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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十章 バケーション
217/300

第217話 休暇三日目 コシュマーダの代表

 辺りは完全に日が落ちていたが、イルミネーションが無数に設営されていたため、道明かりに困ることは無かった。

 隣にいるムスッとしたレムは、でーとの邪魔をされたためかミカヅキに対して常に恨めしそうにしていた。彼が悪いわけでは無いのだが、彼女の不満もぶつけるところがなかったのだろう。


「――ユウ兄!! 聞いてるか!?」

「そうだな。規模もすっごいな」

「ゆうが取られたです……」

「手繋いでるだろ? そんな事いうなって」


 ラクナの家に到着した時には左手には狐巫女の女の子、右手には変わった格好の男の子の手を繋いでおり、さきほどの口調の荒い金髪の男性のいうとおり、彼らのこと奴隷と見た人もいるかもしれない。帰路では人々に幾らか冷たい目を当てられた気がする。


「流石に両手はまずかったか」


 彼女たちを奴隷扱いしているつもりは無いのだが、世間一般では俺を変わったもの好きと思われているのだろう。

 変幻の魔法はしっかり機能してると思うのだが。


「ユウ兄、こんなでっかい家に住んでたんだな!」

「違うんだ。これは俺の家じゃなくてな――」

「ゆうっ、奥で誰かが待ってるです」

「お帰りなさいませ。ラクナ様がお待ちです」


 ウェイトレスさんの顔もあってか、二度目の受付は素早く済み、エレベーターに乗って上層へ。ミカヅキはどこかウズウズしているようで、落ち着きのないようすがよく見られた。


「すっげぇ……! 部屋ごと移動してんのかこれ!?」

「ミカヅキ、うるさいです」

「んー……? レム、さっきから思ってたけど、なんかおれに対して冷たくない? もしかして……照れてんの?」

「知らないです」

「仲いいなお前ら」


 傍から見れば俺たちは兄弟に見えると思うのだが、やはりこの世界では価値観が違うのだろう。

 レムの不機嫌は相変わらず治っておらず、対処法に悩むところだ。


 扉が開き、目的の階層に到着する。

 ふと気がつけば、目の前には女性のメイドさん二人に挟まれて、フリフリのドレスを着た女の子いた。侍女らしい二人の間にいる彼女は何処か見たことある顔つきである。

 彼女はこちらに気が付き、俺を一目見たところ目の色を変え、見開いた後、こちらに向かって――


「おかえりーっ! ナミカゼくんっ!」

「……えっ」

「「えっ」」


 抱きかかってきた。腰に回される細い腕は真っ白で、ふんわりとした優しい香りが漂ってくる。

 困ってしまい、とりあえずあたりを見回してみたが、ミカヅキもレムも目を丸くしており、まるで氷漬けになってしまったように動かない。


「……誰?」

「ふふっ、びっくりしたでしょ? ワタシだよ、ワ・タ・シ♪」


 正体不明の彼女は俺から離れると笑顔を浮かべたままくるりと振り返る。声と雰囲気、そして気配探知の反応によれば彼女はラクナ本人なのだが……なんでそんな格好をしているのだろう。


「ラクナ様、それ程までに。アルト様もお待ちしております」

「そうだね。ごめんごめん。ナミカゼ君、この格好にも理由があってね。このことに関しては置いといてさ、付いてきてもらってもいいかな?」

「あ、ああ。置いとくのな……」

「えっと、ほんとにらくな……なんですか?」

「うん、自分はラクナ=グラスディ。性別は男。こんなんでも絶対男。間違いないよ!」


 フリフリと心から楽しそうにドレスをたなびかせる彼女――ならぬ、彼の説得力は当然ながら皆無であった。初めて彼の苗字を聞いた気がするが、見た目美少女中身男に抱きつかれた気持ちが勝り、なんとも複雑な気分である。


「喜んでいいんだろうかこれは」

「えっと……らくなは男の人なので、たぶん喜んだらだめですよ」

「え、あの人男なの」


 やはり、ミカヅキにも分からなかったようだ。もともと彼は女の子らしい美男子、俗に言う男のであったが、いまや完全に見た目は女のである。この何十メートルも高さがある自宅の持ち主に今から会いに行くというのに、既に不安でいっぱいである。


「お待たせアルトさん!」


 最初に案内されたのは待機室のような場所で、その空間には一人の女の子がいた。さらさらの長い黒髪で正真正銘中身も女の子、アルト魔王様である。彼女はどこかぼーっとした目つきで、窓からコシュマーダの夜景を覗き込んでいた。


「あっ、おかえり。ラクナが連れてきてくれたんだ――」

「に、似合ってるかな?」


 気配で分かったのか、こちらに振り向きつつ話しかけてくれたが、振り向き終えた途端に彼女の顔も硬直する。

 引き攣った笑みを浮べながら、ガチガチの視線が向かう先はラクナのドレス。そして顔つき。


「ユウ、レム、正直に答えてね。その子、誰?」

「らくな、です」

「アルトも見たことなかったのか。みっ分けにくいことに男らしいぞこいつ」

「らしいじゃなくて男なの!」

「あっ、アルトの姉ちゃんもいるのか!」


 彼も貴族の一人であるため、俺の失礼な発言に対して隣にいるメイドさん二人も少しだけムッとした表情を浮かべていた。そうだ、彼は貴族だったんだよな。忘れていたが、この世界の階級は彼の方が上なんだよな。


 アルトもまた、似たような厳しい表情でラクナをじぃぃぃっと見つめる。このようすは初めて彼と出会ったときを思い出し、少し懐かしくなる。


「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいよっ……」

「ボクのスキル壊れてるのかな……男の人には全然見えないんだけど」

「わかる。俺もだ」

「はぁ……ところでもう一人見たことあるような顔があるね。ボクはあんまり覚えてないけど」

「みんなして酷くない!? 覚えてたのユウ兄だけ!?」

「きっと皆覚えてるから安心しろ。ドリュードみたいな弄りポジションがお前になってるだけだから」

「よく分かんないけど、ドリュ兄と同じはなんかやだ!!」


 ぎゃーっと騒ぎ始めるミカヅキをなんとか鎮圧し、落ち着いたところで入り口からノック音が響き、再び同じ格好をした侍女さんが部屋に入って来る。

 こんなことを言ってはいけないと思うのだが、見た限り全員が男の子のような雰囲気をしているのだ。ラクナの件もあったか、性別不信になりつつある。


「ご主人様の用意、部屋の用意が出来ました。ご案内致します」

「あっ、丁度準備が終わったみたいだね」


 どうやらお迎えする準備をしてくれていたようだ。ただ三日間名ばかりの馬車護衛を務めていただけなのに、高級ホテルを貸しきれることもあり、少々肩身が狭い気もする。一度も魔物と戦ってないこともあるが。


「じゃ、みんな付いてきてくれるかな?」


 ラクナの先行により、これまた違った道を歩む。この階層はお客さん専用ということもあってか、何もかもが綺麗に配置されており、妙な緊張感を覚える。


「ユウ、レム、デートは楽しめた?」

「はいっ! すっごく楽しかったです。もっと長くやりたかったです……」

「俺も楽しかったよ」

「えっ! やっぱりデートだったのかユウ兄!?」

「ああ。羨ましいだろ?」

「へぇぇ、デートしたのかレムはっ!」

「や、やめてくださいですっ」


 ミカヅキに笑いながら言われた照れ隠しのつもりか、レムは俺の背中を尻尾でペシペシと叩く。九本もあるので少々バランスを崩しかける。威力調整のミスだこれ。


「仲いいなぁ……それにしても、ナミカゼ君って、人を寄せ付けにくいけど、離しにくいよね」

「褒められてるのかちょっと微妙なところなんだが」

「ふふっ、それがユウの利点だもん! ボクは知ってたからねっ」

「わ、ワタシもです!」


 これまでの言動を振り返ってみると、同年代、年上の人ならまだしても、竜人、貴族、テュエルなどの王族に対してといい、階級を無視して清々しいほど乱雑な言葉遣いだったな。よくもまぁ不敬罪に遭わなかったもんだ。

 異世界に渡ってきてから大して時間は経っていないが、ずっと最近までこの世界はゲームの中の感覚で生きてきた。出てくる相手は全部NPCってね。


「でも、世界は違くたって……みんな生きてるんだよな」

「……ん? どうしたのユウ?」

「随分とワイルドな振る舞いをしてきたなぁって考えてたよ」

「あはは……自分はそれもいいとこだと思うよ。……世間一般じゃ、悪いとこでもあるけど」


 感慨深く物思いに耽っていると、目的地であろう鉄の大扉が見えてきた。

 まるで研究所への入口ような雰囲気であるため、これまでとはガラリと変わったオーラが感じられた。この鉄の扉は気配探知も通さない材質らしく、奥からの反応は全く感知できなかった。


「申し訳ありませんが、この先はお手持ちの武具を預からせていただきます。それがご主人様からの命令でありますのでご了承ください」

「まぁ、貴族様だもんな」

「えっ、ちゃんと返してくれるよな?」

「厳重に保管させていただきますのでご安心ください」


 アルトは平然と嘘をつき、素手で魔物を倒せると言い張って回避し、ミカヅキは心配そうな表情を浮かべる。

 俺も嘘を言って良かったのだが、相手はこの大きな街の代表である人だ。余計な面倒ごとは避けておきたい。


「……刀も、少なくなったな」

「はい。お預かりさせて頂きました。部屋を出る際にお返しさせていただきます」


 召喚魔法陣から二本だけ刀を抜き取って手渡す。人間界に来て間もないころに物質創造マテリアルクリエイトで創った刀は数十本もあったが、いまや片手で数えられるほどだ。これまでさんざん荒い使い方をしてきたが、そろそろ今まで通りのやり方が通じなくなってくるかもしれないな。残量的な問題で。


 レムは魔法の鞄に入っていた篭手を手渡し、ミカヅキは鎖鎌を渡す。彼は今までどうやって生きてきたのだかまるで分からないな。余裕があったら話を聞いてみるか。


「では、どうぞ」


 重々しい音を立てつつ厚い銀色の扉が開かれた。しかし、その先は暗闇になっており、全く奥が見えない。まるで暗闇を詰め込んだ場所へ歩けと命じられている気分である。本当にここで合ってるのだろうか。


「……あれ? どうしたの?」

「これ大丈夫か?」

「先が見えなくてまっくら、です」

「武器も取ってこの先に行けって……なんか怪しいなぁ」

「ちょっと怖ぇ」


 ラクナは扉の奥へと進もうとして、こちらを振り向く。俺たちといえば予想外の展開に少々警戒してしまい、一歩が踏み出せずにいた。

 ギルドの件も安心しきったところで捕まってしまったのだ。いくら彼は友達とはいえ、夜目があっても先が見えないような暗闇を進めとなるとなかなか足も進まない。


「やっぱり、不安だよね。自分も最初はそうだったけど――ほら、大丈夫だよ! ちゃんと付いてきてね!」


 奥へと足を進め、暗闇に沈んで見えなくなったラクナは安全の保証のためか、真っ暗の中の向こうからこちらに声をかけてくる。


「なんで行かないんだ? おれ、先行ってるぞ?」

「まぁ、色々あってな。多分大丈夫……なはずだ。行こうか」

「……うん。ちょっと嫌な感じがあるけど、多分大丈夫かな」

「多分、ですよね」


 なんとも不安なまま、警戒度を一気に高め、真っ暗な空間を進んでいく。

 光が届かない暗闇の中へ入ると、隣の人はおろか、足元まで見えなくなってしまった。この空間には何らかの魔法がかけられているのだろうか。


「わっ、すっごく真っ暗、です」

「なんかこれ、昔経験したことある気がする……」

「真っ直ぐ進んでね! すぐに着くよ!」


 気配探知も、夜目も機能しない真っ暗な光のない空間を歩き続ける。他の人と足元と足元がぶつかるかと思ったが、それは一度もなかった。


「なぁ、なんでこの部屋はこんな仕掛けになってるんだ?」


 暗闇の中でも先ほどは会話が可能であったため、奥にいるラクナに向けて話しかける。

 ――が、返事が返ってこない。


「……はぁぁぁぁ」


 大きくため息を吐く。今の心理でいえば、呆れに近い。ラクナに限ってそれはないと思ったが……この状況を見る限り、俺たちは()()何かに巻き込まれているらしい。


 そして俺は足を止め、全方向に向けて言い放つ。


「来た当初から思ってたけど……この家はまるでダンジョンだな。貴族のご主人様よ」

「そうだね」


 暗闇の向こうから声が聞こえた。

 その声はアルトでもなく、ラクナでもなく、レムでもなければ、当然ミカヅキでもない。

 完全に知らない声だ。ああ。またこんな展開か。


「暗闇、何処から響く女の人の声。こんなことをやってるお前は……女神の関係か?」

「――何を言っているのですか?」


 突如、突風が吹き荒れると同時に、暗闇はまるで波が引いていくように消えていった。

 明るい光を感じて目を開けば、天井に掛けられたシャンデリアがあった。どうやら周りは先ほどラクナに案内されて歩いてきた廊下とさほど変わらないようだ。

 唯一気になるとすれば――


「で、誰だよ。最初から仕組んでたのか?」


 目の前に佇むのは灰色の髪を持つ女性だった。いや、ラクナの件もあるし、彼女も男性かもしれない。メイド服を装備しているとはいえ油断はできない。

 彼、もしくは彼女は銀色の瞳を持ち、一瞬白目なのかと思ってしまった。

 髪の長さはショートでボブヘアというやつだろう。腰には一本のレイピアが差してある。こちらに向けて猛る殺意はまるで男性のものだ。


「あんた、ラクナのお家のメイドさんか?」

「……」


 先程から返答のない彼女はこちらを一目みると目を瞑った。眠いのかとでも思って気を抜いたその時。


 ――ヒュッと軽い音が鳴る。


「って、いきなり突きかってくるとか。どうなってんだここの教育」

「ッ――!?」


 ギラりとしたレイピアが、一迅の風となり、元々俺がいた場所を貫いた。何かが来そうだと思って半身に体を移動させれば案の定である。


 彼女は何を思ったのか、低姿勢で、なおかつ超高速で五メートルほどの距離をゼロにまで近づけ、腰に差してあった得物で突きかかってきたのだ。


 正直、彼女のスピードは恐ろしい程にまで洗練されており、警戒していなきゃ呆気なく刺されていたと思う。


「武装解除させたのもこのためか?」

「シッ――!」


 呼吸一息。彼女はバックステップで下がったと思いきや、これまた更にスピードを上げて突きかかってくる。フェイントも無く、真っ直ぐに。


「だがまぁ、勇者の方が早いな」


 まるで豪速球がコチラに向かって飛んでくるイメージだったが、俺の目には全然遅く見える。


 空振りならぬ、空突きに終わった彼女は目を丸くしており、こちらに瞳だけを向けて恨めしそうに見ていた。しかし、彼女は技の後にくる硬直状態であるため、動くことは不可能。


「遅い」


 手を伸ばして無理やり首を掴んでそのまま近くの壁に叩きつけ、握る力を強める。あいにく、こちらは究極美少女の白神に殺されたこともあってな。敵には敵の対処をしなきゃ俺が死ぬっても、よく分かってる。


「ぐ……ッぁっ!?」


 だから、罪悪感なんてない。女の人であれ、男の人であれ、敵は敵だ。


「先に手をあげたのはそっちだ。死ぬ覚悟ぐらいしてるんだろ? なら死ね。さっさと、死ね」


 手に入る力が更に強くなる。レイピアをも落とし、俺の手を掴んで微力な抵抗しているがあまりにも無力である。

 ――まるでこいつは元の俺だ。強さを見極められず、無謀に突っ込んだ俺だ。


 抵抗も弱くなってきたその時、ふと傍に鏡があることに気がつく。移り込む俺の姿は――


「……なんで光ってんだ、俺の目」


 手から力が抜けると、ずるりと()はむせ返りながら壁から落ちる。

 鏡を見れば、片眼だけ白い部分も真っ黒に染まっており、瞳の部分は悪魔のように真っ赤だ。


「ははっ、わけわかんねぇ」

「げほっ、げほっ……」


 完全に敵を意識の外へ外せば、徐々に元の目に戻っていき、生まれた当初の色合いに戻っていた。


「……良かったな。死ななくて」


 先ほどまで燃えていた殺意が嘘のように消えていく。確かに相手は襲いかかってきたが、無力化で済む話だし、目的も何も聞いてない。


「――はぁ? 何が死ななくてよかっただ? 俺はさっき、自分でなんて言ったんだよ」


 自分が何も考えず言い放った言葉に、頭が混乱してきた。まるで誰かに操られていて、たった今操作権が戻ってきたような気分だ。だんだんと俺がしようとした事の重さがのしかかってきた。


「これが、本当のナミ、カゼくん……」

「はん? なんですと?」


 荒い息も絶え絶えに、突然彼は教えてもない俺の名前を呼ぶ。


「最高、です、ナミカゼ、君」

「え、なにが――って、え?」


 そんな声が聞こえたかと思うと、黒い霧に包まれてそれは消えていってしまった。もう、何が何だかよく分からない。


「……この世界、分からないこと多すぎるっての」


 そう呟き、廊下を後にして扉を開く。

 目を瞑ってしまうほどの眩しい光が包み込み――


「――君、ナミカゼ君ッ!!」

「ん、あ、あれ? ラクナ?」

「ユウ? 暗いところから出てくるのが遅かったんだけど何かあった?」

「……なんもないさ」


 辿り着いた広い部屋には多数のビーカーがところ狭しと置いてあり、この部屋全体には薬品が混ざった様な香りが漂っている。


「あーら! いらっしゃい!! 貴方たちがラクナのお友達ね!!」

「うっ、やっぱり……」


 遠くのほうから男性の声を無理やり高く出したような声が聞こえる。そしてアルトはどこかげんなりしたようすでその声の主の方向を見る。


「もう、紹介するね? 自分のお父様で、コシュマーダ街の代表、そしてあの七魔衆の一人!! ハウル=グラスディだよ!」

「え……あの七魔衆!?」


 ラクナが指さす方向には筋肉隆々で、ハートのエプロンをした毛の濃い男性が居た。ソファーの側にいて、こちらを手招きしている彼はオカマ口調で、おそらく――根もオカマである。何となく察することが出来てしまった。


「あらー! アルトちゃん!! おっきくなったわねぇ……」

「あは、はは、は」

「アルト姉ちゃんの表情が死んでる!?」

「え、えっと……あの……どういう関係、ですか?」

「お父様、知り合いだったんですか!?」

「当然よ!!」


 手招かれるがままに、凄まじく高級そうな黒塗りのソファーに座らされ、お茶を出してもらった。……なんだこの人、マッチョで裸エプロンして……本当に貴族なんだろうか、彼は。


「あら? あらららぁ?」

「な、なんですか?」


 座らせられたと同時に、体全体にねっとりと舐め回されるような視線を受け、遂に俺は敬語で話してしまう。男子勢にイヤラシイ目で見られる女子の気持ちがわかった気がする。


「貴方、女装すればぜっっっったい、似合うわね。よし、しましょう!! 今すぐにッッ!!」

「お父様っ! 落ち着いてください!」

「アルトちゃんも男装こそが、最大の魅力を引き出せると思うわ!!」

「あは、は」

「そこのおちびちゃんたちも、絶対男の子と女の子が逆になった方がいいわッ!!」

「わ、ワタシもですか!?」

「おれは男だぞっ!!」


 完全に荒ぶる父を止めにかかっているラクナであった。しばらく経って、今日は挨拶のために来たということで落ち着いてもらうと、やっとオカマ貴族の荒ぶりは収まった。


「いやー!なんてカワイイ子が多いのかしら! あたし! 満足!」

「……アルト、知り合いか?」

「知ってるけど……うん……」

「あはは、お父様はいっつもそうだよね。 男は女装して、女は男装するのが最高の美だって」

「そう!! それが!! 世界の心理なのだわッッ!!」


 貴族とは思えない格好と荒ぶりを見せるコシュマーダの代表、ハウルさん。

 となると……


「今までのメイドさんは全部……男だったのか……」


 この家では男が女の子の格好をし、女が男の子の格好をする。その法則に当てはめれば――


「そういえば、全員って言っていいほど、ぺったんこだっ――」

「ゆう! 危険な匂いがするです。挨拶だけでもう帰ろう……?」

「まあまぁ、そう言わずにおちびちゃん。ラクナちゃん、席外してもらっても構わないかな?」

「あ、はい! 分かりました! ナミカゼ君、自分は外にいるね」

「分かった」


 そう言ってラクナはそそくさと外に出て行っていき、この部屋にはいつものメンバー+ミカヅキ+オカマ貴族様のみになってしまった。これから先、ツッコミが間に合うのだろうか。


「さ、て、と。これからは冗談抜きで話しましょうか。アルト=サタンニアちゃん?」

「……そだね、ハウル。ジャイがいつもお世話になってるよ」

「ジャイも心配してたのよ。アンタのこと」

「ちょ……待ってくれ。ハウルさん、あんたアルトが魔王だってこと――」

「ええ。知ってるわよ。なんてたって七魔衆ですもの。それと、ナミカゼ ユウ君。君の噂もかねがね。会えて嬉しいわ」


 手を伸ばされたので、両手で俺よりも大きくてごつい手を握り返し、握手を返す。


 このオカマ、本気で只者じゃない。

今年もまた一年見ていただきありがとうございました。深く感謝申し上げます。 更新は続けていきますので、来年もどうぞよろしくお願い致します。


良いお年を。

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