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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十一章 魔導書争奪戦
225/300

第225話 パーティ演習 その2

 突如周りに現れた人々は魔物の討伐隊であるようで、端からあっという間に鎧鼠たちを一掃してくれた。実際魔物の大半は逃げていったのだが。

 彼らは幻獣ではなく魔物なので死骸は残ることがなく、鱗などの武具の素材に使えそうなアイテムも落とさなかった。

 数十匹倒しても一つのアイテムすら落ちないとは、この世界はよほどドロップ率をよほど絞っていると思える。


 無事に救助された俺たちは流されるままに討伐隊のベースキャンプへと案内され、先の戦闘で怪我を負ったバレッタとローグはその建物の奥へと連れていかれた。

 現在辺りは真っ暗で、時刻は午後十時。

 焚き火を挟んでルカと二人きりで互いに無言のまま温まっていたところ、とある人物が俺たちに声をかけてくる。


「ようこそ、俺たちの拠点へ。まず自己紹介をしておこうか。俺の名前はザジ。クラスは幻術師イリュージョナーで、冒険者ランクはCだ」


 軽鎧を装備した橙色の髪の男性は、爽やかな笑顔を浮かべて手を差し伸べ、挨拶を行ってくれた。これ見て俺は久々に受けた人間的な扱いについつい心を救われたような気持ちになる。どうやら知らず知らずのうちに心は荒んでいたようである。

 ――しかしだ。俺が召喚士と分かったら彼も対応をガラリと変えてしまうのではないのだろうか。彼はまだ俺が召喚士であることを知らないだろうし。


「あ……私はルカです。クラスは水魔導師ウォーターマジシャン、ランクは――です。今回は助けてくれて本当にありがとうございました」

「ランクがよく聞き取れなかったんだが……まぁいいか。気にすんなって! この丘陵にいるってことはCぐらいだろ? んで、そこの兄ちゃんは?」


 ダンマリを決め込んでいたが、やはり回ってくるようである。やっと精神的に落ち着ける空間に辿り着けたのかと思っていたが、自ら嫌われにいかなくてはならないようだ。どうせ召喚士嫌いはここでも蔓延するのだろうし、別に改まる必要も無いか。


「波風 夕。クラスは召喚士サマナー

「そっかい。お前も大変だったな」

「……それだけ?」

「なんだよ。もっと労いの言葉が欲しいのか?」


 予想を超えた返答に思わず目を見開き、顔を見つめてしまった。

 彼は笑いながらからかいの言葉を述べるだけで、俺を貶そうとする意識はまるで感じられない。召喚士への理解がある者なのか、もしくは上っ面だけの表情なのかは判別がつかなかった。


「まぁなんだ、そのようすだとアンタらは“死神”の調査の依頼を受けたんだろ?」

「は、はいっ!」

「ははっ、ならお前らは相当勇気があるな!! 今の時期にたった数人のパーティでサウダラー丘陵を生き残ろうなんてな」

「いててて」


 ザジは笑いながら俺の背中をばしばしと強く叩く。乱暴な対応ながらも、こちらの感情を踏まえた優しさを感じられたので少々嬉しくなる。

 人に会うたびに召喚士だと言われて後ろ指をさされるため、このような対応をされて非常に優しい気持ちになれた。


「今の時期は鎧鼠アーマーラットの繁殖期でな。五匹程度のメスと数十匹のオスが団体で行動してるんだよ。食いもんを求めてっから人間を感知する範囲も広いし、なにより危険だ。知らなかったんだよな?」

「知らなかった、です……」

「まぁなにより、無事でよかった! こっからは俺たちと行動だ! ここにいるやつらはみんなイイヤツだから安心してくれ! それでいいか? ルカちゃんよ」

「は、はいっ! むしろ、こちらからもお願いしたいくらいです!」


 そういって笑顔を見せてこの場を去っていくザジの背中を見送ると、俺たちの視線は再び焚き火の根本に集中する。

 目の前の彼女の表情は暗闇に負けじとも劣らず沈んでおり、話すこともない。


 このまましばらく無言の状態がが続き、遠くからは酒に酔った男性の声が聞こえ、目の前の焚き火からはパチパチと音が鳴る。あまりにも退屈なので、早めに転移をして食事にしようと思っていた時。目の前から不意に声をかけられた。


「ねぇ、召喚士サマナー

「なんすか」

「……あなたさ。私たちの食べ物は持ってるよね?」

「――ああ、そゆことか」


 ルカは相変わらず俯いたまま、不満げな声でぼそりと呟く。別に俺と話そうとしたわけでもないようだ。そう考えると少々物寂しいが、俺自身を貶されるよりは何十倍もマシである。


「ほれ」

「ありがと」


 よく分からない魚が描かれている缶詰、そしてこの世界でも普及していた缶詰パンらしきものを手渡し、すぐに離れて元いた彼女の向かいに座り込む。

 触らぬ神に祟なし。できる限りこの時間は穏便に過ごしたいのだ。

 ――ああ、時間早送りの魔法とやらも魔法創造スペルクリエイトで創れたのかもしれないな。無い物ねだりしたってしょうがないけれども。


「あのさ――あなた、私たちを助けてくれたんだよね」


 缶詰をペリペリと開きながらも彼女は視線を火元へ向けたまま、変わらず低めの声で話し出す。

 えぇっと……俺に言ってるんだよな? 勘違いだったらすごく恥ずかしいんだけども。


「なんて顔してるのよ。あなた以外話す相手なんて居ないでしょ」

「そ、そうだな」

「はぁぁ……お皿ちょうだい。一人で食べる気だったけど思った以上に量が多いわ」

「はいはい了解っと」


 魔法陣からスチールのお皿を取り出して手渡す。彼女は顔つきも不満足げなままであったが、付属のスプーンで缶詰の中身を取り分けて渡してくれた。

 どうやら転移をしなくても食事にありつけたようである。


「何驚いた顔してるのよ。命を助けてくれた相手が召喚士とはいえ、食事すら分けないってのは私の人情に反するだけよ。あんたもお腹すいてるでしょ?」

「そ、そりゃまぁ……」


 いけない。予想外の対応で俺のコミュニケーション能力の低さが前面に出てしまっている。自分が取り出したものなのに毒とか混ざってるかもしれない、と思ってしまった。混ざっていても毒耐性があるので死にはしないだろうが。


 お皿を受け取ると彼女は大きく息を吐いて俺を正面に見据える。こう改めて見られると恥ずかしい気もするが、ここから誹謗中傷させられると考えると、げんなりする。


 まずはお皿にある魚を一口。

 淡白な白身魚に味噌を加えたような味であった。


「まずはお礼を言うわ。ありがと」

「お、おう」

「どうやってあの魔物を倒したのか全く分からなかったけど……素直に凄いと思った。あなたがいなかったら、私たちは確実に野垂れ死にしてたわ」

「そりゃどうも」


 彼女も言い終わるとスプーンで魚を口に運び、こちらを一度も見ることなく飲み込む。もしかしなくても照れ隠しだろうか。そう考えると遂に彼女も召喚士に対して慣れて――


「でも、やっぱり召喚士は好きになれないし、今でも一緒にいると嫌悪感がある」

「……そうっすか」


 あ、ダメだこれ全くきてないわ。嫌いなのは別に構わないが、口に出すことはないと思うのだ。

 言葉のナイフが突き刺さって胸を抑えたい気持ちになる。


「だからさ、召喚士。あなたはなんでこんな酷いことを言う私たちを助けてくれたの?」

「そう言われても……ただ見殺しにするのも嫌だったから、としか言えない」


 実際、彼らは人間だ。こういうのもなんだが、言葉遣いは究極に酷いものの一応コミュニケーションも取れるし、連携も彼らがとる気になれば取れるはずだ。

 自分の力を出し惜しんで目の前で死体の山が築かれるのはやはり見てて気持ちの良いものではない。


「そう……そう、なのね。よく分かったわ」

「あ……」


 今ここで気がついたが、俺の言い回しの捉え方によれば『俺より弱いお前らが死ぬことは()()()見たくないから、手を貸してやった』ともとれてしまう。

 見殺しにしたくなかったというのは、もともと魔物を倒す実力があるにも関わらず、バレッタたちが無謀に突っ込んでいき、負傷するのを助けずに黙って見ていたという判断もできる。

 つまり、俺はわざと彼らが負けるまで助けの手を差し伸べずに見送っていた、とも考えられるのだ。


「そのようすだと気づいていなかったようだけど……本当はどうだか」


 彼女は星空をぼんやりと見上げ、なにか考えを含んだ表情になった。

 そのようすをみて、俺もついつい気持ちをさらけ出したい気持ちになった。

 だから――


「俺だって人間なんだ。あれだけ言われてなんとも思わないような聖人じゃない。周りからも嫌われ、パーティーメンバーにも嫌われるしな。精神ダメージもなかなかさ」

「……」

「俺自身の不満をぶつけるのは構わない。だけど――クラスだけで人を判断するようなことは……本当にやめてくれ」


 言い終わった瞬間にどこか熱っぽかった視界と脳内はクリアになり、この場を立ち去りたい気持ちに駆られた。……何言ってんだかな、俺は。


「ごちそうさんでした」


 そう述べてから俺は魔法陣の中に水魔法で洗ったお皿を放り込み、この場を立ち去ることにする。自ら作った空気に耐えかねない図である。本音の言いどころってのはいつまで経っても難しいものなのだ。


「待って」


 彼女に背中を向けて、バレッタたちのようすを見に行こうと思ったが、再び後ろから声をかけられた。反論の一つや二つがあるのだろうか。また召喚士のくせになまいきだなんて飛んできたりしそうな――


「ごめんなさい」

「……」

「確かに召喚士というクラスに囚われすぎてたのかもしれない。この謝罪はあなた本人に送ります。だけど――」


 ――やっぱり召喚士だけは、私たちは永遠に心は許せない。


 まさに、謎であった。ここまでして嫌う意味が分からない。もはや、この嫌悪っぷりはクラスの性能だけでは済まないだろう。

 強い弱いを超えて何かがあるはず。ソラとファラ、もしくはプニプニに聞けば何か分かることがあるだろうか。


「どうしたんだ?」

「……ザジさんか」


 テントの裏で転移をしようと思っていたが、その場にはこの場で最初に話した男性がいた。

 どうやら月見酒のようなことをしていたのか、手には酒瓶が握られている。


「そういえば、あんたは俺のことを嫌わないんだ?」

「ああ……確かにな。なら、こんな話をするか」


 ふと気がついたことを口にすると、彼は再び満点の星空を見上げ、薄い笑みを浮かべながら語り始める。

 それは、まるで一つの物語を述べるかのような淡々とした口調であった。


「召喚士ってのはな、もともと普通の扱いだったし、普通の強さのクラスだったはずなんだ。だけど、ある日を境に変わった。――その日は何の変哲もない休日だったんだが……突如一つの街に鬼が降臨したんだよ」

「……鬼?」

「鬼って言ってもな、別に角が生えてるわけでもないし、でかくもない。ただ――アレの所業は本当に、ほんとに惨くて、酷かった。だからアレは鬼って呼ばれてる」

「なにをやったんだ?」

「街中で幻獣を召喚してな、アレとその魔物のお陰でかなりでかい街が壊滅したんだよ。当然、この事件の発端は召喚士。まぁここまでならルミナの歴史の中で幾つかあったことだ」


 彼はどこか遠い目をして、故郷を想うかのように懐かしみを帯びた声で語り継ぐ。その口調からは怒りや憎しみは感じ取れなかった。


「でもな、アレはその程度で収まらなかった。更に血を求めたのか、俺たちがよく知ってる街に真昼間から降臨した。突然の街の崩壊に誰しも理解が追いつかなかった。そしてここからが鬼と呼ばれる逸話なんだが――人間を一部分だけくり抜いて食べるんだよ」


 魔物なら別に普通の事である――なんて思っていたが、よく考えてみれば、アレと呼ばれているのは召喚士である。つまり――


「体を食べられた人々は呪いを受け、数刻と持たずに死ぬ。そして、遺体からは呪いの感染が始まってしまったんだよ。その呪いにあてられた死人たちは互いに肉を貪り合い――そりゃもう語りたくないほど、ひどい事件だった」

「その事件を起こしたのは……召喚士か」

「そう。そして、その被害にあった街がここ、マチェベルだ。人間界以外でも知られている恐ろしい事件だ。人口も王都に次いで人間界で二番目に多かった街だ。被害は察してくれ。それに、もともとこの丘陵だって、建物が立ってたんだぜ?」


 ここで今知っている情報と統合してみようと思う。

 マチェベルは魔物によって壊滅させられた都市とアルトから教わっていた。だが、現実は違っている。

 召喚士が魔物を召喚し、そして感染症を振りまいたのでこの街は壊滅してしまったのだ。この都市の壊滅した原因は魔物ではなく、召喚士の行為によるものといえる。


「まぁ、浄化ってことで、綺麗にしてくれたのは勇者サマなんだがそれはそれでだ。ここからが召喚士が嫌われてる理由になるんだが……表向きはクラス性能の低さになってるのは知ってるな? だが実際は違う。ただ、怖いんだよ。お前みたいなのが異能力を奮って街を壊すのが」

「俺が……怖い?」

「│使いサーヴァントなんて無機質で魔法みたいな存在が意思を持って動くんだ、お前が怖いというより、その使い魔が怖いんだよ」


 ソラとファラ、そしてプニプニは俺の使い魔として仲間で動いていてくれるが、確かにその正体は不明だ。召喚士ですら分からない力を持っているのだから、恐怖を抱くのは何となく分かる気がした。


「王都はとある団体に協力を申し込み、魔道具を作らせた。それが――人間界に住む人々が自然的に召喚士を排斥するように意識させる魔道具、サマナーディテスト。これは召喚士に対する悪のイメージを強く引き出し、召喚士に対する善のイメージを限りなくゼロに近づけるものだ。酷いことに、記憶の捻じ曲げですら行われる。召喚士はこれによって世間様から嫌われるってわけだ」


 淡々と話される事実、もしくは逸話に俺は頭が混乱してきてしまう。

 これが本当かどうかは分からないが、まず第一に彼はなぜそれを知っているんだ?

 どこからどう見ても一般的な冒険者のように見えるのだが、彼の話した情報は限りなく国家機密に近いものともいえよう。


 彼は、何者だ?


「……おっと、やっぱ警戒させちまうか」

「なぁ、なんでそんなことを知ってるんだ? お前は、なんなんだ?」

「これはまた機会があれば、な。今はお前が壊れないように支援してやるぐらいだ。お前にあてられる嫌悪は全て機械のせいってことに出来たら……だいぶ楽だろ?」

「質問に答えろ」

「ははっ、別に魔道具を壊したいなら構わないが、この人間界には結構あるぞ? その影響を受けないのはよほど精神力が強いのか、お前さんを信用してるか、だろうな」

「だから質問に――ッ!?」

「安心しろ。俺は今のところお前の味方だ」


 その問いを投げかけた途端、極端な横揺れが起こる。

 それは鎧鼠が地面に生え出す時とは比べ物にならないほど大きく、次は俺でさえも立っていられないほどである。ザジは座りっぱなしであるが、彼は変わらず笑みを浮かべていた。


「さぁて、ここの死神が現れる日も近いぞこりゃ……! お前も付いてこい。重要な戦力だ!」

「収まっ……た?」


 揺れが収まるとザジは勢いよく立ち上がり、テントの中でも一番大きなもの目指して歩いていく。

 何が何だか分からないまま、俺は床に転がされてしばらく動けない状態であった。


ご高覧感謝です♪

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