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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
182/300

182話 開戦・2

 ニッと笑みを浮かべて背後にある四つの魔法陣に魔力を装填する。

 その一つ一つの使用量こそ物質創造マテリアルクリエイトに比べれば大した事はないが、四つ分となればなかなか大盤振る舞いな心意気が必要だ。


「こういう力はラスボスまでとっとくべきなんだが……まぁ抱え落ちなんて言葉もあるし、使っておくべきなんだよな」

「かかれぇッ!!相手はたかが一人!しかも召喚士サマナーだ!!」


 ライガーの指示により、俺を完全包囲しているギルド組員達十数人が、一斉にライフルの形をした魔道具の銃口を俺に向けて、本気の殺意と魔力を解き放ってくる。ここで殺処分するつもりなのだろう。


 勿論、そう簡単にやられるわけにもいかない。こっちは元の世界にはなかった特別な力を持っているんだ。


「「うおおおおおおッ!!」」


 最初に飛びかかってきたのは体格のいい男三人。後ろでは魔法を詠唱している男女が三人。

 まずは小手調べと言ったところか。


「それにしても、甘いな」


 そう呟いた瞬間、剣による大振りの一撃を半身で回避し、顔面へのショートパンチを攻撃の合間を縫って差し込む。


「うぐっ!?」


 次。怯んだ男の後ろから槍の一撃が繰り出されたので、突き出された槍をつかんで引き寄せて、無理やりバランスを崩したところで前蹴りを繰り出す。


「がふっ!?」


 次。今度はタイミングを見計らったのか、吹っ飛ばされた男が居なくなってから、俺の真正面からメリケンのようなものを装備した拳で戦う男が迫ってきた。


 メリケンは触れる程度なら別に怪我はしないので、対処が一番楽である。


 顔面を狙ったストレートの一撃を完全に見切ってしゃがむように回避し、この隙に、先程ショートパンチを食らって伸びている男の足を掴んで――


人間ヒューマンバットッ!!」

「ぐむぁっ!?」


 足をバットの根元と見立て、もう片方はボールと見立てる。

 力の限りのフルスイングにより、ボール役の冒険者は打たれた野球ボールのように勢いよく吹っ飛んでいく。飛んでいく先は、魔法の詠唱をしている者達だ。


「「うぁぁぁぁっ!!」」

「なにしているっ!! もっと攻撃しろ!! 撃て撃て!!」

「「はっ!!」」


 魔法の詠唱をしている団体は、ボール役と俺が追加でぶん投げたバット役の人間弾丸により、魔法の起動を完全に差し止められてしまい、慌てふためく光景がよく目に映った。


 指揮官であるライガーはこれ一喝し、所持しているライフル型の魔道具で俺を撃てと命じるが、やはり反応が遅い。

 指揮官にあいつは向いていないな。


「それに、まだソラとファラの弾丸の嵐の方が厳しかったな」


 毎日の訓練により俺は元の世界で放たれる拳銃程度のスピードまでなら完全に見切れるようになっていた。


 元の世界の拳銃より幾らか威力も速度も減衰しているこの世界の魔道具の弾丸が見切れないなんてことは無い。


 まるで舞を踊るように、弾丸同士の隙間を抜いて回避し、それが厳しい時には刀によって弾丸を受け流すことによって道を開く。


 ライフルが火花を吹き、大量の魔力の弾丸が、背後の壁に沢山の傷をつけていく。

 しかし、それらはパラパラという音のみを返してきて、目標である俺にたどり着ける弾丸は存在しなかった。


 魔道具の魔力弾丸はこの世界において最もオーソドックスな兵器である。それをいくら撃っても回避されるこの光景は、彼らにとってはあまりにも信じ難いものであった。


「あ、あたらない!?」

「あいつ……!どんな反射神経をしてるんだ!?」

「落ち着けよ。相手は最弱のクラスだぞ?」

「くっ! あの召喚士を止めろ!!」


 相手もやっと頭が回り始めたのか、弾丸の連射により俺を抑えながら、人間弾丸の被害を浴びなかった残っていた魔導士で詠唱を行うという二段構えの戦法をとってきた。

 それにしても、本当にこいつら精鋭なのか? どこかグダグダな感じがするんだが。


「やれる!あの粋がった召喚士は弾丸の回避に集中しているぞ!!」

「解説どうも――ってな!!」


 ライフルを打ち続けている男が喜びを表したことは、相手にも余裕が湧いてきたということだ。

 俺の経験上、余裕があると慢心していることが多い。


 これを待っていたのだ。


「よっと!」


 弾幕をいなしながら背後にある四色の魔法陣ではなく、無色の魔法陣を作り出し、その中から一本の短剣を取り出す。


「くらいなっ!」


 ムーンサルトで弾幕から一時的に抜け出すと、取り出した一本の短剣をライガーに向けて投擲する。


 これはドワーフの里にて初めて制作した、着弾と同時に魔法を引き起こす、俺特製の魔道具である。


 それが嵐の中をくぐり抜け、竜人の前に着弾すると、直ぐに込められた魔法は開放される。


「これはっ!?」

「「うぉぉあぁぁ!?」」


 立ってもいれられないほど激しい旋風により、魔法を唱えていた者も、待機していた者も所問わず風に負けて強固な壁へと吹き飛ばされて、叩きつけられていく。

 規模が大きいが、芸人が巨大扇風機に負けていることにも見えなくはない。


「さて。こんなもんか?」


 俺を包囲していた冒険者達は旋風により散り散りになり、ライガーは恨めしげにこちらを強く睨みつけている。


「調子に乗りすぎるなッ召喚士がぁっ!!」


 苛立ちの表情を浮かべ、ライガーの口からから二メートルほどの巨大な火炎球が解き放たれる。その熱は少し離れていても感じられるほどであった。


「召喚士とはいえ弾丸回避の特訓は毎日のようにしているんでね。無論、こういう威力の大きいやつの防御とかもな」


 目を大きく開き、ブランと垂れ下げていた右手を旗を持ち上げるように、そして手のひらを広げながら上へと振り上げる。

 すると、それに応答したように黄色の魔法陣が光を放ち、それはすぐに消失する。

 その後直ぐに俺の周囲からは術者を覆うようにドーム型の土壁が床から生えるようにして現れた。


 これは土属性の防御魔法であるが、アルトとの戦いにおいて彼女が使用した防御魔法と形を似せている。


 完全に覆われたところで、やっと接近した火炎球が防御している場所へと着弾し、激しい爆音と熱が空間を揺らし、ビルには多大なダメージを与える。


 しかし、それらは俺には全く届かなかった。この防壁を破るほどの威力は含まれていないようだ。


「終わったな」


 そんな声が遠くから聞こえたが、俺は全く無傷である。あちらは砂煙や俺の土壁の余波でこちらの状態が見えないようだ。


 シンと静まり返った場を見計らい、ドーム型の土壁を内部から爆発させるように炸裂させる。

 風船に空気を入れ過ぎて割れてしまう現象と同じく、魔力により内側から圧力を加え、爆散させた。

 当然ながら、爆散によって勢いよく四方へ飛び散る土壁の破片も凶器となる。


「っ! こんなことで攻撃するとはっ! あいつはまだ生きてるぞ! 第二射ッ構えろ――」

「さて、もう一分が過ぎてしまうんでな。決めさせてもらおう」


 俺が生きていることと、土壁の破片が飛来することなんて予想打にもしていなかったギルドメンバー達の半数は驚いて破片に被弾して即戦闘不能になり、もう半数は見事回避したり、いなしたりして無事である。

 この無事な者達は、この本部において高い実力を持つ者達なのだろう。


 ここで話しかけると同時に、俺は振り上げたままで、何も所持していない右手を下ろし、竜人に向けて突き出す。

 その途端、未だに背後にある赤い色をした魔法陣と、青い色をした魔法陣が両方同時に光を放ちはじめ、その光は陣の中心へと収束していく。


 これが、俺の新たな戦闘スタイルだ。


「これを名付けるなら、魔法速射Ⅰ式か? まだまだ改良の余地はあるけどな」


 この戦闘スタイルは、背後にある魔法陣に予めその色の属性の魔力を補填しておいて、魔法を打つ際にその蓄えておいた分を使用する、いわば充電方式である。


 この世界において魔法を引き起こすためには、その現象をイメージすると同時に体内にある魔力を外側へ放出しなくてはいけない。

 魔力の移動に気を使いながら現象をイメージして魔法に至る、というものが以前までの方法であったが、獣人界において毒の影響、竜人の里においての痛みの影響により発動できないことがあった。

 これは大きな問題ある。


 そこで、編み出したのがこの魔法速射式。

 予め充電しておくことによって魔力移動の手間を省くことが可能になった。


砲撃バースト


 更に笑みを深めつつ、開いていた拳を握る。

 その行動が合図となり、陣に蓄えられていた魔力はその中心で激しい閃光を撒き散らしながら、俺の背後から赤い色と青い色をしたレーザーが射出された。


 高温の火属性と低音の水属性。ぶつかり合えば、温度差により爆発が引き起こされる。


「ギルド本部っていうんだ。まさか崩壊しないよな」

「こいつ――!?」


 ライガーの驚く声が聞こえるか否かのタイミングで全ての音は爆音によってかき消される。

 俺の鼓膜すら破いてしまうのではないかと考えてしまうほど激しい爆発音と、衝撃波により、視界は一瞬で白く染まっていく。

 余りの破壊力により、危うく自分自身も吹っ飛ばされるところであった。


「うぁぁあぁッ!?」

「危ねぇ……まぁ、このデメリットといえば一分以内に消費しきらないと込めた魔力が無駄になってしまうってことぐらいか?」


 漫画のように吹っ飛んでいく人間達を見ながら俺は額を拭う。


 魔法陣の中とはいえ、魔力を充電した後は永遠とその蓄積状態を維持できるわけではなく、その中でも徐々に減っていく。

 魔力というエネルギーが減っていけば比例して威力も下がる。その蓄えられた大小に関わらず、その中の魔力は一分後に完全に霧散してしまうのだ。


 そのため、この魔法速射Ⅰ式は装填したならすぐ使わなければいけないという、足元に火がつけられているような感覚に駆られるスタイルとなっている。

 焦らない自信のある俺にはピッタリであるともいえる。


 また、魔法陣も使い切れば消失するので、現在俺の背後には何も存在しない。ちょっと中二臭いのもたまにキズだが、魔法を使ってる時点でご察しである。


「派手に吹っ飛ばしたな……!」

「ちっ、やっぱそう簡単にはいかないよな。素直に倒れてくれればいいものを」


 爆発の余韻が残るこの空間では煙が充満してたのだが、その向こうに見える黒い人影が手を横に勢いよく払うと、突風が引き起こされて煙が一瞬で晴れる。


 全く無傷なライガーがこちらに歩いてくるが、その周りの冒険者達はその余波で気絶してしまっているようだ。


「おいおい。この程度でやられてるぞ。お前の手下」

「はっ、我にもついてこれない人間など気にするものか」

「いいこと教えといてやる。お前みたいな奴が嫌いな上司って言われるんだよ」


 ギルド本部の精鋭達であるため爆発の一個や二個ぐらいは耐えてみせると思ったが、思いの外あっけなく全滅してしまった。彼らはまだ下の位置の冒険者であるようで、相手もいきなり本陣は投入してこないようだ。


 また、彼の足元には黒焦げたタイルが見える。

 これは爆発が起こっても穴が開くことはなく、強いて言うなら爆発が起こっても焦げ付く程度で収まるくらいの耐久力を持つことをよく示すものであった。

 ギルド本部は爆発が起こってもビクともしないことが判断できる。大変素晴らしい強度である。おそらく百人乗っても大丈夫だろう。


「なぜ三下である人間の上司なのだ? 我ならばもっと高い位置に居るべきであろう?」

「はいはい。そうでしたね蜥蜴さん。お前には白神って奴に飼われて一生虫籠の中がお似合いだ」

「……まずはお前のよく回る口から焼き尽くしてやろう」

「お? 怒ってるのか?」


 俺の顔は全く笑ってないが、手を口に当ててわざとらしく ぷぷぷ と声を出す。何度もなんどもソラとファラに馬鹿にされて腹の立った笑い方である。


 彼の顔をじっと見てみると、効果は絶大であるとよく理解出来た。


 なぜなら彼の顔はどんどん赤黒く変化していき、本当のトカゲの顔のように鱗が生えだし、顔つきも変化し始めたからだ。


「怒ると化けの皮が剥がれるな。やーいばーか」

「我を小馬鹿にしやがってッ! 殺してやるぞ! 三下あああッ!!」


 もう一押しであると感じたので小学生並の罵りを加えれば、比喩でもなく本当の意味で顔真っ赤トカゲの完成である。


 竜人ってやつらはどこいっても相変わらずで、沸点が低くて助かるな。


 彼は羽を大きく広げ、雄叫びを猛々しくあげると、彼の中では恐らく最速であろうスピードでもう接近する。

 その速度は驚きの一言であり、下手したらレムより素早いかもしれないが――


「これまた随分まっすぐだな」

「ウガァァッ!!」


 左へと横っ飛びに回避すれば、突風を引き連れた赤い弾丸が、目の前の障害物を全て破壊し尽くさんばかりの勢いで鋭い爪の生えた左手を伸ばしながら飛来してくる。

 このスピードでフェイントを加えればいいのにな。いまの彼ならレムだって余裕で勝てる気がする。


「そんなもんか?」

「ガァァァァッ!!」


 彼は空中で大きく旋回し、再び羽を大きく広げて滞空すると、口からチロチロと真っ赤な炎が漏れ出す光景が見えた。恐らく彼の口から火炎を放つつもりなのだろう。


「そう簡単にやらせねぇよっ!」


 魔法速射式は使用せず、ごく普通に魔法陣から短剣を取り出し投擲。

 これもドワーフの里で作り出した火属性の魔法を込めた短剣であり、効果は着弾と同時に引き起こされる。


「グアアアアアッ!?」

「隙ありだっ!!」


 彼は俺の投擲スピードが大したこと無かったため、短剣を義手により振り払おうとしたがそれが間違いであったことを身をもって知ったようだ。

 黒い鉄の義手に炎の渦が出現し、それはぐるりと蛇が獲物を締め付けるように巻き付き、焼き尽くされる。

 竜人は鱗を持っているため火属性は効きにくいらしいが、彼は燃え上がる炎の渦に驚愕し、口の中にある火炎は何処かへと消えた。


 この隙を利用して気功術を使用し、身体が仄かに青く光る。

 通常の状態では考えられないような身体能力の向上により、俺は一足飛びで空中に佇んでいる竜人へと接近する。


「フッ!!」


 気合の一息共に横凪に大きく一閃。

 しかし、ここは戦闘のエキスパートである竜人が素早く反応し、燃え続けている義手を盾にして俺の致命の一撃は防がれてしまった。


「グググ……き、さまァッ!!」

「はぁッ!」


 気功術を纏っていることもあり、俺が力負けする事はなく、鍔迫り合いの状態から刀を振り抜いて相手を大きく吹き飛ばす。


 強くなった自分が、下に見ていた人間に吹き飛ばされるなんて想像すらしなかった竜人は受身も取れず、強風に吹きとばされる落ち葉のように勢いよく飛んでいき、壁に強く叩きつけられる。


「グホっ……がほっ……なぜ、だ?! 我は他の竜人を食して強くなったハズでは……っ!?」

「ほかの竜人を食べただって?」

「竜人の里の下に広がる迷いの森! そこで俺は数々の名のある竜人を捕食してきた! だが、なぜ貴様は……ッ!人間である貴様は……!」


 俺は、このことからあることを思い出す。竜人の里へ向かう前に大量の火炎球に襲われ、アルトたちと散り散りになったところで、黒い竜人の影が何かを捕食していたあの光景。

 プニプニと出会ったあの場所で、襲いかかってきた竜人はまさかこいつだっていうのか?


「ガ、ガ、ァァァァァァッ!!」

「っと、次は何だっつうの……」


 炎の消えた義手から、黒いオーラが溢れんばかりの勢いで放出されて、竜人の身体を覆っていく。

 それを纏っている竜人の声は悲痛なもので、苦しみすら感じられるほどであった。


 叫び声と同時に激しい魔力の奔流と旋風が巻き起こり、思わず顔を覆う。

 そしてこの闇属性とも違う怪しい黒い魔力は、シーナの悪魔憑バフォメットコート、そして竜人の里にて魔族が使用したものとほぼ同じ感覚である。

 最近よく見るが、どの属性にも当てはまらないこれは一体何なんだ?


「ァァァァァァ……!」

「黒い竜人ってか。なかなか格好良いじゃないか」


 黒いオーラは彼の体の中へ徐々に収まっていき、気がつけば彼の体表は真っ黒く染まっていた。


「ちょっとこの悪魔憑についても誰かに色々聞いた方が良さそうだな」

「ァッ!!」


 飛びかかってくる竜人。だけれども、俺はこの対処法は分かっている。

 悪魔憑は悪魔を身体に宿して、力を得る技である。

 悪魔を宿すのだから、状態異常の憑依ポゼッションと何ら変わらない……はずである。


 高速で飛びかかってきた竜人は、俺を爪で一刀両断するように振り下ろしてきたため、ぎりぎりのところで半身になって回避し、その振り下ろした腕を掴む。


状態解除ディスペル

「ァァ!?」


 魔法をかけた途端、鋭い蹴りが飛んできたため手を離してしまった。少しだけ掠めたため頬に傷がついてしまった。


 これ以上の近距離戦闘は無用なので、水属性魔法の氷の槍を作り出し、射出しながら距離をとる。

 頭冷やせとの意思の元、水属性を使わせてもらった。


「ァァ!? ……あぁぁ? な、ぜだ? 何が起こった……!?」


 氷の槍は彼を貫けなかったが、大きなダメージを与えたようで、彼は両膝をつき、黒いオーラが抜けていくと同時に頭を抱えていたライガーは目に光を取り戻していく。状態解除も効果アリだな。


「悪いが、決めさせてもらう」

「一体何がっ――」


 刀に力を込めて構え、何がなんだか分かっていない竜人に向かい全力で近づき、このまま勝負を決めにかける。


「滅――閃!?」

【見事です】


 竜人に向かって切りつけようとしたのだが、俺はこれ以上ないほど嫌な気配を一瞬だけ感じ取り、超高速で半回転を行い、背後に向けて本能的に刀を振るう。


「ってぇ……!?」


 達人級の武芸を使ったのにも関わらず、こちらに衝撃波が返ってきたため、思わず刀を持つ力が緩む。

 目の前にいたのは、白いローブフードを被った、恐らく人間であろう者。それが、俺の武芸を真っ白にペイントされた機械の義手の手刀によって受け止めていた。


 その力の抜けた僅かな隙を見透かされ、目に見えないほどのスピードで手刀を振るわれ、刀を弾かれると、これまた規格外の蹴りが飛んでくる。


「魔法纏ッ――!?」


 まるで大砲が直撃したかのような、あまりの重い衝撃に気を失いかけた。しかも、土属性を魔法纏でさえただの蹴りの一撃で解除されて、その受け止めきれなかった衝撃波により俺は空中に吹っ飛んでしまう。


「くっ……そっ! なんだよその威力はっ」


 吹っ飛ぶ途中で地面に足をついて勢いを弱めたので、数メートル吹き飛ばされる程度で収まり、壁にぶつかることはなかった。

 しかし、突然すぎる攻撃、アルトのような強さをもつ破壊力に俺は困惑を隠せない。


「よう。貴様がナミカゼ ユウ か。本当に黒髪とはな」

「……へぇ、わざわざここのボスがこんなところまで来るとは」

「白神の不意の攻撃を受け止めるあたり、その実力は本物のようだ。闘技大会の功績は正しかったことぐらいは認めてやろう」


 ぱちぱちと乾いた拍手をする紫色の髪をした三十代ぐらいの男性は、如何にもデキル男のような雰囲気を作っており、その背後には、気配探知を使わなくても理解できるほど強者であることが伝わってくる冒険者達が数十名いた。


 それらは、先程ボッコボッコにした冒険者達とは比べ物にならないくらい威圧感を放っており、恐らく彼らの実力は最低でもSSは超えているだろう。


 そして、中でも目を引いたのが――


「ドリュード。お前のおかげでこれか」

「……悪いな。少年」


 俺の憎々しげな視線をものとしない彼の飄々とした顔は見ていて腹が立ってくる。

 アルト、レム、シーナ。どれも実力者なのにも関わらず、確保されてしまったのは裏の手が回っていたためだ。

 ドリュードが、密告していたのだ。

 もう怒りを通り越して呆れしかない。


「ドリュード君はこちら側でな? お前はずっと踊らされていたんだよ!! ばぁぁか!!」

「はぁ、どうすっかなこれは」


 特に問題なのが、目の前にいるこの白ローブ。SSランカーなんて比ではないくらい実力を持っていることは一度打ち合っただけで分かる。正直アルトといい勝負だ。下手したら彼女でさえ負けるかもしれない。

 そんな相手が目の前にいることが、何より俺を真剣にさせた。


「白……神……様っ……どうか……もう一度我に……!」


 ふらふらとライガーが白神の足元に近づきローブの裾を掴む。

 まさに神に助けを求める農民といったようなものだが、未だに白神と呼ばれた機械的な声の顔は分からない。


 白神はじっと見つめているが、ある声がかかると急に動き出す。それはまるで、ロボットのように。


「やれ。約立たずは要らん」

【了解しました】


 その瞬間、ライガーの時間が止まった。

 まさに一瞬の出来事であり、俺でさえ彼の最後を見届けられなかった。


 ごとりと彼だったものが落ちると、白神は血を払うように義手を振るう。


「お前らには、殺す必要はないだろ」

「いっただろ? 約立たずは要らないってな。それに、お前も今から死ぬけどな!! 泣いて謝ったら殺すまでは行かないが――どうする? 召喚士」


 俺のこれまでにない位の低い声は、嘲笑う声によってかき消された。

 ソラとファラの連絡はまだ来ていない。

 一人なら間違いなく逃走という選択肢を選んだのであるが、ここで俺が逃げてしまったら、間違いなく全滅である。

 アルトも、レムも、シーナも、ソラも、ファラも、プニプニも、全部みんななにもかも、この規格外過ぎる白いヤツに殺されてしまう。


「きっついな。これ」


 口元が歪む。ここまで危機的な状況は久しぶりだ。

 人はこれを焦っているというのか、それとも恐怖のための笑顔というのかは分からない。


 だが、大人しく投降する気がないのは確かであった。


「女性好感度ランキング最下位の奴に下げる頭なんて……ないな!」


話数をつけた方がいいのではないかということで、今回からつけさせていただきます。

ココ最近少々忙しいので更新が4日ペースになっております…申し訳ございません。


また、あらすじをもう少しひねってもいいのではないかと考えております。「またこいつ無駄なことやってるな」と生暖かい目でいていただければ幸いです


ご高覧感謝です♪

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