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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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179話 害虫駆除

 電車が動き出したので防音として使用していた風魔法を解除する。

 移動し続ける物体に魔法をかけ続けるのは、通常より魔力と集中力を要するからだ。


「さーてと、そろそろ教えてもらおうか?」

「あんまり時間ないんだよね。いま機嫌がいいからすぐには殺さないけど、答えなかった人から列車から降ろすよ? 勿論、これが走ってても関係なく、ね」

「――こ、この外道が!」

「襲ってきたのはどっち、ですか?」

「くっ」


 話そうとする気にならない仮面は横に倒れたままプイっとそっぽを向く。

 どうしたものかとじっと見つめていると、彼の仮面が変装に使用できるのではないかとの考えが浮かぶ。

 そのために仮面を幾つか確保しておくのも良いのかもしれないな。


 仮面を分捕ろうとして無言で手を伸ばすと、男は機敏に反応し、突然声を荒らげながら慌てたように必死で身体をじたばたと動かす。 少々びっくりして、伸ばしかけた手を戻す。


「止めろっ!やめろって!」

「ん? そんな仮面が大事か? なら洗いざらい吐いてもらわないとそれ取るぞ」

「分かった! 分かったからこの仮面だけは取らないでくれ!」

「あれ? やけに素直だね」

「ようすがおかしい、です」


 レムのいうとおり、彼はアルトに殺すと言われるより、仮面を取る といわれた場合の方がリアクションが大きく、恐怖している。

 顔に自信が無いという理由が命を奪うという脅しより反応が大きいわけがない筈だし、疑問は深まるばかりである。


「ならまずお前らは何なんだ? なんでこんなことをする?」

「……言わなきゃダメか?」

「だめに決まってるよね? 今すぐ取ってあげようか?」

「……っ」


 どうしても口に出したくないようで、この場に来ても未だに口篭るが、アルトの一押しにより覚悟を決めたような雰囲気が伝わる。

 このテロ行為の首謀者はだいたい予想がついているが、もう命はこっちが握っている場面において未だ口を割らないことが理解出来ない。


「俺達は 天吼鬼々(バーキングデモンズ) っていう団体だ」

「お、おう」


 名前のインパクトでズッコケたくなる気持ちを必死で抑える。

 命より大切なもの俺達が分捕ろうとしているのにもかからず、こんなところでこれ程までに中二臭い台詞を聞いたことはあるだろうか。

 俺でもこんな事は言わんぞ。魔法名は別だが、団体名でこれか。

 こいつが様々な発言を口に出したくなかった理由はこれなのかもしれない。


「俺達は 姫様 と呼ばれる存在に召喚された。――いや、呼び戻されたって言った方が正しいんだろうな」

「呼び戻されたってどこから?」

「異界だ」

「いやここも異界なんだが」


 あくまで俺からしたらなのだが、話す内容からはあまりにも信憑性が見いだせない。

 しかし、片手指ぬき手袋を格好良いと考えている準中二患者のアルトの興味は凄まじく引いたようだ。

 対してレムは無表情である。何を考えているのかすら理解出来ない。


「ああそうだな。ここは幾つもある異界の内の一つだ。だが俺が元々いたのは死者の世界。死んだ者がたどり着き、生前悪事を行ったものが行き着く先だ」

「ほうほう、なら君は悪いこといっぱいしたんだね?」

「そうだ」


 未来の世界に死者の世界。

 パラレルワールドが幾つもあるのはまだわかるが、このルミナには一体幾つの世界があるのだろうか。

 そのうちお菓子の国どころか、お菓子の世界なんて存在が当然のように出現しそうである。

 まぁ俺はもとからファンタジーな世界に来ているのだが。


「そんな世界から俺は姫様に呼び出され、この世界で肉体を手に入れた」

「で、姫様って誰なんだよ?」

「それは口に出せない。仮面も同じだが、守るべきことを死守しなければこの世界から消えることになる」

「なら、その仮面とどう関係がある……ですか?」


 彼も一応異世界人であるらしい。本当かどうだかは怪しいが、とりあえず真実を話していることにしよう。規模が大きすぎて現実味がないことも事実だが。


「仮面は俺達をこの世界に留めてくれる鎖と考えてくれていい。これが無ければ俺達は存在できない」

「そりゃまた不便だな。それ取っちゃえば存在も消えるってか」

「なら君達全員は召喚された人達ってこと?」

「そうだ」


 どうやら人間であっても、既にお亡くなりになった人らしい。

 人間が政府に文句があるテロリストかと思っていたが、実際の目的はなんだろうか。


「んじゃ次だ。お前らはこの列車を何で襲った?」

「そ、それはっ言えな――!? ぁぐぁぁぁぁ!?」


 突然男がビクンと身体を跳ねさせたかと思えば、大きく仰け反りながら頭を両手で抑え、激痛に耐えかねるような叫び声を上げる。その声の調子からは、まるで電撃を受けていたようなドリュードを彷彿とさせる。


「ゆうっ! 周りの人達も!」

「ちっ、ちょっと話し込みすぎたか」


 倒れていた仮面の者達も次々と状態が変わり始め、頭を抑えていたり、列車の床をガリガリと引っ掻いたりと、見るも無惨で悲痛な叫び声を上げる。


 変化はそれだけでは収まらず、彼らの仮面の内側から黒い煙のようなものが溢れ出し、装備している物は頭部から消失していく。


「どうなってるんだ?」

「おい少年! お前何しやがった!?」

「アルト! 貴方は何をしましたか?!」


 前方から勢いよく扉を開け放って無傷のシーナとドリュードが戻ってくる。それと同時に俺とアルトに原因があると思い、慌てたような口調で責め立ててきた。

 俺にも彼女にも覚えがないため、当然否定する。

 だが、彼らはそれを無視するように俺達に向かって走ってきた。


「何もやってねぇよ。俺達だってこんな状況になったばっかりでまだ分かってないんだが、そっちは何か分かるのか?」

「いや何がなんだか分かんねぇが、とりあえず後ろに逃げろッ!!」

「あれは多分――!? こちらにも発生していますッ!!」


 焦ったような早口で何かを警告した後、いきなりシーナは俺に向かってスクリューのような風魔法を思いっきり放つ。

 突然のことで何がなんだか分からなかったが、とりあえず回避――ってしきれないだろこれ?!


「っ!!」


 思わず被弾を覚悟したが、運良く顔の真横をスクリューは通り抜け、この列車を破壊し尽くさんばかりの勢いで魔法が炸裂する。べっこりと列車は歪んでしまった。器物破損である。


「くっ、やっぱり足りない……っ」

「危ないな。一体何して――」

「あ……ああ……!!」

「なに、これ!?」

「いいから、逃げるぞっ!!」


 ドリュードが青い顔をしたレムを抱き抱え、前の列車へと急ぎ、扉を無理やり蹴破る。


 俺達が見たもの、それは黒い煙から湧き出る虫である。いや、羽虫のような何かと言うべきか。

 その虫達は黒い体表、お尻は真っ赤に発光していて大きさはスズメバチ程。

 それらが、数十匹なんてレベルではない。数百匹いる。

 気配探知には映らないが、明らかに生きとし生けるものに敵意を持っていることは確かであった。


「うぁ!?うぁぁぁぁぁ!?」

「……これは、本格的にやばそうだな」


 近くにいた仮面の男に目標を定めた羽虫は、砂糖に纒わり付く蟻の如く、虫達はすべてを食らいつき、纒わりつき、男は赤黒い光で覆われる。

 その数秒後には、羽虫達は次の獲物を求めて、近くにいる仮面の男に襲いかかる。

 元々男がいた場所にはもう何も残っていなかった。


「こんな大量の人喰い虫なんて異世界ならではだが――」

「ユウ、どうする?」

「逃げたとして、この列車はもう発車しているし、追い込まれるのがおちだ」

「なら?」

「おっと、気づかれたな。とりあえず、行くぞ」

「え?……うん!」


 アルトは俺の言動の矛盾点に疑問を感じたようだが、とりあえずはスルーしてくれるようだ。


 こちらに感づいたと理解出来た理由は、一際大きいボス羽虫らしき昆虫がこちらに向けて蝶々頭部に生えているのような触手をぷいぷいと振っていたからだ。

 この細かい事が理解出来たのも、焦っていないからこその判断だ。久しぶりに俺の特性を生かせたような気がする。


 ドリュード達を追いかけて四両目。この場所でも虫達は発生していて、これ以上先へと進ませないとの意思の元設置されたらしく、数百匹単位の羽虫が五両目の扉の前に舞っていた。とりあえず背後の扉は閉めておこう。


「くそがッ――いったいなんでここでめちゃくちゃ居るんだよッ!」

「どいてください! 私の魔法で!」

「まだこっちに気がついてないです! 魔法を使うと他の虫に気がつかれるです!」

「別にいいだろ?気が付かれても」


 俺の無神経発言に虫達の捕食攻撃の被害を受けていない全員がこちらを振り向く。

 ドリュードからは特に言いたいことがあるようで、俺への当たりが非常に強かった。


「おい! そんな馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!! この虫みたいなヤツの耐久力を見たか? シーナの魔法でさえほぼ効果は出ない!逃げるのが一番の手立てだろ?!」

「落ち着けって。要は虫をこの列車の中に入れなきゃいいんだろ? でもいる場合は、害虫駆除しかないよな?」


 ニヤリと笑みを浮かべつつ俺は虫が溜まっている場所に向かって、赤い魔方陣を展開する。火属性の魔法を放つ前の予備動作だ。

 魔力を探知したのか、何匹かの虫達がこちらに迫ってくる。


「おいおいおいっ!」

「とりあえず下がってな 《火炎放射ファイアレビテーション》!」


 俺が放ったのは何の変哲もない火炎放射。ただ、何の変哲も無いお陰でイメージもコントロールも容易である。

 さぁ焼け焦げろ虫ども。


「知ってるか? とある国では火炎放射で害虫駆除するんだ。 普通の 生物は火は天敵だからな」

「おいここで火炎って燃料に行っちまえば爆発するだろ――」

「アルト! 列車の連結部分を断ち切ってくれ!」

「了解っ!」


 虫達が俺達に触れる前に焼け焦げていく中、彼女だけが背後を向き、黒い霧の中から抜き黒刃を取り出す。早口だったが俺の指示を完全に理解してくれたようだ。


「なるほどね。そりゃ距離を取れれば虫程度の飛行能力じゃ……近づけないよねッ!!」


 俺でも見切れないほどの速度で刀を円月状に振るうと、バキリ、と目の前で火炎放射を使用していても聞こえるような大きな音が、今いる列車の前方から発せられる。


「お前ら……」

「ちょっとめちゃくちゃ過ぎませんか?」

「ふふふ、しーらないっ」


 アルトが霧の中に刀を納刀すると同時に炸裂音。天井、床、何もかもを無視した斬撃があっという間に列車を切り離す。


 背後にある列車の扉がどんどん遠ざかり、身体には減速感が訪れる。

 円状に切られたため、前方からはガラスの筒越しに大きな建物が見える。

 まるで、お城を戦闘用に改築したような作りだ。物見やぐらも沢山ある。


「お、あれがギルド本部か」

「ゆう、そろそろ燃え尽きたです」

「こいつらの落ち着きっぷり……」

「ええ。本当に理解できませんね」

「んー? 五両目に人間は集まってるみたいだど、敵の気配は全くだね」


 列車を引っ張るエンジン部分はもう先に行ってしまった。なのでここからは歩きである。

 ギルドも見えたし、列車の役割はここまでだな。


「取り合えず、これ止まったら降りて向かうか。人質には悪いが、歩いて安全な場所に向かってもらおう」

「いや、あのな。お前疑問とか湧かないのか?」

「何がだよ」

「ユウナミ、これには私も疑問が尽きません。まずは事情の説明を」

「まぁ、止まるまで暇だし、しておくとするか」


 あの主犯者二人は列車降りた。

 恐らくあの虫達は主犯二人組によるものだろうが、取り敢えずわかる部分だけ説明しておくか。中二臭い団体名とかな。


この話で一周年となります! ありがとうございます!


凄くあっという間な感じですが、沢山の方々に見ていただき本当に感謝感謝です!


最初に比べれば1年ほど書き続けてやっと表現力が平均以下にまで漕ぎ着けたかと思います。

こんな事を考えることが出来たのも皆様のお陰です。本当にありがとうございます!


これからも 異世界で最弱のクラスだけど、なにか? をよろしくお願いします!


高覧感謝です♪


追記

活動報告を更新しました。時間があればご覧下さい。

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