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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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191話 勇者と召喚士

「あは、あははは。なんだいなんだい? その邪悪な魔力は?」


 勇者は蹴られてもなお、ひらりと空中で受身を取り、後方へ引っ張られながらも足を付き、砂埃を巻き上げながら着地する。


 その表情は口調とは裏腹に驚きに満ち溢れ、いままで俺が見たこともないような顔をしている。

身体、そして精神も戦闘モードへと切り替わり、脳内には目の前の敵を処理する手段が次から次へと浮かび上がっていく。


「教える必要はないな。俺が今から殺してやるから」

「あははっ、不意打ちが決まったくらいで調子に乗ってるんじゃ……!」


 刹那。勇者は一瞬にして光り輝く剣を上段に構え、俺の目の前に現れた。

 元々の俺であったなら防御もままならないまま空中できりもみ状態にさせられていただろう。

 だが、今の俺は違う。


対敵特攻アンチエネミー発動。起きろ、シャナク」

『――汝に命令されるまでもない』


 音よりも迅い一撃を半身になって回避しつつ、俺は再び虚空に向けて呟く。

 それに応答するように自身の右目はより強く、紅く発光した後、身体中から暗い柴色をした魔力が溢れ出る。


 この間、現実では僅か一秒ほどの時間であったが、勇者への駆除準備は完全に完了である。


「『拘束バインド』」

「なっ――!?」


 攻撃を外した勇者は止まらず連撃を加えようとするが、俺達がそれを許すはずがない。

 下から切り上げるような刃の一撃に対して、魔力を纏った右腕を振り抜く。


 その後には、暗い柴色の霧が光り輝く剣を被い、勇者は自身の力を持ってしても剣を目標にまでを動かせないことに再び驚いて動きを止めてしまう。


『先ずは一撃』


 ズドムッ!と常人の身体からは決して聞くことが出来ないであろう音が響き渡ると同時に、勇者へ竜の爪を模倣した素手の一撃が深く、大きくめり込む。


「かふ――ぁぐぁ!?」

「悪いな。まだ力加減が分からないもんでな」


 ほんの一瞬だけ時間が止まったかのような静けさが辺りを包み、その数瞬後には爆発にも似た衝撃が空間を一気に埋めていく。

 まるで彼の背中にターボエンジンをつけたような凄まじい勢いで勇者は次こそ壁へと吹っ飛んでいき、遠くの方から大きな爆砕音が響き渡る。


「す……ごい」

「まぁ力があるに越したことはないんだが、下手したらこいつに体乗っ取られる可能性があるんだよな」

『吾が負けたとはいえ、従う契約はしていない。ただ、目的のための協力であることをゆめゆめ忘れるな』

「黙らっしゃい。負け惜しみに聞こえるぞ。それに男のツンデレなんて何も嬉しくねぇよ」

『汝、そろそろ殺してもいいか?』

「やってみろ。お前も道連れにしてやるからな」


 アルトが目を丸くしてこちらを見ているが、彼女から見れば俺は独り言を言っているようにしか思えないだろう。


 そう、あの死の地獄の連鎖を何度も味わってからというものの、こいつが俺の身体をやたら乗っ取ろうとしているのだ。


 理由を問いただしても「知りたいならもう一度身体を寄越せ」の一点張りである

 なんでこいつが俺の中にいるのかはまだ長くなるんだが――


「ゆ、ユウ? その力って……」

「アルトなら分かるか? 悪魔憑バフォメットコートではないと思うんだが、俺の中に軍服の男が居てな」

「な、ならその左眼は……?」

「これか? ちょっとでも魔力を解放するとすぐこうなっちまうんだよな。誰かさんのおかげで」

『心の臓が止まろうとも汝の命を維持することが出来るのは吾だけだぞ? 感謝の一言ぐらい欲しいのだがな』

「はいはい、お陰様で。その裏にある目的は知らんけどな」


 意識を失ってからというもの、気がつくまで俺の命をつなぎ止めていたのは間違いなくこの紅く光る左眼と、俺の中にいる軍服の男のお陰である。

 鏡をみたら自尊心でどうにかなりそうだ。

 因みに極限状態の中で彼の姿を垣間見ることは出来たのだが、軍服で乙女ゲームに出てきそうな顔立ちということしか覚えていない。


「――と、危ないぞ」

「え――?」


 来るとわかれば回避はたやすいものだ。


 一瞬で動き、アルトを再び抱えて大きくジャンプ。

 すると足元には神々しい真っ白なレーザーがキュォォッ! という音を立てながら触れるものをすべてかき消さんとばかりに勢いよく照射されていた。


 空中でふわりと浮かび上がりながら照射された元をたどれば、身体からも光を発して、輝く勇者が手を伸ばしながら魔法を放っている光景が見て取れた。

 俺の言動や行動に怒りを感じているのか、彼は青筋を浮かべながら引きつった笑みを作っている。


「あは、あはははッ!」

「あーらら。ずいぶんお怒りなご様子で」

「ナミカゼぇぇぇッ!!」


 左手の光のレーザーを放ち終えると、彼は間を置かずに急接近し、俺達は一瞬で距離を詰められてしまう。

 正義の味方とは思えない笑顔を浮かべて飛びかかってきた彼が手に持つのは、光を固めたような輝く剣を型どっていた


 よく見ればその武器はすべて彼自身の魔力で作られていて、物質ではないことに気がつた。


「魔法物質化、ね」

「君は間違いなく悪だ!! そうに違いない!! 俺が! 俺が浄化してやるよ!!」


 人類最強の彼が武器を使わないのならばさらに勝率は上がる。


 彼は武器を現在所持していないなら、ここで殺してしまえばいい――なんて思ったが流石にそうは上手くいかなかった。


「へぇぇ! 君もそれが使えるのか!!」

「っう……極端に攻撃が重くなりやがったなッ!」

「ユウっ!!」


 こちらも同じく魔法物質化を使用しつつ片手のひらで闇属性の真っ黒な短剣を創り出し、何とか攻撃を受け止める。

 だが、勇者がこの程度で止まることはなく。


「ほらほらほら! お荷物を持ってちゃ勝てるのも勝てないよねぇ?!」

「ユウっ! ボクのことはいいからっ――」

「そこだッ!!」


 アルトの声に反応した瞬間を狙われ、勇者の輝く一閃が、距離をとろうとした俺の右足を抉り、白い斬線が照り映える。


 空中に浮かんでいることもあり、赤い鮮血が空中に飛び散りになり、勇者の顔を濡らし、アルトへも少しだけ掛かってしまった。


「あ、すまんアルト」

「ゆ……ユウっ!?」

「痛いか!? 痛いよな!? すぐ楽にしてやるよッ!!」

「そりゃ痛いわ」


 離れ際に切りつけられたため、それ以上の追撃は飛んでこなかったが、勇者は離れた距離をさらに詰めようと空中を蹴り、豪風を纏いながら襲いかかってきた。

 こっちは脚部を斬られたというのに、彼からは慈悲の心すら感じられない。本当に正義の味方かこいつは。


「っと、ちょっと待っててな」

「え……あれ? ゆ、ユウ? 痛くないの……?」

「いや、痛いぞ?」


 軽々と着地しアルトを壁へ寄りかからせる。

 少々深く切りつけられたおかげで、動かす度に血が溢れでていく。こんなことを続けていればそろそろ貧血になりそうだ。


「あはははっ!! 消えろッ!」

「この程度じゃ、あの地獄には及ばないけどな」


 ついに目の前に現れた勇者は口が裂けるのではないかと思うほど深い笑みを浮かべており、悦に入っていることが分かる。


 脚部からは弱まることもなく激痛を発しているが、あの地獄ほどは苦しくはない。


「なっ……!?」

「何の障害にもならないな」


 空中からの剣が俺に向けて振り下ろされる瞬間に、合わせてアルトの武器を模倣した刀を取り出す。

 思えば久しぶりの抜刀であるのかもしれない。


 莫大なエネルギーを持った二つの攻撃がぶつかり合い、足元に落ちている硝子片を一掃してしまうほど凄まじい衝撃波が吹き荒れ、火花や白い電が俺達の剣を介してバチバチと猛り狂う。


「っ!?……そのダメージでよく動けるなぁっ……!?」

「いや、普通に痛いんだぞこれ。ただ、さっきの方が痛かったからインパクトに薄れるだけだ」

「その割には――随分大丈夫そうだねッ!!」


 勇者が更に力を込め、空中で姿勢を更に前傾へと移行する。

 追加で強大な力が加わったことにより、床は重みに耐えられず陥没しはじめ、俺の脚部からも血が吹き出す勢いが増す。


「あははっ!! 潰れちゃえよ!!」

「……いい気になるなよ」


 刀を逸らし、それと同時に勇者の背後へ一瞬にして回り込む。

 勢いの余った彼の一撃は強く地面に叩きつけられて、大きな爆裂音が響き渡るが、彼の隙であることに変わりはない。


 彼の笑顔が消失し、ぐるりとこちらに振り向いた時には既に遅し。その時にこちらは両手にて刀を振りかぶっており、後は振り抜いて切り裂くのみ。

 驚愕で染まった彼の顔を見るのは二度目だろうか。


「っ!? どこからそんなスピードが――!!」

「はぁッ!!」


 黒いオーラを漂わせながら、首元を狙って一気に振り抜く。

 以前の俺であったなら峰打ちにしていたのかもしれないが、今の俺は違う。彼は敵であり、戦闘において対立しているのなら、こちらが被害に合うのは至って当然である。終わらせるためには、殺す。


 これがこの世界の道理であり、真理であることを身をもって知ったためだ。


「っぅ!?」

「ちっ、外したか」


 完全に隙をついたつもりだったが、彼は既のところで左へと身体を転がし、俺の放った黒い一閃をなんとか躱す。


 彼のその行動は最速で選択したものだが、いくら勇者といえ流石に無傷ではやり過ごせず、彼の背中の高価な服に僅かに切り傷が見て取れた。


 ゴロゴロと転がるようすを眺めながら背後で魔法速射の準備を整える。


「くっ……まさか君から一撃を貰うなんてね」

「ん、どうしたよ勇者サマ。俺を浄化してくれんじゃなかったのか?」

「一体、君に何があったっていうんだ? 大して強くもなかった君が突然そうなるなんて……神の加護でも受けたのかい?」

「さぁな。まぁ、お前の予想は外れてるってことは確かだな」


 指をパチンと鳴らせば俺の背後に魔法陣が浮かび上がり、それらは時間を置かずに赤・青・緑・黄の光を発しながら中心から魔力の光線が勢いよく射出される。


 どうやらここでは魔法が使えるようになったらしい。勇者が設備を壊したおかげかもな。


「っ……それにしても変わりすぎじゃないかなッ!!」

「っと、そういえばお前も反射リフレクションを使えるんだったな」


 俺がレーザーを放ちきったところで勇者は腕を振るい、半透明な膜を生成し、身体を覆う。

 その膜に光線が触れると、それらはまるで意識を持ったように触れた部分を軸にしてUターンを行い、次の狙う先は魔法を使用した俺ではなく、アルトへと光線は向かっていく。彼は、弱った彼女を狙い出したのだ。


「あははっ、でもまぁ戦闘慣れしてないのは変わらないね!」

「この野郎……っ」


 直ぐにアルトの目の前に立ち塞がり、こちらも同じく反射リフレクションを発動し、光線を四方へと散らして何とか彼女を守る。

 しかし、防御に徹していることもあり、勇者の反撃はなかなかに厳しい狙い目をつけてきた。


「ほらほらっ!守らないと切られちゃうよ!?」

「性格悪いなお前ッ!!」


 彼は俺が防御している間にもこちらへと接近を行い、魔法を解いた瞬間には既にアルトへと狙いを定めて刃を振りかぶっている。

 手に持っている刀を勇者の剣とぶつけ合い剣の一閃から彼女を守るが、彼も彼で攻撃の手を緩めず次から次へと彼女へと向けて攻撃を放っていく。


 狙うのが俺ではない分、避けるということは彼女への被弾を意味するため、回避方法をひとつ封じられたこともあってなかなかタチが悪い。


「はぁぁぁっ!!」

「あははははっ!!」


 出来る限り彼女から離れようとして、勇者を後方へと押すような勢いのある連撃を何度も何度も叩き込んでいくが、彼も合わせるように攻撃の嵐ともいえるラッシュを叩き込んでくるため、なかなか状況が一転しない。


 まるで花火が連続して爆発したような轟音が連鎖的に響き渡り、この部屋はぶつかり合う衝撃や数々の魔法のせいか、壁には多数のヒビや亀裂が入り始めていた。


『その状況を打破したいなら、吾の魔力を使えばいいだろう?』

「うるっ……せぇ……ッ」

「あはははっ! 次はこれでどうかなっ!!」

「アルトッ! 出来る限り離れ――ッ!?」


 お互いに武器を幾度となくぶつけ合いながら均衡を保っていたが、ここで変化が起こった。

 嫌な予感を感じ取り、彼女の方向を振り向いたが、その予感は的中してしまった。


「ご……めん……」


 彼女の顔は青く、何故だか座り込んだまま動いてくれていない。

 よく見れば震える瞳には力がなく、伏し目でがちだ。

 このような彼女の表情は見たことがある。恐らくは――


「隙ありだ!」


 彼の素早いローキックを対応したのはいいが、一泊置いて白いオーラを纏った剣の一撃が突き出されたため、回避が間に合わず頬が軽く切り裂かれる。

 こいつはやはり狙って欲しくないところを見抜き、確実に狙ってくるな。勇者といわれるだけあるを


 しかも、悪いのは性格だけではなく、彼の持つ剣の付加効果だ。


「ちっ……お前の剣……毒でも付加エンチャントしてるのかよっ!」

「あははっ! バレたかな? ついでに君にはいつ効果が出るのか期待してたんだけどなぁッ!」


 雷のような鋭さを持つ一閃を受け流すことによって回避し、その動作の力を利用してくるりと勢いをつけた回し蹴りを叩き込む。


 これは彼にとっても予想外であったようで、足の裏からは柔らかい感覚が返ってくる。

 数メートルほど吹っ飛ばしたところで彼はしっかりと地面に足をつき後ろへ引き下がりながら口元を拭う。


 この時間を利用しようとしてアルトに近づこうとしたのだが――


「あははっ! やらせるわけないだろっ!!」

「っ!?」


 勇者の手を振り上げるようすを見ることもなく、天井よりもはるかに高い場所から感じる極大な魔力反応。

 これは、闘技大会で感じ取ったものと同じであるものと推測する。


「降り注げ!! ディバインレイぃッ!!」

「二度も同じ技でやられてたまるかよッ」


 俺がとった行動は、ありったけの魔力を左腕に集中し、その突き出した腕を発射台と見立てて、少し離れたアルトの目の前で色を飲み込むかのようなブラックホールを作り出す魔法を使用した。彼女への攻撃を防ぐために。

 この魔法は闘技大会のおじゃま虫を捕縛するために使った 魔物喰い(モンスターイーター)という魔法である。


 動けない彼女の眼前に渦を巻く黒い空間が出現し、刹那に御神木のような大きさを持つ極太のレーザーが降り注ぐ。


「こ……の……ッ!」

「あははっ!! そっちばっかりで大丈夫かな!?」

「次から次へと――」


 先程使った魔法は高い魔力を使用するものあるため、意識を集中させなければコントロールと維持が保てない。


 そしてここで勇者らしいといえばらしいのか、俺が魔法の使用で行動不能であるということを見切って、彼は剣を構えつつ、降り注ぐ光の魔法を維持しながらこちらに向かって接近をし始めている。


 彼が行っていることの難易度を例えるなら、全力で運動しながら、神かがった彫刻を彫っているようなものだ。

 明らかに通常の人間ではできない芸当である。


 対して俺は転生者とはいえ一般人。極大な光線は今もなお降り注いでいるため、魔法を解除してしまえば、魔法は間違いなくアルトに被弾する。


 しかし、ここで魔法を解除しなければ勇者の攻撃に対する対応が間に合わず、切りつけられる。

 あまりに大きな攻撃は痛みの問題ではなく、身体の稼働能力に関わるのだ。どちらにせよ甚大な被害を受けることに間違いがないだろう。


「こうなったら――」

『汝、吾を忘却の彼方へ押しやれると思っていたのか?』


 と、奥の手の使おうとした時。

 ぐわん、と視界が揺れる。身体が大きく脈打つ。色抜け落ちてが景色が変わる。意識が急に何処かへ飛び始める。

 目の前の光景がどんどん黒く塗りつぶされていく。


 この最悪な状況で、中にいる化け物が動き出してしまった。


「て……めぇっ……ッ」

「あははははっ!!」

『吾はこの依代が欲しいのだ。傷物にするわけにはいかないのでな。女なぞ他の者を手に入れ、諦めろ』


 かくいう俺は、どうしようもできない。

 こんな、ところで? アルトを失う?

 また、力不足か?


 冗談じゃない。こんなところで――


「終わってたまるがぁぁぁぁぁッ!!」

『「!?」』


 視界はほぼ機能していないので視界は真っ暗だ。

 だが、この状況でも、残った俺の自我を全力で動かし、一寸先も見えない状態で魔法を解除し、余計な考えは全て捨てて、アルトを感じるその先を目指して走り抜ける。


『貴様……ッ!? 意識を九割も刈り取っているというのにどこにそんな力が!?』

「あははっ!そっちは俺の魔法だ! 浄化されな! 波風 夕ッ!!」

「ぁぁぁぁぁぁッ!!」


 身体を動かせば、全く理解出来ないような加速感が身を包み。


 その数瞬後に、この世の終わりとも思える極大な爆発の衝撃波、そして鼓膜を破くほどの爆音が響き渡った。





ご高覧感謝です♪

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