第208話 休暇一日目 依頼と勘違い
他のギルドメンバーから不審な目を当てられつつも階段を上り、ギルドマスターが業務を行なう小さめの部屋に入る。ここに来るのも二回目だ。
そこでは四方の壁を覆うように、よく分からない魔物の首がいくつも掛けられており、部屋に入ってきた直後に幾つもの視線がこちらに向けられていると錯覚してしまう。ハンティングトロフィーのつもりだろうが、彼女の趣味はまるで理解出来ない。
「これらはな、全て私が苦戦した魔物たちだ。魔物は殺した後にすぐに魔素となって消えるからな。倒すどころか、容貌を記録するのにも苦労したよ」
「ん? たまーに血を出すやつもいないか?」
「それは幻獣だろう? 魔物と幻獣の違いは魔法学校で習ったはずだが?」
「まだ卒業してないもので」
メアリーは俺を嘲笑いつつ、黒革で作られた高そうなソファーに堂々と座り込み、こちらも座るように勧められたのを確認してから俺もゆっくりと腰掛ける。
魔物と幻獣の違いは強さの他に血が出るかでないか、という簡単な判別基準があるらしい。基本的に幻獣の方が上位の存在で魔物よりも強いが、流血死が狙えるという弱点がある。対して魔物の方は流血死は狙えないが、そこまで強くはないとのこと。よって、攻撃して血が出るゴブリンは、この世界で幻獣扱いされているのだ。獣人界で戦った八俣大蛇と同類である。
もっとも、Eランクの幻獣とAランクの魔物では後者の方が圧倒的に強いのだが。
「そう考えてみると、幻獣はチキンプレイしてればいつかは勝てるよな」
「ちきんぷれい……? なんだそれは」
「何でもないさ。それより、討伐依頼ってなんだ?」
「少々気になるが……まぁいい。今の話のとおり、お前に出す私の依頼内容はその幻獣の討伐なのだ」
「服汚れるタイプの魔物か」
「その判断で構わないが、その制服は汚さない方がいいぞ」
ステーキは出してくれないらしく、彼女はギルドの職員を呼び出す素振りすら見せない。少々残念である。
魔法学園の制服ということもあり、汚してしまうと次回の授業は血塗られた制服で出席せざるを得なくなる。クリーニングが間に合えばいいが、確かに汚したくはない。
戦闘服とか買っておいた方が良いのだろうか。
「そうだ、お前はアルトが居なくても、一人でリューグォを討伐できるな?」
「そりゃ出来るが……今回はあいつらの討伐か?」
「逸るな。あいつらは魔界にしか生息しない。流石にいまから魔界まで行けなんて無茶ぶりは言わないぞ」
「じゃ、何でそんなことを?」
「必要最低限の実力を持ち得るかどうかの確認だ。なにせ、リューグォ並の戦力を持つ相手と一人で戦ってもらうからな」
「なんでそんな強い幻獣が人間界にいるんだよ……」
後ろからカチャリ音がしたので振り返って見れば、ギルドの職員がお茶をもってきてくれていた。どうしてもステーキは振舞ってくれないようである。
真面目な表情で腕を組みながら話すメアリーに嘘や誤魔化しは読み取れないので、どうやら真実であることに間違いはないらしい。完全に信用できたものではないが。
目の前でお茶をすすり、一息つくと再び俺の目を見据えてしっかりと話し始める。
「極秘事項なのだが、マシニカルでは裏で魔物の創造を行っていてな。許せないことに、人間をベースにして、だ」
「知ってる。ソラとファラもそいつらと戦ってたしな」
聖霊たちが俺の中へ戻った時に記憶の同調が行われ、その時にさまざな情報が得ることが出来た。
彼女たちがアルトたちを探している途中に出会ったのは、半分が魔物の体で、半分が人間となっている存在。もはや人間と呼ぶのも躊躇われるほど醜かった。
彼らが望んで成ったのか、それとも力を得るために苦肉の策として選んだのか、俺にはわからない。
「知っているとは驚いたが……ソラとファラ? まだ女を侍らせているのか? はっ……お前も隅には置けないな。見るからに女性経験が無さそうだが」
「それ完全にバカにしてるよな。間違ってないけど完全にバカにしてるよな」
大事なので二回。伝われこの思い。
お茶を啜りながら勝ち誇ったような顔で言うのもやめて欲しいものだ。誰だって順序という流れがあってだな――
「すまなかったな。話を戻そう。……マシニカルの技術力の凄さか、完全な幻獣を生み出すことに成功していたらしい。地下深くで閉じ込めて研究していたようだが、いまのマシニカルはもう酷いことになっているだろう? 」
「修繕費ですら国家予算並にかかるくらい壊されたよな」
ギルド本部を破壊したのは俺たちと勇者だが、街を壊したのは殆どは副ギルドマスターのブルーノ、もとい大鬼だ。
逆流で彼の記憶を垣間見ることがあったが、決して気持ちの良いものでは無かった。
分かったことといえば、彼があそこまで狂ってしまった理由ぐらいだ。他人の俺からしても二回目はご遠慮したい追想である。
「それが原因で、封じていた多数の創られた魔物たちがこの世に出てきてしまってな。その頃には私たちもマシニカル居たし、できる限り一掃したが……あまりにも湧き出る幻獣が多くてな。逃がした魔物も数多くいる」
「だから、そっちも真っ先に大鬼のところへ来られなかったのか」
「代償は大きかったが、多くの人命を失うよりはマシだよ。それでだ。今回は、比較的強力といわれてる個体を討伐してもらいたい。場所は……ここだ」
地図を取り出して広げ、ギルドのあるサイバルから指でなぞり、止まったのはこの街の近くの森を超えたその先。まだ行ったことがない場所であった。転移では届かない。
「マシニカルからかなり距離が離れているが、この短期間で移動したと考えられている。悪いことに、この付近には小さい村があるし、できる限り迅速に仕留めて欲しいのだ」
「ただの魔物討伐か? それだけでいいのか?」
「依頼するのはただの幻獣討伐だが、一番近いこのギルド員では難しいんだよ。正直に言ってしまうが、そこまで水準も高くない。お前がいてくれて助かった。……しかし、バンリは一体どこへ行ってしまったんだ」
厳しい目つきの彼女は横目になりながらぐびぐびとお茶を胃へ流し込む。
彼女も総ギルドマスターになったことから、相当忙しい身であるようだ。
当然、俺はこれを受注するつもりである。やりこなせば120万の節約になるのだ。受けない手はない。
「分かった。引き受けよう。報酬金はいらないから、さっきの約束を守ってくれ」
「そ、そうか。それ以上に法外な依頼料を求めるかと思ったが……こちらとしてもありがたい。是非とも守らせて頂こう」
一体俺はこの世界の人間たちになんと思われているのだろうか。言動が思い当たる節がありすぎて思い返したくないが。
「ああ、あともう一つ」
ふと思い出したが、先約であるラクナの依頼は明後日の朝からしばらくかかるのだ。メアリーの依頼の移動時間に三日以上かかってしまったら身も蓋もない。なので――
「今から転移石で俺を近くの村まで連れて行ってくれ」
「……今から行ってくれるのか?」
「ああ。できる限り早いほうがいいだろう?」
「確かにそうだが――そっちの体は大丈夫か? 見たところ傷は見当たらないが、相当な怪我の具合だっただろう?」
「大丈夫だ。こちらとしても予定が詰まっててな。早めに終わらせたい」
行きは彼女の転移石を使ってもらい、帰りは転移魔法で戻る。我ながら完璧な作戦である。わざわざ馬車に揺られながら
何日も待機することはなくなるのだから。
服に関しては魔法を多用して相手を倒せば汚れることは無いはず……と信じている。長期休暇なのだから破れでもしない限りクリーニングも間に合うと思う。店はまだ調べてないが。
「そうか! こちらとしても好都合だ! 早速向かうとしようか。本当に準備はいいな?」
「ああ。いざとなれば逃げるし」
「倒してくれれば時間は何日かかってもいいが、村への被害は無しだ。これだけは厳守してもらいたい」
「了解した」
ソファーから笑顔で立ち上がり、メアリーは転移石を取り出すと勢いよく床に叩きつける。流石はギルドマスター。転移石の使用に躊躇がない。
ピキッという甲高い音が聞こえると、割れた石からは眩い閃光が溢れ、部屋の全てを埋め尽くしていく。いつも見ても転移石は転移魔法よりも派手なイメージがある。
「あ、お茶飲んでない」
今更思い出したが、既に遅い。そのまま光は一層強くなり、ふわっとした浮遊感が身体の中に感じられた。移動してしまったようだ。
「――さて、ここが件の魔物がいるという近くの村だ。居場所についてはこれが教えてくれる」
光が収まり、目の前には――田舎道が広がっていた。左も田んぼ。右も田んぼ。正面には障害物なし。現在は夜になったばかりということもあり、村の入口であろう門の向こうには松明の明るい光が見える。それは、村という名前にふさわしい場所であった。女神の加護の内の一つの夜目が無ければここまではっきりと見渡せなかっただろう。
「ああ、忘れていた。お前の活動を記録するから、これはポケットにでも入れておいてくれ」
そう言われて渡されたのは、子指ほどのサイズしかない小さなガラス玉であった。色は白くにごった半透明で、本当はただのビー玉そのものであるかもしれない。記録するとはいっていたが、もしかしてこれは小型カメラなのだろうか。
「これは?」
「お前の戦闘記録を保存する魔道具だ。幻獣を倒した後にそれを一度でいいから当ててくれ。それと、回収できる素材は全てそっちのものでいいぞ」
「当てるだけでいいのか。ならそうさせてもらうよ」
どうやら、これで倒した相手をタッチすれば敵の討伐が認証されるらしい。魔道具の種類も近代的になってきた気がする。
気配を感じて後ろを振り向けば村の門番役であろう二人が口をあんぐりさせて驚いていた。しかも、石化したように固まったまま。
「だ……誰だ?」
「ああ、驚かせてすまない。私はサイバルのギルドの者だ」
「っ!? ギルドの人たちか。助かるぜ……いまヤベェ奴がいてな」
「それにしても姉ちゃん、俺よりでけぇなぁ」
「ちょっと傷つくからそれ以上はやめて欲しい」
門番の二人は敵意を放っていたが、ギルドの人であると理解すると、気を収めて安心したような表情を作る。ヤベェ奴、とは考えるまでも無く幻獣だろう。
少しだけ悲しそうな顔で語ったメアリーは大きな身長のことを気にしているらしい。触れてはいけない事項がまた増えてしまった。
「気配探知に――映ったな」
長く続く田舎道のその先。うっそうと茂る森の中から異様な気配を感じ取った。人間でもなく、魔物でもない異質なそれは眠っているのか、止まったまま動かない。
ただ、50レベルによるフィルタにすら引っかからなかったので、そこまで強い個体ではないと思う。
「なんだろうな。こいつは」
「聞いてくれっ、さっき茶色の髪の兄ちゃんと、桃色の髪の姉ちゃんが俺らの警告を無視して入って行っちまったんだよ!!」
「……それは本当か?」
「名前は思い出せねぇが、多分兄ちゃんのほうはこの村の人間だ。あいつが小さい頃を見たことがある気がしてな……」
どうやら若者が森の中に入っていってしまったらしい。若かりし故の過ちなのか、それとも突き動かされる正義感に駆られたのかは分からないが、恐らく危険なことに間違いはないだろう。
「そうか、分かった。私も帰るのは一時中断しよう。直ぐにでも出発だナミカゼ!」
「え、俺の依頼は?」
「討伐の邪魔はしない。ただ、私は人探しをするだけだ!」
ダッシュするかのように素早く道なりに森を目指して進んでいくメアリーに、俺は止めることすらできなかった。
依頼の敵だけを俺が倒す、ということでいいのだろうか。
「兄ちゃんもギルドの人なんだろう?」
「あ、ああ。一応……」
「頼むっ、二人を助け出してやってくれ!今の森は間違いなく危険なんだっ」
「っ……ああ。任せといてくれ」
これだけ頼られてるのだ。断る筋合いは無い。恐らくメアリーもそういった理由で突き動かされたのだろう。
踵を返し、俺も彼女を追って走る。
「あの森までは……ざっと一キロってところか?」
彼女の移動速度は速度は相当早く、気配探知では二百メートルほど先に居た。
後からついていくとはいえ、こちらも負けてはいられない。
「……それにしても、凄いな万能薬」
軽い体で空中歩行を使って、跳ぶように移動していることに気がついて思わず感嘆を漏らす。
俺は何度も死を味わい、勇者と大鬼と戦って、元の世界では瀕死ともいえるほどの大怪我をしてた身だ。手術までしてもらい、最低でも一ヶ月は動けないと思っていたが……いまや既に健康そのものだ。筋肉痛の痛みすら感じられない。
「こりゃ、誰もが欲しくなるわな」
思わず苦笑いがこみ上げる。傷口が勝手に塞がるほどの効力を見せるのだ。恐らくどんな病気でも治せるだろう。ラクナに施された二回の万能薬のお代は、ヘタしたら手術代よりも大きいかもしれない。
「……って、魔物が普通に外歩いてんのか」
「ギャッ!?」
ぼーっと物思いに更けながら走っていると、観察眼にこちらに気がついて驚いた魔物の姿と名前が表示された。
小鬼の姿をして棍棒を持っている魔物はフォレストゴブリンという名称で、数は一匹。ギリースーツを纏っている幻獣である。そう、攻撃すれば血が出るので、いくら弱くても幻獣である。
ちなみにレベルは5。最近では殆どの相手のレベルは100を超えていたので、急な落差から強くてニューゲームした気分になる。
「経験値にはならなそうだ――っ!?」
そう言い放った後、空中を蹴って大きくジャンプ。万能薬を飲んだこともあってか、かなり調子が良く、極端に飛びすぎてしまった。体で風を切る感覚は大変心地良いが、落下の恐怖は凄まじいものである。また、森のゴブリンは上を見上げているだけで、驚いたまま動かない。
「着地で足くじいたら大変なことになるっての――」
(主殿)
「まって、今は待って。ほんとに」
突然聞こえてきた二つの声はとても久しぶりで安心感が頭の隅の方で感じられたが、今は緊張の瞬間なのだ。足を挫けば骨折に繋がる。もうベットの上からリスポーンはお断りなのだ。
「ッ!」
両足でしっかりと着地してみたが、思いのほか衝撃は緩いものであった。
高所からの着地には慣れておきたいところである。なぜって? それは……男のロマンであるからだ。男の子はロマンを忘れちゃいけない。魔法だってロマンだもの。
「……よし」
(主殿)
「なんでお前らそんな他人行儀なんだよ」
(とりあえず我らを出すのじゃ)
(しぃーっ、話はまずそれからです)
着地に成功したが、久しぶりだというのに聖霊たちの態度が素っ気ない。塩対応とはこの事だろう。
ギルド本部に関して彼女たちはとても活躍してくれたし、感謝の念を伝えるためにも出していいと考えたので――
「出てこぶべらっ!?」
「ふぅぅ……準備はいいかの。ソラ」
「ええ、ファラ。がっしり、捕まえました……!」
走るのを一旦中止して魔法陣を展開したその瞬間に、二つの影は俺に向かってなかなか鋭いタックルを決めに来る。それも俺が進行方向とは逆に吹っ飛びかねないほどの威力が込められたものであった。
「なんで俺が捕まってんの……?」
「わ、我らが遅かったからあんな男に、男にっ、男にユウの初めてをぉっ……!」
「非常に不服ですっ……こうなればいっそあんな男を忘れるくらいにっ――」
気がつけば地面に押し倒されており、ソラには両腕、ファラには両足を押さえつけられていた。
そして背中には硬い地面の感触と、目の前に広がる砂埃。ああ、なんてことだ……
「制服が、汚れてしまった……」
「もはや同意は必要ない! そうじゃな!?」
「ええ! がんがんやってくださいファラッ!!」
「なっ……お主がやらんかソラッ!」
「ぶぶーっ! 先ほどのじゃんけんでファラがビシって決めたじゃないですか!?」
「いいや! アイコで終わったのじゃ! アイコの場合は我が慈悲の心で譲ろうと言うのじゃありがたく受け取らんか!?」
「我らは二心同体! しかし、我はファラよりもゼロコンマゼロゼロゼロゼロ――秒早く生まれました! 姉として、ファラに譲る義務があります」
「正確には分かってない上に実質一緒であろうが!? それにもし姉なら我らを束ねる長であろう!? さっさとユウを骨抜きにせんかッ!?」
「骨抜きはダメでしょう!? 一つになるのですよ!? ファラは相変わらずズンズンと野蛮ですね!?」
「野蛮なのはお主じゃソラッ! いつもそんな発言をしておるからに――!」
なにやら俺を拘束したまま顔を真っ赤にして口論しているが、彼女たちの俺を拘束する力は段々と弱くなっていく。ちらりと頬をみやれば、互いに真っ赤になっていることが分かった。出てきた途端に何をギャーギャー騒いで話してるんだこいつらは……
「おい。無事で何よりだが、よくも制服を汚しやがったなお前ら――」
「だいたいお前はいつもそうじゃ! いつもそんな子供っぽい言い回しをして恥ずかしくないのかの!?」
「その言葉そっくりお返ししますよ!? そんな古臭い言い回しでめんどっちくないんですか!? 」
「そんな訳なかろうが! こちとら生まれながらにして大人なのじゃよッ!」
「そうなればこちらはさらに大人という事ですね!? ファラよりもいっぱい知識がありますし!?」
「……」
俺が聖霊たちの拘束を離れても彼女たちは全くこちらを向かない。何しに出てきやがったんだこいつら。
「落ち着けよ」
「「主殿は黙れ!!」」
「……ほう」
話を聞かないソラとファラに向けて両手を広げると、右手と左手に彼女たちに対して効果ばつぐんである“擽りの魔法”を発動させ、彼女たちの前で魔法を纏った手をチラつかせた。すると――
「ほんとにそれだけは勘弁してほしいのじゃ」
「それだけは本当にすとっぷです我ら普通に笑い死にますのでだめです」
「あれだけはもうダメじゃ。本当にダメじゃ」
赤かった顔は直ぐにで真っ青に切り替わり、彼女たちは土下座を持ってして俺に対して謝罪する。
あまりにも早いスタイルチェンジであった。よほど擽りの魔法が恐ろしいのだろう。さすがに土下座までは求めてないなかったが。
「で、何を話してたんだ?」
「せ――」
「せ? 一つになるって、まさか……っ!?」
「――我らとの、精霊同化についでですッ!」
「ずっこけたい気持ちに溢れる」
二人は再び顔を真っ赤にして土下座を続ける。血圧的な意味で彼女たちは大丈夫なのだろうか。ふと思い出したが、精霊同化とはギルド本部で戦った鬼の角を折る際にシャナクが俺に取り付いた事だろうか。むしろそれしか同化した覚えがない。男と同化なんてもう二度としたくはないが。
「精霊同化のなにがダメなんだ? 何をそんなに恥ずかしがる?」
「それは乙女に対してちょいと失礼――じゃないのじゃ! 今から話すからの!? 頼むからそれは勘弁!」
ファラが顔をあげて俺の手に未だに魔法が灯っていることを確認すると、凄まじい手のひら返しで応答してくれる。よほどこの魔法がトラウマであるようだ。
「で、なんでお前らはそんなになったんだ?」
「我らが回復してる後……主殿の初めての精霊同化が、シャナクなどという得体のしれない男に取られたのじゃよッ!?」
「精霊同化は、究極にして召喚士の最高の技能っ。その、始めてをっ……うぅぁぁ……!」
「我らが、我らが最初にユウと契約したのじゃぞぉぉぉっ……!」
おいおいと悲しみに満ちた声あげるソラとファラはどこか新鮮であった。
ちなみに精霊同化であろう体験を思い出しても、アニメのように謎空間に飛ばされて 同化した相手 の裸が見れたりなんてしない。
変化という点を挙げるならば、ただ視界の色がモノクロになり、身体の中にもう一つの意志が感じられるだけであった。さらに、息を止めながら運動しているような苦しみが、すべて終わった後に襲いかかってくるので、あまりにも体への負担が大きい技であるのだ。決して、彼女たちがイメージしているものとは程遠いものである。
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