187話 拷問
前半サブタイトル通りの描写があります。
意識という曖昧なものが自分の身体の中に感じられた瞬間、俺の中に諦めに近い感情が渦を巻く。
(っ、――ああ。ちくしょう。お先も視界も真っ暗だな)
記憶が確かなら、俺は白神になすすべもなく敗北した。
あいつのスピードや戦闘能力ですらついていける気がしないのに、魔力の高さ、魔法の操作まで完璧となればもう俺の対処のしようがない。
ドリュードが文字通りワンパンチで倒されたが、俺も似たようなものであった。
悔恨の念がふつふつと湧き上がると同時に俺の意識もはっきりとしてくる。
目を開けていないため視界は真っ黒に染まっているが、体全体に感じられる倦怠感は魔力切れしてしまったように重い。
だが、このような感覚があるということは生きているということだろう。
ブルーノは『半殺し』という事を命令していたが、白神はしっかりそれを遵守して適度な力加減を発揮してくださったようだ。神って名前がついているだけあって相手の耐久力を見極めるだけの力はあるらしい。
【目覚めましたか?】
「意識の浮上ですら理解出来んのかよ」
暗黒の向こうから声が聞こえたので、ゆっくりと目を開く。
今の状態の俺は、椅子に座わらせられており両腕両足は縛られて、行動不可。
魔力もすっからかんなので本当どうしようもない。どうしたもんかねこれは。
【私が先ほど貴方に何かを言ったようですが、所詮は戯言です。自分の身を案じた方が得策かと】
「中の私? 本当にロボットなのか?」
【自動殺戮兵器です。素材として異邦人の魂を使っていただきました】
「本当にこの世界はどうなってんだか」
頭まで覆い隠すフードローブを再び着こんだ白神は、磨いていた鋏のようなものを銀色のトレイに置く。その置かれた場所には医療用に使われるようなナイフや道具が多数あるが、絶対にそうでないと分かるものも置いてある。
「……なんだよそのペンチとかハンマーみたいな工具類は」
【貴方に使うものですが】
「ろくな予感がしないんだが」
心臓が高鳴り、脂汗が浮き初め、本能が死の警笛を鳴らす。
こいつの目は見えないが間違いなく嘘ではない。雰囲気からして虚偽の言葉を吐くとは思えないし、口調も淡々としたものであった。
【さて、ナミカゼ ユウ、貴方はなぜこの場所に来たのでしょうか】
「お前らが呼んだんだろ。人質をとるような真似をしてよ」
【そうですか。なら、人質には、人間的価値はあったのでしょうか?】
「価値? 友達だと思ったから迎えにきたんだが。それで充分だ――」
【甘い。あまりにも判断能力が欠如している】
シルバーのトレイを整理していた白神が突然振り向きざまにナイフを振るった。
いや、そう判断できた時には既に俺は斬られていた。
「は、ははっ……嘘だろお前ッ――」
彼女までは三メートル程距離があるというのに、俺の腰から方にかけて神経を焼き切らんばかりの灼熱の熱を伴った痛みが襲いかかる。
【安心してください。薬が効いている間は死ぬことはありませんから。もっとも、精神がどうなるかは分かりませんが】
竜人の里にて腹部を貫かれたような痛みとは似たようでこれまた違う激痛。
目の前で斬られた箇所から血が噴き出し、白神は再び白いトレーに置いてある道具を再び磨き始める。
「なんて、こと、しやがる……!」
頭の中が痛みという痛みで満たされ、視界は揺れてぼやけて、切り口からはとめどなく血が溢れでていく。
痛みで吐きそうになる。半殺しなんて生易しくはない。完全に殺す気である。
展開が突然過ぎてついていけない上、何故俺を切りつけたのかも不明である。
【お待たせしました。それでは始めましょうか】
こちらを振り向くと、彼女の義手に青白いスパークが走り、ただでさえ痛みで支配された脳内がより一層激しい警笛を鳴らす。
あれを食らってしまったら、俺の身体は確実に壊れてしまうと。
そのスパークが合図となったのか周りの吊り下げられた電球達は強く光を放ち、暗かった空間を照らす。
この場所はとんでもなく広く、そのうえ何も無かった。
手術の時に使用するような荷台と、電球、そして俺の座っている椅子を除けば本当に何も存在しないドーム状の空間。
闘技場のようにも思えるが、目の前に見える唯一の出口までは五百メートルほどの距離がある。
何らかの手違いで拘束が解けたとはいえ、出口にたどり着く前に白神の走力に追いつかれることだろう。
【では、始めさせていただきます】
「な、にを……っ」
暗い空間から開放されたとはいえ、俺は既に方から腰にかけてまで切りつけられており、足元には血だまりが出来ている。
霞む視界の中、必死で睨みつけたのだが、それは大きな間違いであった。
【……とある御方が言うには、その目はまだ抵抗の意志がある証拠。素晴らしいですね】
白神はあくまでも感情のない淡々とした声で俺にそう話しかけ、頭の覆いを下ろしつつ椅子の裏に回る。
彼女の顔はとても美しいものなのだが、この状況では何も考えられない。
目の前の白いヤツの声を聞いてしまうと、身体がガタガタと震え始める。血がなくなったための寒気などではない。
痛み、そして圧倒的な恐怖心からであることを俺はまだ分からなかった。
【では】
裏で電撃が弾ける音がする。その音を聞いて身体の震えが強くなり、これまでにない悪寒が走る。
「や、めろ……ッ!!」
魔法は魔力がないので使用不可。
スキルは使えるが四肢を封じられているため現状を打破できるものはない。
魔法纏も魔力を使用するため使用不可。
やばいやばいやばいイタミで頭が回らない――
「ぃがぁあああぁぁッッ!?」
身体中に走る電撃。音が消え、視界も消え、ただ一つ感じられるのは圧倒的な苦痛。声を張り上げても痛みが減衰することは全くない。
神経という神経を破壊され、凍えるような冷酷な激痛が何度も、何度も、入念に、細胞という細胞を破壊していく。
超過帯電なんて全くもって比較にならないくらいの苦痛。
どうせならいっそ気絶して欲しいが、それもかなわない。
「がぁ……ッはぁっ……ぁ……ぁっ」
【苦しいでしょうが、とりあえずマスターがこちらに来るまで続きます。さっさと壊れてしまった方が楽ですよ】
いつだよそれ って、言いたい。だけども、口が回らない。体が動かない。ただ、痛い。
【学習性無力感という言葉を知っていますか?人間はとても賢い生き物です。目の前に出口があるとはいえ、何度も何度も痛い思いを味わえば“逃げられない”ということを勝手に理解してくれるのですよ】
「はぁっ……はぁッ……それが、なんだっていうん――!?」
再び電撃が流れてくる。先程と同じように血液が沸騰しているかのような激痛と苦痛が同時に感じられて脳ですら莫大な痛みで押しつぶされるような感覚であった。
四回ぐらい繰り返された。喉が千切れるほど叫んだ。
なんども、何度も逃げたいと思った。
しかし、それはかなわない。
「ぁぁがぁぁぁぁッ!!」
【さて、これで四回目。そろそろいいでしょう】
電撃が止み、ガチャリ、と音がすれば何故だか拘束が外れる。いまなら、逃げられる。にげられるんだよ。
だが――
【どうしましたか。逃げられるものなら逃げてもいいんですよ】
「うご、け、ねぇ……ッ うご、け、よッ!うごけっつうの……!」
足の感覚がない。腕の感覚がない。
魔力もない。言葉とは裏腹に脚部は固まったまま。電撃の痛みと切りつけられた痛みだけが、俺の身体を支配していた。
更に悪いことに、もう逃げられないだろ? という別の意志が心の裏で俺を押さえつけているような気もした。
カラダは全くいうことを聞いてくれない。椅子から離れて、倒れることすら出来ない。
【やはり、あの御方の仰る通りでしたね】
「うご、けよッ……はや、く、にげ、ろよ俺……ッ」
【では、次のステップに参りましょう。ナミカゼ ユウ。アルト=サタンニア、レム=シルヴァルナ、この二人が脱獄しました。彼女らはどのようにして倒せば良いのでしょうか。教えなさい】
「――ッ!? この、が……ッ!」
二人の名前を聞いて、痛みに支配されていた身体が少しだけ反応する。
ピクリとだが、指先を動かせる。魔力がなければ体魔変換で魔力を作って、転移でここから逃げ――
【早く回答して頂けませんか?】
「がふっ……!?」
電撃ではない痛み。激痛に変わりはないが、次は脇腹からだぐだくと何かが抜け出て、冷たい異物が差し込まれた感覚。
痛みの元を見れば急所を外され、武具の刀身を刺されて、縫い付けられていた。
次の瞬間には津波のような凄まじい勢いで痛みの波紋が身体中を荒らし回る。
「ぐぁ……ぁ、ああっ……」
【声も小さくなってきましたね。では、そろそろお暇させていただきます】
「へへっ。あとはお任せ下さい」
「俺らがしっかりと見ていますよ」
【もう一度言っておきますが、必ず注射を忘れないようにしてください。忘れると数秒と経たずに彼は死にますので】
「分かっておりますよ!」
俺が痛みに呻いている間に化け物のような人間が遠くの方から歩いてくる。
痛みを味わいすぎて幻覚が起きてしまったのかと考えたが、そうではなかった。
片方の男は右手がカマキリのような腕になっており、もう片方の男は左手がシャコのように丸まった形をとっている。
魔物と人間が合体したとなれば、あのような姿になるのだろう。
だが、俺はそんなものに構ってられるほど余裕はない。
【ああ。忘れてました。最後に二つだけ】
白神はローブを翻しこちらに歩いてくると、相変わらずのロボットのような無表情で俺の腹部を一瞥し、服の中から小さな装置を取り出し、それを――ッ!?
「がぁぁぁぁ……ッ!」
【やはり声もそれ以上の大声は上げられませんか。まぁいいです。薬の作用について話していませんでしたね】
小さな装置は俺の腹部の中心に貼り付けられ、その場所からは強烈な電撃が流れてくる。
痛みに耐えかね、じたばたと暴れようとして再び拘束される。
「ぁぁぁあぁッ!」
【まず一つ目。この注射器の中に入っている薬のお陰で貴方はどんな状況でも死ぬことはありません。当然気絶することも。ですので安心してください】
「白神様は慈悲深いんだ。感謝しやがれ召喚士さんよ」
白神や連れの男がなにか言っているが痛みでうまく聞き取れない。
様々な傷が掘り返され、痛みはどんどん増幅していく。
椅子をガタガタと揺らしても痛みは大きくなる一方であり、この痛みからは逃れられない。
【二つ目。貴方の判断能力の甘さ、相手を敵と割り切れない弱さ、そして何より貴方自身の力の弱さがこのような事態を引き起こしました。それを分かっておいてください】
「お前は気がついていないかもしれないが、ドリュード相手に自分でリミッター掛けてたよな?」
「見てて滑稽だったぜ! それもお互いに掛け合って、いい勝負をしているって思ってんだもんな!!」
「ハハッ、人間様はそういう性質もあるんだよな。みっともねぇ!」
少しだけ聞き取れたが、俺は手加減しているつもりがなくても、彼らには手加減をしているように見えたらしい。
【では、これにて】
そう言って白神は足音を響かせながらこの部屋を出ていく。
装置は俺の腹部で相変わらず作動しており、激痛を呼び起こしている。
だが、この男達は、白神よりは――
「じゃ、早速壊そうぜ」
「ああ。まずは足の指からな!!」
椅子の下でミキャっという意味の分からない音がした後、俺は身をもってその意味を知ることになる。
「おおっと、足を砕いちまったよ」
「あ……ッぐぁぉぁぁぁ!?」
「くへへっいい叫びだな」
「どうせ薬の効果で元通りだ。よかったな! どうせギルドマスターに殺されるけどな!」
ガタンと遠くにある扉が痛みを感じている今だからこそ強く閉められていくことを感じ、俺は再び喉が裂けるほど大きな叫び声を上げた。
誰か、誰でもいいんだ。この状況を壊してくれよ。なぁ……っ
~~~~~~
ギルド本部上層。その場所にて、高速移動しつつ、冒険者たちをバッタバッタとなぎ倒していく影が二つ。
その付近の地上では紳士服の老人からプルプルと震えながらなにかスライムのようなものが分裂している。
上空では二つの影が暴れ周り、地上ではスライムを踏んでしまった冒険者たちがいまだにふためく声を上げている。
「ほらほらほら!どうしたのじゃ!!」
「遅い遅い!全く持ってのろのろですね!!」
「くっ、こいつら……ッ!」
まるで宙を飛び回る蜂のような動きに翻弄され、冒険者達は全く手が出せない。
しかもメイン戦力が整っていた地上ではプニプニの分身体であるスライムに足を取られ、非常に行動を狭められている。
「グラン!魔法でスライムは溶かすからさっさと仕留めなさい!!」
「分かってるっつうの!!」
「ぬ、やっと本命が動き出すのじゃ」
「やることは変わりません。ぼっこです」
リーダー格の二人はとりもちと化していたスライムの分身体を完全に身体から切り離してやっと動き始める。
男性の冒険者は苛立ちの表情を浮かべつつ、バッタの脚部の特性を遺憾無く発揮して高速でプニプニに向かって接近していく。
「っ!? プニプニ避けるのじゃ!」
「今すぐそこから逃げてください!」
「ふぉ?」
しかし、彼は全く動じない、否、気がついていないということを思わせるような素振りを見せていた。
そのようすをみて、高速で接近を行う男はにやりと表情を崩す。
「死にやがれクソジジイ!!」
「ぷ、ぷにー?!」
そのまま、彼は飛び蹴りを行い、激しい爆発が巻き起こる。
鼓膜を引き裂くような爆音と衝撃波が広まり、ソラとファラでさえ固唾を呑む。
一方で、竜のような腕をもつ女性は嬉々たる表情を作り、冒険者たちも大きな歓声を上げる。
のだが。
「ふぉっほ」
「なん……だと?」
確実に決まったと思っていた攻撃は、スライムに掠りもせず、外れていた。
その証拠に床には大きな亀裂が走り、男性の脚部は埋まって嵌っている。
一方攻撃の対象となったプニプニは、飛び蹴りを放った男性の背中に回り込み、半裸の状態で自分の髭を触っている。
ぼふんと煙を上げてスライムに戻ると、彼の体表は床屋のサインポールのように、七色すべてが流れるように動いており、馬鹿にしているかのような雰囲気を受ける。
「嘘だろ!? 確実に俺の飛び蹴りは確実に捉えたんだが!?」
「離れなさいっ! あたしがいまから魔法を――ぐぁっ!?」
「ふぅ、全く焦らせおって」
「全く。だからぷにぷにのスライムなのですよ」
魔法の詠唱を完了した女性が竜のような腕に焔を纏っていたのだが、ソラとファラの射撃を食らってしまい、集中力が解かれてしまったため彼女の魔力は霧散して魔法を引き起こせなくなってしまう。
(ふぉほほ! 毎日のようにソラ様とファラ様の訓練相手になっていれば嫌でも実力は身につくのでありますな!!)
「こんの……ッ! スライムがぁぁぁッ!!」
「プニー」
気合の声と共に男性は埋まっていた脚部を周りの床ごと引き剥がし、コンクリート塊を装備したままプニプニへと踵を振り落とす。
まさに鬼のような迫力に周りのギルドメンバーは息を呑む。
「ハぁぁぁぁっ!!」
隕石のような勢いで振り下ろされた踵落としは威力抜群で、着弾地点からは再び爆発が巻き起こり、コンクリート塊は砕けて周りに飛び散り砂煙が舞うが、プニプニの姿はそこにはない。
周りを見渡しても、彼の姿は見当たらなかった。そのため彼は引き攣った笑みを浮かべる。
「や、やったぞ、遂にやった!」
「プ二二ー」
「う、後ろ……ッ!?」
笑顔は一瞬で怒りに満ちた表情へ豹変。だんだんと顔を真っ赤にする男性をみて面白く思ったのか、プニプニもそれを真似てだんだんと体表を赤く変化させていく。
「ぬっふっふ、スライムならではの挑発方法じゃな」
「貴女の相方はとても翻弄されていて大変わくわくしています。貴女も同じように踊ってくれますかね?」
「うぬうぬ、きっとふしぎなおどりをするに違いない。魔力が下がりそうじゃが」
「貴様ら……ッ! 許さない!! あたしのドラゴンハンドで滅してやる!!」
一方で聖霊の二人は口元に手を当て、冷たい視線を当てつつも嗤笑を浮かべる。
そのようすは「男も男なら女も女だな」という意味合いを含んだものであり、相手の怒りを多大に煽った。
「こんの……ッ!!」
「おお? どらごんはんど(笑) が怒っておるな」
「どらごんはんど(笑)さん。ネーミングセンスが神がかっておりますね」
再び嘲笑。薄目の横目で見られた竜の手を持つ女性は頭に幾つもの青筋を浮かべて、遂に叫び声を上げ、体内にある魔力を高めて爆発したような勢いでこちらに向かって走り出す。
「調子に飲んなこのアバズレがぁぁっ!!」
「うひー、怖いのじゃ。あやつが竜のように見えるのッ!」
「それはがくぶるですね。あくまでも、そう見えるだけですがッ!」
全力ダッシュで向かってきた女性を見据え、ソラとファラはお互いに重ね合わせるように想具を構え、その中心には莫大な魔力球が精製させられる。
相手も同じく一撃で決めると考えたのか、竜の腕に灼熱を纏っている。
その一方でプニプニも心の中で笑みを浮かべつつ、必殺技を放とうとしており、相手を挑発しつつ赤い体表の中には凄まじい魔力を内包していた。
「このジジイがぁぁぁッ!!」
「消えろぉぉッ!!」
相手が声を張り上げ、対象に向けて襲いかかるのも同時。
聖霊の二人とスライムの一体が必殺技を放つのもほぼ同時であった。
「《艦砲射撃》!!」
「《戦闘形態》!!」
ソラとファラのお互いの銃口に溜められた大きな魔力の球体はまるで風船から抜け出る空気のように、灰色の魔力砲撃が闇を切り裂く光のような勢いで発射され、プニプニは半裸の状態の人間形態に変わった途端巨人が成長しているかのように、どんどん大きくなっていく。
「うそ、でしょ――っ」
「す、スライムじゃねぇだろお前!?」
「「はぁぁぁッ!!」」
「ふぉほほ。某の一撃を喰らうが良い」
竜の腕の女性の絶望的な声が彼女達の耳に届く前に巨大なレーザーに飲み込まれ、その閃光の一条は壁を突き抜けて空の彼方へと伸びていった。
一方で男性は、五メートル程にまで成長を遂げたプニプニの大樹のような腕を振り下ろされ、これまでにない拳骨を頭頂部からまともに受けてしまった。
火山が噴火したような揺れと爆砕音が空間とこのビル自体を激しく揺らし、破壊する。
男性は床を何枚も破壊し、下へ下へと落ちていき、最後の最後でまた大きな爆発音が響き渡る。
砂煙が舞う中、あっけに取られていた冒険者達は、その場にいた全員が勢いや衝撃波により気絶していた。
「ふぅ、必殺技はロマンじゃの」
「ただ、そこそこ疲れますけどね」
「魔力が少ない某にはこれが限界ですな……」
未だに揺れと砂煙が舞う中、完全に戦闘が終わった安心感から聖霊たちはペタリと座り込み、プニプニはぷすーっと空気が抜けた音を響かせながら半裸の紳士に戻り、そしてスライムの姿へと移行する。
「ぬっふっふ、我らの訓練も無駄ではなかったの」
「ええ、そうですねファラ。プニプニもそこそこやりますね」
「ふぉほ……有り難き幸せにござります」
元々は豪華絢爛な装飾が至るところに散りばめられており、客を迎えるのにうってつけな場所であったのだが、いまやあらゆるところにヒビが入っており、部屋の中心近くには焼け焦げた後と、吹き抜けのような大きな穴。
挙句の果てに壁には人一人が通り抜けられそうな穴が空いており、その場所からは外を眺めることができる。
明らかにギルド本部にダメージが通っていた。
「や、やりきったの。これで主殿に回る敵も少なくなるはずじゃが」
「気配探知、全く役に立ちませんね」
(ふぉほほ。下にはたくさんの瓦礫がありますな。ですが、某の魔力探知の精度は――)
ピキリ、と床に大きな亀裂が走り言葉を飲むプニプニ。
疲弊しているためソラとファラも座ったまま、焦りの表情を浮かべる。
「え、あっと、うごいては、ならんのじゃ」
「な、なら、どうしますか? これは」
バキリ、と嫌な音が端から聞こえると同時に亀裂が部屋の真ん中の方まで走る。
まるで石化したように固まっていたのに、その音でビクンと三人は震える。
「ぷ、プニー」
そんな腑抜けた声が聞こえると同時に、プニプニがズリズリと身体を擦り付けるように動く。
その瞬間バランスが崩れ、亀裂が何十本も一気にこの部屋に描かれていき、
「嘘じゃろぉおぉっ!?」
(すみませぬ、身体の痒いところが届かないもので……)
「落ちます!これひゅーって落ちますよ!?」
圧力に耐えかね、現在座っていた床は砂煙を吹き上げつつ爆砕。響き渡るのは三人の悲鳴のみであった。喝采は起きない。
「うぉぉ!! 落ちるのじゃ落ちるのじゃ!」
「本日二回目ですねっー!?」
「プニィィー」
穴はプニプニの豪腕によって開けてしまったことにより、下へ下へと続いていて、途中で止まることはなく、最後まで落ちていく。
戦闘に慣れている彼女達からすれば、体制を整えるいい時間であった。
「ぬっ! もう穴がないのじゃ!」
「柔らかく着地しましょう。プニプニ、クッションモードを!」
「プニィ!?」
「つべこべいうで――ないわっ!!」
落下最中にプニプニを掴んだファラは、穴のない地面に向けて思いっきり投擲を行った。
落下速度を上げて、先行してべったりと張り付いたプニプニはプルプルと身体を震わせて、大きくなり、長方形のベッドのような形を取る。
次の瞬間、ソラとファラは狙ってその場所に落下し、安心したような表情のまま無事着地する。
文字通り、尻に敷かれるプニプニであった。
「流石じゃ。明日の訓練は体を動かさず、ババ抜きじゃ」
「ファラはプニプニよりダウトよわよわですからね」
「なっ!?そんなこといえばソラだってポーカーが弱いではないか!」
(ふぉほほ! 訓練なしはありがたいでござります!)
わいわいと騒ぎ立てる声がボロボロの空間に響き渡る。
ソラが周りを見渡せば、その場所は夕と別れた場所であることに気がつく。
「っ!? ユウがいません!!」
「そういえば見覚えがあるところじゃ――ってなぬ!?」
(ふぉほ、魔力も感じられませぬ。まさか……)
プニプニの発言に、全員が戦慄を覚える。しかし、ユウとの繋がりはほんの少しとはいえ、感じることが出来る。
生きているといえば生きているが、感じられる感覚は非常にか細い。
「ってぇな……あいつはなんでオレまで……って!? なんでお前らが!?」
パラパラと服についた小石を払って、部屋の奥の方からぼさぼさの髪を整えつつ夕より背丈の大きな男が四つん這いで這い出てくる。
「ドリュード……!?」
「ユウの聖霊だと!? なんでこんなところに――」
ボロボロのドリュードを見て、不思議に思うと同時に、彼女達には幾つもの疑問湧いていた。
ご高覧感謝です♪