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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
181/300

開戦

 夕が襲われていた同時刻。ギルド本部最上階にて、赤い液体が入ったワイングラスを片手に、両手を広げ高笑いしている男が一人。


 その笑い声は歓喜に満ち溢れていて、非常に喜ばしい雰囲気が放たれていた。


「ははっ! はははははっ!!」

【……マスター、これで本当によろしかったのですか?】

「よろしいもなにも、最高だよ!! はははッ!本当に俺はツイてる!!」


 全身を震わせて喜びをあらわにする男は、現在全てのギルドの中で最高の権力を持つ男、ブルーノその本人である。


 彼はどこが情報源なのかも分からないスキャンダルか重なってしまったことにより、立場が危ういところであったのだが、この度、王政の調査の手が伸びる前に完全鎮圧を行うことが可能となった。


 その背景には、この最高のセキュリティを持つギルド本部へわざわざ侵入しようとする愚か者達が降って湧いたためである。


「あーあ! 本ッ当にタイミングが良いところに来てくれたよな! これで責任を全部アイツらに押し付ければいいんだよ!」

【ギルド転覆を図った罪人として、ですね】

「ああそうだ! しかも見てみろ! このパーティ! こちらがわざわざ招待してやったのに、それを断った馬鹿どもじゃねぇか!」


 彼は、空中のホログラムに映し出されたプロフィールを見て再び高笑いを重ねる。その画面に映し出されたのは、三名の男女。

 それらは白神の 看破・極 というスキルにより、完全解析された結果がびっしりと記載されていた。


「粋がるだけあって、そこら辺では見ないような特徴を持つ奴らばっかりだな。しかも、一人は魔族か。人間と組んでいるとは……驚きだ」


 一人は世界に数人いるかどうかの全属性魔術師オールマジシャン。黒に近い髪色をしており、絶世の美女であるが、戦闘においてはSSランカー相手でも歯牙にも掛けないほど凄まじい実力の持ち主である。

 また、白神の最高ランクのスキルにより、彼女が魔族であることも見破られていてしまっていた。


 二人目は、小さな子供にしては、異常な戦闘力を持つ銀髪の獣戦士。同じく白神により、彼女が獣人の中でもこれもまた稀少性の高い 白狐族 という分類にあることが分かっている。


 そして最後に、召喚士サマナー


 パーティで唯一の男であり、長い間世界を見渡してきたブルーノですら見たこともない黒髪黒目。そして、召喚士とは思えないほどの経歴を持つ。


「こいつが、噂の召喚士か」

【私でもすべて解析は不可能でした】

「へぇ、それは凄いな。お前でもダメなんて」


 ナミカゼ ユウ という人物は、召喚士サマナーでありながらも、闘技大会にて、実力で勝ち進んだ。

 運も絡む事もあるのでこれだけならまだいい。


 だが、竜人の里で魔族と戦闘を行い、腹部を貫かれようとも、勇者が助けに来るまで生き残ったこと。これが大変興味深い。


「魔族と互角に戦える人間は、最低Sランク以上。これがギルド本部の適正だったな?」

【その通りです。しかし、あの魔族は勇者の報告によると、四大変化エレメンタルモードを身につけていたとの情報が入っています。危険度は一つ星(シングルスター)を超えるかと】

「なのに、生き残った召喚士、か。何よりお前が解析しきれないっていうのが一番気になるな」


 クククと笑い声を上げながらも赤い液体を口にする。彼は本部から下を見下ろしていて広がるビル群を嘲るように眺めている。まるでマシニカルの街を完全に手にしたかのような錯覚を得ていた。


「さて、男は絶望させるための材料に使うとして、あの女は魔族で、もう片方は白狐族だったな?」

【実験の材料にするのなら、私が早速解体を開始致しますが――】

「いや、まだいい。それに、まだあいつらの壊れる表情を見てないからな。クソ生意気で、強気なあいつらが目の前で壊れるのを見ると……ははははっ!!笑いが止まらないな!」

【了解しました】


 高笑いを続けるブルーノを差し置いて、白神は虚空に向けて指を突き出す。すると、その指先に新たなホログラムが形成された。

 半透明なその場所に三つに分割されて映し出されたのは、完全に気絶をしてしてしまっているレムとアルトが、真っ白な研究室のような場所に監禁されている映像。それが一つ。

 また一つは、シーナがガスマスクをした男二人にまた別の場所へと運ばれている映像であった。


 しかし、最後の一画面には、ガスマスクの男が二人倒れているだけで、他に人間はいない。疑問に思った白神は意識を集中させようとして――


「ああ、そうだ。確認だが、魔物化の実験は他の奴らから情報は漏れていないよな?」

【はい。あの研究をほかの場所へ漏らそうと企む者もいましたが、私が広まる前に始末をしてあります】

「流石は白神だ。あれがバレたら王政も本格的に攻めてくるからな。そうなれば俺の立場も危うい。……一番順調なアイツはどうなんだ?」


 彼は笑みを深めると、白神は先程展開していたホログラムの目の前で一度拳を握りしめてそれを空間から削除し、彼の望む結果を確認するために、実験施設の映像を開く。


 そこは、清潔な白い壁で囲まれた場所で、女の子一人がベッドの上で酸素マスクを装備しつつも眠っている光景が映し出される。彼女もこの会話で話された被験者の一人であった。


【あいからず順調です。やはり、マスターの予想した、アイ というものがあるおかげかと予想します】

「やっぱりか。ならそろそろアイツに合わせてみるか。実験も終盤だ。それと、処置はいつも通りにやれ」

【了解しました】

「ああ、あと適当に情報を操作して、住民に最近起こった事件は全部ユウナミカゼとそのパーティが引き起こしたことにしておいてくれ。これは後回しでもいいけどな」

【了解しました】

「ふぅ、ほんとロボットが居てくれると俺も楽だな」


 フードを被った白神を、まるで使い古したおもちゃのような視線で見つめたブルーノは、ほんの僅かでさえも感謝の念を抱かなかった。


 正面へと視線を戻し、展開された三枚のホログラムの内の ナミカゼ ユウ について記載されている部分を見直す。


「異常な経歴を持つ召喚士、か。だが、所詮は最弱のクラスだ。調子に乗りすぎるとこうなるんだよ。雑魚は雑魚なりに細々と生きてればよかったのにな」


 そう呟いて、ブルーノは空間を切断するように腕を振り下ろすと、空中に浮かぶ夕のプロフィールに、大きな赤いバツが刻まれる。

 これは、この世界での死を意味するものであり、ホログラムに記載されていた情報は下部分からポリゴンの粉塵と化して空中に消えていく。


「じゃあな。召喚士」


 ~~~~~~


 足音も消して、気配も消して、息を殺す。潜入任務において、一つの油断がすべてを台無しにする。


 この逃げ場のない高いビルの中では派手な行動、無駄な行動は慎みたいところ。


 ――なんて考えていたのはいい思い出だ。


「ぁぁん? 聞こえないのじゃがぁ?」

「さっさと答えてくれませんとねぇ? こっちが困るんですよねぇ?」

「ふぉほほほ……怖いですな。お二方」

「な、なんだよ。なんなんだよお前ら!? こんなことしてただで済むと……?!」

「はぁ、十中八九済まないだろうな。俺の緊張感は宇宙の彼方だよ」


 溜息を吐いて、周りを見渡す。


 聖霊の二人はサングラスを少しだけずり下げて、メンチを切るように小太りな冒険者を脅す。

 そのヤクザ顔のソラとファラは、本職顔負けの恐ろしい表情をしており、人間の執事モードのプニプニもそれを見て笑顔が引き攣っている。


 なぜこんな事になったのかというと、俺が聖霊達を解放してしまったからである。




 電撃を放ち終えて、何とか気絶ガスの難を乗り越えた俺は、ガスマスクをした男二人を放っておいてアルトとレムとシーナを探す事を決めた。


「もう侵入って判断が出されてるみたいだし、ほっといてもいいか」


 彼らが俺を連れ出すために開けてくれた向かいの扉の奥には、上へと繋がる階段が存在していた。

 恐らく、この取り調べ室を利用して、気絶したアルト達はギルドの内部へと移動させられたのだろう。


 警戒をしつつも階段を登りきれば、しっかりと掃除が行き届いている廊下へと繋がっていた。

 周りを見渡しつつ監視カメラをのような機器を避けて進んでいったが、ここがどうであろうともこのビルは企業ということには変わりがない。

 そのためこの場所には一般人や、冒険者も通ることがあり、俺は隠れることもしばしばあった。

 しかし、基本的に警備員のような見張りはいなかった。


  五感を研ぎ澄ませて慎重に歩みを進めても、両側にあるのは扉、扉、窓。たまに大扉。


 一般人や、冒険者がこちらに迫ってきた場合には、俺は物陰に隠れたり、天井にひっついたりしてやり過ごすことが出来たが、俺の心には少々失望感というものが感じられていた。


「何がギルド本部だ。思いっきりオフィスビルじゃねぇか。俺の子供心と期待を返せ」


 ちなみに、俺が文句をつけているのは外見上だけであり、この場所では気配探知は全く役に立たない上、観察眼サーチアイによる透視は不可能、さらにアルト達へ向かうルートを検索してみてもエラーがでる。


 しかも、至るところに監視カメラが設置されており俺の行動は著しく制限がかかっているのだ。


 このようにセキュリティ面では万全を期しているので、シーナがこの場所に来る前に話していた「無駄に対敵対策が盛り込まれている」という言葉があながち間違っていなかった事が嫌でも実感できる。

 恐らくだが、下水道にもあった魔力による検知設備も常設されているだろう。


 レムが囚われていた貴族の屋敷のように素早く隠し扉を見つけることはまず不可能であり、なおかつ監視カメラに映らず先に進むとなると、非常に困難だ。


 と、いうわけで、俺は聖霊たちに力を借りることを決めた。


「とーう!やっとシャバじゃな!」

「こほん、ここは室内ですよ。ファラ」

「ふぉほ、某も出番ですな。現界したのは久々な気がしますな!」

「ああ。この状況をどうすればいいのかが打開策を出してくれ。俺も考える」


 廊下の前で突っ立ってるわけにもいかないので、一番近くの部屋に誰もいないことを確認してから侵入し、三人を召喚した。


 入った部屋は、事務室とは程遠い狭ぜましい場所で、ダンボール箱が沢山積み上げられている倉庫のような場所であった。その場所もあってか、監視カメラのような機械は見受けられなかった。


「で、どうすればいいんだろうな。 魔法も使えないってなると、かなり厳しいところがあるんだが――」

「なに、気にすることはないのじゃ」

「我らにお任せ下さい。れっつごーです」


 聖霊の二人はポンと胸を叩くとなんの躊躇もなく倉庫から出ていく。

 っておいおい。監視カメラに映ってしまうのではないか?


(おい! ソラ! ファラ!)

(何なのじゃ一体。まさか、我らがこの程度の文明の機器に捉えられると思っているのか?)

(疑問があるなら、一度外へ出てみてください。人が居ない今ならしっかり確認できますよ)


 完全には信じられなかったが、この場所にいつまでも留まるわけにはいかない。

 覚悟を決めて扉を開ける――がそこに二人はいなかった。


 不意に気配を感じて左を向けば、驚きの光景が目に入った。


「何やってんのお前ら」

「ぬっふっふ。これでユウも安心できただろう?」

「安心してください。我らの磁場パワーで、映像はあちらへ届いていませんよ」

「ふぉほ、なるほどですな!」


 彼女らは監視カメラに向かって、かっこいいポーズを決めていた。


 磁場パワーというと、彼女らが魔力を使用していることになるのだが、魔法探知の機械はなぜ反応しないのだろうか。もしかして、そんな機械は存在しないって証拠なのか?


 すると、プニプニが待っていたと言わんばかりに俺の正面に立ち、背筋を伸ばす。


「ふぉほ!お困りのようす! 某が解説いたしますぞ! どうやらこの場所の魔法探知は感知する感度を高めに設定されておらず、規定量の魔力まで使用魔力を引き上げないかぎりバレることはないということにござります。なので、ソラ様とファラ様がその規定量の魔力を放出しない限り、監視カメラに付属している緑の光は赤に変わることがないということでござります!」

「あれが赤ランプじゃったら、異常事態だと思われて、この本部の中枢へ異常事態の信号がまで飛んでいってしまい、我々のセクシーポーズがばれるのじゃ」

「……いきなりそんなに沢山言われても分かんねぇよ。もっと掻い摘んで要約してくれ」


 魔法探知やら、規定量なんて言われてもさっぱり分からない。

 理解出来たのは、監視カメラのことについてだけである。


 壁の上方に設置されているカメラは、付属している赤と緑のLEDのようなランプの光があり、その色の状態で今が正常か異常の判断ができるらしい。

 もしもカメラの上に付属されているランプが赤だった場合、異常事態を伝える信号が警備の中枢まで届いてしまう……らしい。


 とにかく、緑が通常で通りであり、赤い光が点灯している場合、異常事態を感知し、中枢施設まで通報、という流れは既に終わっているということだ。


「えーっと、そうですね。我々が適度な力の磁場パワーで監視カメラを封殺するので、ユウはガンガン行ってくださいってことですね」

「最初からそう言えよ……まぁ、頼んだ」

「「了解!!」」


 カメラの目の前を通っても、それに付属してあるランプの色は変わらず緑。異常なしということだ。

 聖霊たちの事前調査によれば、顔認証システムが一つ一つの監視カメラには存在するらしく、素通りするためにはこの方法か、中枢システムを直接破壊するしかないとのこと。


 顔認証のようなハイテクなシステムがあり、異世界人である俺が一番驚いている。元の世界でもそんなシステムはそこまで流通しなかったぞ。


 そのまま監視カメラの存在を完全無視して突き進んでいたのだが、ビルの四階にまで辿りついた頃に、ある事件が起こる。


「待ってください。ユウ。この扉から怪しい匂いがぷんぷんします」

「いや、怪しいって言っても他の扉と何も変わらないだろ――」

「焦れったい!突撃あるのみじゃぁッ!!」


 俺でも差し止めることも出来ないようなファラの即時決定により、目の前のドアが勢いよく蹴破られる。


 自動ドアであるのに、蹴破る。

 ガラス製なのに、蹴破る。


 当然、防犯システムは作動する。


 この時から、俺は聖霊たちにだけはスパイ活動以外で絶対に先行させてはいけないと感づきはじめたのだ。遅い気もするが。


「本当に何やってんのお前」

「な、なんだ!?」

「うぉぉ!? ガラスが急に割れて――!?」

「ふふん! ビンゴじゃ!!」

「流石我々ですね」


 胸を張ってドヤ顔を決める二人は置いといて、蹴り破って見えてきた光景は宇宙ステーションのような場所であった。

 目の前に巨大なスクリーンが存在しており、その周囲には多数の映像とホログラムが映し出されている。恐らくこの場所が監視カメラ等の警備システムの中心なのだろう。


 そのホログラムの中には、アルトとレムが四方真っ白なタイルが貼られた空間にて拘束されているのが確認できた。


 けたたましいサイレンが鳴り響き、赤色のランプがチカチカと動き回るこの状況はつい最近魔界でもあった気がするな。


 俺は侵入任務にしたつもりだったのだが、彼女達は襲撃任務のつもりだったらしい。


「さぁ、暴れるのじゃ! ソラ!」

「ええ、ガンガンやっていきましょう、ファラ!」


 そんな掛け声が聞こえた瞬間、ソラとファラのガトリングにも感じられるほど素早い速射により次々と人が倒れ、気絶していく。 俺とプニプニは唖然して一言も話せない。


 この部屋には数十人存在したが、十秒と経たずに残り一人まで削りきってしまい、二人は煙の出る銃口に息を吹きかける。


「え……あ……え?」

「とりあえず、サイレンを止めてもらおうか」


 俺は彼女らにツッコミを入れたい気持ちをおさつつ、このシステムの管理人であろう人物にむけて刀を突きつける。脅してあるが、こうでもしないと警報を止めてくれないだろう。なにせ最弱のクラスだからな。


 怯えた声上げながら、男はコンピュータを操作して警報を止め、ここでやっと現在に至る。


「あぁん?なんで警報は解除したのに、彼女らについては話さないのじゃ? ちっというてみ?」

「お、お前らに教える情報なんて――ひッ!?」


 ファラの脅迫でかなり怯えているのに、それでもなお彼は情報を出さなかった。そのようすにソラが腹を立てたのか、壁に寄りかかって怯えていた男の耳元に向かい、勢いよく足を突き立てる。

 それは、俗に言う壁ドンであった。

 なお、逃げ道を封じるのは腕ではなく、足である。彼女達の今の服装は魔法学園の制服なので、下手したらスカートの中が見えているかもしれない。


「いい加減に、してくれませんかね」

「あ、ああ……ッ!?」

「ソラ! それが噂の壁ドンじゃな?! 我もやるのじゃ!」

「ええ。怯えた表情を見下すのはとても快感ですね」

「おいお前ら――」


 ふざけが過ぎる、と伝えようとしたところで、背中に寒気が走る。

 まるで、多人数に銃口を向けられているような感覚である。


「人間、いや、ユウ ナミカゼ。まさか白神に気づかれもせず、こんなところまで来るなんてな。それにそいつらは人の形をした精霊か?」


 尋問というより、遊びに近かったソラとファラも一瞬で静まり返り、声が聞こえた方向に振り向く。そこには、ファラが破壊した扉から入ってくる多数の人影。

 彼らはあっという間に出口を塞ぐと、この場所は魔道具をもった人間数十人に囲まれてしまった。そして、ふんぞりかえったようすで真ん中を歩いてくる一人の竜人はいかにも強者の雰囲気を放っている。

 ああそうか。この小太りの冒険者は援軍が来るまでの時間稼ぎをしていたってわけか。だから口を割らなかったのだな。


「囲まれてるな」

「どうだ? 再開の感動にうち震えていいのだぞ? 召喚士サマナー


 俺に明らかな殺意を持って話しかけてきたのは、逆立った青い髪に、赤い瞳の竜人。そして、既視感のあるような顔つき。


 特徴として右手に義手を装備し、黒い闇属性を纏っている。

 以前とは何かが違うような気がするがこの雰囲気からして、間違いないこいつは……!


「どっかであったことあるな。いや、気のせいか。すまん」

「…………」


 名前は思い出せないが、とりあえず彼に似たような竜人と一度戦闘を行い、圧勝したような気がする。

 もう少しで名前を思い出せそうなんだけどな。


「はっ、相変わらずだな愚弄の召喚士。だが、その態度。白神様の加護を受けた我に――このライガー様を前にして、些か不敬であろうがッ!!」

「あ、それそれ。そんなやつだったな」


 納得する俺を差し置いて、彼は義手にどす黒いエネルギーを込めて、超高速で飛行しながら俺の腹部を貫かんと猛接近する。

 彼とは以前闘技大会で戦ったが、そのスピードは比べ物にならないくらい速く、無駄がない。余程強化されたように見える。


 だが


「よう蜥蜴もどき。この名前で呼ぶのも久しぶりか?」

「……ふん。こう来なくてはな」


 滑空により更に強化された拳を、片手だけで展開した魔法、防壁シールドで受け止めると、激しい衝撃波と鐘を殴ったかのような低い音が重く響き渡り、周りにいるものをすべて吹き飛ばさんという勢いで旋風が巻き起こる。


「っ……そやつ、なかなか強そうじゃの」

「ユウ、我らも手伝いを……!」

「いや、要らない。お前らはアルトとレムを頼む――よッ!!」


 魔法を中断し、先程魔法を使用した右手ではなく、左手で魔法陣から刀を逆手に持ちつつ抜刀。その勢いのまま、切り上げようとしたが、相手は素直に身を引き、回避された。


「ふん、甘いわ。そもそも、我がここから誰一人として逃がすと思うか?」

「知らないが、こっちはこっちで勝手にやらせてもらうぞ。それと、お前にはレムの一件があるからな。しっかり落とし前はつけてもらおうか」


 相手は俺の出るようすを伺っているようだが、戦闘より、聖霊たちをアルト達の救助へ向かわせることが優先である。流石に女神の力があるとはいえ、この人数は厳しいものがある。一刻も早く味方が欲しいところだ。


「三つ数えたら行け。俺が抑える」

「……分かったのじゃ。ソラ、これは主殿としての戦いじゃ。我らの出る幕ではないの」

「そうですね。マスター、検討をお祈りします。プニプニ、行きますよ」

「ふぉほ……どうかご無事で」


 互いにジリジリと距離を図っている中、俺は聖霊たちに念話で合図をする。

 そしてそれは、俺の一対多数の開戦の合図でもあった。


(一……二……三ッ!!)

「!! 精霊達が逃げるぞ! 仕留めろ!誰ひとりとして逃す――」


 ライガーが叫び、指示を出す前に、俺は行動を開始する。この場所には多数のコンピュータがあって、非常に戦いにくい。

 ただでさえ人数的に不利なので、せめて地の利は得なければ。

 戦闘で有利にするなら、邪魔なのは吹き飛ばせばいい。


「焔月閃!!」


 何度も、何度も見たアルトの武芸を元にしたオリジナルの技。

 彼女のように完全なる武芸ではなく、武芸と魔力を併用することにより、遠隔攻撃を可能にした。


 火属性の魔力を含んだ剣圧はコンピュータを巻き込み、更には誘爆させて、その熱量によりソラとファラを止めようとした者も足を止め、激しい熱風が吹き荒れる。


「飛距離は絶望的だが、威力は十分だ」


 射程距離はざっと五メートルほどだが、誘爆させたこともあり、辺りは大変散らかってはいるものの平面に近い状態になった。これなら幾分戦いやすくなっただろう。


 刃の先を竜人に向けながら俺は自信満々に呟く。


「お遊びはここまでだ。これからは戦争の始まりだぞ。覚悟はいいか? ギルド本部さんよ」

「たった一人の人間風情が、召喚士風情が、白神様に楯突こうなど――片腹痛いわ!!」

 

 ここでの大規模な戦闘が始まるということは、国と言っていいほど莫大な戦力が襲いかかってくることだ。

 それを理解した上での、戦闘だ。長くなれば長くなるほど、恐ろしく強い者が現れる可能性が高まる。


「最弱のクラスの魔法だ。このくらいは耐えきって見せてくれよ?」


 魔力を全開に開放し、赤、青、緑、黄色の四色の魔法陣を背後に展開する。

 どれだけ耐えられるかは分からないが、やれるだけやるさ。


ご高覧感謝です♪

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