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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十章 バケーション
218/300

第218話 休暇三日目 七魔衆

 薬品の香りが漂う空間の中で重みのある雰囲気が充満し始める。

 彼女――いや、彼か。気配探知のスキルはこの空間内では使用出来ないため正確なことは分からないが、筋肉隆々で坊主の男性は七魔衆と呼ばれる人々の一員らしい。

 まずその単語からして分からないのだが。


「その、あるとが魔王様って……分かってたんですか?」

「うふん、分かってるわよ。何度か会ったことあるから。九尾の白狐ちゃん」


 あくまで柔らかい笑顔で返すハウルに少々違和感を覚える。いや、彼のピンク裸エプロンの格好にではなく言葉にだ。姿は違和感の塊でしかない。

 アルトの正体が初めて分かった時に、人間と魔族は互いに嫌いあっているとの説明を受けたのだ。なのに彼はあくまで彼女の正体を知っていても柔和なままだ。


「あららぁ、皆してそんな怖い顔しないで? あたしはただの薬剤師なんだからサ」


 俺たちの視線が鋭いことに気が付き、彼は笑顔を深めて右手を軽く振る。アルトが正体を知られていてもなお慌てていないことから、直ぐに危険が迫るわけではないのは分かっているが、警戒は強まるばかりである。


「ただの薬剤師って……アンタ、七魔衆だろ」

「まぁ……そんな立場も貰っちゃったりしてるわね」

「おれ……知ってるんだぞ!? 七魔衆ってのはこの世界ルミナで最も優れる魔術師七人しか与えられない位だ!! なんで、そんな人が――」

「魔族と竜人の混血である貴方も、七魔衆あたしも同じく生きてるわよ? 同じでしょう?」

「同じなわけあるかっ! お前ら皆揃って……バケモンだよッ!!」


 震えながら強く言い放ったミカヅキは立ち上がると、乱暴に扉を開け放って部屋から出ていってしまい、すぐに見えなくなってしまった。

 彼にも気配探知のマーカーは設定してあるが、この場ではスキルが完全に使い物にならないため、行方は分からない。


「ちょっと、傷ついちゃうわね。間違ってはないと思うけどね」

「……悪い。まだあいつも小さいから許してくれ」


 そう発言するとハウルさんは驚いたような顔を見せ、薄い笑みを浮かべたまま、ごつい指でティーカップを持ち上げる。


「へぇ、貴方も黒髪だからアルトちゃんと同じく腹黒いのかと思ってたわ。優しいのね」

「ボクはいつもの純粋なんだけど?」

「あわわ……あると落ち着くです」

「だいじょーぶ。今の状態じゃボクはハウルには勝てないから。わざと戦いを挑むことはしないよ」


 戦いに関して貪欲な魔族であるアルトでさえ彼との戦いを回避することを取っている。七魔衆ってのはそこまで凄いものなのだろうか?


「ラクナの魔法便で届いた文書にアルトって書いてあった時点でビックリしちゃったけど、まさか本物だとは思わなかったわ。今この街には円卓の騎士がこっちに来てたけど貴女、バレてないのかしら?」

「うん。その人たちには多分バレてないかな。でっかい鬼と戦った時も大丈夫だったし。なんでだか分からないけどね」

「ああ、やっぱりあの件に貴女も関わってたのね。アレは貴女が引き起こした事件かしら?」

「まさか。ボクだって殺されかけたんだよ? 魔物を倒す手伝いもしない勇者にね」


 筋肉マッチョで裸エプロンの相手と話していても彼女は何ら動じず、言葉を交わしていく。

 そのようすに俺たちは口を出すことができず、ひたすら雰囲気とのギャップの違和感を感じなければいけなかった。


「貴女、女神様の加護を受けてるわよ」

「……え、ボクが? 魔族だよ?」

「あたしの目に狂いはないけど……そこのお嬢ちゃんも、黒髪くんもだわね。それのお陰でアルトちゃんも魔族ってことがバレなかったんじゃないかしら?」

「……カムイ、だっけか。それ関係してるのか?」


 ここで初めて円卓の騎士を知ったきっかけでもある、ガウェインのセリフを思い出す。

 マーリンに拘束され、ケイに匂いを嗅がれた後に現れた彼は『俺の中にあるカムイが共鳴している』と言っていた。もしかしたら『カムイ』というものが女神の加護のことではないのだろうか。


「ああ、この世界での神威っていうのはね、女神様の加護を持つ力の証。種族を問わず誰でも手に入るらしいけど……世界の危機にでもならない限り、現れないわね。でも、貴方たちはそれを持ってる」

「そうなんだ。……でも、そんな実感ないけどなぁ……確かに、何度もみんなに運良く助けられたけど、力が上がったっていう感覚はゼロだよ」

「――まぁちょっと変わった神威なんでしょうね。良かったじゃない。ほかの人に魔族だって悟られなくてサ」


 ハウルはそう言い放つと、正面のテーブルからクッキーを二三枚ほど抜き取り、大きな口で丸のみするかのように口に放り込む。

 豪快な食べ方であるが、乙女らしさは微塵も感じられない。

 ……世界の危機、か。一人心当たりがあるけど、今は聞き出さない方がいいだろう。それよりも気になるのが――


「あ、あのっ! はうるさんは……なんであるとが魔王様だって分かってるのに、怖がらない、ですか?」


 ここでレムが勇気を振り絞って手を挙げつつハウルに質問を投げかける。尻尾は縮こまっており、怖がっているのは明らかだった。

 しかし、彼は仏のような柔らかい笑顔を浮かべ、優しく答えてくれた。


「アルトちゃんとは七魔衆になってからずっと長い付き合いなの。だから怖くないし、この子とは最も仲がよかったと自負してるわ。最初は険悪な仲だったけどね」

「ボクが時々人間界に来るのは魔封香の素材集めと、ハウルに会いに行く目的なのが殆どだったからね。何回もお泊まりさせてもらったよ。泊まったのはここじゃなかったけど」

「アルトちゃんも忙しいのかしら? ここ数十年間、全く会いに来なかったのよ。やっとつい先日ジャイから連絡が来てたんだけど……心配してたのよ」


 あくまで友達のうちの一人として言い張るハウルにこれまた違和感を感じる。そもそも、ミカヅキの言い分を吟味してみれば、彼はアルトが敵わないような凄まじい実力を持ち、七魔衆という位を与えられている。世界ルミナで七人しか選ばれない存在と言い張るならば、当然持ち合わせる権威も高いはずだ。

 そんな相手が、なぜ魔王であったアルトと仲良くできたのだろうか。


「ハウルさん、本当にアルトを王都に報告する気はないのか?」

「当然よ。なにせ友達だもの♪」

「魔族さんと人間さんは仲が悪いはずです。少なくともワタシたちは、そう習ってきましたです」


 学園での授業では基本的に竜人を尊重し、魔族を排斥するような教育をしてきた。歴史の授業だってそうだし、教師の態度だってそうだ。だからこそ、違和感がある。


「ええっと、それはね――」

「知らないんでしょう? 説明してアゲルわ」

「是非してもらいたい」

「こほん、まず最初君たちに知って欲しいのが、七魔衆って存在からよ。さっきからそのようすから見るに、黒髪ちゃんと狐巫女のお嬢ちゃん、知らないでしょ?」

「お、おう」


 レムは奴隷生活が長かったったためか、七魔衆については理解していないと思っている。先ほどの態度を見るに、ミカヅキは事情を分かっているようすだったが、彼女はこれに関して特に反応を示さなかったのもこう考えた一因だ。


「ごめんなさいです、ワタシもよく分からない、です」

「正直いって俺も分からない」

「だと思ったわ。ちょっと現実的な話になるけど、いいかしら?」

「ボクは構わないよ。あとで説明しなきゃって思ってたし!」

「分かったわ。ちょっとお鍋の火を止めてくるわねぇ」


 そう言ってピンクエプロンの彼は部屋の奥へと消えていき、すぐに戻ってくる。主婦かこいつは。料理してるなら目を離さないのが普通だと思ってたんだが。


「はぁーいお待たせ。それじゃ、説明するわね」


 数秒と経たず帰ってきたかと思えば、彼は銀のトレイを両手に持っており、その上には湯気の立つ飲み物が複数あった。どうやらこの一瞬でお茶を入れてくれたようである。

 ミカヅキが化け物扱いするだけあり、お茶を注ぐスピードも凄まじいのだろう。


「さて、話しましょうか」

「よろしく頼む」


 お茶を啜り、乾いた喉を少しだけ潤す。それは熱くもなく、ぬるくもなく、渋みもそれほどなく、例えるならまさに緑茶であった。


「……手のひらの上で風を発生させる、手のひらの上で炎を発生させる。魔法とは、人間である私たちが生まれながらに持つ、体の性能をグンと上げる力、いわゆる魔力と引換に、化学反応を無視して事象を引き起こす能力。それは時に人を癒し、時には人を傷つける。あたしたちは未だになぜそれが出来るのか、なぜ生まれながらに魔力があるのか、未だに分かっていないわ」


 手を開き、その上からを微風を発生させつつ彼は説明を始める。言われたことからするに、どうやらこの世界にも魔法に関して究極の心理に辿り着いた人は誰もいなさそうである。


 二つの世界を経験した俺は魔法の真意なんて微塵たりとも分かっていないし、この世界の常識ですら怪しい。

 俺が知っていることといえば、この世界には様々な種族がおり、人は魔法が得意で、獣人は魔法が苦手、といった基本的な情報しかない。


「生まれてくる子供は一人一人違う。だから、生まれながらにして大人以上の力を持つ子供も少なくないわ。その中でも特に突出して異常成長を遂げ、世界自体が壊れかねない力まで得てしまった人々、それが七魔衆よ」

「――この世界が壊れるほど、だって? 核兵器でもないのに、どこにそんな馬鹿げた力が――」

「あるんだよ、ユウ。昔さ、一人の男の人がいてね、生まれ持った自分の力だけで、ひたすらに破壊と殺戮をした悪魔がいるんだ。その人のせいで――世界全ての人口が半分以下にまで減らされたよ。嘘なんかじゃなくてね」


 真面目な表情で話す二人の目に当然嘘は見えない。……しかし、信じられなかった。

 魔法があることで、元の世界よりも大規模なこの世界ルミナで暴れ周って甚大な被害を出した人物。しかも、生まれながら持った力で世界を壊すなんて、眉唾物にもほどがある。


「本当にどうしようもなくて、全ての世界の危機だから、対処策として全ての種族が結集して――その中で彼を除いて種族を代表する最優の力を持つ七人が、彼を封印するためにあたしたち選ばれたわ。それが七魔衆の始まり」

「えっと……はうるさんも選ばれた、ですか? でも昔って――」

「いまから丁度百年前かな。これから先、伝説になるだろうけど、伝説なんかじゃない。本当に起こったことだよ。ボクは小さかったけど、当時のことはハッキリ覚えてる」


 となると……オカマ口調の彼は百歳を超えているということか。見た目的に四十代後半なのだが、一世紀半近く生きているということだろう。ファンタジー世界特有の長寿システムは健在のようである。アルトがいい例だが。


「あたしたちには女神様の加護もあったのに、七人で挑んでもなかなか倒せなかった。だから封印だったのよ。いまもまだ眠ってるわよ彼は」

「こ、怖いです……」

「あと、女神様の加護を貰うとね、ほぼ不老になるのよ。あたしだって、この姿は当時のまんま。魔族みたいに急に老けちゃうかもしれないけどね」

「あ、説明しとくけど、魔族はエルフと同じくらい長寿で、戦闘できる時間が長くあるように、生まれてから体のつくりが完成するまでは成長が早くて、青年期がすっごく長いんだ。その代わり、歳とっちゃうと対策してもすぐ老けちゃうけどね。青年期だけで――百年くらいかな?」

「まぁ、ジャイみたいな五百歳おじいちゃんになっちゃうと、もうなかなか戦えなくなるわね」


 お前ら揃って何歳だよ、と突っ込みたくなる。桁が多くて分かりにくいな。ええっと、整理すると……魔族はエルフ並に長寿で、アルトはいま青年期真っ只中であるらしい。外見通り十七歳、十八歳あたりと断定していいだろう。

 で、女神の加護を受けた七魔衆の一人、ハウルさんは四十代でストップされてると。いつ死ぬのかも分からない状態、というものだろうか。死刑囚並みに怖いなそれ……


「げほんっ、話を戻しましょうか。――何とか封印に成功したあたしたちですが、世界の半分を滅ぼすことが出来る桁違いの相手と戦い、全員が無事に生還しました。ここで、人々の裏に隠された凄い以外の感情を答えなさい。はい! 狐ちゃん!!」

「え、えぇっ、ワタシですか!?」

「残り十秒よ!!」


 なぜ突然クイズ形式になったのだろう。アルトの顔はやはり晴れず、喜怒哀楽の楽の感情は全く読み取れない。


「え、えっと、ええっと……わ、分からない、です……」

「はい! 正解は『怒りと恐怖』でした!!」


 ばぁーんと効果音を口にしながら、どこから取り出したフリップには女の子がかくような丸文字で『怒りと恐怖』と書かれていた。っておい、どこから取り出したそのフリップ。


「……よくそんな明るく振る舞えるね、ハウル」

「人間歳とると、他人の感情なんてどうでも良くなるわよ。歳なんてとってるかどうか知らないけどサ」


 ぽいっと手に持っていた物を後ろへ投げ捨てたハウルさんは、これまでのテンションが嘘のように冷たい声で返答する。

 ダメだ。まるで彼のことがわからない。


 こちらへ振り向き、彼はごつい指を組みながら淡々と話す。


「確かに七魔衆、()()()いわれてるわよ。だけどそれって、どこの国にも認めてもらえない化け物の集まりなのよ。分かるかしら? 世界の危機に打ち勝った。それはいいわよ。これまでで何十億人の命が犠牲になったというのに勝てない相手がいた。だけど突然七人の人が挑む、そしてだれも死なずに帰ってくる。どこかおかしいとは思わない?」


 突然、空気が重くなる。彼もまた心理を顔に出さないように表情を隠しているのか、少し頭は俯きがちだ。


「……ボクがいうよ。最初から七人が挑めばみんな殺されずに済んだんじゃないかって」

「正解よアルトちゃん」

「ここからは前聞いたからね。少しボクも説明するよ」


 アルトもまたお茶を啜り、クッキーをひと口。ここで魔族と人間の関係が分かるのだろうか。


「ボクはまだ人間でいう――十歳ぐらいだったよ。だから真っ直ぐな感情で、ハウルを問いただして聞いたんだ。なんですぐ立ち向かってくれなかったのかって。ユウは……分かる?」

「……なんかあったってことは分かる」

「それじゃ小さいボクは満足しないよ? まぁ、あの時も満足出来なかったけどね。正解は全員が、全ての国が、戦力の出し惜しみをしたの。国境は“かの者”がぐちゃぐちゃにしたからね。この後に領地の取り合いが起こることは誰の目にも見えてた。だから、戦争を見据えて誰も本当の戦力、ハウルやその七魔衆を取り入れなかった。本当に滅んじゃうよ、って時まで」

「最初にアルトちゃんのお父さんがソプラノちゃんを送ってくれなきゃこの世界も滅んでたかもね。でも結局、領土の範囲を決める際に一度七魔衆同士の戦いが起こっちゃって、それが周りに本当に凄まじい被害を出した。だからいま、七魔衆は国へ不干渉、って掟があるわけなんだけど」

「……待ってくれ。ソプラノも七魔衆の一人なのか?」

「そうよ? と、いうか貴方はソプラノちゃんを知ってたのね。彼女と彼女のお父さんの勇気のおかげで世界が救われたと言ってもいいわ。こっちなんて国にあたしたちの家族を人質に取られたから動けなかったし」

「ちなみに、今はお姉ちゃんの代わりにジャイが代理で七魔衆の一人になってるよ」


 至極当然、とでも言いたげな顔で目を向けてくる二人に俺は動揺を隠せない。

 だが――七魔衆の全員が化け物だとすれば……確かに有り得ない話ではないが、彼女は本当に亡くなったはずの人物なのだろうか?


「なぁ、ソプラノって……死んだんだよな? もうこの世にはいないんだよな?」

「亡くなった、と聞いてるわ。魔王ソプラノを討伐したのは勇者サンガ。三回目の魔族討滅戦で完全討伐。彼は勇者召喚の第――っと、これ以上は話せないわ。ごめんなさいね」

「……そっか。七魔衆は国に干渉出来ないんだよね。やっぱりお姉ちゃんはこっちでも死んじゃった扱いなんだ……」

「色んな情報も、もちろんダメよ。でもまぁ、勇者は召喚されてる、なんて人間界では有名なことだからおっけいだとは思うわよ。本にだって書いてあるし」

「……あの、魔族さんと人間さんの仲が悪い理由を知りたい、です」

「「あっ」」


 どうやらアルトとハウルさんはもともとレムが聞きたかったことを忘れていたようで、素っ頓狂な声を上げる。色々聞けたし、それはそれでいいのだが。


「そ、そうだったわね。魔族と私たち人間が仲が悪いっていうのは……アルトちゃんが説明した方がいいかしら」

「分かったよ。……昔、ボクたちは人間たちに堕者って呼称でよばれて、蔑まさせられた時代があったんだ。その時はボクは生まれてすら無かったけどね」

「だしゃ? それってなんですか?」


 その単語には聞き覚えがある。第二女神がシャナクについての解説をしてくれた時に初めて聞いた気がする。


「闇に堕ちた者。略して堕者。そう呼ばれた原因なんだけど……魔族が生まれた理由の一つに人間が闇属性魔法の使いすぎた結果、悪魔のような羽、尻尾が生えた、って説があるんだ。正確には分からないけど、たしかに魔族はみんな闇属性魔法が得意だし、尻尾も羽も生えてる」

「……へぇ」


 一瞬、心臓が跳ねるような感覚があった。そうだ、未来の俺はこう言っていたんだ。


『使いすぎた結果がこれだ。この赤目に身体の変化。身体能力は上がるが、そのうち精神が身体の変化に耐えられなくなって、全てが変わるだろうな。たかだか人間の存在で、闇属性を極めようとしたものはことごとくそう成っていった……ああ、そうか、お前は魔族が元々人間だって知らなかったか』


 そして、先ほど見た己の姿。黒い瞳の中心に、赤い光があるあの目。体の魔族化が進んでいる俺は離れたと思っていた未来の俺と同じ道に、戻ってしまったのか?

 その先に待つ結末分かっている。アルトとレムが、未来の俺でも勝てない相手に殺されてしまう、最悪の終わり。


『基本的に、魔族の始まりは闇属性魔法の使いすぎでバケモンになった人間の集まりだ。まぁここ数百年は流石に魔族同士から子孫が生まれるんだがな』

「まぁ、これはあたしの意見なんだけど、今も昔も、人間界の人間は大半が弱いけど、女神様に対して信仰が特に厚いのよ。だから、闇っていう不定形で触れないものはただ単に怖くて、信仰の邪魔でしかなかった。だから排斥したんじゃないかしら?」


 二つの声が重なって聞こえた。間違いない。魔族の原点はこれだ。……嫌な記憶と一緒に、忘れかけてた事も思い出せたな。


「一人の大人より、百人の子供。どっちが強いのかははっきり分かるよね? そういう事だよ。ここに来るまえにダニアたちと一緒に祈った、あれも人間たちが女神様に対しての信仰心が強い証拠になるんじゃないかな?」

「まぁ、魔族でもアルトちゃんみたいに女神様を信じてる子もいるわよ。人それぞれってことね」

「結局、みんなは闇属性がこわいってことですか?」

「そうなるわね」

「で、今の環境があるわけか」


 魔族が人間に対してどう思っているのかは分からないが、人間は確実に魔族を嫌っている。国絡みで排斥してる現実もあるし。


アルトがやっと明るい表情を取り戻し、「でも闇属性ってなんでもできるし! 便利だよ!」と付け加え、レムをわしゃわしゃと撫でる。

 今日のおかげで色々分かったな。とりあえず、ラクナの父? いや母? が世界を壊しかねない化け物集団の一人、七魔衆というのも理解出来た。

 そしてハウルは――最低でもアルトの友達。魔王だった情報は魔界に関することという理由で七魔衆の立場から他言しないのだろう。相変わらず、彼女の関係の広さには頭が下がる。


「長くなっちゃったわね。お部屋は用意してあるわ。ゆっくり休んでちょうだいね」

「ああ。色々勉強になった。ありがとうハウルさん」

「ありがとうございました、です」

「黒髪くんとは二人きりで話したいわねぇ……」

「ユウが危ないからボクも同席するからね!!」


 席を立ち、軽い挨拶をしてから俺たちは部屋を出る。最後に俺が扉を閉めかけたその時、向こうから呟くように淡々として、冷たい、声が響いた。


「可哀想に」


 その言葉が何を意味するのか、俺には分からなかった。アルトなのか、それともレムに対してなのか、予想もつかない。

 だが、寒気を感じさせる何かはあった。


 暗闇を抜けて元の階層にもどり、そこでは――廊下の右端にミカヅキが座り込み、眠っていたようすが見て取れた。さらに、メイドさんたちは俺たち預けた武器を持ったまま、不動でぴしっと止まっていた。


「お前、廊下で寝てたのかよ」

「お疲れ様でした。ミカヅキ様と共に、お部屋にご案内いたします」

「あー、そいつは俺と一緒の部屋でお願いします」

「かしこまりました」


 ミカヅキは見た目女性中身男性のメイドさんにおぶられて目的の部屋に運ばれる。

 俺たちもまた、素直に付いて行く。


 頭を過ぎるのは未来の己の姿、そして――


「ソプラノは一度死んで、生き返ってる。これも確実になっちまったか」


 誰にも聞こえないように、そう呟いた。



あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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