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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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気楽な人質

 周りの人々が恐怖に顔を染めておどおどしている中、俺達は急に立ち上がっため何人もの人を驚かせる。

 その動きにより、見えぬ爆弾が爆発すると考えたのか、震えた声で初老の男性が話しかけてきた。


「おい……君たちっ! 何をしてるんだっ」

「ふふっ! 内緒!」

「まぁ落ち着いてくれ」


 観察眼サーチアイを使用し電車の中外問わず透視するように見てまわる。その時をもって、俺の視界は白黒の濃淡のみで映し出される異常探知モードに切り替わった。

 この状態の時には壁の中だろうが何だろうが透過して見ることが可能で、異常だと思われる場合にはその形を表すように赤い縁取りが出現する。だが今回の場合は、特に見つからなかった。


(無いな)


 車輪の裏、車両の底、天井、乗客の荷物まで確認してみたが爆弾のようなものは見つからない。

 そうなってくるとこの車両には特に仕掛けはなさそうだ。

 そもそも、俺達に感知されないほど素早く動き、なおかつ爆弾まで仕掛けるとなると余程の実力者だ。アルトにも気づかれず、この数時間で仕掛け終えるのは流石に現実味がない。


「爆弾はここにはなさそうだ」

「でも、他のところにはある……ですか?」

「その可能性が高そうですね」

「なら、おじさんは車両の上から探してみるかね。いいよな?」

「ああ。頼む。レムもとりあえずついて行ってくれ」

「分かりました……です!」


 ふためく乗客を完全に無視して、彼らは間近にある扉をこじ開け、列車の上へと登っていった。

 レムを上に送った理由は、ここに隔離されている人間達から被害を受けさせないためである。

 閉鎖空間にいる人間が出口を目の前にして正気でいられるはずが無いからな。何をするのか解ったもんじゃない。


 現在この列車は止まっており、彼が開けた扉から人が降りることも可能だ。

 そのため、脱出口が確保されたと考えた人々はざわざわと話し声を上げた後、徐々に立ち上がる。


「お、おい!あいつらだけ逃げる気か!?」

「わ、私もここから出るわ!!」

「おい俺が先だろ!!」


 閉鎖された空間に光が見えれば、このように声を荒げて我先にと開かれた入口に一気に人が押し寄せる。わかっていたことだが、人間達の顔が本気であるため少々怖い。


 実際、俺にこんな力がなかったら、この大多数の一員なので攻めるつもりは全くない。

 だけれども、悪いがここを通すわけには行かないのだ。

 異変だと気づかれて、こちらにテロリスト二人のうち、どちらかが強襲されるとなると、この一般の人々が人質として取られる未来が見えるためだ。

 俺としては現状維持をお願いしたいが、そうはいかないだろう。


 アルトとシーナにアイコンタクトをとると、俺は両手を広げて出入口を塞ぎ、正面を向き直す。


「まぁまぁ焦んなって」

「おい! お前達!そこをどいてくれよ!」

「私だってまだ死にたくないわ!!

「まぁまぁ! とりあえずコレ見て?」


 じゃーん! と声を上げながら内ポケットから取り出したのは石英よりも真っ白なそこら辺にある石ころ。

 いまの彼女の姿は子供がカブトムシをみつけた瞬間のような瑞々しい光景になっている。


 この後におこりうる出来事が分かっている俺達は彼女が石を振りかぶった瞬間に口元を抑え、息を止める。


「おやすみっ!」

「お嬢さんなにを――」


 彼女は乗客の困惑を華麗にスルーし、電車の床に白い石ころを叩きつける。


 ピキキッと硝子にヒビが入るような音がした途端、石に閉じ込められていた白い煙のような魔法はその開放を待っていたかのように一気に電車内に広がり、辺りを数秒と立たずに白一色に染めあげる。

 まるで元の世界で販売していたネズミ退治アイテムのようだ。


 ドリュード達は既にこの列車からは離れているため、この魔法の効果は受けないだろう。

 この石ころから発せられる煙はただの煙幕のようにも見えるが、実はそれにプラスアルファが施してある。


「う……」

「なんだか意識が――」


 どさり、どさり、と立っていた人物や座っていた人物問わず、煙を吸ってしまった人々は気を失って倒れていく。

 軽い風魔法でシーナが倒れる勢いを減らし、気を失っても怪我のないように二次被害を抑えることも作戦通りである。


 全員が意識を手放したことを確認すると、意識のある全員で強めの風魔法を使用し、この煙を吹き飛ばして、作業は終了だ。


「ぷはっ、割と時間かかったな。呼吸がもたないかと思った」

「素晴らしい効き目ですね」

「ふふっ、これがボクの とりあえず逃げる時専用魔法 その二、おやすみスモーク だよっ! ちなみにちょっと高燃費!」

「逃げる時専用魔法、な。魔王って大変だな」


 これは彼女の魔法、通称 おやすみスモーク を俺の鍛冶作業によってそこら辺の石ころに封入した品物。

 彼女の魔法の使用魔力はおおよそ1000程度と教えられているが、石に封入することにより、割るだけでいつでも魔力を使わずにその魔法を使用できるというので、この魔法封入した石は大変便利なアイテムとなっている。

 物質創造マテリアルクリエイトより消費魔力が大きいあたり、使用魔力の原理が分からなくなってくる。あとで本で調べよう。


 この石の本当の使用目的はギルドから脱出する際に転移が使えない場合、自らの足で修羅場から抜け出そうとの目的の元作ったものだ。

 まさかこんな早く使うとは思わなかったが、作っておいてよかった。


「さて、これからどうしましょうか」

「確かここが四両目だったから、多分テロリスト達は運転席がある一両目に居るだろうな。あいにく気配は掴めないが」

「ちょっと距離があるね。でも、もうその系統の石はないよ?」

「いっそ電車の上を歩いて、一両目に乗り込んでみるか?」


 列車が動いているならまだしも、止まっているのだ。

 動かさない理由がつかめないが、こちらとしては大いに好機である。

 また、この列車は一両あたりの規模が元の世界とは比べ物にならないくらい大きい。長さも横幅も元の世界とは二倍近くあり、広さも充分大きいため、車両数が少ないのかもしれない。


「そうしましょう」

「ならさっそく――」

「いや、待った」


 異常探知モードを中断した途端、気配探知に赤い点が感知範囲ギリギリに多数現れる。三十、四十とその数はとどまることを知らずに増えていく。まるでミニゲームの最後によくある無理やりな出現だ。


「電車を止めていた原因はあいつらを乗せるためって訳か」

「っ、いっぱいくるよ!!」

「私には分かりませんが、敵ですか?」

「ああ。それも結構来るな」

(みんなっ!)


 少々対処に困っていた時に、レムから念話が入る。その声は僅かならがら焦りを感じさせるもので、爆弾を見つけたのか、それとももう爆弾は爆発しそうなのか。ちょっと報告も怖いところがある。


(乗客の人たちがそっちに向かってるですっ! どりゅーどさんがいうには、全員の人質を一両に集めるためらしいです!)

(了解した)

「えーっと、どうしよう、これ」


 レムからの報告は予想外なものだったが、とりあえず昏睡状態にさせてしまった人間をこれ呼ばわりするのはどうかと思う。

 巻き込まれた方はたまったものではないが、非常に申し訳なく思う。


 そんな対処に困って数秒後、シーナが結論を出す。


「ほっときましょう」

「冷たいな。同じ人間かよ」

「ギルドに入ればだいたいこんなもんです。第一、やれと言ったのはどこの誰でしょうか?」

「うーん誰だろうね? 同じ人間なのにね?」

「すまん、主に昏睡している方々」


 有無も言えなくなる。こんな時に未来を先読みできる能力が非常に欲しくなったのであった。

 未来の俺と対面できたのだから、それぐらいはできそうな気もするがな。


 彼女達の嘲る視線をできる限りスルーしつつも俺はテレビドラマでよくある入れ違いざまの入れ代わり作戦を考えつく。

 うまくいくかどうかはわからないが、その時はその時だ。


「ごほん、俺達は今四両目にいる。あいつらが来る前にこの列車の上に移動して、テロリスト二人が四両目に入ったら、この隙に俺達は三両目で入れ替わる、とかはどうだ?」

「どう入れ替わる? 流石に真正面ってわけでもないでしょ?」

「俺達も列車の上に上がるしかないな。タイミングが悪かったら、迫ってきてる敵に見つかるかもしれないし、早めに動いた方がいい」

「そういえば増援が来ていたのでしたね。緊張感が全くないので忘れかけていました」


 こんな状況で焦るどころか、のんびりと会話しているあたり、シーナも俺達に影響されてきたような気がする。

 とにもかくにも、赤い反応はもう七百メートル程までに近づいてきている。急がなくては。


(レム、悪いヤツの二人は今どこだ?)

(えと、多分二つ目の真ん中ぐらい、です。もうすぐ三つ目です!)

(三つ目から全員人が出ていったら、その列車の中でで待機していてくれ。そこに俺達も向かう。ドリュードにも伝えといてくれ)

(わかった、です!)


 レムに伝えた後、俺達は倒れ付す人々を跨いで外へと抜け出る。

 列車の上に乗るなんて元の世界で行ったら逮捕アンド罰金であるので、ちょっと特別な気分になる。状況が状況なのでほんの少しだけだが。


「よいしょっと、ほらアルト」

「ありがとっ! うんしょっ……」

「シーナも掴めよ」

「っと、感謝します」


 二人に手を伸ばして列車の上へと上げる。こういうところで女子力ならぬ男子力を見せていかねばな。


 磁力魔法を使って出てきた扉を無理やり閉めた後、ここで下から数え切れないほどの足音が列車を通じて俺達に届く。


 まだ主犯がいる場所は三両目だが、俺達がいる四両目にほど近い場所にいるのだろう。


「ほら、早く歩くっすよ。ったくあいついっつもこき使って……ほらそこ!遅れるなっす」

「待ってくれ……大切な荷物がまだ――」

「は? 口答えするんすか? それなら、これっすよ?」


 観察眼により透過して見える光景は、いくつも物申したい部分があった。

 まず一つ目。犯人は黒い般若の仮面を装備していること。

 この仮面はソラとファラに出会った場所である、空より高かった塔にいた集団の特徴として挙げられるものであった。


「ユウ?大丈夫?」

「あいつら、俺達と昔出会ったことあるな」

「……それは本当でしょうか?」

「ああ。遠征の時を覚えてるか? あの時に見た黒仮面を装備してるぞ、あいつ」


 そして二つ目。彼が手に持っているのは、血管のような赤いラインがもぞもぞと蠢く真っ黒な短剣。その装備からは寒気を感じるような、猟奇的な怪しいものを感じて背中に寒気が走った。


「ほ、本当にそんなもんで俺を殺せると思ってるのか!? 俺はこう見えても――」

「ふーん、どうも舐めてるっぽいすね。んじゃ、試しに」

「なにを――」


 般若の仮面を被った男は如何にも当然と言ったようすのまま短剣で、話していた男を躊躇なく貫いた。


 その雰囲気からは全く罪悪感なんて感じない上、まるで蚊を殺したかのような優越感に浸っているのではないかと思うほど、平然としていた。

 だが、悲劇はそれだけでは終わらない。


「うぁぁぁぁっ!!」


 刺された男は突き刺された場所からどんどん黒い粉塵に変化していき、腹部から胸部、腹部から下半身へ、上へ下へとどんどん消失していく。

 何がなんだかわからないほかの乗客たちも止めるものはいない。


「なんだこれ!?なんなんだ!?」

「さぁ、栄養になるっす」

「あああああっ!!」


 叫びの声も虚しく、なんの慈悲もなく突き刺されたと思えば、次は粉塵ととなって短剣に吸収される。

 その恐怖はとてつもないものであり、乗客たちは逆らう気力すら吸い込まれたような感覚を覚えた。


「さぁ、さっさと歩くっすよ」


 その言葉のイントネーションは先程と同じだったものの、目の前で殺人を見たからには心の響き方が全く違う。

 それぞれはより恐怖を深め、徐々に席を立っていった。


「……いろいろ気になるが、いまは少しでも安全な場所の確保だ」

「なんか、嫌な感じがする。この気配もあの声のどちらかかな?」

「この下に来るぞ。三両目移動するから、足音を立てないように気をつけてくれ」


 全員が四両目に移動したのを確認すると、再び磁力魔法を使用して、扉を無理やり開ける。これ程までに磁力魔法が活躍した日はないだろう。


 中に入ってみると、レムはドリュードとなにかこそこそ声で話しながら座席に座り、談笑しているのが確認できた。二人とも無傷である。


 彼はどうも浮かない顔だが、レムは至って平常だ。


「お、よーす少年、残念だが爆弾は見つからなかったぞ」

「みんなっ大丈夫だったですか?」

「ええ。問題ありません」

「ドリュード、表情がぱっとしないがどうしたんだ?」


 こういうことは最初に聞いた方が良いと考え、彼に話を振ってみる。

 すると、その答えは今回の騒動に関係が


「いや、お前んところのレムはよ、本当は何歳だよ」

「さっきから十二歳って言っても聞いてくれない……です」

「いや、それにしては落ち着きすぎだろ? 普通怖がったり――」

「あるとの方がこわいです」

「ボクの扱い……」


 なかった。アルトがしゅんとした表情を作り、レムが必死で弁明する。ちなみにここはテロリストに占拠された場所である。全くもって緊張感が感じられない。

 こんなのんびりしていていいのかと考え始めたその時に――


「来た」

「来たね」


 俺とアルトが窓をのぞき込むと、モモンガのようなマントを使用してこちらに向かって飛んでくる影が多数。

 しかも、彼等は全員が黒い般若の仮面を装備している。しかも、実力は最低Bランクというお墨付きだ。何故だか分からないが、気配だけでもどれくらのいの実力なのかは分かるようになっていた。

 なお、三度仕事しただけで三ヶ月豪華な生活が送れるとされているのはBランクからである。それほどギルドからの信頼とお給料、そして危険性が高まるのだか、それとほぼ同格の実力を持つものが数十人迫って来ている。


 だが、俺達は慌て、ふためくことはしない。

 シーナは杖を取り出し、アルトは片方の指ぬきグローブをつけ直す。

 ドリュードとレムは大きく吐息を吐いてそれぞれの武具を装備する。


 ここで共通することは、全員が不敵な笑みを浮かべていること。


 開戦の合図は、ガラスの割れる音と、黒仮面が発する第一の言葉が同時に混ざるその時。

 数十人単位のモモンガ人間が大きな窓ガラスを突き破って侵入してきたが、入ってくるとわかっていた俺達は、ただただ丁重に、この世界らしく迎えることにする。


「時間ピッタリ――!?」

「セールスはお断だっつうのッ!!」


 二つ目の声は俺だ。

 武具を使うことなく、一番最初に入ってきたリーダー格らしきモモンガ人間を遠慮なく、雷槌 の武芸でお出迎え、否、彼らが入ってきた窓へと打ち返した。


「ぐぉはがぁッ!?」


 恐らくこの列車には誰もいないと思ったのだろう。

 何がなんだか分かっていないモモンガ人間は、武芸によって強化された激しい衝撃波を受け流すことも出来ず、雷光と残響だけを残して自身が割った窓の外へと消えていった。


「やっぱり、ゆうテンションおかしい……です」

「ほっといてあげましょう。いずれ賢者になります」

「ふふっ!バックドアの影響かもね!」

「さーてと、こりゃ何人だろうな」


 なにやら生暖かい視線が背中に突き刺さるが、少々行動が先走りすぎたのだろうか? でもまぁなんでも五分前行動するのはいい事だ。気にすることでもないだろう。


「お、お前らっ! 一体何者なんだ!?」

「この……リーダーをよく――!」

「ほぁちゃっ!」


 拳法家のような声を上げて、アルトは目にも止まらぬ速さで二段突き、回し蹴りを打ち込む。

 まるで空気が爆発したような音が三回連続で鳴り響き、数人の仮面の人間は何の反応もできず、衝撃波に吹き飛ばされる。


「ぐぉぁあっ!?」


 彼は最後までしゃべることはできずに、数人巻き込みつつ向かいの窓から退場していった。


 しかし、数人排除したとしても逆側、俺達の背中にある窓からもモモンガ人間の気配がもう接近している。

 俺が対処に動こうとしたその時――


「遅い、です」


 まるで飛んできた蝿をたたき落とすが如く、窓に入り、列車の中に入るか否かの境界線、でレムは三つの尻尾を器用に使い、モモンガ人間をはたき落とす。


 列車の揺れとともに、沢山の墜落音が耳に届き、今まで一番生々しい。ただ、誰も彼も死んではいないようなので、レムの慈愛に救われたとも言える。


「え……あ……?」

「……こいつら、目からしてもう戦闘狂だわ」

「激しく同意します」


 ドリュードとシーナは半目で見ていたが、そんなことは気にしない。

 久々のリハビリ対人戦だ。存分にやらせてもらおう。


「こいつらァァッ!!」

「「ウォォォォッッ」」


 数十人が一気に襲いかかってきたが、俺達は焦るどころか、笑みを深めるばかりであった。


「少しは相手になる、よな?」


 全身に魔力を循環させて、俺は完全なる戦闘モードへと移行した。


三点リーダーに頼りすぎる癖があるので減らして執筆していますが、やはりまだ多いかも知れません……


高覧感謝です♪

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