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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第十章 バケーション
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第206話 休暇 一日目 回復と目標

 ラクナが俺たちに特性のポーションを振舞ってくれてから数時間後。俺たちの状態は胃の中を除けばすこぶる快調である。

 筋肉痛、そして怪我による外因的な苦痛は全く感じられず、彼自身が特製の秘薬と言い張るほどの価値はあったようだ。


 効能といい、効き目の早さといい、恐らく品質は最高級といってもいいだろう。あとでバカ高い使用料を請求されそうだ。


「……この気持ち悪ささえなければ完璧なんだが」

「怪我が治るんだよ! いいでしょ?」


 現在、アルトとレムは俺の部屋のベットの上にて、ラクナのポーションに耐えきれなかったのか、ダウン状態である。しかし、彼によればこの反応は至って普通であるらしい。


「気持ち悪さのオマケに気絶させるとか完全に劇薬だろ?」

「祖先の人が、ゆっくり休めるように配合したんだと……思うよ。多分。きっと」

「そうだとしても、ずいぶん無理矢理な寝かせ方だな――本当に二人は大丈夫だよな?」

「そ、そりゃ大丈夫だよ! 使った人は皆こうなってたし!」

「皆こうなってたのな」

「あは、は……」


 少し小さめな木製のテーブルの上に置かれているガラス瓶を横目にしながらラクナは引きつった笑みを浮かべる。

 この瓶の中に入っている半分ほどの緑色のとろみのある液体が、竜人の里にて、俺の回復力を極端に高めたポーションそのものである。

 効能は風から感染症、擦り傷から致命傷までと幅広く、万能薬エリクサーという通り名で、世間では喉から手が出るほど欲しがられている品物だ。

 では、なんでそんなものをラクナが持っているというと――


「お前、貴族だったのな。それも、かなりでかい家の。知らなかったよ」

「な、ナミカゼ君だから教えて上げたんだよ? ほかの人には内緒だからね?」

「分かってるよ。薬物の御曹司様が誘拐されたら大変だからな」

「一子相伝の秘薬なの! 麻薬みたいにいわないの!」

「いたたた」


 彼はサイバルに滞在しているような地方貴族ではなく、もっと大きな規模の家の第一子であり、更には万能薬のレシピの唯一の継承者であるらしい。


 そんなラクナだが、隣に座りながらポカポカと両手で肩を殴りつけるようすは、惑うことなき女の子だ。だが彼は男。ちょっといい匂いがしても、力が弱くても、どこか柔らかくても、それでもなお男の子。凶行に走ってはいけない。

 もしかしたらこれを飲み続ければ俺も女の子っぽくなってしまうのだろうか……


「まぁ、万能薬エリクサーの恐ろしさはよく分かってるさ。別に広めはしないって」


 恐ろしさといえば、あの時の地獄が脳裏に蘇ってくる。

 数々の拷問を受け、数々の死傷を負い、数々の副作用があってもなお死ぬことが出来なかったのは、ラクナの家が創ったものではない万能薬エリクサーを常に注射されていたためだ。


 制作方法は彼が話してくれた通り一子相伝。他の者には口外禁止だ。その事もあってか、ギルドが作っている万能薬はラクナ家のを模倣したものと考えられる。


 あまりよく覚えていないが、俺を痛めつけていたギルド員たちは薬の実験と言っていた。やはり、ラクナの家の万能薬を目指していたのだろう。十中八九利益を独占するためだと思うが。……で、俺はその研究のモルモットになっていたと。


 当時のことは、考えるだけでも苦しくなってくる。


「ほんとかなぁ……なら、ナミカゼ君の秘密を教えてくれないかな? これで万能薬エリクサーのお代はチャラでいいよ!」

「ちっ、流石は貴族様だ。考えることがゲスい」

「いや!? これ普通だったらすっっごく高いんだよ!? ほんとに価値が分かってる!?」

「ラクナとの友情に感謝を。乾杯――ってこれはもう飲みたくねぇ」


 適当に取ったガラス瓶が万能薬エリクサーであったため、すぐさまテーブルに戻す。凄まじい効果が得られるとはいえ、転生した当初に食べたワカメもどきを思い出すほどに風味は最悪なのだ。

 その経験もあってか、俺は口の中に広がる不快感にいくらか慣れてたから良いものの、ベットの方を見れば相変わらずダウンしている人影が二名ほど確認できる。もぞもぞしているので多分起きているのだろう。


「そういえば、ナミカゼ君は竜人の里の時も、アルトさんたちみたいにならなかったね」

「不味いものには慣れてるんでな」

「ナミカゼ君。さっきから思ってるけど、万能薬エリクサーは飲み物じゃないからね。薬だからね」

「話は戻すが、原因は分からんぞ」


 俺の中のスキルである、耐性関連が変なところで仕事しているとしか思えない。

 毒耐性もあれば、気絶半減という微妙なスキルもある。

 そう言えば、対敵特攻なんてスキルもいつの間にか身についてたっけか……


「ちょっとスキルも確認してみるか」

「うーん、なんでだろ。やっぱり特殊な――」


 ラクナが自分の世界に入ったところを見計らい、脳内でステータスと唱えてスキルページを開く。

 こういう所はゲームっぽく作られているのに、なぜ戦闘は痛覚をそのまんまにしておくのだろうか。痛いのが嫌なのは人間誰しも同じはずなのだが。


 ――――――――――――――――――――――――――

 所持スキル


 七属性の魔法の才能/女神の加護/双子座の加護/へパイストスの巧手/体術/観察眼/足音消去/空中歩行/気配探知/気配遮断/魔力増加/刀術/気功術/魔法纏/念話/見切り/体魔変換/召喚/完全毒耐性/完全電撃耐性/気絶半減/魔法物質化/魔法速射/精霊同化/対敵特攻/痛覚軽減/想具展開/

 ――――――――――――――――――――――――――


「ふ、増えたな……」

「――ん? どうしたの?」

「いや、あー……成長したなと思ってな」

「えっと、話が読めない……他のこと考えてて聞いてなかったよ。ごめん」

「いや、こっちの話だから気にすんなって」


 少し前にドワーフの里で確認したが、そと時と比べても増えていることが分かる。

 なにより、俺自身のレベルはさほど上がっていないのに、“空き”という概念を無視してスキルが多くなっているのだ。


 転生してから何十日経過したのかは分からないが、早くから能力創造スキルクリエイトを使い、その付与のためには“空き”という枠が必要なことは理解していた。


 だが、今回に限ってはもう考えが及ばない。シャーリンに創造魔法クリエイトマジックを取られてからは“空き”は見えなくなってしまったし、その後のスキルの習得は、意識せずともいつも自然に身についていた。

 レベルが上がる事に能力が解放されるのか、はたまた誰かが言ったようにスキル自体が努力の結晶の証となるのか。


「えーっと、その、ナミカゼ君?」

「ああ悪い。こっちも考え事――って、近いって」

「あ、あわわわっ、ご、ごめん!!」


 気がつけば鼻と鼻がぶつかりそうなくらいまで彼の顔は近くにある。ラクナはすぐに離れてくれたが、男の子とは思えないほど端正で綺麗な顔立ちと、ふんわりとした柔らかな香りがやたらと印象に残る。俺と同じ男なのに。……ほんとに男なんだよな?


「ええええ、えーっと! そうだ! ななななナミカゼ君ってどこから来たの? 秘密にしてるなら今回を機に教えてほしいなっ!」

「顔を赤くすんなよ。男だろ? こっちまで恥ずかしくなってくるっての」

「は、話をそらさないでっ?」


 耳まで真っ赤にしながらラクナは隣ではなく、机を挟んで向かい側に移動する。

 この反応を見てしまうと、完全にそっちの気があるのかと思ってしまう。そう考えてみると、逆に俺の血の気が引いてしまった。他の人間は分からないが、自分はどれだけ仲が良くても同性では友達が限界である。


「あーそうだな。分かりやすくいえばあの世、だな」

「へぇーそうなんだ――ってあの世!?」

「一回どころか何回も死んでるからな。俺は」

「いやいやいや! ナミカゼ君! それはちょっと嘘でしょ?」

「真っ当な反応で何も返せねぇよ」


 ラクナは机を叩きながら立ち上がり、再び顔を俺の目の前へと寄せる。かなりの近距離なので俺が前へと少し前に首を倒せば唇同士がぶつかってしまいそうなほどだ。

 なので――そっぽを向く。


「うーん、ほんとにナミカゼ君ってよく分からないんだよね……」

「人間そんなもんだろ?」

「自分が貴族って知っててもこんな態度取ってくれるんだから、自分としては嬉しいんだけどね」


 ゆっくりと体勢を戻し、含みのある笑顔を浮かべながら話す彼は、どこか寂しげだ。

 俺が元いた世界では精神的な身分の差は感じられることがあるとはいえ、万人が平等な社会であった。

 ここの世界でいう人間と竜人のような過度な差別も無かったし、あまりこちらの文化には関与してこなかったためか、その笑顔の裏に隠された事情は読み取れない。


「身分が高くて困ることってあるのか?」

「……昔ね、身分違いの友達がいたんだ。もちろん、自分の両親は分け隔てなく認めてくれてたし、あの人とはずっと仲良く出来ると思ってた。……でも、無理だった」


 ラクナから笑顔が消失し、彼は俯いてしまう。

 その瞬間、俺はかなり大きな地雷を踏み抜いてしまったことを確信する。表情筋を硬直させて、出来る限り無表情を貫いているが、彼の事情に詰め寄り過ぎてしまった。


「ああ悪い。変なこと聞いちゃったな」

「ううん。あの経験が無かったら、今はきっとナミカゼ君に話すことすら出来なかったよ」


 無理に笑顔を作るラクナをみて、小さな罪悪感に駆られる。会話能力のスキルをなぜ作らなかったのだ。波風 夕よ。


 ゴソゴソと布がかすれる音が耳に届くと同時に、俺のベットから体を起こすアルトがラクナの背中を超えて見える。


「起きたか。おはようアルト」

「うう……お腹が気持ち悪いのに体の調子がいいよ……おはよ……」


 目をこすり、次に腕を伸ばして彼女は完全に覚醒する。そして見つめた先は――緑色の液体が入ったガラス瓶。

 レムは未だにすやすやと寝息をたてながら眠っており、どの世界においてもお薬は個人差があることが確信に繋がった。


「あ、アルトさん目が覚めたんだね!」

「ラクナ。これ、美味しくない!」

万能薬エリクサーだからね!? 飲み物じゃないからね!?」


 そういってベットから降りる彼女は先程よりも元気よく、凛々しい雰囲気を纏っており、白い包帯を脱ぎ捨てつつも腰に手を当ててドヤ顔を作る。


「ありがとね! そのまずいやつ!」

「これ――もういいや……アルトさんならこの凄さが分かると思ってたのに」


 彼女の調子もお腹の中を無視すれば調子がいいようで、後光に当てられながら先程よりもかなり元気なようすを見せてくれた。

 アルトの場合、恐らく万能薬の価値は理解していると思うので、わざと貶しているとは思うが、なんだか彼が可愛そうになってきた。


「で、ラクナ。これからはどうするんだ? 俺たちは俺たちで適当に過ごすつもりだが――」

「あっ……今回来た二番目の目的がそれだったんだけど、忘れてたよ」

「ふふん、今のボクならなんでもできそうな気がするよ。怪我を治してくれたし、なんでもいってみなさーい!」


 彼女は体の調子もよければ、寝起きにしてはかなりテンションが高い。これもまた薬のおかげなのだろうか。


「あのさ、自分……今日実家に帰るつもりだったんだけど、護衛の人が急に来られなくなっちゃってさ。だから、実家までの護衛を、実力のあるナミカゼ君たちに頼みたいなって思って!」

「あれ? ラクナのお家ってちょっと遠いところにあるのかな?」


 アルトは当然のように俺の隣に座り、次にくる情報を待つべく正座する。

 俺といったら、シャナクの精神力が影響しているのか、彼女の胸や、匂い、そして僅かに触れ合う感覚を意識してしまい、気が気で無くなってしまう。そう、これはシャナクのせいだ。なんで俺はこんなチェリー感に溢れてしまったのだろう。


「うん、ちょっと遠くてね。馬車で三日ほどの街なんだ」

「ここから馬車……というと、コシュマーダぐらいかな?」

「そうそう! アルトさんは行ったことあるのかな?」

「どこそれ」


 たった四文字を言い放っただけなのに、二人の視線が俺の目を抉らんばかりに突き刺さる。この世界に生まれてまだ少ししか経ってないのだ。この程度の無知は許して欲しいところである。


「こ、コシュマーダぐらいは、いくらナミカゼ君でも……」

「わからん。すまんな」

「じゃ、ボクの出番だね!」


 何処からか変装用のメガネを取り出し、教師のような雰囲気を作り出す。

 どうやら今回もアルト先生にこの世界の解説を頼まなくてはならないようだ。


「コシュマーダは、人間界の中でもっとも商業が発達した場所だよ! お洋服に食べ物になんでもある! ……ただ、そこに行くには、どの方角でも魔物が出るような森を抜けなきゃならないんだ」

「マシニカルが機械で、コシュマーダが商業。そのうち料理の街とかが現れるんじゃないか?」

「ナミカゼ君。実はあるんだ。それ」


 ラクナですら真顔で言い放った。

 そろそろ俺も常識スキルが必要になってきたようだ。


ご高覧感謝です♪

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