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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
229/300

第229話 公開

 その後、居酒屋から出てみてもましろさんの姿はなく、本当にどこかへ行ってしまったようだ。彼女の意図は全く理解出来なかったが、身の心配はすることない。なにせ、スペックは明らかにあちらの方が上なのだから。

 因みに飲み屋の中ではお酒どころか、お水すら飲んでいない。


「つーわけで、オレはこのザマだ。魔導書のダンジョン攻略には参加出来ねぇ。土産話ぐらい頼むぞ?」


 赤みがかったカクテルを片手にしながらドリュードはカウンターに座りつつ残念そうに語る。

 彼も彼で魔導書というものに興味があったようで、ましろさんが帰ってからというもの『オレは本当にダンジョン攻略に参加したいんだ。怪我さえなければ』というフレーズを五回は聞いたほどである。

 彼の怪我は見た目以上に酷いらしく、実は松葉杖をついている事ですら辛いらしい。


「そんな訳でオレはちゃちゃっと転移してハート型の機械(これ)を王都に届けてくる。見るからにやべぇしな」

「分かった」

「あ、あと少年。言い忘れてたが、お前のビビり矯正代で、これにて貸し借りは一旦リセットな?」

「もうどっちが貸したのかすら覚えてないな」


 ドリュードとの関係はこればっかりだ、と薄々感じながらも不意に視線を逸らして隣にいるアルトたちを見る。やはり未だに周囲を警戒をしているような顔つきであり、ことある事にキョロキョロと辺りを見回していた。


「そんな警戒したって、白神は来ないぞ。アイツ相当遠いとこに飛んでってるし」

「えっと……白神さんは居ないんですか?」

「良い噂は聞かないし、白神じゃなくなったとはいえ、所在不明で放置するのは良くないんじゃないかな?」

「それは安心してくれ。位置ぐらいは把握はしてるんだ、コレでな」


 彼はカクテルを飲み干してコップを置くと、服のポケットから取り出したのは小さな機械だった。

 探知機のようなアンテナが先っぽにつけられており、フォルムは一世代前の携帯のようにも思える。


「これで白神の位置は人間界の中ならだいたい把握できる。当然、王都の実験と技術の賜物だ」

「……さっきから気になってたんだけど、ドリュードって王都に顔が効くのか?」

「当たり前だろ? なにせ、誰かさんに下げられる前はランク一つ星(シングルスター)だぞ。自分で言うのもなんだが付け加えとくが、星がついてくる奴らは人間界の中でも実力はトップクラスだ。 お前らは色んなところで異常だから気にしてないのかもしれないが、実は凄いんだからなおじさんたちは」


 むすっとした表情で話すドリュードに少々驚く俺たちがいた。

 適当な弄り相手だと思っていたが、明らかに俺たちより社会地位は高く、権力もありそうな立場に彼は所属していたのだ。冒険者ランクが高いと国にまで認められるのか。


「まぁオレの話はどうでもいいんだよ。とにかく、マシロと仲良くしてやってくれよ。あいつ変わってるし――あ、変わってるで思い出したが、シーナは一緒じゃないのか?」

「そのへんな連想だと、しーな絶対怒るですよ」

「あはは……そういえば、あれっきりシーナとは会ってないんだけど、多分魔導書のダンジョン攻略には来るよね?」

「だろうな。オレもそう思うが……アイツの現状も、過去に何があったのかについては全く知らないんだよな。これも勝手な予想だが――正直いって今も、いや、より一層アイツはやばいのに絡んでる気がするんだよな」


 シーナとはギルド攻略を終えてからあれっきりで一度も会っていないし、話してもいない。安否の確認は一応取れているが、彼女も怪我の具合はあまり良くなく、魔力の消耗も酷いものだった。

 どこかの病院に入っていればいいが、彼女は出会う所々でなにか使命に駆られている気もする。そして……いつも体に無理をかける。


「シーナは……正直、ボクもよく分からないな。なんだか、いつも余裕がなさそうな気もするんだ」

「そう、ですか? ワタシをいつも笑わせてくれるですよ」

「お前らもシーナを知らないってことは元気でやってるってことだよな。んで、お前らは何しにここにきたんだっけか?」

「武器防具諸々だ。目先の目標としてはレムの武器防具の改良願いか?」


 今回はドリュードに会いに来たわけではなく、装備の充実が目的なのだ。

 ましろさんとの想定外の事態があったが、まぁ特に問題は無いだろう。


「なーるなるほど? んじゃ、オレが顔を聞かせて割引頼んでやろうか? 悪いけど歩くペースは遅くなるだろうが」

「ぜひとも」


 というわけで、今回もまたドリュードを引き連れ、ドワーフの里を歩き回ることになった。

 最初に向かったのは以前俺が鍛冶を行う際に立ち会ってくれたドワーフの鍛冶場で、ギルド本部へと向かったドリュードが帰ってきたことを知って顎を外し、さらには俺を見て入歯吹っ飛ぶという事態が起こった。

 彼らの心境を例えれば、敵国を荒し回った後、何事も無かったかのような顔で帰ってきたというようなものだろう。


「ふがふが……っ」

「おいおい……驚きすぎだろ。ほら」


 ドリュードがドワーフの入歯を近場で洗ってから返すと、彼は急ぎはめ込み、凄まじい形相で俺たちへと指さしながら物申す。


「な、なんてことをしてくれたんだおめぇら!! すげぇけど……実質国一つ消えたぞ!?」

「カムロドゥノンとマシニカルの併合なんて結果になるとはオレでさえ思わなかったけどな」

「国に関しては専門外だ。すまんな」

「ボクもこっちに関してはしーらないっ」


 よく考えれば、俺は転生者だし、アルトは魔界の魔人だし、レムは獣人界の獣人だ。本来の人間界出身はドリュードしか居ないことになる。どうりで国絡みの事態には情報が薄いわけだ。


「んで、だ。今日は依頼があってこっちに来たんだが……レムの装備を戦闘用に改造してほしいのと、あと整備を頼みたい」

「お、おめぇらに突っ込むと日が暮れそうだな。……ごほん、依頼となりゃ金が必要だが……持ってんのか?」


 疑り深そうな表情で、顎に手を当てながら見つめるドワーフはどう見ても俺に経済力の心配をしているようで、このままでは冷やかしの客だと思われそうだ。


「あるって。ねぇ奴はオレが連れてこねぇよ」

「はぁ、とりあえず品物を見せてもらうか」


 ドリュードの推しが功を奏したのか、どうやら依頼は受けてもらえそうな雰囲気であった。

 ここぞとばかりに素早く魔法陣からレムの巫女服を取り出し、彼女は腕と足に装備していた篭手と小具足を外す。


「へぇ、お嬢さん見た目に似合わずゴツイの付けてんねぇ」

「鍛えるため、ですっ」

「それにしても……これ作ったのは兄ちゃんか?」


 ドワーフの鍛冶師はレムの外した篭手を手に持ち、真剣な表情を浮かべる。

 彼女の装備を作ったのは俺ではなくサイバルにいるドワーフだ。しかもこの装備は篭手、小具足共に特別性で魔力を込めると変形する機能がある。

 篭手でいえば、魔力を流すと空けられている穴から鉤爪を出現させることが出来るし、小具足にも魔力を流せば足の指に合うようにこれまた鉤爪が出現させられる改造が施してあるのだ。


 とにかく、一般人が作り出せるような代物ではないのである。


「んや、サイバルのドワーフに依頼した。素材は確か魔界の洞窟の鍾乳石だったと思う」

「……そうか」

「こっちは、お店で買った巫女服ですっ!」


 レムに綺麗に畳まれた巫女服を差し出し、ドワーフは篭手を近くの机に置いて手渡されたその服を受取――らなかった。何故、と問いただそうとしたが、ドリュードは俺の目の前に手を広げ、差し止める。


「あー、これは女の奴らに頼んでくれ。俺の専門じゃねぇんだわ」


 どうやらドワーフの鍛冶にも部門分けがあるらしい。レムは再び俺に服を渡し、渋々召喚魔方陣に戻し、彼のようすを伺う。

 物を見る目は真剣そのもので、職人としての誇りのような熱い何かを感じとることが出来た。


「ふん、この程度なら余裕だな。承ろうか。んで、アルト様は?」

「あ、ボクのもいいの?」

「当然ですよ」

「あるとがなんか優遇されてるです……」

「長生きだからな」

「ユウ、それには触れない方が身のためだからね?」


 俺へ向けての黒い笑顔とドワーフに向けての建前笑顔を交互に使いこなしながらアルトは黒霧の中から刀を一本、そして黒い渦巻き模様がある鉄塊を出現させて手渡す。


「……さすが、といったたころか。これほどまで貴重な黒重金(ヘヴィメタル)をお持ちとは。それにしてもこの武具は――よーく今まで折れずにいたものですな」

「修理素材を持っててもやってくれる人が居ないからね。自然とこんなボロボロになっちゃうんだ。たいせつに使ってきたつもりだけど、最近はちょっとね」

「おい、なんか勘違いしてそうな顔つきだがあれは結構――いや、かなり貴重な金属の一つだからな?」


 関心したような雰囲気が漂う中、俺一人がヘドバンしそうな鉄塊だなと物思いにふけっていると、ドリュードから隣から解説してくれた。どうやらロックなものではないらしい。もとは鉱石なのにな。

 しかし俺のスキルが疼く、というのだろうか。その金属を見た途端に加工したい、という意欲に駆られたのだ。金属加工なんてこちらの世界で一度きりしか行っていないのにも関わらず。


「相当な業物ですな。しかし……これを修理するとなると、やはり長老の全盛期レベルではなければ」

「……そうだよね。そんな気はしてたよ」

「――俺に、やらせてくれないか?」


 その言葉は自然と口から出ており、心臓の鼓動はどんどん早くなっていた。興奮によるものであると自分で理解出来たのはそう遅くない。

 ドリュードの顔を見れば、思った通り『何言ってんだこいつ』と言いたげなものであったが、俺の作業を見ていた唯一のドワーフである彼は違っていた。


「いや、分からんな。もしかしたら――出来るやもしれない」

「はぁ? おっさん正気か? こいつは変わってるが何にせよ人間で、多分不器用だぞ? それに鍛冶だなんて――」

「ゆう、変に目立つのは良くないですよ?」

「レムのセリフが一番心に来たんだがそれはさておきだ。アルトが許可してくれて、この鍛治場を貸してくれれば今すぐにでもやれる自信はある」


 俺のスキルであるヘパイストスの巧手の詳細を覗けば、相変わらず全パラメータは最高値。これが俺の自信の源である。そして以前作った投げナイフの件もまた、俺の技術の高さを裏付ける一因となっていた。


「え……っと、うーん、ユウを信じないつもりじゃないんだけどね? これってすっごーく難しいんだよ? ナイフとは違って精神を乗っ取られちゃうかもだよ?」

「お母さんか。なんだよその小さな子供に語りかけるような口調は」

「いや、確かにそうなんだが……小僧、ちょっといいか?」

「ん」


 そう言ってドワーフの彼が倉庫から取り出したのはよく分からない鉱石が二つ。どちらも俺から見たら赤茶色の研磨前の石ころである。


「この二つを三十分以内に石と分別し、その後加工してみてくれ。形は……つるぎでいいか」

「ん? おっさん、ブロンズの鉱石ってくっそ加工しにくいんじゃなかったっけ?」

「そうだ。だから、これを見て決めるんだ」


 ドリュードのセリフをよそにごとりと目の前に置かれる二つの鉱石。このとき、何故か観察眼サーチアイを使っていなくてもどこが鉱石の部分かが光って見えた。

 レムもアルトも俺に対して不安そうな目を当ててくれるが、一番不安なのは俺である。その反面、鉱石をいじることに期待している俺もいるのだが。


「ちなみに俺の技術だと、一個につき加工出来る段階に辿り着くまで三十分かかる。あと追加だが、加工後の完成品に余計な傷がついていたら減点だ」

「それって、余計なものを取り除く作業だけでゆうの持ち時間全部を使うってことですか?」

「あーらら。ドワーフでもきっついのにそれを二個ねぇ。少年、見栄をはるとこうなるんだぞ」

「ユウ、謝ろ?」

「おかさんは落ち着き下さい」


 どうにも周りの反応が冷たい。成果主義の社会ではなかったのかここは。

 とにかく、一応やる気は見せたのでスキルの運用もかねて全力でやってみようと思いますよ。出来なかったらテヘペロでまむはずである。一生馬鹿にされそうだが。


「じゃ、あと三十分後な。あ、道具って自由に使っていいんだよな」

「ああ。俺の監視の元だからな」


 俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ語り、アルトたちは足音まで殺してコソリとこの場から離れていく。完全俺が調子に乗って失敗するなって思ってるよなあれ。これまで以上にないほど他人行儀である。


 ~~~~~~


 三十分後。周りを見渡す。ドリュード、目を丸くしている。レム、興奮気味なキラキラ目で俺が作り出した加工品を近距離で見つめている。アルト、俺と目が合ってすぐさま背ける。何だかんだで彼女が一番バカにしてた気がしないでもない。ドワーフの鍛冶師、今更だが名前をフローという。最もどうでもいい気がしてきた。


「な、なぁ? これ、少年が作ったのか?」

「なんで俺の試験にドワーフのおっさんが参加しなきゃダメなんだろうな」

「これっ、これほんとにユウが作ったですか!?」

「そりゃもちろん。俺も実際実感ないけど」

「あははー。ボクはユウが出来るって信じてたさー」

「どこ見て言ってるんでしょうねぇ」


 ほぼ全員が驚きの反応を見せ、ドワーフの鍛冶師ことフローはニンマリとして満足気な表情を浮かべ、俺の作った剣型のブローチを一つつかみ、光源へと近づける。

 どこをどう見てもそれはまるで機械で作られたかのように余計な部分も傷もなく、完璧な仕上がりだった。その出来栄えは何度自分で見ても惚れ惚れするレベルである。


「まさか、ここまでのものを見せられるとはな。アーロンも口酸っぱくいうだけはある」

「そりゃどうも」

「しかも――五つとは。恐れ入った」


 複製能力、素材節約、精密性がすべて限界突破しているおかげなのか、ドワーフたちが三十分かかると言っていた石ころと鉱石の分離作業は、二つ合わせて僅か五分で終わり、その後はゆっくりと精神を落ち着けて加工に集中できた。そのようすを見ていたドワーフが驚きのあまり叫んでいたのはついさっきの出来事である。

 個数に関しては複製能力のおかげなのか、同じものは本当にわずかな時間で制作することが可能であったため、五個という量でも変わらず作業をすることが出来たのだ。


反射リフレクションの魔法も付けておいた。ぜひとも皆貰ってくれ」

「それ、もう魔道具だよね……?」

「少年にしては随分気前のいいことだ。さんきゅな」

「ありがとですっ!」


 それぞれにブローチを渡し、俺はやっと本題を切り出す。


「んでだ。アルト、修理を俺に任せてくれないか?」

「ボクはユウを信じてるから任せるよ!」

「おお、う。返答速度といい、相変わらず手のひらドリルだな……」

「でもね、これの修繕にはちょっと素材が足りなくてさ。一応いまボクが欲しいそれは人間界にあるんだけど――」

「――エクスキューズミー。ドリュード。お前はいつまで私を待たせる気だ?」


 アルトの言葉を遮り、背後からまるで聞いたこともない声が聞こえた。気配探知には映っていたのだが、そこから捉えられる反応はごく普通の一般人のような小さなものだ。

 にもかかわらず、その凛々しい声には覇気があった。


「げ……師匠」

「ししょうって……あの人がドリュードの師匠?」

「なんかすっごく……変な匂いがするです」

「……はん、どこかで見たような顔だな、ナミカゼ ユウ。たしか勇者も同じような顔つきをしていたな――」


 ロングヘアの金髪に、黄金の瞳。男勝りなきりりとした顔立ちに加え、凄まじい香水の香りが鼻をくすぐる。ドリュードは師匠と言っていたが、彼女は女性であるうえ、気配探知では一般人ほどの強さしか感じられない。

唯一危険だ、と思えるのは彼女が背負っている真っ黒な大鎌であった。恐らく武器であろうが、その圧力は存在するだけで他を威圧するようなもの。


「なぜ、貴女がここに……っ!?」


 フローは驚いた顔を浮かべ再び入れ歯が吹っ飛んでしまうのかと思うほど大きく口を開けていた。


「スロゥリィだ。ずっとこいつを待っていたんだが……あまりにもな」

「そ、そゆことは早めに言ってくれよ師匠」

「フール。今でも弟子なら私の居場所ぐらい把握しておけ。ともかく女王が呼んでいるぞさっさと来い」

「え、ちょ――」

「オッケ。こいつは借りていく。またな」


 そう言い放つと金髪の女性は背丈の高いドリュードを軽々と持ち上げたかと思えば、転移石で連れ去り消えていってしまった。後には何も残らなかった。

ご高覧感謝です♪

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