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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
228/300

第228話 嵐のようで

 死神を倒して数時間後。バレッタの空に打ち上げた信号弾をキャッチしたのか、マチェベルの街が自ら俺たちを迎えに来てくれた。


 先程までの彼らの態度とは打って変わり、常に見下すような冷たい視線は、伏し目がちで震えているかのような怯えたものになっていた。こちらが振り向く度に「ひっ!?」と甲高い声を上げるため、これまた違って複雑な気持ちであった。

 リッチーの器となってしまったローグを本気で殺しかかったことが主な原因だと見て間違いはないだろうが、過ぎてしまったことは仕方ない。

 とにかく目に見える問題は対敵特攻のスキルの恐ろしさだ。


「俺は間違いなく、殺そうとしてた」


 一人寂しくギルドを目指し、マチェベルの街を歩きつつ両手を広げて見つめる。生命線が短くなった、なんてことは無く見慣れた肌色で、指は五本しっかり生えている。パッと見なんら変わりはない。


 今一人で街を歩いている理由は、ローグがマチェベルの医療施設に連れていかれ、バレッタたちはそれについて行ったためだ。

 置いていきぼりではあるが、俺が撃ち抜いたというのに、見舞いに行くという矛盾は踏み倒せないので、とにかく別行動になろう、という手を取った。


(ユウよ。お主の対敵特攻とやらのスキル、アレは本当に危険なものじゃ)

(我らの声にピクリとも反応していなかったんですよ)


 今度ばかりは聖霊たちの声をしっかりと聞き取れた。

 対敵特攻のスキルの利点は四大変化エレメンタルモードを無視し、身体性能を底上げできるが、欠点として異常なまでの殺意に駆られること。

 その対象となるのは恐らく使った瞬間に敵対している者で、聖霊たちの声は聞こえなくなり、周りのことなど考えられなくなる。

 このことから、個人の感情や関係は差し置いて、スキルを相手に向けて発動すれば、その相手は“敵”とスキルそのものが勝手に判断を下し、先ほどのようになるのだろう。


 つまり、対敵特攻のスキルを使った瞬間、俺はどんな相手であろうとも本気で殺しにかかってしまうのだ。

 恐らく、アルトやレムでさえこのスキルの対象として使ってしまえば――


「……もし、体の操作権を奪われて、このスキルを仲間に使ったら?」

(恐らくじゃがお主はお主の意思に関係なくとも手にかけるじゃろうな)

(本当にハラハラで危険な時にしか使わないで下さいね)


 元の世界ではまずその前提が存在し得ないが、体の操作権を奪われるという出来事もこの魔法の世界では有り得る。

 危険なことはしっかりと頭の中に叩き込んでおかなくてはいけない。


「――ギルドが見えてきたな。死神の討伐証はないけど三日目の朝は迎えた。クリア条件だし、これでいいんだよな?」

(恐らくは、な。じゃがこのリッチーとやら、本当に目的のサウダラーの死神だったのかの?)

(ほわんと思い出してみてください。ザジという怪しい人間は死神の足跡と言い張って、幻影を作り出していました)

「わけからないのがそれなんだよな。ついでに、一人一人ゾンビたちの顔も確認してけど、ザジだと思える顔も、似ていた顔すら無かったし」


 彼は今現在生きているかどうかすら分からないが、ゾンビたちの仲間になっている可能性は薄い。気配探知では彼どころか、彼の仲間の反応ですら掴めなかったし、そうなれば俺のスキルを掻い潜ってどこへ消えたのか、というのも気になる。


「それに、あいつが見せてくれた足跡も、完全に怪獣モデルな形と大きさだったんだけどな」

(うぬ。とにもかくにも、まずはあの魔王と話すといいかの。なにか知ってるかもしれぬ)

(あ、言っておきますが、我らはあの魔王との情報戦に負けたとかこれっぽっちも認めてませんからね?)

「何の勝負なんだか。プニプニも今回はお疲れさん。止めてくれなきゃ俺も危なかったよ」

(ふぉほ! お構いなく!)


 プニプニたちにも感謝を述べつつ、ソラやファラのアルトに対する感情はそれほどいいものではない、ということを心の中に書き記しておき、気合いを込めてギルドに入る――


「あいつなんか独り言喋ってるぞ」

「サウダラーの死神におかしくさせられたのかしら?」


 入ります。別に気にしてない。うん。気にしてないから。聖霊たちとの会話は俺しか聞こえないという事実を忘れてましたね。

 俺の立場から見れば謎の優越感があるが、外の立場で見ればなかなか近寄り難い状態になっているだろう。こちらもこちらで気をつけなければ。


「あっ!! おーいっ!」

「相変わらず元気だな。アルトは」


 人混みの奥からピンと真っ直ぐ手を伸ばす彼女を見ていると、自然と頬が緩む。たった数十時間会わなかっただけなのに、何故か数十日ぶり再開に思えた。聖霊たちが何やら苦悶の声を上げていたが気にすることはないだろう。


「そっちは大丈夫だったか?」

「完璧に終わったよ!! ボクに不可能はちょっとしかないからね!」

「魔王様のちょっとはなかなか大きそうだ。レムもなんだか久しぶりだな」

「はいっ! いい子にしてたですっ!」

「そっちは本当に何もなくてよかった」

「……えっと、ユウはなんかあった?」

「特にないさ」


 俺は上っ面の表情を作るのが下手なのか、アルトに心配そうな顔をされてしまった。レムは尻尾を軽く振っていてご機嫌であったので、彼女に関しての心配は無さそうだ。


 ギルドの受付にて報告を行うと、ほかのパーティメンバーの報告も必要なようで、報酬や手続きは保留になってしまった。バレッタたちとは後で合流するとして、アルトたちと共にメアリーへこれからの事について聞こうとしたのだが――あいにく留守であった。ミカヅキもあと二日は帰れないとの事なので、今後はこのメンバーで移動することになった。


「うーん。どうしよっか」

「とりあえず外には出たが……なんか物騒そうな格好の人たちが多くないか?」


 俺たちはギルドの外にあったピクニックテーブルセットらしき一式を見つけたのでゆっくりと腰を下ろして座り込み、これからどうしようかと考えつつ周りを見てていると、通りゆく人々はまるで西洋の戦争が始まるかのような重装備であり、どこかぴりぴりとした雰囲気を心に秘めながら巡り歩いていることに気がついた。


 装備品は三者三葉で、あるいはフルフェイスの甲冑装備の者。あるいはまるでファンタジーの世界にありそうな防御力の薄そうな装備の者など、見ていて飽きなかった。

 後者に関してはこの世界が世界なので特殊な魔法でもつけられているのかと思う。


「魔導書のダンジョンの攻略は大々的に行われるらしいし、みんなそのために装備を整えてあるのかな?」

「なんだか、どの人も強そうに見えて怖いです」

「そんな事言ってるレムも、ここにいる八割の人より強いからね!」


 恐らく人間界に在住する中で最強にほど近い魔王様がそう言うと、レムは『あるとはもっと強いです』とムッとした表情でテーブル突っ伏した。俺は正直今でも本気の彼女と殺し合いしたならば負ける気がする。

 それから話題は切り替わり、装備の話になる。


「それとさ、ユウはまさかその学校制服で攻略に参加するつもりは無いよね?」

「そうなんだけど……いい装備もなかなか見つからんもんでな」

「ワタシはミコ服を鍛冶屋さんで戦闘用に強化してもらうですっ」


 この世界の鍛冶とは元の世界の意味上とは一部分で異なり、実際はアイテム強化ラボという名称の方が似合う施設のことを指す。

 鍛冶屋ではもちろん鋼を鍛える鍛冶の役割もあるが、このルミナではドワーフ特有の魔法によって装備を強化することが主な仕事として一般的に知られているのだ。


「鍛冶……ねぇ。俺もやってみたいんだが機会が無いもんで」

「ドワーフの人たちに聞いたんだけど、ユウって鍛冶がすごく上手らしいね!」

「一応ドワーフたちも俺の技術を認めてくれたってことかね。とりあえず、レムの巫女服を改造してもらいに鍛冶屋に行こうか」

「賛成っ!」


 次の目的地は鍛冶屋に決まった。そうとなれば俺は予算と相談してできる限り防御力の高いのを受注したいところである。どれだけお金がかかるのかは分からないが、俺の全財産は今のところ百万と少し。今後暮らしていくのに心配になってくる額である。


「で、ドワーフの里にでも行って依頼しようと思ってるんだけど、大体幾らぐらいかかるか分かるか?」

「うーん、レムの改造費、あと武器の整備費もろもろで五十万円はかかっちゃうし、ボクのは影収納シャドーポケットには装備の変えがあるからいいけど、ユウの装備は新調だから百万ぐらいかかっちゃうんじゃないかな?」

「おう……」


 明らかな資産オーバーです。本当にありがとうございました。自己破産待ったナシである。


「お、俺の装備はさておき、レムの装備を整えるか。じゃ手を貸してくれ」

「あ、この街の鍛冶屋じゃなくて、ドワーフの里の本場で依頼するなら、レムの装備の改造費だけで百万近く飛ぶと思うよ!!」

「なんかごめんなさいです……」

「命には変えられないからな! 転移っ」


 ついつい周りの目を気にせず転移をしてしまったが、その事を思い出した時には既にドワーフの里の中であった。

 ふと思い返せばなかなかハイスピードな里帰りである。まだ入院生活から一週間程度しか経過していないが、ほとぼりは冷めているだろうか。


「――こいつらどっから転移してやが――!? って、お前らかよ……」


 声がした方向を振り向けばどこか懐かしい姿が二つ。一瞬だけ戦慄したような声音が耳に届いたが、彼は俺たちと理解した瞬間にほっと胸を撫で下ろしたこのような表情になる。


「で。なんで隣に白神さんがいるんすかねドリュードさんよ」

「ゆゆゆゆゆゆゆ、夕君!? え!? なんでぇ!?」

「はい?」


 白神、もとい上崎 真白さんは俺を見た瞬間にバックステップを行い、この一瞬だけで距離はだいたい二十メートルは開いた。やはり素早く、彼女の体の衰えは感じられなかった。


「ユウ、あれって白神……だよね。ギルドでなんで会わないかと不思議だったけど、こんなところにいたなんて――」

「白い神さま……ですか!?」


 二人は警戒モードになり、素早く俺を守るようにして立ち塞がった。本当は俺がそのような立場にいるべきと意識していたはずなのだが、完全に守られてしまっているのが現実である。いつも通りちょいと情けない。


「おいおいカミサキちゃん、お前はまだ修理したてなんだから暴れんなって」

「ででででででで……でも!! ゆゆゆゆ、夕君がなななな、なんでここにいるの!?」

「ましろさん、バグってない?」


 いつもと同じような純白のフードローブ、切りそろえた透き通るように真っ白なショートヘア、そして赤い両目という特徴をもつ女の子はどこを探しても彼女しかいないだろう。

 彼女こそ俺のトラウマガールである白神、もとい上崎かみさき 真白ましろだ。彼はドリュードに連れられてこの里に来たのだろうが、俺を目の前にしてこの有様である。あっちもあっちで俺の存在はトラウマになっているのだろうか。声音はともかく、顔色どころか、表情すら変わりがあったように見えないのだが。


「ドリュード。なんで君は白神を連れてるの? 今度はドワーフの里を壊すつもりなの?」

「おいおい、アルトも落ち着けって。もうこいつは白神じゃない。じゃなきゃオレがもう既に炭になってるっての!」

「どういう……ことですか?」

「二人は知らないのか? あー少年。そゆことは早めに連絡しとけよ」

「あわわわわわっ……!!」


 ましろさんは俺がもう一度彼女の方向へ振り向いた時には砂埃を残して消えており、気配探知では捉えられなくなってしまっていた。

 残されたアルトたちは警戒状態を解き、ドリュードへひたすら疑問の視線を向けている。


「あー、少年、最初に言わせてもらうが……二度と怪我人に後片付けを押し付けんじゃねぇぞ!! 説明だけでどれだけかかったかと思ってんだ!」

「俺も重傷だったもんで――ってそっちもか」

「何処ぞの生意気な黒髪のガキンチョに切られたんだけどな!? まぁオレも悪かったんだがそれはそれだ!!」


 彼の傷はまだ完全に癒えておらず、片手には松葉杖が握られており、右足、腹部、そして頭部には白い包帯が巻かれていた。

 ようすを見るに命に別状はなさそうだが、ラクナから万能薬エリクサーを貰ってよかったと心から思う。貰っていなかった場合、俺は彼より傷の具合は重かったのだから、同じ治療を続けていれば未だに動けていなかったのかもしれない。


「で、なんで白神があんな所にいて、ユウを見て怖がってたの?」

「ふぅ……少年に関しては知らないが、とにかくこいつのおかげもあってか、白神っていう()()は無くなったらしいんだわ」


 ドリュードはその後場所を変えようと付け加えると、近場の飲み屋を指差し、松葉杖をついて向かって行った。


 着いた先は俺とドリュードが彼の妹の話題で軽い喧嘩になってしまった場所であった。

 ――ただ、今なら彼が突然怒った理由がすこしだけ分かる。当初の俺はアルトという凄まじい力に守られていて、世間を知らなかったぼんぼんだったので、非常に生意気であったのだ。

 毎日苦労してるというのにそんな奴に知ったような口を聞かれたら、俺だって怒るのだろうな。


「いらっしゃ――ウチは喧嘩はお断りだよ?」

「もうここではしないって誓うから入れてくれ」


 そう言った女性のドワーフは俺に水を掛けて冷静にさせてくれた本人であった。店にも大変悪いことをしたのだと反省しなくては。


 ドリュードはカウンター席にいたので俺たちは並んで席につき、彼の反応を待った。


「さて、まずはどの話を聞きたいんだ?」

「ボクからいくね。さっき言った機能って……どういうこと?」

「ああ、それなんだが……これを見てくれ」


 ドリュードが胸ポケットから取り出したのは真っ白なハートが欠けたような形をしており、多数のプラグが繋がっていたような跡がある。その謎の機械の裏を返せば、大きな六芒星の模様が描かれており、それは乾いた血文字のような薄黒い赤い色をしていた。


「なに、これ。すごく嫌な感じがするけど……」

「オレもこれ持ってると胸がムカムカするし、気持ちが悪くなってくるんだよな。アルトでも知らないとなると……レムはどうだ?」

「ワタシも知らない……です」

「俺もだ。なんだこれ」

「これが白神とされてた部分らしい」

「らしい? 確証はないのか?」


 カウンターの中心のコトリと置かれた機械を見て、全員が喉を鳴らす。なぜだかこのアイテムには呪いのような圧力が掛かっている気がする。ゲーム脳ゆえの反応なのかもしれないが。


「白神の体を分解したのはオレじゃないし、ドワーフたちだ。かといって、彼らにこんなよく分からない魔道具を持たせるわけにはいかないし、一応これは十字騎士団に処分は任せるつもりだ」

「ほー」

「で、白神としての機能ってのが……まぁ、これ掴んで魔力を流してみ?」


 危険なことである気もするが、文字通り欠けたハートをキャッチして魔力を込めてみる。

 軽い頭痛がしたかと思えば視界がぼやけ、移り変わって――


『白神、お前は――転生者リバイバーか?』

『……仰っている意味が分かりません』


 煙がかった夕焼けの空、メラメラと燃える大地、焼け付く魔物のたちの大量の死骸、そして目の前にいるのは真っ白な髪色の……勇者サンガである。崖の上に立っており、頬には返り血が跳ねていた。どうやら俺は白神の視点から記憶を読み取っているらしい。

 白い髪色という時点で勇者サンガらしくないが、ヘラヘラしたあの表情は見間違いようがない。


()()()の人間にしては、よく知っているな、ブルーノ』

『いえ、ちょっと気になっただけの情報なので。その反応からすると、推測は――』


 視点が急速に動く。早送りような映像が終われば、(白神の視線)は真っ黒なノイズに包まれた謎の相手に向いていた。

 ――何故だろう。対面している相手の姿は見えないのに、懐かしい気がすると同時に悪寒が止まらない。


『マスターに手出しは無用です。創造主クリエイター

『……はぁ、我ながら随分いいものをあげてしまったな。ブルーノ、どうせなら最後までそいつを使い潰せよ?』

『いわれなくとも』

『このようすだと――は完全に失せたか。さんざん私に――のにな』

『あははっ、何の話?』


 ノイズが強くなり、一度瞬けば俺の意識は元の世界に戻っていた。アルト、レム、そしてドリュードの視線が俺へと集中し、少々恥ずかしい。


「俺、何分間飛んでた?」

「え? 意識飛んでた? 一秒もそんな気はしなかったんだけど」

「ゆう、大丈夫でしたか?」

「あー、となると。これって白神の記憶の欠片ってことか。なんとも微妙なところから始まったな」

「ボクも見せてっ!」


 アルトは乱暴に俺からハート型の機械を取り合げて――ふと、無表情になる。


「……ボク、何秒飛んでた?」

「あるとも同じ反応です……ワタシもみたいですっ!」

「な? これは勝手な予想だが、オレは白神の初戦闘がこれだと思ってる。証拠って言ったら記憶が白神の視点から始まったから。としか言いようが無いが……とにかく、これが白神の機能がある謎パーツと断定しとけ。っと、子供はまた今度な!」

「えっ!?」


 ドリュードはレムの手からハートの機械を取り上げ、欲しがって伸ばす手を払い除ける。

 彼女は唸りながら必死に伸ばすが、彼の長い手には届かなかった。


「ずるいですーっ!」

「んで、なんでお前らはこっちに来たんだ?」

「ああ、それなんだが――」

ゆう君!!」

「……はい?」


 聞きなれない声の元へと振り向けば、そこにはボサボサの髪のましろさんがいた。さっき砂煙あげて逃げていったのに、今度はあちらから現れてくれたのだ。彼女の風の吹き回しが凄すぎてもはや竜巻にでもなっている気がする。

 居酒屋のドアは勢いよく開けられたので元からいたお客さんの視線も彼女は一身に受けていた。


「ユウに何の用なのさ」

「よよよよ、良かったら……わわわ、私と二人()()で一緒に魔導書ダンジョンを……攻略しないかな!?」


 そう言い放つ彼女の声と顔の表情はまるで合っていなかった。彼女はどこか慌てていて緊張気味な声音なのだが、表情は変わらず無表情。鉄仮面でも被っているのかと考えてしまうほどである。

 それと、ダンジョン攻略に対して招待してくれたのは嬉しかったが――


「あー、二人きりは無理だ。先約があるもんでな。ごめんな」

「……えっ?」


 元からアルトたちと行く約束なので、今回は遠慮させてもらった。慌てず、冷静に、そして丁重にお断りさせてもらったためか、彼女にも初めて表情に動きがあった。それは、困惑の顔つきである。


「う、そ……嘘だよ。ねぇ、嘘だよね夕君?」

「……はぁ? ユウもそう言ってるでしょ。何だかさ、君からはいい雰囲気が感じ取れないんだけど……ボクのユウになにかしようとしてない?」

「あるとのじゃないですけど、ワタシもゆうは渡したくないです!」

「ふふん、ボクはユウの本気の戦いに勝ったんだからね! 誰がなんと言おうとボクの大切なヒト、だよ?」

「アツアツなお二人だな、ほんとお前らは」


 そう言って嬉しそうに、そして大胆にも俺の腕にしがみつくアルトはどこか幸せそうで、当然このような行動に対してドキッと心臓を跳ねさせてしまう。

 まさかとは思うが、彼女はましろさんに向けて自慢してるのだろうか。


 対して当の本人は……拳を握りしめて俯いていた、のか? なにか呟いている気がするがよく聞き取れない。


「……う」

「はい?」

「違う、違うっ! 違うッ!! 違う全然違う違うッ!! 貴女は夕君のことを何もわかってない!! 何一つも! 夕君が何が好きで! 何が嬉しくて! 何に弱くて! どこから来て! 寂しがり屋で! 優しくて……!」

「え、え?」

「貴女みたいな泥棒猫には絶対に! 何があっても夕君を渡さないッ!! そうだよ、夕君はその女に誑かされてるんだよ……! 間違いない……っ!」


 そう言い放っている途中で彼女は再び居酒屋の扉を勢いよくパシャリと閉めてどこか遠くへ消えていった。

 本当に竜巻じゃないんだろうな彼女。あながち間違っていない気がしてきた。


「むしろ俺があいつの事知らないんだけど……」

「ユウ。浮気なんてしてないよね?」

「生憎、俺はアルト一筋なんで。詳しく聞かれても分からんぞ。なんなら魔法で心の中を見てもいいくらいだ」

「っ!? へ、へぇ……っ? ちょっとそれは後でユウの部屋で二人きりで詳しく聞きたいかな?」

「ちょろすぎだろお前……少年よ、そんな事してるからレムも困ってるぞ」

「むぅっ……あるとが口実作ってるです……」


 修羅場は何とか超えられたようだ。なぜ俺は何故に初めて出会って三回目の女の子にこんな事を言われなくてはいけないのだろう。恋人がいない状態だったら間違いなくあのお誘いは受けてたんだがな。


「とにかく、俺たちは装備を整えに来ただけなんだけどなぁ」


ご高覧感謝です♪

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