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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
199/300

第199話 本気の一撃

 少し気だるげな体を無視して外に出れば、戦場の渦中とも取れる無残な光景が見て取れた。


 前回目にした時には壁かと錯覚してしまうくらいに無数にあった建物郡は、見る影もなく崩壊していた。あるものはへし折られ、あるものは横っ腹に拳が通ったかのように巨大な穴が作られている。

 大地を小刻みに震わせる振動がこちらに届けば、小さく見える建物がまたひとつ倒壊していった。


 ――ウォォォォッ……


 微かに大鬼の嘶きがこちらまで届く。あの魔物の姿が小さく見えることから、目的地までは少々距離があるようだ。


「むぅ、あやつらでもまだ仕留めきれていないとは……よほどの強者とみれるの」

「ユウがばたんきゅーしてはや一時間。そろそろ倒せていると思ったのですがね」

「ふぉほ! 我らが主が帰ってくるのを待っていてございましたのでしょう!」

「とりあえず向かうか。あいつらじゃ、いつまで経っても仕留められないだろうしな」


 見張り役であるのか、外で巡回していた白い甲冑を装備した騎士たち目を盗みつつ、目標である魔物の元へ一気に走り出す。

 女神がわざわざ俺の夢にまで出現し、討伐依頼を伝えに来たのだ。現在戦っている彼らでは討伐不可能であった事は既に推測済みである。


 聖霊たちは既に現界しており、彼女らの姿は大人っぽい黒チャイナドレス。そしてプニプニは人間形態になり、相も変わらず黒い執事服を纏っている。


「む? その視線は我らが魅力にデレデレですか?」

「なっはっは! 我の方が似合っておるであろう? 」

「いえ、我の方がばっちり似合っています」

「ふぉほ! 某の服の変化に気がついておられでしたか! さすがはユウ殿ですな!」

「「お前も変わってたのかよ」」


 角を曲がり、途中に現れた鳥類の魔物をなぎ払いながら裏路地を抜ける。

 恐らく、ギルド本部の地下施設から抜け出した一種であろう。また、大鬼の姿は視界では捉えられるものの、気配探知ではまだ不可能。もう少し先まで走らないといけないらしい。


「ふぉほこれはですな、ユウ殿の魔力の質が変わってしまった結果でございます」

「魔力の、質?」

「お主が原因なのじゃ。いや、正しくいえばユウの取り込んだあやつ(シャナク)が異質じゃから、かの」

「分かりやすい例え方といったら……ぽーんとあがる花火ですね。赤色の花火から緑色へといったものでしょうか? 少し火薬が変わってしまったのです」

「とにかく、あまりにも黒すぎるのですな。彼の放つ邪悪な魔力に某らも影響を受けてしまい、このような姿に」


 どうやら俺がシャナクを取り込んだことが原因らしい。確かに彼は武器を持たない勇者でさえ手こずった程の実力者だ。

 そうなれば持ち合わせる魔力も戦闘力も余程のものだろう。しかし、存在するだけで影響を及ぼすというのは些か現実味がない。そのうえ彼女らは俺のように呑まれることもなく、しっかりと自我を保っているのだ。


「お前らの身は大丈夫なのか?」

「ご覧の通りじゃ」

「肌のツヤツヤが良くなりましたよ」

「ふぉほ! 確かに若返ったような気がしますな! ソラ様とファラ様の対応により、シャナク様からの魔力をご拝借いただきましたのです! このように――」

『ギャゥゥゥ……』


 走っている俺達に向かって立ち塞がるかのように現れたのは、ゾンビと狼を混ぜてしまったかのような生物であった。それは肉体が朽ち果てそうなほど酷い状態であったため、あまり見つめたくないものであった。

 プニプニがその魔物に向けて手をかざすと、狼の足元から間欠泉のように、勢いのある水流が噴出する。


 弾き飛ばされるかのように空へと打ち上げられた狼は、断末魔を聞くこともなく何処かへと飛んでいった。


「黒い……水流?」

「ふぉほ! そのとおりに御座います!」

「主殿のおかげで魔法すらですら真っ黒じゃ。服装なら元に戻せるがの」

「あ、プニプニは水属性魔法が一番得意にできるらしいですよ。我らはすっごい聖霊なので全属性いけますけど……そういえば、プニプニもでしたか」

「主殿の中で灯火トーチの魔法使ったのじゃが、炎が真っ黒じゃったぞ!! 起こりうる属性魔法が全部真っ黒くなったのじゃ!! 日焼けなんてレベルじゃないのじゃよ!?」


 逆ギレするファラを置いておいて、裏路地の出口を見つけたかと思いきや、再び目の前に魔物が立ち塞がる。

 今度はゾンビとカマキリを合わせたような姿である。生物災害のゲームに出てきても違和感のないグラフィックであった。


「プニプニの得意属性は水とか――初めて聞いたけどなッ!!」


 相手は半分昆虫ということで、炎が有効と見た。今回使う魔法は火属性の火炎球を打ち出すシンプルなものだ。単純だけあり、想像はしやすい。

 真っ赤に燃え盛る火炎の球体をイメージして掌に魔法を創り出した……のだが、現れた炎玉は真っ黒なうえ、メラメラとプロミネンスを猛らせている。――どうやら通常は紅い炎の玉を作り出せるのだが、シャナクを取り込んだことにより、ありとあらゆる魔法が真っ黒になってしまったらしい。


 色は威力に関係がないということで、問答無用で指先から火球を放てば、カマキリは断末魔に近い声を上げて倒れる。


『キョァァァッ!?』

「お先行ってるぜ少年っ!」

「――っ、この声」


 聖霊たちの黄色い声を無視して駆け抜け続けていると、背後から更に上のスピードで影が俺達を追い抜いていった。

 背中から掛けられたその声はつい最近聞いた記憶がある上、彼はもう死んでしまったと思っていたのだ。


「スピード上げるぞ。あいつには負けてられるかよ」

「お? 対抗心じゃな!」

「ピチピチの男の子ですね」

「ふぉほほ、これ以上とは! 誠に召喚士サマナーとは思えない発言ですな!」


 大地を走る速度を上げる。もう乗用車とかけっこをしても勝てるのではないかと思える速度だ。ブレーキも何もなしに壁とぶつかってしまったら相当痛いだろう。


 気がつけば大鬼の姿は目の前に立ち塞がる壁のように巨大に存在しており、なおかつ殆ど無傷である事が確認できた。もう少し頑張ってもらえなかったものか。


「ドリュード。俺たちを抜きっぱなしでいられると思うなよ?」

「 っ!? もう来たのか!?」

「現在マスターはシャナクからどくどくと魔力を提供されていますから。この程度は余裕のよっちゃんです」

「さて裏切り者よ、お主はなぜそんなに全力で走っておるのじゃ? 何処に向かっておる?」


 ソラとファラの冷徹な視線、そしてプニプニの見定めるような目を見てドリュードは驚いたようすを見せた後、走る速度を上げて正面を向いた。

 彼の瞳には、ギルドの地下で剣を打ち合った時に比べて目的の曇りがなく、ある程度の覚悟を決めた、そんな意志が感じられた。


「頼まれたんだ。あいつの生涯最期の頼みをよ。だから、これだけはなんとしてもオレはやり遂げて見せる」

「ふぉほ。良い目をしております。ユウ殿。彼は敵ではありませんぞ」

「一概には信じられないが、本格的な勝負は――ここから、だな」


 プニプニが柔らかい笑みを浮かべて正面を向き直せば、目の前には巨大な影が拳を上げ、音を殺しながら振り下ろしている真っ最中であった。


 魔物は俺たちに気が付いていないようだが、着弾点では凄まじい嵐が巻き起こり、その衝撃波はその場にあるものを全て壊し尽くさんと暴れ回って……


「来るのじゃ!」

「グンッと突っ込みます!」

「走り続けろっ、俺が止めるッ!!」


 衝撃波は半円状に広がることもあり、破壊の嵐は大地を巻き上げながら迫り来る。

 避けようとしても逃げる場所がない。こうなれば思いっきり風属性をぶつけて相殺するのみだ。

 魔法纏を使用、武具を取り出し、斬り抜けるッ!!


「はぁぁッ!!」


 迫り来る衝撃波に対して、刃を一閃。

 魔力の込められた一撃は剣圧となり、衝撃波の中を駆け回る。

 その通った跡だけ、無風の空間が作られた。

 その空間を走り抜けていく。


「ふぉほ! 流石にございます!」

「俺もよくこんな人外じみたことが出来るようになったもんだ」

「っ、おい! 次は前に誰かいるぞ!!」


 衝撃波を軽々しくいなして走り続ければ、魔道士のような格好をした男の子がいた。

 宝石をはめ込んだドレスローブを装備しており、ゴージャスな服装をしているので、一度見たその人物は楽に把握出来た。


「君たちどうしてここに!?」

「マーリン、だったよな? 助けに来た」

「っ、あっちには円卓の騎士だって?! クソッ、師匠の言うことに間違いはねぇってか……!?」

「君たちの助けなんていら――ッ!?」

『ナ……ミ、カ、ゼェォォォァァッッ!!』

「マーリンッ!!」


 あのデカブツは途端に血眼になり、これまでとは違う雄叫びを上げたことから、俺を狙っている事は間違いないようだ。

 目の色を変えた大鬼は、こちらを見据えて腕を振り下ろすという単純な攻撃を放ってくる。

 単純な攻撃ではあるが、凄まじい質量で予想外の威力を持っていることは間違いないだろう。


「動かなくていいっての!! 《セイント・ラ・シルド》ッ!!」


 回避行動をとろうとしたその時、目の前で半径五メートルほどの大きな膜が張られた。彼の指示もあったことにより、その場で待機していたが、どうやら正解であったようだ。


 うっすらと白い十字架が浮かんでいる薄膜は波紋を広げながら衝撃波を外へと流す。

 破壊の力は流れに沿ってバリアの貼られていない周囲を巻き上げ、激しい揺れと砂煙を巻き上げる。


「でぇやァァッ!」


 拳を薄膜に叩きつけたまま動かない大鬼の背を超えて、気合の声が届く。元を辿れば、黒光りする肉厚の大剣を構えながら、急接近する影が一つ。彼は俺が使用する魔法纏のように、仄かな朱を帯びていた。

 フルアーマー状態なので顔は分からないが、甲冑から察するに、円卓の騎士の騎士の一人、ケイと呼ばれる人物だ。おそらく味方であろう。


「――ォォ」

「くそっ……」


 巨大な剣を振り抜くことにより、紅い斬閃が古の樹のように太い巨人の足へと照り映える。

 しかし微かに聞こえた声は悪態の一種であり、あまり喜びの雰囲気は感じられない。


「なにやってるの!? 早く逃げてくれないかな!?」

「俺達も倒しに来たんだっての」

「はぁ?! 君たちは対四魔波動アンチエレメンタルが出来ない時点で足でまといしかないっ!早くどっかに消えて――」

「オイッ!! 前を見やがれッ!!」


 その焦燥に満ちた声に従い仰ぎ見れば、足元を斬られたことなど気にも止めないようすで、その斬られた足を大きく振り上げ、蹴りの構えをとっている大鬼の姿が確認できた。

 蹴りは殴ることより威力は数倍とのこと。今度こそ避けるが吉だろう。


 しかしだ。この周りでは様々な天災がいっせいに引き起こされたかのように、ある場所では火炎が巻き上がっており、少々遠くに目をやれば、白く広範囲に凍りついている建物が確認できた。挙句の果てには建物の一部が砂と化している目を見張るような現象も見ることが出来た。


 この場所で何が起こったんだ?


「……いろいろ、やばそうだな。ここは」

「そろそろ暴れるとしますかのッ!!」

「ええ、ガンガン行きますよ!!」


 先行してソラとファラが目の前から掻き消える。

 風を巻き上げ、気がついた頃には彼女達は大鬼の頭を挟むように空中に佇んでおり、両手にはそれぞれ電撃が溜まっている。


「「電磁撃マグネティックボルト!!」」


 青白い雷が魔物の頭を挟み込むように勢いよく発射された。

 まるで落雷のような轟音を発しながら無数に枝分かれしていた雷撃は指示に従って目標に向かっていく。

 しかし、これだけでは彼女達の行動は終わらなかった。


 電撃を放ったまま、両サイドにいる聖霊たちは魔物の大きな頭の周りを高速で周回し始める。

 霞むような速度で移動し続ける彼女達の姿はいつしか線になり、それは西遊記の悟空が頭につけている緊箍児きんこじのように、はっきりと形作られていく。


「――ウガォ!?」

「「電磁縛ボルトバインド!!」」


 作られた束縛輪はみるみる小さくなっていき、今にも蹴りを放とうとしていた大鬼の頭を締め付けた。


 突然痛みを感じたためか、魔物の攻撃は中断させられて、前掲姿勢のままこちらへ倒れ込んでくる。

 あまりに鈍い攻撃だ。何故騎士さんたちは倒しきれないんだろうか。


「ふぉほ! やりますぞ!!」


 老紳士であったプニプニの腕はにょもにょと変形し、いつしか片腕はガトリングのような形になっていた。完成したゴツくて黒光りするガトリング砲は、キュララララ……と回転音を響かせ、同時に彼の体内の魔力は高まっていく。


 え、なにそれめっちゃカッコイイ。


「むうッ!!」


 バイブレーションをそのまま大きくしたような発砲音と共に、無数の弾丸が射出されていく。

 眼前に弾幕が張られ、それらはすべての苦しみの表情を浮かべる大鬼の頭部へ放たれた。


「俺も少しは見せないとな」


 シャナクを取り込んだ事もあるのか、使用できる魔法の中で闇属性の利便性が非常に増した。その幅は、気体固体液体硬性軟性の調節など多岐に渡り、それも自由自在である。


 ただ、使用する事に頭を支配するは彼の苦しみに満ちた記憶だ。

 彼の記憶では、信じていた友に裏切られ、暗く地獄ともいえる苦痛の満ちる空間に幽閉されたり、英雄と持て囃された世間からも嫌悪される存在となってしまった。など、見ていて気持ちいいものではない。


 闇属性は恨みの力を糧としている。どうやらこの情報は間違いなさそうだ。

 力を得る代わりに、彼の怨念ともいえる記憶が混ざるため、長く使っていれば気が狂ってしまいそうだが、これは彼の魔力を使用する際のデメリットといったところか。

 お金も魔力もあまり借りないようにしたいものだ。


「魔法速射」


 倒れゆく大鬼を視界に捉え、背後に四色の魔法陣を浮かべながら刀を構える。未だあの魔物は体制を整えたり動く気配はまるでない。さっさと仕留めてしまおう。


「滅閃」


 一歩だけ強く踏み込んで大地を砕き、脚に溜め込んだ力は前へ進む爆発的な推進力となる。武芸によって得られた力は刀に込められ、それは灰色の光を帯び、身体を包む加速感によって景色は早送りのように流れる。

 空を翔けるが如く、一足飛びで接近すればウィークポイントは目の前だ。


「はぁぁぁッ!!」


 大鬼の片方の角に狙いをつけ、武芸により威力の増した一撃を気合の声と合わせ、全力で振り抜く。


「……っ!!」


 刀から返るメキリとした手応え。これはダメージを通したとの確信があった。しかし、完全に角を切り落とすことは出来なかったので、その点は少々予想外であった。


「――ォォォッ!!」

「オマケだ」


 鬼の額を踏みつけ、元来た方向へと勢いをつけて下がる。

 離れる途中に、背後に待機させていた魔法陣のエネルギーを開放し、それぞれの陣からは勢いよくレーザーが照射される。


 真っ直ぐに放たれた光線は全て狙った場所へと迫っていき、カラフルに閃光を散らしながら炸裂した。


 モクモクと出現した煙が大鬼の顔を隠し、ゆっくりと倒れ伏す――というところで魔物は突然少しだけ軽く跳ねて体制を整えた後、肩膝をついた。ダウンにはならなかったが、ダメージは与えたようだ。ここがチャンスである。


 しかしだ、苦悶の声は聞き取れたものの、こいつは全くといっていいほど強い相手とは思えない。こんなやつが相手なのに、騎士さんたちは何処に手こずっているのだろうか。


「ガキ共に負けてられるかよ……オレは大人なもんでなッ!!」


 最後にドリュードが腹部を斬られたとは思えないほど俊敏な速度で鬼の足元まで接近し、飛び上がったかと思えば、巨大な相手の顔部で声を張り上げつつも、終わりの見えない猛ラッシュを加える。まさにそれは獅子が獲物を狩るような勢いであった。


「おぁぁぁぁぁッ!!」


 何かの思いをぶつけるかのような数十連撃をし終える頃には、いつしか彼自身が赤い閃光を纏っており、最後の一撃の蹴りは自身の何十倍もある相手を吹き飛ばすほどの威力を持っていた。


『――ォォ、ォ』


 予想外の攻撃の衝撃により、大鬼は少しだけ打ち上げられ、前傾姿勢だった体はいつの間にか後傾姿勢となっており、そのまま仰向けで轟音を響かせながら倒れていった。


 大きく距離を取ったドリュードはこちらに戻ってくると、満足げな薄ら笑みを浮かべつつ、声を張り上げた。


「はっ、どうだよ! 騎士どもっ!!」

「お前は誰だよ? てか、おめぇの攻撃が通ったのか?!」

「おかしい……対四魔波動アンチエレメンタルを使った気配は全くないのに? 一体どうなって……」

「なんだそれ。すごそうだな」


 恐らくケイであろう人物と、マーリンが俺とドリュードを見て驚きの表情を浮かべる。

 アンチエレメンタルとは如何にもカッコイイ技じゃないか? ぜひご教示願いたいものだ。しかしだ、まだこいつは恐らく生きている、と今なお自分の第六感がそう伝えてくるのだ。ぜひともこの予感は外れて欲しいものだが……


「何をしているッ!」


 豪炎を纏って何処からか飛び降りてくるのは白い甲冑を装備し、輝く宝剣を手に持つ騎士。そういえば前回こいつらに出会った時には彼もいたな。


 手に持った剣を巨人の頭部に叩きつければ、彼の纏っている焔は瞬く間に燃え移り、激しい熱量をもってして全てを焼き尽くす。

 激しい炎が舞い上がり、火災旋風までもが発生したため、俺達は下がって距離をとる。


「この……っ、あっつい! おめぇこれだけやればもういいだろ!!」

「何を言っているんだ。 こいつはただ遊んでいるだけだ!! 勝負は二波目からだ!!」


 パキパキと炎が激しく燃え盛る中、火焔の中に包まれた大鬼がニヤリと口角を吊り上げる。そのようすを見て、全員が戦慄を覚え、武具を構え直す。どうやらまだまだ戦闘は終わらなさそうだ。


「まだまだ戦えるな?」

「当然じゃ、それにこっちも……発射準備完了なのじゃ!」

「マスター! 割とぶっぱなしますッ!!」

「なっはっは! 風穴ぶち開けてやるのじやぁッ!!」


 掛け声と共にソラとファラの持つ想具から放たれたのは、灰色で人を簡単に飲み込めるほど太い光線であった。

 その一撃はまるで宇宙戦艦が放つような重みのある砲撃で、使えば必ず敵を一掃出来るのではないかと感じられる程に見ていて心強いものであった。


 空から照射されたビームは仰向きになっている大鬼の腹部へ。しかし、燃えている魔物は攻撃が迫ってきているのにも関わらず微動だにしない。

 放たれた光線は真っ直ぐに突き進み……柔らかいであろう腹部を貫いた。その瞬間をもって、世界が轟音と共に白く塗りつぶされる。


「ふぉほ……!? これは!?」

「これはオーバーキルだろっ」

聖霊あいつらってこんなにヤベェやつだったのかよ……!」


 衝撃の余波が吹き荒れ、閃光が収まった頃にはその場にいる全員が顔を両手で覆っていた。

 ドリュードは空を見上げ、初めて聖霊が大規模な魔法を使った光景に息を飲み、ただ呆然としていた。


 光が完全に収まれば、大鬼のようすも確認できる。ソラとファラの報告を待つのみだ。

 マーリンやケイは魔物のようすを見るまでもなく勝利を信じているようなオーラを感じ取ったが、白い甲冑の男は構えを解かず、ただなにかに備えていた。


 どんな魔物でさえまともに受けてしまったならば、存在が消えてしまいそうな威力を持つ一撃だったのだ。倒せはしなくとも、ファラの言う通り風穴は開けられるはずだ。

 濃い砂煙をじっと見つめて数秒。動きはない、終わったか――


「――!? ダメじゃ主殿!! こやつは()()()しおったッ!!」

「マスター! あのでっかいのは再び四大変化エレメンタルモードを使いました!!」


 空中にいたソラとファラが左右に分かれ、その場から離れる。しかしその移動速度は明らかに低下しており、倒れた大鬼を見れば、青白い光を帯びて――


『――ヴォガォオォォォォォッ!!』


 風圧が掛かるほどの咆哮を響かせ、横たわった身体から閃光が走る。それはまさに、ソラとファラが使用する 電磁撃マグネティックボルトであった。


 幾条もの閃光が聖霊たちに向かって伸びていく。元気な彼女達であれば雷撃を躱す事が出来るのであろうが、現在はひたすらに逃げている。それも速度が徐々に下がっていることを確認できた。


「あいつら……! さっきの反動で速度が下がってんじゃねぇか! オレが助けに――」

「まてっ! 今近づけばあの電撃の餌食だ!」

「知ったことかよ。プニプニ、次は俺達で行くぞ」

「ふぉっほ! 承りました!!」


 聖霊たちは雷撃から距離を取りつつも、思いついた作戦を脳内に直接伝えてきてくれた。この意思共有が召喚士としての戦いでのカギとなるのだろう。


 当然プニプニにも伝わっているので、白い騎士の差し止めを無視して走り出す。


「おいっ! 行くんじゃな――」

「バトンタッチなのじゃ!」

「ぱぱっとやって下さいね」

「ふぉほ! お任せ下さい!」


 聖霊たちはこちらに逃げ来るため、追尾する雷撃も当然こちらへ向かってくる。

 彼女らと入れ違いになった途端、背後で召喚としての役目を終え、彼女たちは光になってこの場から消えたことを確認できた。一旦召喚状態を解除するというものが作戦その一である。

 目標を失った雷撃は、その場で爆裂し、霧散した。


 次だ。プニプニ走りながら虹色スライムの姿に戻ると、その体表色は一瞬にして移り変わって真っ黒な色へと変化する。


 青白い閃光を纏っている大鬼は、変わらず気持ちの悪い笑みを浮かべながら立ち上がろうとしており、不意にこちらに気がつけばソラとファラに攻撃を仕向けたように、雷撃を放ってきた。


(予想通りにござりまする!)


 追尾効果のある雷撃は更に数が増え、滝のような勢いで迫って来ていた。ここでプニプニの出番である。


 彼は跳ね上がると同時に頭上でぐんぐん大きくなり、いつの間にか大きな傘のような形態になっていた。雷撃は、俺を狙って飛来してくることもあり、プニプニは自然と雷撃を受ける状態になる。


「プ二二ー!(ふぉほほほ! あまり美味しいものではありませぬな!)」


 バリバリとした嫌な音が頭の上の方で響き渡る。驚くことに、彼は受けた雷撃から魔力を吸収しているのだ。シャナクの魔力と俺の魔力を進化材料とし、新たな能力に目覚めたらしい。

 しかし、この吸収は万能ではないらしく、回数制限があるとのこと。貴重な一度であるため、どうせならここで勝負を決めたい。


「魔法纏、雷」


 唱えた瞬間に、身体中にビリビリとした電撃が走る。しかし、この魔法の色は白い状態のままであった。

 聖霊によれば、天雷や電磁撃などはシャナクの管轄外である電気を元にしてイメージしているため、黒くはならないとの事。


「一気に――行くッ!!」


 プニプニの傘を雷光に似た速さを持って抜け出し、助走を殺さずに飛び上がる。

 予想外の速さについてこれていないのか、鬼の視点は未だ地上にいるプニプニに置いている。こちらを見ていないのだ。


「雷槌ッ!」


 声を上げれば、武芸が発動する。いつもなら腕を媒体として攻撃を行っているのだが、今回は刀を使って行う。戦闘においてのアレンジを加えたが、上手くいってくれるらしい。


 身体中を回っていた雷のエネルギーが両手で持つ武具に集中し、刀身はそのエネルギーで二倍、三倍と大きくなっていく。


 くるりと回転して体制を整え、気合の声を合図に武具を振り下ろす。相手もやっとこちらに気がついたが時既に遅し。

 目を見開いた大鬼は、やはり滑稽であった。


『――オグォ゛ォッ!?』


 凄まじい雷光も音を放ちながら、雷の刃は顔部にて炸裂する。苦痛の悲鳴も上がっているが、ここで押し切らなければ後々が厳しくなるのだ。なんとかここで削って……


 ――ゾクリと嫌な感覚が背中を撫でる。ピキピキと何かが壊れそうな音がする。

 この感覚には覚えがあるのだ。現在俺がすべき事は攻撃ではなく、離脱。そう本能が告げているのだ。何の根拠もないが、今はそうすべきなのだ。


「仕方ねぇっ」


 刀を手放し、近場の建物の屋上に着地を行う。すると雷槌は中断させられたため霧散し、俺の武具の一本は地上に落ちていってしまった。


「……ちょっと遅かったか」


 離脱することに迅速に移れなかったため、俺の指先から石化が進行していた。これは、ドリュードの妹であるソフィが魔物化させられてしまった時に付与された能力であり、きっと大鬼の能力ではないはずだ。


 事の本人である大鬼は一歩二歩と下がったものの、ブルブルと頭を振って無事なようすを見せる。

 しかしながら少々ダメージは通っているようで、紫色の出血が確認できた。やはり押しきれなかったか。


「プニプニ、戻ってくれ。ソラとファラは行けるか?」

(主殿の魔力を貰ったのじゃ!)

(ばっちこーいです!)

(ふぉ、今すぐに!)


 自分の両手に状態解除ディスペルを掛けながら背後から聖霊を召喚する。そして、すぐにプニプニは戻ってきてくれた。


「ふぉほほ……申し訳ないのですが――」

「だろうと思ってた。悪いな」


 彼を呼び戻した理由、それは石化の状態異常バッドステータスにあてられたためである。気配遮断を使っていたためか、魔物は先にプニプニと視線が合ったようで、彼の一部分が石化の状態になっていた。

魔物が俺を見つけたことにより彼の石化の進行は止まっている。見ている間永続なんて、とてつもなく厄介な魔法……ん?


 と、ここである疑問が湧いた。状態解除をプニプニに掛けながら、何故俺自身の石化が進行しないのか、だ。


「かたじけない、ユウ殿」

「あれは仕方ない。これがなかったら相当やばかったな……」

「主殿、その疑問はあれを見るのじゃ」

「少々、よろしくないことになりそうですね」


 ソラとファラが指指す先は地上。そこでは、彼女たちのいうとおり、こちらにとってあまり良くない状態になっていた。


「くっ……なんだあの属性はっ!?」

「皆っ! あの目を見るな!! マーリン、頼むっ!」

「分かってるよ! これを使う魔法の難易度と詠唱時間はどれだけ高いんだと思ってるんだ……!!」

「…………」


 マーリンの詠唱魔法により、広範囲に石化を解く魔法が振りまかれる。石化は解除されるものの、その回復が一度きりなのに対し、石化は見ているだけで永続的に進行する。マーリンの魔力が尽きるか否かの勝負に差し掛かっていた。


 何故かドリュードは大鬼を見上げていた佇んだままであったが、彼は石化の影響はまだ受けていないようで、無事であった。


 ともかく素早く仕留めなくては無駄な死人を増やすことになるだろう。このまま押し続けられれば、倒せるはずだ。


「もう一回さっきの作戦で大丈夫だよな?」

「ダメじゃ!! あれでは我らの魔法で手出しができぬ!!」

「……さっきは通ったよな?」

「あれはびりびりの雷の属性の四大変化エレメンタルモードを使っていたためです。どこでそんな属性を得たのかはチンプンカンプンですが」

(ふぉほ、四大……とはいえ光、闇、そしてユニーク魔法の一種である霧属性や、ユウ殿の雷なども含みますの。明らかに四個以上ですが、これはご了承くださいませ)

「いや、エレメンタルモードがまず分からないんだが」


 これでいこうと思っていた矢先に否定されてしまったので、ついつい驚いてしまった。

 そういえばマーリンも似たような事を言っていたような気がする。


「マスター記憶でいえば、竜人の里で戦った魔族です。普通の攻撃じゃスカスカと通り抜けてしまいます。記憶ではまだ新しいはずです」

「……あれか。思い出した」


 竜人の里にて魔族と戦闘を行い、ボッコボコにやられてしまったのは嫌でも忘れられない。敗因として、後半に俺たちの攻撃がまったく通らないことが何よりも大きかった。


「あれが霧属性の四大変化エレメンタルモードじゃ。使われた場合の対処法として、相手の変化した同じ属性の魔法を使う、その他に対四魔波動アンチエレメンタルを身につける、じゃな」

「なら、アルトはそのアンチエレメンタルってのは使えなかったのか?」

「当然使えます。本当の魔王でしたからね」

「しかしじゃ、相手の属性が霧ということに問題があっての……使わなくても風属性で破れると勘違いしていたらしいのじゃ。賢いが故の過ちじゃな」

「当時我らは竜人をぼこぼこにしていて居ませんでしたが」

「お前らは、出来ないのか?」


 そのような単語を知っているならば、彼女たちは既に出来るとふんでいいだろう。


 ここにたどり着いた時に多数の魔法によるオブジェクトがあったが、それは恐らくあの鬼がエレメンタルモードを使用し、その属性の魔法を使用したためだろう。


 竜人の里ではそのことを知らなかったため悲惨な事態になってしまったが、今知って、今教われば、あのような相手でも攻撃を通すことが出来るだろう。今すぐにでも教えてもらいたいところだが……


「主殿。我ら聖霊はことごとく制限がかけられた存在でな」

「性能はマスターによって上下します。残念ながら、マスターがあの波動を使えない今、我らも対四魔波動アンチエレメンタルは現在使用できません」

(ふぉほ、それにあの技は相当な難易度であります。魔法と自分の身体を同一化させ、物理攻撃を魔法攻撃に転化する技術。習得には当然危険も多大な時間も必要とします)

「……ならどうしろってんだよ。あれを倒す以外に活動を中止させる方法はあるのか?」

(残念ながら、ございませぬ)


 八方塞がりだ。考えもなしに、いつか攻撃が通ると信じて魔法を放ち続けてもいいが、魔力が尽きて石化の回復が間に合わなくなるのがオチである。


「なら、あの騎士はなんで攻撃が通らなかったんだ? あいつらの言い分だと対四魔波動は習得してるはずだろ?」

「……これは、恐らくじゃが雷属性だけは特別であると思うのじゃ」

「なにせ、使う者は我らや、白神と限られていますからね。魔物を作る、といったちゃんちゃら怪しい団体が作ったものです。本気で対策されてしまったのでしょう」

「……なんでそこまで手を加えるかな」


 唯一の希望であった騎士たちも役に立たない宣言されてしまい、彼らはついに面目もなくなってしまった。

 奥の手だって、攻撃が通らなければ効果も意味も無い。どうしたらいいかと頭を悩ませていたその時、


『グガォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!?』


 唐突な嘶きによって、全ての思考がかき消されてしまう。

 全員がその声の元を辿り、振り向けば――攻撃が通るはずもない巨大な鬼が、“空中でのけぞっている”異様な光景を見ることが出来た。


「え」

「「なっ……!?」」

「ふぉっほぅ!?」


 その場にいる俺を含めた全員が驚愕の声を上げる。先程までの会話は何だったのかと思うほど派手な吹っ飛び具合である。

 何十メートルもある巨大な鬼が、だ。


 アッパーカットを決められたかのように、顎を空に向け、足元は地面から離れている。


 その原因であろう人物は、戦っていた頃よりも紅い閃光を激しく燃え上がらせながら、こう叫んだ。


「ソフィぃをぉぉ……! 返しやがれぇぇぇェッ!!」

『ど、リューぅ……どォォォォッ!!』


 吹き飛んだかと思いきや、巨人は体制を整えて着地し、これまた多数の建物を滑りながら破壊していく。

 そして、青白い光を纏ったかと思えば、バチバチと電撃をドリュードに向けてを放ち始めた。魔法には悪手であると感じた彼は地上へと戻ったが、これって……


「ソラ、ファラ、四大変化エレメンタルモードは同じ属性なら通るんだよな?」

「なっ……!! そうか!! ……いける、行けるのじゃ!!」

「ワンチャンありますよ、マスター!」

(ふぉほう! 勝利が見いだせました!!)

「プニプニ、例の形態じゃ!!」

(ふぉほ! お任せ下さい!)


 こうと決まれば行動は迅速に、だ。

 大鬼が滑って着地したこともあり、こちらにかなり近づいて来ている。接近する手間も省けたのだ。もしかしてドリュードはこれを分かっていたりするんだろうか。


「ははっ、それはないか」

「ビリビリチャージ五十、七十、九十……!!」


 ガシャガシャと男の子心をくすぐる駆動音が背後から聞こえたので振り向けば、スライムであったプニプニは全長五メートル程度の巨大で黒光りする機械銃に変貌を遂げており、その背後でソラとファラが莫大な魔力を注いでいる姿が確認できた。


 まったく、プニプニ。お前ってやつは……男の子心を刺激しすぎだ。


「俺も手伝う」

「おおっ! 助かるのじゃ!!」

「これはどかーんと威力に期待できそうですね」

(満ちる……!満ちるでありますぞぉぉぉッ!!)


 建物にヒビが入るほどの圧力と揺れが身体を走り抜け。さらに、目の前の電磁砲レールガンの銃口には側にいるだけで感電死してしまいそうなほどにまで高まった電圧の塊が留まっていた。


「ビリビリ百二十パーセント! いつでも行けますッ!!」

「主殿、準備はいいかの!」

「ああ、背後に衝撃を緩和するための土壁をつくった。行けるぞ」

(ふぉほぅ! 発射シークエンスも完了致しました!!)


異常な程の魔力量のため、側で魔力を注いでいる俺たちの髪の毛は逆立ち、遂には狙いを定めた巨人でさえこちらを振り向き、目を見開いていた。


 彼は現在雷属性である。この距離なら、手を伸ばして壊すことも、逃げることも適わないだろう。


 笑みを浮かべて、開始を、叫ぶ。


「発射ぁぁァァッ!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」」


 三つあったトリガーが同時に引かれ、こちらの目を潰してしまいそうな程に激しい閃光が飛び回り、遂に主砲は発射される。


 聖霊たちが放ったレーザーが宇宙戦艦の砲撃となれば、こちらは衛星からの全出力の光線だ。

 威力が違うのだよ威力が!!


 建物を崩壊させながら極光は寸分の狂いもなく飛んでいき、音という概念、今という時間、その場にある何もかもを白く飲み込んでいく。


 ロマン砲。ここに来たれり。


ちょっとした変更点


戦闘中にのみ、聖霊たちの主人公の呼び方を変更しました。


ご高覧感謝です♪

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