだろう。

 鍛冶スキルがあるとはいえ、俺にはシーナのように精神的防御の対策があるわけではないため、その点は気をつけなくてはいけない。


「もちろん。初の伝説級レジェンダリー武器修理だ。ピッカピカにしてやるからな」

「うん、お願いねっ!」

「いいか? 大事なのは武器をヒトとして受け入れ、語り合うことだ。伝説級は気難しいのが多いもんでな」


 彼はまるで語ったことがあるような口調である。経験者の方が出来が良くなるはずであるのに、何故アルトの武器はやってくれないのだろうか。魔王様と知っての機嫌取り?


「語り合うって言うのもよく分からないんだがな。とりあえずやってみるか」


 皆を置いて移動し、俺と鞘付きのアルトの刀は小さな部屋へ向かう。このうちにアルトたちはレムの巫女服の防具化改造を行うと言っていた。今頃はフローも篭手と小具足の手入れをしてくれているだろう。

 そして俺が隔離された理由だが、伝説級となると鍛冶師と武具との一体一の会話が必要であるので、ふたりきりになれる場所が必要であるためだ。先ほどフローが言ったように、こうでもしないと呼びかけに答えてくれないらしい。


「さて。始めたいところなんだが……対話が必要っていってたよな。何からすればいいんだよ。 挨拶?」


 魔法名を常日頃から叫んでいる俺からしたら、何も無いところに話しかけることですらもう慣れたものである。とにもかくにも実践あるのみだ。


「ごほん、えーっと……こんにちわ」


 声をかけて数十秒が経過したが、返事はこそりとも聞こえてこなかった。手順が間違っているのか、はたまたその挨拶の工程が不要なのかは分からない。


「あー、修理始めますよ? いいっすか?」


 二度目の声にも反応はなかった。やはりこの工程は不要であると考えた方が良さそうである。ヘパイストスの巧手のスキルも使っている実感は未だに無い。


『――うるさい』

「はい?」


 ツンツンな刀だな、と小さく呟いた途端、文句を言いつけるかのようにすぐさまボソリと声が聞こえた。それも刀から。

 なんいうことでしょう。俺は遂に幻聴まで聞こえるようになってしまったのでしょうか。


「――なんてふざけてる場合じゃないな。 そちらさんの声の主がアルトの刀さんの声で?」

『そう。何か問題ある?』

「いや? もう何処かしらから聞こえる声には慣れきったもんでね。もうツッコミはしないぞ。むしろ、これでやっと異世界ノルマ達成って感じだ」

『わたしの正体を知り、声をきいた。なのに驚きもしなければ焦りもしない、ね。随分変わった子だこと。あのもよくこんなのを好きになれたわね』

「こんなのとは失敬な。一応できうる限り頑張ったぞ?」

『頑張った、ね。アルトをさんざん巻き込んで心も体も傷付けたあなたに、敬意を払う必要性なんてあるのかしら?』

「かなり痛いところ突かれた。けど、これは本当に申し訳ないと思ってるよ」


 会話とも言えない会話を交わし、じんわりとした生暖かい空気が漂う。はたしてこれが成功といって良いのか、はたまた大失敗なのかはまるで把握ができない。

 ため息混じりの声はかなり幼く、レムよりも若々しく聞こえる。つまり相当な小さい子――


『あなたね、わたしは主人アルトと同じく長い時を生きてきたのよ。敬意を払うのはそちらじゃないかしら?』

「ですよねぇ」


 異世界ノルマその二、心を読み、圧倒的長寿の点でも達成である。

 刀は話し出す度にカタカタと動き、そのようすはまるでごく普通にポルターガイストであるので、考えようによっては怖い。


「まぁさておき修理を始めたいんだけども……どんなコースがお好みで? ローションいる?」

『こーす? ろーしょん? 何を言ってるのかしら。そもそも、あなたみたいな伝説級武器レジェンドリーウェポンに対するイロハをも知らない未熟者は正直触られたくも無いのだけれど』

「えぇ、なんでそんなプライド高いんだよ」

 

 ツンツンな態度を取る刀、なおかつロリボイス。新たな世界の幕開けを感じられそうだが、どうやらあちらは修理を拒否しているようだ。理由として、俺が話す手順を間違えたから、というものである。なんだかドワーフたちが修理することを拒否し続けた理由がわかった気がする。


『わたしと話が出来るくらいの最低限な実力があることは分かるわ。でも、わたしは魔王の剣。魔王と一緒に誰よりも長く肩を並べて戦ってきたの。あなたみたいな奇人とは違うし、他の武器とも違うのよ。分かるかしら?』

「え、奇人とか酷くない?」

主人アルトと似たような髪色、無数のわたしの模造品レプリカを道具も素材もなしに作り上げる。そしてなによりも――ああもういいわ。まだまだ言いたいことは沢山あるの。ここから出してちょうだい』

「ええっと、お次は出すって? この部屋から?」

『何言ってるの。この刀からよ』


 何言ってるのとはこっちのセリフである。意思を持つとはいえ、それはまるで彼女が刀の中に閉じ込められているような言い分である。実は人工知能だったりするのだろうか。


「ど、どうすりゃいい?」

『そんなのことも分からないの? わたしと会話が可能なのに?』

「……はい」

『信じられない。ほんとに奇人ね』


 いまだ精神を乗っ取られるような感覚は感じられないが、ドワーフが伝説級武具を修理を嫌がる理由の一つがこの態度であろう。

 これまでの会話から分かるように、修繕者の精神を鰹節が如く荒削りしてくるのだ。俺はまだ理解がないということである程度は彼女に無礼を許容されているが、ドワーフからしたら彼女(武器)は殿上の存在だ。さんざん罵られようが否定する術はない。まさに逃げ場のないパワハラである。だからみなみな揃って修繕したがらないのだ。


「もしかして、別に修理して欲しい訳じゃない感じ?」

『そうだっていってるでしょ。別に命の危機でもないのに、誰があなたみたいな人に体を触られなければいけないわけ?』


 命の危機ではないと彼女は主張するが、刀の腹にはヒビが入っており、刃こぼれもひどい状態だ。この状態であればむしろよく自壊しなかったとも言える。


『とにかく。あなたの前に出てきてあげるって言ってるの。さっさと出しなさい。目釘抜きは持ってるわよね?』

「持ってないです!!」

『無駄なところだけ元気がいいわね。腹の立つ人だこと』


 それからというもの修理云々の過程ではなく、一段階下がってその前の行程である工具作りから始まった。

 土属性の魔法が使えることが運がいいのか悪いのか、工具作りはまさかの手作りである。ドワーフの里を虱潰しに探せば確実に出てくるとは思うのだが、どうにもその工具は彼女のお好みではないらしい。よってお手製である。


『あと数ミリ大きくしてちょうだい。あなたの息子では無いのよ?』

「バカにしてるよね!? それ完全にバカにしてるよね!?」


 彼女も人肌が寂しかったのか、積極的にコミュニケーションを取ってくれたので退屈はしなかった。ただ、一方的に俺は責められ続けてしまったのだがそれはそれである。


 土属性魔法によって細かなサイズ調整が可能、とのことでこだわりにこだわり抜かれた工具類たちはいつかは鋼色に光沢を放っていた。


『まぁそのくらいが妥協点かしら?』

「二時間ぐらいかかったんですけど……」

『わたしは伝説級レジェンダリーですから。だけど……二時間でそれだけのものを作れるのは流石だわ。その点だけは認めてあげてもいいかしら』

「そりゃどうも。じゃ、やっと修理に取り掛かっても――」

『修理じゃない。出てあげるだけ。勘違いしないでもらえるかしら?』

「俺の時間返してくれー」


 文句を言い放ちながら置かれている刀に近づき、手に取る。ずっしりと重く、俺の扱い慣れている武具とは根本的に違っていた気がした。


 今から行おうと意気込んでいることは、道具を使って刀の目釘と呼ばれる部分を抜き取る作業である。これを行うことにより、刀の刀剣と柄の部分を分離することが可能になるらしい。


「えーっと、ここと……ここな。キツーく締めてあるもんだな」

『当然でしょう。わたしの家だもの。しっかり閉まってなくては困るわ』

「お、とれたとれた。んでこれを外して刀の本体の方も……」


 なにやら刀からの声にノイズが混ざり始めたが、とりあえず集中すべきは目の前のことである。

 小さいため無くしそうな目釘はわかりやすい場所へ置いておき、刀と柄の分離作業を始めていく。


「まるで分からないんだけどこれでいいんだよな?」

『――』


 現在、俺はスキルに身を任せており、体が動くがまま刀の分離を行っている。

 それに反論するが如くざぁざぁとした音脳内に響いているが、まさにアナログテレビの砂嵐のような音声であったため、まるで刀の声は聞き取れなかった。


「トントンっとやって……おお、もう取れそうだ」


 抜き身の刀の柄を端の方で持ちつつ空いた手で刀を持つ手首叩く。するとどんどん刀がぐらつき始め、たった数回ですっぽ抜けていきそうな緩さになっていた。

 もう刀の声は聞こえない。恐らくここから修理作業に入って良いということだろう。


「とりあえず重いからここに置いて――」


 完全に柄と刀の部分は分離され、もはや武器としての形はなくなっていた。それでもなおどこか神秘的な雰囲気を放つのは流石は伝説級武器レジェンダリーウェポンといったところだろう。

 まるで米俵ように重かった刀は目の前で黒い霧状となって溶けていき、それは瞬く間に人の形へと整い――


「――って、えっ? うそ?」

「少しは驚いたかしら?」


 本日二回目のビフォーアフター、刀はとんでもない美少女であった。なんというか、声が出ている時点で予想は出来たような気もする。

 彼女は黒い角フードを深く被っており、つり目がちであるものの、子供っぽい丸目、そして白銀のショートヘア。なにより、レムより幼い歳であろう外見なのに、溢れ出る妖艶さが何ともギャップ萌えの定義について再確認できそうな、素晴らしい容姿であった。


「驚いたよ」

「素直なこと」


 どこかウルウルした瞳は何故か嬉しそうで口元は何故か緩んでいる。表情は蕩けてけており、先程までの厳しい口調とはまるで真逆の顔つきであった。


「え――」


 ゆっくりと俺に近づき彼女は俺にもたれ掛かる。予想外の行動すぎて結局硬直してしまった。え? まさかのツンデレ――


「か、はッ!?」

「あなたの実力はよく分かったわ。だけど、ここからはあなたの本性を見せて欲しいわ」

「なにしやがっ、たッ!?」


 腹部の中心に小さな手を当てられた瞬間、体全体が大きく脈打ちし、腹痛のような苦しさ、痛みが沸き上がり、視界にはノイズが掛かる。

 予想だにしない激痛に思わず地面を転がり回ってしまう。


「この痛みはアルトが受けたココロの痛み。これだけは伝えたかったのよ」

「は、はぁ?!」

「いいかしら? アルトはわたしの大切な人で、わたしの主人なの。これ以上傷つけないで」

 

 痛みは徐々に収まっていき、やっと動けるまでに回復したところ、彼女の顔を見上げればなにやら晴れない表情をしていた。


「はぁ……はぁ……分かってるっての。レムとデートしたばっかで説得力は皆無だけど、俺はアルトを愛してるって言える。そのために命張ったんだ」

「なら。もっと、もっと――誰よりも深く愛してあげて。あなたは知らないだろうけど、彼女は夜な夜なわたしに話しかけてくるのよ。あなたの感情が離れて行ってるんじゃないかって」

「いや、そんなことは――」

「あなた、最近彼女と二人きりで出かけたかしら。もしくはちゃんと二人っきりで今のこと、これからのことは話した?」

「……」

「彼女はね、表向きはあんなに健気に振舞ってる。でもよ。好きな人がほかの女の子出かけて、普通で居られると思う?」


 当然、否定できなかった。

 自分ではいつも彼女への想いは伝わっているものであると考えていた。だが俺がレムに対して行なった動作は、ごく自然的に浮ついた気持ちで選択したもの。当時のアルトの気持ちはさほど考えておらず、結局レムとデートをしてしまったのだ。

 もう少しよく考えれば最善の策があっただろうに、他にもっと良い選択があったはずなのに、俺は――


「いい? アルトは今も、昔も、あなたの事を愛してる。魔族だからなんて理由じゃない。心から本当に愛してるの。だからこれを機に深く反省してちょうだい。第三者のわたしが混ざるのもおかしいけど、あなたは言われないと気が付かないでしょう?」

「ああ、そう……だな」


 黒フードのロリッ子に叱られるというのはどうにも絵面が悪いが、恐らく彼女は俺よりもアルトをよく知っているし、俺よりも彼女との付き合いは長い。正しく、忠言であろう。


「そのようすだと、叱った甲斐はあったようね。――いいわよ。修理されてあげても」

「え……」

「元はと言えばあなたがわたしを修理しに来たんでしょう? 私の()()()はこれで全て終わりよ。その言葉を信じてるから、さっさと修理を始めなさい」


 そういって、彼女は元いたテーブルの前へと裸足でゆっくりと戻っていく。机に腰をかけ、俺をじっと見つめていた。


「いや、でも修理されるのは嫌って――」

「しつこいわね。アルトのためだから気分が変わったの。そう引きずってる男はあまり良くないのよ?」

「……そうか。――じゃ、修理させて貰うぞ」


 返事はなく、一目瞬けばすでに彼女は元の黒い刀身へと変化していた。

 どうやら先ほどの過程が精神を乗っ取られる段階であったらしい。未だ腹部は軽く痛むが、いまは心の方が重傷である。


「教えてくれてありがとな。そっちの名前も後で教えてくれ」


 刀に向けて呟く。この部屋に入ってから約三時間経過し、やっとのこと修繕作業へと取り掛かることができた。

更新が大幅に遅れて申し訳ございません。

現実の事情が落ち着き次第投稿したいのですが、未だに忙しいため、不定期更新になるかと思います。週一更新を目指しますが、どれだけ遅くても一ヶ月に一つは更新します。


ずっと見てくださっている方々、新たに見てくださった方々、ブックマークして頂いている方々、新しくブックマークしてくれた方、いつもいつも本当にありがとうございます。のんびりとお待ちいただければ幸いです。


言い訳臭くなりましたが、ここまで付き合ってくださる皆様には常日頃から感謝しています。連載して二年目を超えましたがもう暫くお付き合いいただければ、と思います。どうぞこれからもよろしくお願いします。


ご高覧感謝です♪

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