第22話 vs軍隊蜘蛛
「なるほど、意外とレベルが高いな」
焦りの声を上げるのではなく、冷静にその場の状況を把握するために《観察眼》を使い、対処法を考える。
「……結構いるね。しかも蜘蛛系の魔物なのに……硬そうだね」
アルトは既に臨戦態勢だ。味方の俺でも恐ろしいくらいに、魔力が彼女の体から迸っている。そのおかげで威圧の代わりにもなり、蜘蛛の魔物たちはなかなか攻撃に移せないようだ。
「……あいつらは火属性と、風属性が弱点らしいな。体力はおおよそ7500。ただ、奥にいるボス蜘蛛は体力が10000程度だが、既に六割ぐらいしか体力が無い。それと、体力が半分を切ると脱皮するらしい」
多分、気配感知に反応したのはボス蜘蛛だけなのだろう。リーダーを囮にしてコチラへ誘ったのは罠だったようだ。
するとアルトは驚いた表情をして。
「戦ったことあるの? しかも体力って……」
「いや、先程の分析は俺のスキルだ。今のレベルじゃ魔物にしか試せないらしいけどな」
「ふふふ……やっぱりユウは面白いなぁ……分析するスキルなんて、かなり希少なんだよ? ……そこまで詳しく知ることはできないしね?」
「……あまり公にしない方がいいみたいだな」
「そうだ……ねっ!」
アルトは片腕を横に向けて伸ばし、手を開く。
黒い魔力の霧が彼女の手の周りを覆ったかと思うと、霧の中から一振りの長い棒のようなもの取り出した。
そしてそれは、刀のような形をしており、鞘に収められていて、しっかりと鍔もある。
なにそれ格好いい。
彼女は鞘から刀のようなものを抜き出して――この際刀でいいか。
黒を基調とした不気味な刀身は月光を反射させるようにぼんやりと光ると、彼女は蜘蛛の魔物に向けて刀を横薙ぎに一閃する。
「《月閃》ッ!」
空気を震わせ、地面を激しく抉りつつ、彼女の剣圧はあっという間に蜘蛛へと襲いかかり、飲み込む。エネルギーを飛ばすことの出来る技なのか? それとも魔法か。どちらにせよロマン溢れる技である。
「ギ……!?」
彼女の一撃は断末魔を上げるその時間すら与えず、激しい圧力は巨大蜘蛛の命を一瞬で刈り取る。
勢いは未だ衰えず、彼女の一閃は蜘蛛だけではなく、木々にも届いたようで、彼女の直線上だけ木々は折れて、触れた部分から跡形もなく消し飛ぶ。
こんな凄まじい事が起こったが、彼女は空中で一閃しただけなのだ。
木々が倒れる音と、甲高い蜘蛛の叫び声が森中に木霊する。
「手を抜いたとはいえ……この蜘蛛硬いなぁ」
ここで魔王の彼女が本気を出したなら、この場所は森からただの一閃で全て切り株へと変えるだろうな。魔王なんだから。
彼女の剣圧を見て、蜘蛛たちは自らのリーダーを守るように、自らの体を盾にして剣厚からボスを守った。
蜘蛛たちは緑色の血を流しているが、リーダーには一ダメージも通っていない。
当たりどころが悪かった蜘蛛は一撃でお陀仏のようだ。
「それ……格好いいな」
「ふふん! いいでしょー?伝説級武器だよー!」
「そうだ!……その剣の素材っていまあるか?」
「一応あるけど……すっごく少ないよ?いつかほかの武具にも使おうとしてただけだし……」
「あるのか? なら少なくてもいいから見せてくれ」
俺は風魔法で蜘蛛を牽制しながらアルトに頼む。この蜘蛛たちのチームワークを崩せば突撃はしてこないので、楽っていえば楽だ。
「ユウの頼みなら……ちょっと待ってね……っ! それっ!」
アルトは腕をふり、黒い霧から幾つもの物体を生み出す。アルトのこの魔法は恐らくアイテムボックスのようなものから取り出しているのだろう。
乱暴に地面に置かれたのは、手の平に乗るくらいの小さな黒いインゴットと、小指ぐらいの大きさしかないレトリバーもどきの角、最後に落とされたものが、半分は青くて、もう半分は赤い丸い宝玉が一つ。宝玉は彼女の瞳のように神秘的で、魔力も感じた。
インゴットからも魔力を感じるというのも驚きだが、この宝玉からは、ひれ伏したくなるような覇気があった。玉にひれ伏すというのもどうかと思うが。
「ありがとな。もうしまって大丈夫だ」
「えっ? ほんとにこれでいいの……?」
彼女は俺が何を考えているのか不思議でしょうがないだろう。
「まぁ見てなって」
――さてと、創らせてもらおう。《物質創造》を使って刀をな。できなかったら残念だが。
物質創造で武具を作る際には その素材を一度 見る 必要があるのだ。
銃を作ろうとして、その中身のパーツが分からない場合には制作が出来ない事と同じ理由である。
蜘蛛たちは突然の仲間の死に驚いているようで攻撃をしてこない。チャンスである。
片手を虚空に伸ばし、いつものポージングで物質創造と心の中で唱え、完成形を強くイメージする。
光が俺の手の中に集まり、アルトと同じような刀が創られる。どうやら成功のようだ。過程としては、素材を物質創造で作り上げ、それらから刀を魔法が作りあげたと考えていいだろう。
「……えっ?」
アルトは俺の創った刀をみて拍子抜けた声をあげた。そりゃ驚くよな。
それと、鞘の色、形は同じだが、刀身はちょこっとだけアレンジさせてもらった。
「刀なのに……なかなか存在感あるな」
アルトは黒塗りのうっすらと赤く光る模様がついている刀身。恐らく模様の種類は三本杉だろう。
対して俺は、日本で良く見られた鋼の美しい刀身に、うっすらと青く光る模様は細直刃にしてある。
かなりずっしりとした重みがあるため、創ったのはいいが自由に刀をまだ振り回せそうにない。
「ユウ……なにそれ? しかもその雰囲気……!?」
アルトが話している途中に数十体の蜘蛛が一気に飛びかかってきた。
全く、空気読めよな。
俺は鞘に入ったままの刀を持ちながら最近作った魔法を唱える。
「《天雷》」
そういえば、この世界に雷属性はないらしい。図書室で七属性について書いてあった本があったが、雷属性についての書籍はなかった。
召喚士狩りの時に、アルトを苦しめた電撃は、魔道具と呼ばれる内包された魔力を使って魔法に近い効果を引き起こすアイテムで、通常、雷属性は魔道具の恩恵を受けなければ使用出来ないと思われているようだ。
この魔法はかなりコスパがよく、なんと消費MPは50で使える。物質創造より少ないのは当然とも言えるが、やはり時代は低燃費、低価格の時代なのだろう。
ちなみに今の熟練度だと、天雷を続けて使用するときには五秒おきに魔力が50必要である。
閃光が辺りを支配し、蜘蛛は蒸発して消える。
火事にならないよな?
「それも忘れてたけど、その魔法も聞きたいことがいっぱいあるんだけど……」
「後でな。取り敢えず今……は――」
蜘蛛を減らしたと思ったのに、突然地中から、蜘蛛が生えた。
とてもきもちがわるい。まるでゾンビたちが生えてくるかのようにも思える。
「うっ……早く終わらせるね……」
「ああ、俺も手伝うぞ……」
俺は今朝図書室で作り出した魔法陣を掌の前に作り出す。白色の魔法陣が出てきたが、魔力を消費した感覚はない。どうやら最初に魔法陣を作り出す時だけ魔力を使用するようだ。
彼女の色違いの刀、伝説級武器を魔法陣の中に投げ入れる。すると、まるで袋に入れるかのように消えていった。何とも不思議な気分である。
改めて蜘蛛たちに向かい、アルトは剣で切断が可能な衝撃波を、俺は白い雷で蜘蛛達を片付けるが、どんどん地中から湧いてくる。
俺の魔力もも多いとはいえ、無限ではない。
雷を操作しながら俺はアルトに聞く。
「はぁ……少しきつくなってきたな。これ無限湧きか?」
「っ……そうかもこれだけ倒しても減らないなんて……」
アルトもずっと剣を振り回している。既にこの辺に樹木は存在しなくなっていた。
「やっぱり リーダー、叩くか?」
俺は提案する。それしか脱却策がないと感じてきたからだ。
「そうしよ……う!!」
アルトは一際大きい衝撃波を横たわっているリーダーにぶつけるが――
「うそっ? 弾かれた?!」
なかなか硬いようで弾かれてしまった。
「なら、もう一回っ!!」
彼女は大きく上段に構え、勢いよく振り下ろす。
これまでで、一番大きい衝撃波だ。これに当たれば跡形も無くなるだろう。
これまでよりも桁違いな威力を持った斬撃が地面をより深く削り、凄まじい音をたてながらリーダー蜘蛛を飲み込んでいく。
途中で配下の蜘蛛もたくさん飲まれて、木々も同時に消えていく。
気がつけばまるで竜巻が通った後のようにごっそり削られている地面が見えており、残っていたものは蜘蛛たちの死骸と、ピクリとも動かないリーダーだ。
どうやら勝利のようだ。
「ふぅ……終わったか。全く何でこんなところに魔界以上に強い魔物が……」
俺は勝利と思っているが、アルトは何やら警戒しているようだ。
俺は不思議に思い話かける。
「どうかしたか――『危ない!』」
辺りに響く爆音
舞い上がる土砂。
気がつけば俺は押し飛ばされていた。
「一体何がっ……」
その時、即座に理解した。アルトは俺を押し飛ばしたのは、俺を守るため。
そして俺を押し飛ばしたアルトは完全に蜘蛛の糸に絡め取られていて、脱皮を完了しているリーダー蜘蛛の目の前に餌とばかりに倒させられていた。
「まじかよ……」
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