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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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逆戻り

 時同じくして、夕達から離れ、前方にいるドリュードは空鳴りのような轟音が耳に届いた。

 しかし、彼は後方を振り向いても、その音の発生源である気配を探知することは出来なかった。


「おかしいな……確かにあの音は……」

「どうしました?」

「まさか、あいつらが追いかけてきたとか?」


 歩いていた足を止める。疑問の表情を浮かべ、広い背中をじっと見つめるのはミリュとリンクス。

 ドリュードの気配探知にはここの住民以外には誰一人として映らず、怪訝そうな表情を浮かべていた。


「オレの感知範囲外から聞こえた……のか?」

「えっと……」


 一人の世界に入ってしまったと思い、連れられた二人は顔を見合わせて困ったような表情をする。

 そのようすからは彼が聞こえた音は二人には聞こえなかった、ということを表していた。


 出会ってからほんの数十分とはいえ、ドリュードはこの街で唯一信頼できる人物として、二人にはひたすら頼りにされていた。


「っと、悪いな。ちょっと気になることがあってな」

「そ、そうですか」

「えっと、ギルド本部へ向かうんです……よね? 本当に俺達は入っていいんですか?」


 震えた声で話すリンクスは、ドリュードに恐れているのではなく、ギルド本部という施設に対して畏敬の念を送っているようだ。


 彼はギルド本部に所属はしておらず、内部事情に関しては全く知らない。

 知っていることといえば、本部は精鋭たちが集まった場所であることと、一般市民からの依頼であっても、完遂率で大変高いことの二つである。


 とにもかくにも、一般市民からも冒険者からも憧れの施設であることは間違いない。


 だが、現状は違う。そんなものは表面だけだ。


 ドリュードはそれを警告しようと、無意識に口を挟もうとして――


「リン! せっかく保護してくれるっていうんだからありがたく受けるべきでしょ? そんな事じゃなかったらここまで連れてきてくれないわ」

「そう……だな。それに、ギルド本部の名前を使って俺達を誘拐するやつもいるくらいだ。嘘の情報に踊らされるより、この他人に付いて行くのが一番だ!」

「――ああ。そうだな」


 意識的に口を閉じた。出来なかった。彼らの目が期待に満ち溢れていたためだ。

 そして、その目を見ると同時に彼らを連れ出す本当の目的を遂行する意志が削られていく感覚を心の中で感じ取った。


「まぁ、なんだ。あんまり、おじさんを信用しすぎないでくれよ」


 彼らの答えは、笑顔。

 その屈託のなさ、眩しさに思わず視線をそらしてしまう。世間を知らない子供だからこその笑顔で返され、大人として情けなく、惨めな気持ちになった。


(なんだかな、オレもあいつらに出会ってからずいぶん丸くなったもんだよ)


 頭をボリボリとかいて、目的地へ向けて歩き出す。

 彼が今向かっているのは、ギルド本部ではあるものの、その場所の付属の医療施設の中。そこにはソフィもいる。

 そこの場所なら、彼の手の届く範囲で、守りたいものを守り切れると考えたためだ。


 しばらく歩いた後、一行はあるものを目にする。


「これに乗るぞ。あんま目立ったことすんなよな」

「これって……!」

魔動車マジカルトレイン……!」


 二人は興奮気味に階段を駆け上がり、駅のホームのような場所へ繋がる渡り橋から身体を乗り出し、眼下に広がる光景に息を呑む。


「って言ってるそばからか」

「本当のマシニカルだぞ……!」

「この音も空気もすごかったけど、やっぱり、この場所……!」


 感嘆を述べながら、目をキラキラさせて魔動車と呼ばれた機械が大量に並んでいる光景を見つめる2人。


 その外装は黒塗りで、高さはおおよそ人二人分。レールのようなものの上にフワフワと浮いているのが特徴的で、サイズは自家用車一台分だ。

 それらが、輸出される寸前の車のように大量に並べられていた。また、少人数用と団体者用があるので、人数によって分けることも出来るのがこの魔動車だ。


 ちなみに全て国の所有物であり、国民の主な交通手段である。


「これに乗って一気に行くぞ」

「まじすか!? これに乗れるんですか?!」

「えっと、私たちお金は……」

「いいから乗ってろ。金は払っといてやるから」


 今乗ろうとしている魔動車は一人から複数人専用の電車のような扱いのため、チケットや料金はもちろんの事自己負担だ。

 ドリュードは支払いのためにチケット販売所へ向かうと、気配探知に最大級の警戒をするように促す反応が表示される。

 その反応を感じ取った瞬間、全身に戦慄が走る。


「おいおいっ……なんでお前はこんなとこに来るんだよ……!?」


 ぼーっとした表情が一気に焦燥の表情へと変わる。

 恐怖を感じ取ったためか、素早く振り向いたと同時に鳥肌が立ち、血の気が一気に引く。

 一気に戦闘モードへと身体を移行させたつもりだがなぜこんな近距離で気が付かなかったのかが分からない。


 目の前からゆっくりと近づいてくるこの反応は、オレが感じ取れた気配の中で、絶対にオレ一人では対面してはいけないような分類の相手だ。

 その分類に属するのは三人。一人は魔界で出会った、もう化物としか言いようがないアルトと瓜二つの人物。

 もう一人は聖霊のレオの主人である黒髪の女。あれも危険極まりない。

 そして最後の一人は――


「なんでこんなところにいるんだよ!? 白神!?」

【こんにちは。今回はマスターの命令により、貴方にもご協力してほしいとの依頼が来ております。なお、その他の者には私の存在を感知できないようにしておりますので、ご了承ください】


 白い神、要約して白神。気がつけばもう目の前にいる。また、こいつは断罪の神とも呼ばれることもある。


 今回は白神の特徴とも言える全身ローブ、そのフード部分を脱いでいて、初めてその顔を彼の目の前で顕にしていた。


「っ……」

【ほう】


 白神が感嘆したような声を上げると同時に、彼の口の中に鉄臭い味が広がる。自分で自分の下唇を思いっきり噛んだ為だ。


 もちろんそんな事をするのには理由がある。

 あいつが()()()()()ためだ。

 顔を見ただけなのに、一瞬だけなのに、魅了チャームされかけたのだ。


 自ら自傷して意識を無理やり逸らしたが、この行動があと数瞬でも遅かったら既に彼は彼女の手の中であったかもしれない。


「っ……オマエ、女だったのかよ」

【性別なんてただのプロフィールに過ぎません。……しかし、流石は一つ星(シングルスター)です。私の姿を見てしっかりと意識を保てるとは】

「へっ、オマエ、自分が世界一可愛いと思っているのか? だとしたら、相当やべぇぞ?」


 機械的な声であるので、声からは全く感情を読み取れない。

 そして、感情より、何よりも問題なのはその容姿。


 他の人間なんて比べようものなら、どんな人であろうとも彼女の以下であると感じてしまうほどの整いすぎた顔立ち。

 まるで生気を感じさせないことから、ドールと話しているようだ。


 無表情で何を考えているのか分からない半目の双眸は紅く、髪の長さまではフードローブ中に隠れてわからないが、髪色は色素の存在を感じられないくらい真っ白だ。

 それに肌も他の人とは比べ物にならないくらい白い。


 彼女こそが、俗に言うアルビノという存在だろう。

 ドリュードも二十年近く生きているが、彼女ほど美しいと感じたことは無い。それがまた恐ろしい。


【私のことなんてどうでもいいのですよ。さて、本題に戻ります。リンクス=バトラー、そしてミリュ=バルゾディアの二人をこちらへ引き渡しなさい】

「は? 誰だそい――」


 知らんぷりを貫こうとしたのだが、喉元には既に人差し指が立っていて、これ以上の冗談は要らない、と本気の視線を向けてくる。

 白い手袋がはめられた指先からは青白い雷光が走っていたため、それを当てれば気絶させることぐらいなら容易であることは明らかであった。



「雷の……魔法、か?」

【質問しているのはこちらです。協力するのか、否か、どちらですか?】

「……拒否するといったら?」

【殺します。あなたの大切な者達を、目の前で】

「…………」


 カンマを入れず返す白神に対しておもわず嘆息をつく。

 一つ星の彼に対してこんなことを言う白神だが、実際戦ってみれば結果は火を見るより明らかだろう。

 白神は一人で国一つ制圧した事があるくらい、普通の人間では絶対に持ち合わせられないくらいの実力の持ち主だ。


 そんな相手に戦いを挑むなんて無謀の極みである。

 要するに、選択肢なんて元から無い。

 ただ、命が惜しければ協力しろと脅しているだけである。


「分かったよ。オレはお前らに――」

【では、彼らの居場所を】

「教えるかよバーカっ!」


 総時間が稼げるとは思えないが、とりあえず逃げの手立てを取る。

 チケットはもう買ってあるし、あとはただ走って魔動車まで逃げるだけだ。


 機械から引きちぎる勢いでチケットを抜き取った後、ドリュードは全力で来た道を駆け抜ける。


【……そうですか】

 

 目の前で獲物が逃げていったとしても、白神は目で追っただけで足は動かさない。

 やる気になれば彼なんて動く前に封じ込めることは可能だったのだが、今の彼女はそれをしなかった。


 駅のホームに残された白神は特に何の感情も抱いてはいないようだが、いつもの口調と比べてみるとほんの僅かだけ、寂しそうな声で呟いた。


【哀れな】


 白神は一歩も動くことはなく人影に紛れ、無機質な声とともに消えてしまった。



 ~~~~~


 街の中心へと近づいてきたこともあり、空気は悪くなってくる一方である。


 もちろんのこと街の中心へと向かっているので、すれ違う人の量や、ざわざわ、がたがたと騒がしい騒音もネズミ算式に増えていく。


 見覚えのある施設でいえば元の世界でいう信号機のような物が道に沿って幾つも生え立ち、壁のように反り立つビル群も徐々に多く、高くなっていく。


「うは。気が付いたら都会だな」

「う、上でなにか走ってる、です!!」

「あれは魔動車ですよ。ギルドへ向かうために乗ります」

「わぁ……魔界ほどじゃないけど、ビックリだよ」


 頭上ではガラスのような透明な筒の中に、モノレールのレールが敷かれ、その上には黒塗りで楕円形の物体が走っている。それらは幾多も湾曲していて、上から見たら迷路になっているのではないかと思う程に上空を覆っている。


 この楕円形の物体が動く原理はどうなっているのだろうか。魔力は万能という事は分かっているのでなおさら興味深い。


「都会ぐらしにも憧れるな」

「ボク達のところの方が都会だよっ!」

「なら今度おじゃましますね」

「ワタシもいっしょにいきたい……です!」


 気合を入れ始めて早々にこれである。その原因には人が沢山いて安心してしまったという心理的な理由もあるかもしれない。何故だかは分からないが、これだけ人がいればなんとでもなりそうな気がしたのだ。全く関係ないのにも関わらず、だ。


 しかし、その余裕はそこまで長くは持たなかった。

 ずっと捉え続けられていた二つの反応がフッと、まるで穴に落ちたように消失した。


「っ!? 気配が消えた……っ!?」

「リンとミリュリュの反応が消えたよ!?」


 発言をしたのはほぼ同時。その声を聞いて、全員が一気に遊びに来ていた感覚から現実へ引き戻された。

 反応が消失したのはほんの数百メートル先。しかしながら異常な衝撃音や、戦闘の音は全く聞きとることができなかった。


「またゆうかいされた……ですか?!」

「いや、それなら気配が消失した説明がつかないんだ」

「とにかく、急ぎましょう。真実なんて一目見れば分かります!」


 周りの目も気にせず走る。

 集団で信号無視するのも変な目で見られるので、路地裏を駆け抜けて、目的地へ向かう。


 その途中、気配探知にも映らない二人の男女を見つけた。その男女が手に持っているのは、銀色に鈍く光るジェラルミンケースである。薬物でも取引しているのだろうか。まぁ俺達には関係ないが。


「悪いなちょっと失礼」

「よっと!」


 大きくジャンプして男女を飛び越える。今はリンクスとミリュが消失した場所へ急ぐことが先決である。

 どうせこいつらとは二度と会わないだろうし、俺達のおかしな行動を見られてもすぐに身を隠せばいいのだ。


 ――だが、これは知り合いでなければの話だ。不運なことに、こいつらは一度だけ話したことがある。


「――黒髪……っ!」

「――オッドアイ……っ!!」

「「やっと見つけたぞッ!! 」」


 二人の男女がぎょっとした表情を最後に素通りしようとしたのだが、予想外の出来事が起こってしまう。


 突然目の前にバリアのような壁、結界が出現し、俺達の行く手を遮ったのだ。


「あぶないなっ……と!」

「らあッ!」

「邪魔ですッ!」


 俺達は空中に居ながらも素手での攻撃によって、突然貼られた結界は硝子が割るような音を響かせながら崩壊する。俺は平均的とはいえ、アルトとレムは規格外である。心強いものだ。

 突然結界が貼られた理由はよく分からないが、俺達の進行を止めるにはまだ硬度が足りない。


「なぁっ!?」

「嘘でしょ!?」


 どうやらこの結界は二人が行った魔法らしい。よく見れば、この二人はサイバルのギルドの屋上にてあった事があるな。


 その時は変幻の魔法を使っていたが、いまは全く使っていない。モロバレである。


「急いでるんでな。お前らの相手は後だ」

「君達、覚悟してね?」

「貴方方がどなただかは存じませんが、私達を止めない方が身のためですよ?」

「しーなっ、急ぐ、です!」


 シーナがドヤァという効果音が聞こえるほどのドヤ顔を決めた後、先に駆け出した俺達に付いてくる。


 あの二人がなぜ俺達に対して魔法を使ってきたのかは不明だが、いまはそんな時間はない。追ってきたら追ってきたで対処すればいいのだ。


「……許さないっす」

「待ちなさい! 未だそれを使う時じゃない!」

「放すっすよ!?」


 なにやらワイワイ騒いでいるが、無視して走り抜ける。

 しばらくして後ろを振り向いてみると、どうやら相手は追ってこないようで気配は感じ取れず、姿も見えなかった。


「あの人達はなんだった……ですか?」

「一回はあった記憶があるが、あそこまでして引き止めようとした理由は分からないな。気配探知できなかったのが怪しいところだが」

「アルト、あなたの下の名前はサタンニアと言うのですか?」

「え? あ、ボク下の名前はないよ!?」


 路地裏を走り抜けながらも会話を交わしたが、依然としてあの男女に関する情報は出てこなかった。

 気にする必要性はあるとは思うが、今の最優先事項はリンクス達の行方だ。


「あっ、ユウ! リン達がいなくなった場所辺りで人間がたくさん集まってるよ!」

「音は聞こえなかったが、何かはあったらしいな……」


 アルトの言う通り、一般市民の気配が建物の中の一部分に集まっている。

 街の中で犯罪や事件が起これば当然野次も集まる。このように考えると第三者にも巻き込まれた可能性があるということだ。


「ここは――」

「魔動車の駐車場ですね。ここで、魔動車に乗ることができるそうですが……どうやらそんな状況では無さそうですね」

「……叫び声、のような声が聞こえる……です」

「ああ。そうだな」


 遂に到着したこの大きな建物は、首都の所有する駅であるのではないか、と思う程大規模な施設であり、相当広い。


 広いことにも関わらず、人間の話し声を掻き分けて叫び声が届いてくるのは異常の一言である。

 レムは恐怖のためかアルトの腕をぎゅっと握っていたが、今の状況が分からないことだらけであるため、気にする余裕はないらしい。


 気配探知、声の方向を辿っていくと、段々と悲痛な叫び声が大きくなってくる。

 痛みに耐えているような、また、苦しんでいるような叫び声であり、聞いているだけで胸が苦しくなるような男の声だ。


「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」

「電撃かこれっ――」

「ドリュード!?」

「あっ! 本当だ!?」


 叫び声を上げていたのは、ドリュード。

 整えていたであろう髪の毛はグシャグシャであり、顔も涙やらなんやらで酷いことになっている。

 彼は青白い電撃のような魔法を纏っていて、その痛みからか、のたうち回っているようすが見て取れた。


「どいて下さい!」

「がぁぁぁぁぁぁッ!!」


 シーナは彼だということに気がついた途端、真っ先に動き出す。

 その後に続いて人混みを掻き分けてドリュードの元へ向かうと、人混みの中心から五メートル程離れた場所でゴロゴロとのたうち回っている痛々しい光景が目に写った。


「ドリュードッ!何をしているのですか――!」

「シーナ!これ以上近づくと電撃に当たるぞ!」


 彼に触れそうな距離まで近づいていたため、必死で引き離す。

 大した電圧でないなら止めやしないが、雷撃の魔法を使用する俺でもこれには触れてはいけない、と感じるほどの高電圧だ。

 何があったのか分からないが、彼はその電圧を受け続けている。


「流石にどうにかしないとな。シーナ。俺達に近づくんじゃないぞ?」

「ユウナミ――なにを――」


 俺はのたうち回っているドリュードに触れる。観察眼で見たところ、彼の今の状態は超過帯電オーバーロードというらしい。


 体内に電撃を発生させる器官を持たなければそんな状態異常バッドステータスが発生するとは思えないのだが、とりあえず状態異常なら解除するのみだ。


状態解ディスペ――ぐぅっぁ……!?」

「ユウ!? なにやってんのさ!?」

「ゆうっ!」

「こっち、に……寄る……なっ!」


 電撃に乗り移られたのか、次は俺が同じ状態異常になる。

 視界は白黒が高速で点滅しているような状態であり、何も見えないうえ、静電気なんかとは比べ物にならないくらいの痺れと痛みが身体中を駆け巡る。


 魔法纏で雷に慣れていなかったらショック死していてもおかしくはないレベルだ。

 必死で魔法を構成して状態解除ディスペルを使用すると、電撃は収まり、黒い煙が俺の身体の中から上がる。


「はぁ……はぁ……感電するのかよ……これっ……」

「ゆうっ! もう触れちゃダメですっ!」

「ユウナミ少しは考えなさい!!」


 仲間の警告を無視して未だに悲痛な叫び声を上げるドリュードにもう一度触れる。

 やはり、同じように凄まじい電圧の電撃が身体を走る。


「電気には――慣れてるもんでなっ 状態解除ディスペルっ!!」


 助けなきゃいけないと感じたのは、俺の性格上なのか、無意識なのかはわからない。

 が、その魔法を唱えた途端、お互いの電撃が収まっていくと共に、謎のイメージが頭に流れ込んでくる。


 アルトがこちらに手を伸ばしていたような気がするが、俺はいま閃光の中に見える光景に釘付けになっていた。


 ドリュードの若かりし頃の思い出、そして崩壊。ほんの少しだけではあったが、彼の感情も俺の心に流れ込んでくる。

 怒り、悲しみ、無力感。どれも俺が想像していたそれとは大きく異なっていた。


「…………そうか」


 彼がギルド本部に入るきっかけ。それは、本当に大切な人を人質を取られているから。

 俺が友達を助けに行く、という軽いヒーロー思考とは明らかに違うものである。


「これか。お前がいつも怒っている理由は」

『なぁ、教えてくれ。大切な人を救うためにはどうしたらいいんだよ。お前ならどうするんだよ』

『救いたければ、救えばいいじゃないか? それ以外のことは考えずにな』


 この時の俺は、至極当然のように言ったのだが、彼の選択はいつでもそれ以外のことを考えない上の決断だったのだ。

 その決断は一番確実で、一番彼女が生き長らえる方法を考慮したものだ。


 何も知らない俺が、雄弁に語っていた場面に怒っていたのは事情を知らない癖して、全ての事を理解しているような態度をしていたためだろう。


 誰だって、大切な事を勘違いされ、また知っているような口ぶりを見せられれば憤りを覚えるはずだ。


「――うっ! ユウったら!!」

「……あ……ん?」

「ゆうっ!!」


 肩を揺さぶられてやっと意識が現実世界へ戻ってくる。


 ……柔らくて……、ソファーの上?


「良かったぁ……逆流バックドアから戻ってこれないかと思ったよ」

「おはようございます。転移石は取っといておくつもりでしたが、使わせていただきました」

「一応ここは、しーなの拠点……です」

「……ギルドは?」

「いや、あの状態では普通無理だよね?」


 何がなんだかよくわからないが、とりあえずギルド進軍は一時中断であるようだ。何回俺は気合を入れ直したのだろうか。





高覧感謝です♪

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