第20話 ギルドマスターの罠
「はぁ……なんでこんな事に」
俺は異世界に来てから初めて大きな溜息をついた。
今の現状を説明しよう。
ここは冒険者ギルドの二階にあるギルドマスターの部屋である。
この場所はまるで山賊のボスの部屋かと思うほど、ガラの良くない雰囲気が漂っており、壁には鹿の首や反り返った剣が飾られていた。
また、アルトや赤髪の鎧の男はこの部屋にはおらず、俺とギルマスの一対一の会話がはじまるのである。
赤髪の彼はギルマスから依頼された相当難しい内容を完遂してきたらしく、報告にきたようだ。もう帰ってしまったが。
アルトは注意だけでおわり、先に帰らせてもらっていた。
今頃は依頼を受けてお金を稼いでいるだろう。
そうして残された俺はいま現在、非常に困っている。
「これがなにか知ってるか? 召喚士」
ギルマスから一枚の写真をテーブルに置かれる。
その写真に映るものは、俺が召喚士狩りの首謀者らしき人物に向けて、放り投げることによって使用した、ブーメランのような凶器の写真だ。腕が落ちてしまうほどの威力と殺傷力がある。殺人まで持ち込んだとはいえ、殺したのは俺ではないので、息をするように嘘をつく。
「検討もつかないな。なんだこれ?」
「これは召喚士狩りの連中が全滅した場所に落ちていたものだ。お前は召喚士だろ? 何かしらないか?」
「召喚士違いだな。俺には到底考えが及ばん」
「ほう、なら質問を変えよう」
このギルマスは最初から俺の事を疑っているようだし、なかなか厳しい駆け引きになりそうだ。それと、この凶器は俺が作ったものなので、知っているもなにもない。
「これはだな。リューグォの角という。なぜギルドに入ったばかりのお前が、相当危険な“魔界”の魔物の、生息地すら不明である、リューグォの角を、持っていたのか?」
リューグォの角を大きなテーブルに乱雑に置きながらギルマスは強調しつつも話す。明らかに俺に裏があると見て話しているらしく、相手の目的は未だにわからない。
事態をこれ以上大きくしたくないため、俺は嘘を重ね、何とか隠し通すように頑張る。
「それは俺の親の物だ。金がないから売っただけだ。詳細は知らない」
「ほう……」
どうもはなっから俺の事を信用してないようだ。
さて、どう抜け出すか。戦いは待ちの方が強いので、黙って流れを読む。
「お前がこれを親の物だとするならそれもいいだろう。だかな、あのお嬢様といい、お前といい、私の威圧を全く気にしなかった。Sランカーのバンリでさえ私を畏れたというのにだ」
バンリとはあの赤髪のことだ。意外とランクは高く、Sランクだ。かなり上の方である。どうりで人気があった。例えるなら大人気アイドルだろう。そりゃ野次が飛んできますわ。
「答えろ。お前は、何者だ?」
ここで俺は召喚士だと言っても、それは知ってると返されそうだ。非常に返答に困るが、とりあえずようすを見てみようか。
「お前らが知っている通り、俺は、俺だ」
「そういうつまらないことを聞いているんじゃないんだよ。私はお前の本当の正体が分からないんだ。私の予想では、魔法によって人間に化けた魔族か、とも考えている」
ギルマスの威圧感が高まる。一般人なら失神してしまうレベルの威圧感だ。怖がらせようとしてるのか、わりと本気で威圧しているらしい。が、相手が悪かったな。
「あんたからしたらつまらないことだろうが、俺には大した能力はない。期待しても無駄だ」
俺は焦らず、無力である ということを相手に伝える。
「あくまでもシラを切り通すつもりかい?」
「シラもなにも……俺は召喚士だぞ?」
もはや特技と化したポーカーフェイスだ、最近使いどころがありすぎこの顔に自信がついてきた。
「くくく……どうしても言わないつもりかい?」
笑いながらギルマスは言う。
諦めオーラが伝わってきたのでこの駆け引きは俺の勝ちだろう。
「何のことだかさっぱりだが、帰っていいか? 俺はさっさとランクをあげて、金を稼ぎたいんだが」
嘘と本当の事を混ぜると本当の事のように聞こえるらしいので、俺は適度にまぜつつギルマスに問う。
「……ああ。時間を取らせてすまなかったな」
よし、逃げられそうだ。このチャンスを逃す訳にはいかないな。
「あんたも仕事上大変なのはわかるが、俺はこれで失礼する」
「……ああ」
この駆け引きは俺の勝利で終わりなはずなのだが何故コイツは笑っているのか。怪しい。とりあえずギルドを出るまで油断が出来ない。
嫌な予感がしたので俺は背を向け早足で木のドアに向い、ドアノブを手にとった。
――その時、リューグォと同じぐらいの強烈な殺気が、俺の頭上から足元まで一刀両断を狙う気がした。
すぐさまに俺はドアノブから手を離し、左へと身を翻し回避する
「なっ――」
一刀両断をしようと大振りに払われた大剣が、俺が元いた場所を木っ端微塵に破壊する。右側の扉は跡形もなく破壊されてしまった。
床は相当固いようで無事であり、崩落という事態は起こらないようなのでまぁよかった。かなりギリギリの回避である。
「おい。突然あぶねぇよ……当たったらどうすんだ」
「寸止めするつもりだったんだけどな。私は……バンリより上のランク、元SSランカーだ。その全力の一撃を回避しても、お前はシラを切り通すか?」
「俺はFランカーで召喚士だ。お前の実力が落ちたんじゃないか? その一撃もお前の全力だとは思わないがな?」
俺は軽く挑発して逃げる隙を作る。
が、流石はSSランカーだ。
この程度の挑発には乗らないようで大きな声をあげて笑っていた。
「ハハハッ!! 貴様、本当に召喚士か?」
「あんたらの施設で判定したんだ。真実はあんたらが知っているはずだが?」
「くくくっ面白い奴め」
「今度こそ帰らせて「まぁ待て」……」
完全に目を付けられてしまったようだ。ああ。無情。かといって、避けなきゃ死亡だったしな。
「あと一月後にこの街で有名な闘技大会がある。それにお前は参加しろ。闘技のエキシビションマッチに世界中のギルドの精鋭を集めた試合があるんだが……それをお前を代表として選びたい」
「断る。なぜそんな面倒くさいことに参加しなくちゃいけないんだ。そもそもバンリでいいだろう? 何回もいうが俺は強くない」
普通に参加して賞金が貰えるならまだしも、エキシビションマッチは別だ。特にメリットはない。
「くくく……ならこうしようではないか。私の権限で現在秘密裏に調査が進められている 謎の魔法書があるダンジョンに入れる権限をやろう。どうだ?」
魔法書、ねぇ? 魔法は創れるが発想の手助けとしていいかもしれないな。が、面倒くさいことはお断りだ。
「……断る」
「なかなか強情な奴だな。全世界のギルドにお前を知らしめて干してやろうか?」
コイツ腹黒いな。受けるしかないのか? 世間体は大事であると何度も教わったし、やはり受ける他ないだろう。手のひらドリルだが気にしてはいけない。現代社会は関わり合いが重要なのだ。
「はぁ、非常に不本意だが受けますよ。報酬は忘れないでくれよ」
「任せておけ。くくく」
完全敗北したな、俺。
「さぁ。帰っていいぞ? 今度は攻撃しないので心配する必要はないぞ」
ああもう疲れた。ベットが恋しい
二階から降りると階段でアルトが待っていた。
結構長い間話してたと思ったんだが。
「あ……大丈夫? 相当強い結界貼ってあって僕はこれのせいで、助けに行けなくて――」
「ああ。大丈夫だ。それよりずっと待っててくれたのか?」
「うんっ! そりゃ待つよ!」
帰っていいって伝えてたはずだが、これはアルトの優しさだろう。まるで女神だ。魔王だが。
「待たせてごめんな。ありがと」
俺は謝罪と感謝の意を同時に表す。するとアルトは
「ん!」
頭を突き出してきた。
勿論ここはギルドの中であり、他の人の視線が集中している。
「場所弁えてくれ……」
と、いいながらも撫でてしまう俺はやっぱり甘いのだろう。
「ふふふふ……」
幸せそうなアルトを見て俺はしみじみ思った。
そして、太陽が真ん中を過ぎる頃、俺は今度こそ薬草収集の依頼を受ける。図書館にはいけなさそうだが、一日分の宿泊費ぐらいは稼げるため、その狙っていた依頼を受注することに決めた。
「はい。薬草の種類はギルドにある本に書かれていますので種類は問わず、累計百本程採取してくれば依頼は達成です」
「百本か……それを今日のうち終わればいいんだな?」
意外と多いのは種類を問わないからだろう。
「期限はいまから一週間ですので、それを過ぎると失敗です。今の貴方にはデメリットは有りませんが、一ランク上がると降格というものがあり、依頼を三回連続で失敗すると降格となります。また、あまりにも失敗を重ねると、ギルドから強制退会させられますのでご注意ください」
「ほう、覚えておこう」
「薬草に関する本はそちらから見て左奥の部屋にあります。よろしかったらご覧下さい。防音の結界が貼ってありますので静かに読めると思います」
「なら行く前に見させてもらおうか」
そういって俺はギルドの施設である図書室へ入っていった。俺のギルドでの扱いを普通にしてくれるのは召喚士と伝えてくれたあの人だけだ。業務用スマイルでも嬉しい。
アルトはきっと別の依頼をうけるだろう。アイツだってランクをあげたいはずだしな
「さてさて、念願の本の楽園だが植物の本は――っと? 何だ、この本は」
手に取った本は少し古く、表紙に書いてあったのは
クラス別特別能力・魔導クラス編 とある。
「特別能力ってのはめちゃくちゃ気になるな……まぁ時間はあるし、ゆっくりさせてもらおうか」
そう呟くと、薬草の本ではなく、クラスについての本を読み出してしまった。
ご高覧感謝です♪




