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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第三章 人間の創造者と魔族の魔王様
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第19話 初めての集会所

 宿から逃げ出してからというもの、俺はゆっくりと街なみを眺めながら中央に位置する大きな建物、冒険者ギルドへ向けて歩いていた。


 今日はお金を稼ぎにギルド依頼を受ける予定だ。流石にリューグォの角を売るのは怪しまれるのでもうしない。この世界の常識がどのようなものかも凄く気になるが、図書館などで学べないだろうか。


「へいらっしゃい! いい剣が入ってるよ! 珍しい黒髪の兄ちゃん、一本どうだい?」

「すみません、持ち合わせがないもんで」


 様々な人々に声をかけられては断ることを繰り返す。まるで世界の住人からナンパされている気分であった。


 それに、ギルドへ向かう途中では元の世界だったら決して見れないような光景が沢山あった。


 まず、武器防具を普通に取り扱っていること。見た限りで三件はあったな。こんな物騒な店が何件もあったら元の世界では地方自治体が動いてしまうだろう。


 そんなくだらないことを考えていると、ギルドとは雰囲気が違う大きな建物が見えた。


「ここは……?」


 ついつい中に入ってしまう。


 中に入ると、そこには何十メートルという背の高い本棚に極厚の本が所狭しと詰まっていた。

 どうやらここは図書館のようだ。


「すごく興味があるが……ここには後で来ようか。ここだと一日が終わりそうだ」


 俺は沸き上がる興奮を抑え、Uターンした。見知らぬ知識の宝庫なのだ。興味がないわけがない。

 出店、謎の薬が置いてある店、色々な店に目移りしてしまうが、できる限り行動に移さないようにする。


 そんな最中、最近話題であるだろうニュースもよく耳に届く。周りの声を拾いながら、のんびりと情報収集するのも悪くないものだ。


「なぁ、この街の端の倉庫で大量の死体だってよ」

「全員が召喚士狩りの一員ってうわさもあるな。まぁ、召喚士とはいえ、人を殺すなんざ、女神様が黙っちゃいねぇってことだよな」

「サイバルは女神様のご加護を受けてるんだもの。危ない輩はこうやって()()()消えてる。だから今年も安全な闘技が行われるわ」

「そうそう、闘技で思い出したけど、今年のこの街で始まる闘技大会は勇者様も参加してくれらしいわよ!」

三つ星(スリースターズ)の御方がかい!? はへー! そりゃすげぇ!」

「これ見よがしに私もエルフの人とか獣人の人とかドワーフの人たちと仲良くなれないかしら?」

「やめとけやめとけ、俺らとは世界が違う」

「はぁ、またアンタの異種嫌いがでたわね。世界が狭いのよアンタは」


 世間に俺が起こした事件はさほど話題になっていないようだ。なんか無性にドキドキしたが、いつも起こってるというフレーズが少し気になる。俺が元いた世界とは違うので、人の命に関する価値観も違うのかもしれない。


 そしてこの世界、ルミナについてだが、ヒトの種別として、四種類いることが分かっている。


『基本的に俺と体の作りが変わらない、人間』

『体の一部が人間ではなく動物になっている、獣人』

『人間と構造は変わらないが、耳が尖っていて、細身で長寿な、エルフ』

『背中に蝙蝠のような翼をもち、尻尾があるという、魔族』


 いま分かっているのはこのくらいだ。獣人とエルフに関しては、関所でじっくり観察したきりなので、もしかしたら間違っているかもしれない。魔族にしてはアルトにちょこちょこと教えて貰っているが。


「それにしても、勇者、ねぇ」


 知り合いに魔王がいる身分だと、どうにも複雑な気分になる。彼女との会話では冗談にしか聞こえなかったのだが、この世間のようすを見るに、ほんとうに勇者は存在していると思われる。

『勇者』なんて肩書きは男の憧れだ。正直にいえば、俺もカッコイイな、なんて思ってしまう。だが、元の世界の勇者と同じことをするとは限らないし、魔王と勇者の関係なんてまだ分からない。アルトと会話する内容が増えて少々嬉しく感じる。


「さて、遠回りはこれくらいにしてっと……」


 今日の目的はギルドで依頼を受けることだ。お金を稼がなくてはいけない。依頼を受けにギルドへ行くというのは、なんともアニメの中にいるような気分だ。


 それに……俺はもうすぐで十八歳だ。生活ぐらい出来るようにお金を稼がなくてはな。もう既に親は別世界にいるしな、いろんな意味で。


 気合を入れ直しギルドへ入る。

 ――やはり、前回きた時と変わらずな雰囲気だった。まるでヤンキーしかいない高校のホームルームの状況によく似ている。下品な笑い声と、お酒を飲む人々のようすが見られた。


 ギルドへ一歩入った瞬間、またもや静まり返り、俺に視線が集中する。


「……おい、黒髪の召喚士サマナーだぞ」

「だけどあいつは召喚士狩りに狙われてたはずじゃ――」

「まじかよっ? なんで無事なんだ?」


 いじめかよ。


 楽しく会話をしていた人が、俺が入った途端に態度を変えるため、ついつい突っ込んでしまう。いい歳したお兄さんや、お姉さんがそんなことしてていいのかよ、子供に悪影響あるだろう。



「……依頼を受けたいんだが」


 早くもここから出たい気持ちに駆られつつ、受付まで歩き依頼を受けることにする。受注の仕方も分からないのでとりあえず人に聞いてしまったが、美しい女の人に冷たい目で見られたので若干後悔している。


「……掲示板」


 どうやら昨日とは色々と違う職員らしく、嫌悪の目を背けながらここから左にある掲示板を指さした。


「ありがとう」


 軽く礼を述べて、同じく依頼を受けるであろう人々が集まっている掲示板前まで歩き、張り出された依頼内容を見にいくことにする。


「なんだかなぁ……」


 依頼も受けてないし、体を動かしていないが、もう疲れた。さっさと依頼を受けてお金に変えて終わらせよう。

 ん……あっ、薬草収集なんてあるな。収集系だし、初めての依頼はこれがいいか?《観察眼サーチアイ》もあるし、早めに終わらせられそうだ。


「ハイハイチョットスイマセンヨ……」


 人混みを掻き分けてつつ掲示板まで進み、依頼書を手に取ろうとしたその時、対象のレベルが50以上ないと反応しないはずのフィルターが掛けられた俺の気配探知がアラームを鳴らす。もちろん脳内でのみだが、ビィーッ! と継続して鳴っているので、ボリュームの大きさに少々クラクラくる。音量調整が必要なようだ。


「思いほかうっさいな……」


 気配探知にはフィルター機能がついており、このフィルタに引っかかるものがいた場合、脳内でアラームを鳴らして通知するように設定してある。

 今回かけておいたフィルターは、強さの度合いを表す、対象のレベルが50以上の場合。それに当てはまるものが俺に接近してきているということだ。


 この街に入ってから一度たりとも該当する者はいなかったが、今になって現れた。

 流石に俺も気になり、後ろを向くと――


「やぁ、ギルドのみんな。帰ってきたよ」


 と、赤髪赤目の凄く整った顔つきで、鎧を装備した男が爽やかな笑顔でギルドの中にいる全員に話しかける。俺より背は高い。またイケメンか。


 彼が声を掛けて一瞬で静まると、次の瞬間、ギルドの中から噴火したかのような歓声のような声が上がり、建物全体を強く揺らす。


「うおおおおっ!! 帰ってきやがったぁッ!!」

「すげぇぇぇ!! ほんとにやりきってきやがったぁぁ!!」


 ……なんて、声が上がる。先程の受付の人も別の受付の人共にキャーキャーと喜んでいる。

 俺からしたら誰が帰ってこようとも凄くどうでもいいので、薬草収集の依頼書を受付に持っていく。受けてくれるだろうか。

 騒いでいる連中を無視して、先程喜んでいた受付とは違う方の受付へ向かう。


 傍から見れば祝いのパレードを本人の目の前で横切るものだが俺には関係ない。


「「な……ッ?!」」


 ギルドからブーイングに近い声が上がるが無視だ。俺はリューグォの角は確かに高く売れたが、これから贅沢をするためにはお金がさらに必用だ。図書館へいくのもこの世界では有料かもしれないしな。やはり早急にマネーが必要である。


「……ふっ……あははははっ!!」

「これを受けたいんだが」


 背後で赤髪の鎧の男が高笑いしているが、ガン無視だ。

 俺はこの依頼が終わったら。図書館にいくんだ……!


「えっと、いやっ……あの……」


 偶然にもこの受付の人は昨日クラス鑑定してくれた人だ。

 ものすごい慌てている。


「君、面白いね。空気を読めないのかな?」


 不意に赤髪は俺に歩み寄り背後から話しかける。


「読めないんだろうな。新米冒険者なんでお構いなく」


 適当に返す。すると更に背後から野次が凄まじい勢いで野次が飛んでくる


「おいいいいいッ!? 召喚士サマナー風情がなんて口を?!」

「誰かあいつを黙らせろ!! あいつをあそこからどかせろ!」

「依頼を、受けたいんですが?」


 外野を無視し、俺は強調して受付に話しかける。

 ごめん、受付の人。めっちゃ騒ぎに巻き込んでる。


「えっ……と」

「君は……召喚士(サマナー)なのか……?」


 赤髪は嘲った笑いを堪えつつも、また話しかけてくる。まぁ無視だが。


「……早くしてくれ」

「おいっ! いい加減にしろよ?!」


 外野から一人の男が飛び出し、俺の肩を掴む。ぶん殴ってやろうか。イライラしてるんだが。


「いや、ガルフ君。いいんだよ。彼は初心者ビギナーなんだ。僕の存在を知らなくて当然さ」


 と言って、赤髪はガルフと呼ばれたスキンヘッドの冒険者に対して肩を離すように促した。


「……ちっ」


 彼は悔しそうに舌打ちしながら、投げ飛ばすようにして俺の肩を放した。めんどっちぃ。これがこの世界なのだろうか。この時点で警察沙汰にしたい気持ちに溢れるんだが。


「とりあえず、君。そろそろ退いてくれないかな?」


 赤髪は優しく俺に話しかける。が、


「はぁ? 先に並んでたのは俺だ。空いてる別の受付に行けよ。それぐらいの事も分からないのか?」


 この赤髪に少しだけイライラしてたので強い言葉で返す。すると、彼は肩を振るわせ、大笑いする


「……ふっ、は、ははははッ!! 僕に向かってそんな言葉を返した人を見たのは久しぶりだ! しかも最弱のクラス風情が!! 僕に!!」

「クラスは関係ねぇだろ」

「記念に聞いておこう、君の名前は何と言う――」

「ユウー!! やっと見つけたー!!」


 赤髪の言葉を遮って小走りで冒険者ギルドに入って来たのはアルトだった。羽は見えないし、オッドアイはしっかりと見えて――変身して――ないぞ!?


「あ、アルト? お前……変身しなくて大丈夫なのか?」


 黒髪で、オッドアイ。どこを見ても羽と尻尾を隠してるだけで、変身しているようには見えなかった。


「あ、僕? 前にも言ったじゃん? 変幻の魔法は対象の認識をずらすだけだって。ユウだけは魔法の効果から抜いてるの! だから、僕の本当の姿がみえるのはユウだけなんだからね!」

「そ、そうなのか?」


 よく分からないが、そういうことらしい。変幻の魔法を例えるならドッキリボックスのようなものだろう。

 観客には箱の中身が分かるが、仕掛けられる側は箱しか見えない。このような仕組みと考えていいだろう。


 赤髪は突然の来訪者、そして言葉を遮った彼女にも大きな怒りを覚えたらしく、顔を歪める


「アルト……お前も空気読めないんだな」

「風魔法なら先読み出来るけどねっ」

「そう言う事じゃないんだ――」

「召喚士なんかに付き添うなんて存在していいはずがあるか。失せろ」


 ついに赤髪は怒りの限界に達したのか、これまでで一番低い声で話すと同時に、拳を振り上げる。


 しかし、その腕が振り下ろされる事は無かった。


「女が……何だって? 人間。君もユウを邪魔してるよね?」


 アルトは人差し指を赤髪に向けている。

 どうやら念力の類いのようだ。生きてきた中で一番魔法っぽい現象が目の前にある。ちょっと感動。


「き、さ……まぁぁッ!!」


 この騒動のおかげでがやがやしていたギルドも一瞬で静まり返ってしまった。卒倒して倒れてしまう人もいた。


 ああ、図書館に行ける確率が凄まじいスピードで落ちていく……


「おい……アルト……」

「ユウの、邪魔だから、別の受付に、行ってくれないかな?」


 アルトは笑いながら答えるが、目は全然笑っていなかった。

 思わず頭を抱えてしまった。できる限りいざござは起こらないように我慢してたのに。


 アルトと赤髪の火花が散る中、一つの声が二つの冷戦を差し止めた。


「お前ら。辞めろ」


 その声には気配感知は……反応しなかった。


 まるでリューグォを相手にしているかのような存在感かビリビリと伝わる。なのに気配感知に映らない。

 声の元に向かって振り向くと、大衆からギルドマスターと呼ばれ、尊敬される人物が困ったような表情で壁に寄りかかっていた。


 身長は俺より高い女性で、くの一のような服を着こなしている。大きな胸を主張するかのような作りなのですぐに目をそらしてしまった。

 武装としては背中に大剣を背負っていた。赤髪より強そうだった。巨大な胸部も破壊力があったが。


「ま、マスター……」


「だれ? 僕ちょっとイライラしてるんだけど」


「アルト、落ち着け」


 赤髪は怯えた様な表情になった。対してアルトは敵意の目を向けている。ここで鎮圧されたとしても、事情を解説するなり何なりで、だいぶ時間をとってしまうだろう。


「ほう、私の威圧にも全く動じないのか。相当強いお嬢様だな」


 そうしてこの女性のギルドマスターは威圧を解いた。

 体がビリビリする感覚が消えた。

 意地でも早くここから逃げ出すために、薬草収集の依頼を再び受付に提出する。


「お願いしま――」

「そうそう、ユウ ナミカゼ。それとそこにいる坊やとは別に話したい事があるんだが……いいよな?」


 ギルドマスターは大きな胸の間からあるものを取り出す。


 それは俺が召喚士サマナー狩りを潰した時に創ったもので、鍾乳石を薄くして固めた、俺のオリジナルのブーメラン型の凶器の写真だ。


「いいよな?」


 今日は無理だな。図書館。


 今日のご褒美どころか、目標も達成出来ない事を本脳的に感じ取った俺だった。


ご高覧感謝です♪

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