記憶と現在
朝が近いのか、マシニカルの町並みが比較的ぼんやりとわかるような明るさになっているこの時間。
しかし、日は未だに登っていないため明るさが深夜とほぼ変わらない場所がある。
陽の明るさが届かない暗い闇の倉庫の中に、誘拐された未成年であろう二人の男女は両手を手錠でパイプに繋がれながも、必死で脱出策を練っているのが確認できた。
倉庫の入口には屈強そうな身体つきの男二人が椅子に座ってただひたすら何かを待っている。
門番のように入口を守っているようだが、顔つきは溢れんばかりの眠気に襲われているようにも見えた。
「あーあ。酷いことすんな。相手はまだガキだっつうのにな。ほんと情けねぇ」
離れた場所で、物陰に隠れつつも双眼鏡のような魔道具を使って誘拐された男女のようすを確認する男は、まるで何度もその事を経験したように独り言を小さく呟く。
ただ、この男には今のところ誘拐された男女を助ける気は微塵たりともない。
「まぁ、これがギルド本部なんだけどな。あそこのギルメンが感情なんて持ってちゃ身がもたないだろうな」
正義感のような安っぽい心情はギルドに入って三日で崩れ去るだろう。
あの場所での行き方は人のことを考えるなら自分の身を守る方がよっぽど長く生きられる。
そう考えれば、ギルドにという場所は人間界でもっとも人間界らしい所かもしれない。
彼はそんな感情を抱いていた最中、前方から怒りのこもった声が耳に届き、身を屈める。
「おい! いつんなったら白神様は来るんだよ!?」
「予定時刻はとっくに過ぎてる。もしかしたらこないかもね」
「はぁ!? なら俺達の依頼はどうなる!?」
「知るわけないでしょ!?」
なぜだか分からないが、約束の白神は来ないようだ。その者の逸話は幾つかあるが、その一つが『白神の決定はどんな事でも絶対に遂行される』というもの。
もし、その話が本当であったのならその逸話が単なる嘘の情報であったこと、もしくは白神の直接の依頼ではないことが予想できる。
どうやら彼らの判断としてはその間をとったようで、少々荒れていた。
「俺達、騙されたのか!?」
「いやもしかしたら依頼が他の奴が――」
「それはないわ。だって白神様の依頼の証ともいえる白銀の印が押されていたもの!」
「じゃあなんで来ねぇんだよ!?」
「こいつらを誘拐したのは無駄だったって事か!?」
「ぐあっ!?」
「リン!?」
苛立った男の一人がリンクスと呼ばれた少年の頭を怒りのままに踏み付ける。
力を抜いていたのだろうが、現役冒険者の力だ。凄まじい衝撃が襲いかかり、呻き声が上がる。
「リンっ!リンっ!!」
「だまれよ餓鬼……?お前の大事なのを散らしてやろうかぁ?」
「きゃっ……!?」
別の女の冒険者も苛立ちをぶつけるかのように、ミリュと呼ばれた女の子の綺麗な金髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせる。
その脅迫はあながち嘘ではなさそうで、後ろではクヒヒと笑う男が目に見えた。
「……ちげぇよ。いくらなんでも。それはねぇよ」
ドリュードは物陰から再び覗き見ていたが、思いつめる事があって再び物陰に伏せる。
目を抑えながら脳裏に浮かび上がるのは過去の記憶。
もう一度考え直してみれば、やはりその情景ガ似てるとはいえ、覚えがあったのだ。
(そうだ。これは……俺がギルドに入る前に――)
目をつぶって暗闇の奥底から蘇ってくるものは懐かしくて、苦くて、決していいものではない。
だけれども、あの頃が一番幸せだったのかもしれない。
『はーい……って、お義兄さん? どうしたの?』
『ああ。ソフィか。ちょっとお前さんの姉さんが具合が悪いって聞いてな。飛んできたんだよ』
『あー、確かにそんなこと言ってたかも。あがってあがって!』
『大人になったらそんなもんだ。いろいろ大変なんだよ』
『でたでた。大人ぶりー。クーリア姉さんとほとんど変わんないのにね』
遡ること七年前、この頃のマシニカルから環境破壊という名の魔力減少が始まっていた。
魔力を使用する機械はまだそれほど発展していなくて、情報を知る手段といえば四角い箱から流れる映像や人間同士の会話ぐらいだ。
この頃では魔力が様々な機械に作用して、何もかも全自動な世界が作れる、と騒いでいた覚えがある。
そして、目の前にいる青い髪色に青い両目をしたショートヘアの女の子はソフィという。
彼女とその姉は、この街の人間より保有している魔力が少なかった。
その原因は 魔力搾取 という犯罪行為に巻き込まれたためである。
その行為は文字通り、魔力を抜き取られてしまうものだ。それも抜き取られた分は二度と回復しない。
人的被害があまりにも大きいため、行政は対策を強めたが、この頃ではほとんど皆無であった。
街は比較的発展途上で、伸びかけのビル群が付き立っている。
そんな時代に彼女達は少々古いアパートに住み込んでいた。
『お茶出す?』
『いや。すぐ帰るから要らないぞ。ソフィは学校では上手くいってるか?』
『……う、うん。まぁまぁかな』
そのとき彼女が一瞬だけ作った暗い表情にオレは気が付かなかった。彼女は魔力が少ないことに対して、周りの人間から様々な嫌がらせを受けてきたのだ。この事が気がついたのは、彼女がギルドに人質となってから少し後のことだ。
『けほけほっ……って、ドリュード。来なくていいって言ったじゃん』
『心配だから来たんだよ。文句あっかよ』
『おおありだっての! これ移しちゃったらしたらどうすんの!』
『まーたそーやってラブラブするー。はぁ、私も彼氏欲しー』
奥の部屋からむせながら出てきたのは彼女の妹とは対照的なロングの髪型をした青髪青目の人物で、マスクを装着していた。彼女と俺の歳はほぼ同じくらいだが、具合が悪いためどこかやつれていた。
『あんたが稼ぎ頭なんだからさ。頼むね?』
『へいへい。分かってるよ。とにかく割と元気そうでよかった』
この頃のオレはギルドに所属しておらず、犯罪者をとっ捕まえてギルドに差し出すという 賞金稼ぎ を生業としていた。
過去の話から過去を話すが、オレは奴隷として酷使された経験がある。
その時に出会ったのが俺に戦いを教えてくれた師匠と、彼女らだ。
俺は師匠に酷く鍛え抜かれたため、そこいらの人間なんて比にならないくらい強くなった。
あの人には死ぬかと思うくらい鍛えられたのに、今でも師匠の顔は霞がかかったように思い出せない。覚えているのはそのことと、『お前が二人を守れ』という言葉だけだ。そのため、オレはその記憶通り従い、お金を稼いでこいつらの世話をしている。
……まぁ、色恋沙汰理由もあるんだがそれはそれだ。
『賞金稼ぎなんてさ、周りから相当恨まれるんだからさ。注意しなよ? お前の口車に乗せられて大変な目にあった奴が何人いるんだか。あたしもその一人だけどね』
『そーそ。お義兄さん口は上手いけど行動が下衆いの。気をつけてね?』
『お前ら……今日なんか扱いひどくねぇか?』
この時のオレはのほほんとしすぎて全く察せなかったが、これは彼女達の警告だったのだ。
この仕事柄、犯罪者からは恐れの対象だったり、俺の顔や情報が広まって危険視されているのは当然だ。
彼らだって常に狙われているのだから、情報収集に力が入る。
なので、これから起こることはオレの認識の甘さから起こってしまった事象なのだ。
その会話をして三日後。事件は起こる。
『……鍵が開いてるのか?』
朝方、俺の元に一本の電話がかかった。しかしその電話では、何かがぶつかるような物音がしただけで声を聞くことは出来なかった。
明らかに怪しいと思ったオレはすぐに彼女達の家に駆けつけたが、鍵は開いていて、彼女達の気配が感じ取れない状況にあった。
ぶらりと垂れ下がる黒い電話を見て、血の気が引いていくのを感じて、オレは顔を真っ青にしながら一人呟く。
『おい……なんだよ。これ』
酷く荒らされた部屋の真ん中に、一枚の置き手紙が置いてある。その送り主はギルド本部。
震える手でそれを拾い上げると、書かれていた内容は衝撃的なものであり、意味を理解するために五回ほど読み返した。
だが、いくら読み返しても真実は不変である。
『我らの勧誘を断る非行を確認。この誘拐は己の贖罪と理解せよ。もし懺悔する心持ちがあるのなら、指定された場所で一人で来ることだ』
手紙の下にはギルド本部の印が押されていて、マシニカル街端の場所にまでの地図が挟まっていた。赤い丸が付いている場所が指示場所なのだろう。
『ふざけんなよ……おい……なんだよギルドって……受けてねぇだろそんなの……っ』
声を震わせながら置き文書を握りしめる。
いくら温厚なオレでも、家族ともいえる大切な存在を誘拐されれば突然激しい憤りを覚える。それになにより、この 勧誘を断る ということが一番理解出来ない。
実際、俺の元には何の文書も来なかったし、この頃はギルド関係の人間とも接触をしなかった。
なのに、なぜ?
『……オレの家族を……奪いやがって……!』
目を血走らせながら、ドアを蹴破るように開けて部屋を出ていく。
俺の宝物でもあった大切な人が二人もかかっているため、周りの目なんて気にせず住居の天井を駆け抜け、建設途中のビルを素通りする。たくさんの物音や喧騒を抜けると、物寂しい港に出た。
最近の情報では誘拐事件が多発している、という内容が番組を占めていたが、まさか巻き込まれるなんて思いもしなかったよ。
『オラァァッッ!!』
指定された倉庫のような場所にたどり着くや否や、重々しい鉄扉を蹴破って破壊。気配はやはりこの中にある!
『うぉぉ!? なんだ!?』
『ってこいつがドリュードか!?』
『いや、まだ俺達こっちに来たばっかりだぞ!? 』
『テメェらかァァッ!!』
確認せずともオレは武器を取り出し、驚いて動けない男に向かって跳躍。その勢いのまま剣を突き立てる。
肉を裂く生々しい感触が返ってくるが、その程度では俺の怒りは収まらなかった。
『このやろ――』
『はああぁっ!!』
残る二人の男がやっと臨戦態勢に移行できたらしいが、オレはもう既に大剣を振るっている。
最後まで喋らせることもなく、一気に二人を切り飛ばし、残る気配を確認する。しかし――
『動くんじゃねぇぞ!!』
『――っ!?』
『お義兄さん……たす……けて……』
そこで見てしまったのは、力なく横倒されているクーリアにナイフを突き付けられて怯えている光景。彼女は気絶しているため、声は上げることが出来なかった。
ソフィは縛られて横に倒されているために動くことが出来ない。
怒り狂っていたオレとはいえ、この状況が理解出来ないほど認識力が欠けていた訳ではなかった。
『へへへっ、この嬢ちゃんたち。どうなってもいいのか?』
『クーリアとソフィに触んじゃねぇぞクソ野郎がっ!!』
『ああ? 誰に向かってそんな口を聞いていやがる? 分かんねぇやつは――こうだな?』
『お姉――っ!!』
髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさて喉元には大きなナイフ。
ソフィにも同じような状態になっている。
そして、先程のオレの発言が彼らを刺激してしまい――
『クー……リア……?』
『クッヒヒヒヒヒ!!』
『嫌……そんな……嘘だよね……いや……いやぁああああああっ!!』
ナイフは非情にも、彼女に突き立てられる。
あまりの一瞬の事態。オレはもう、全部なにもかもが分からない。
ただ、数秒経ってその事がはっきり分かった瞬間。すべてが壊れていた。
『この野郎がああああああああああああっ!!』
『うるせ――』
そのときの原動力が魔力なのか、それとも別の何かだったのかは分からない。
分からないが、オレは動いていた。
視界は赤黒く染まり、誰もが、オレ自身ですら認識出来ないような加速の世界の中でオレはナイフ突き立てた男に向かって手を伸ばした。
『アぁぁぁぁぁぁッ!!』
どこから出ているのかも分からない声は衝撃と共に周りを支配する。
叫び終わった後、気がつけば倉庫の外にいた。後ろを振り向くと破壊してしまったのか、倉庫の壁には五メートル程の大きな穴がある。
手の中にはもう何も無かった。
『はぁ……はぁ……っ』
だがこの時、疑問心なんて抱いている余裕なんてない。その時のオレは害虫が居なくなったことだけを理解し、全力疾走で二人がいる場所へ駆け戻る。
『お義兄さんっ!お義兄さんはやく!!』
『ソフィ! 無事か!?』
倉庫の中では縛られていた二人のロープは無くなっていて、煤けた塵だけが周りに散らばっていた。
これも疑問だったが、その当時のオレにそんなことを気にするほど精神的余裕はなかった。
『お姉ちゃんがっ!お姉ちゃんがっ!!』
『クーリア!! クーリアッ!! そうだ! ポーションはっ――』
躍起になって服の内からポーションを取り出そうとしていた中、左腕を掴まれるような感触がある。
その掴まれた腕の先には苦しそうな表情を浮かべたクーリアが震えながら口をパクパクさせていた。
『はぁっ……はあっ……ど、リュードっ……』
『お姉ちゃんっ!!』
『クーリア、今待ってろ! すぐにとっておきのポーションで――』
『私はもう……無理……だからっ、あんたには……これ……を……っ』
彼女は震える手で自身の首元に掛かっているロケットペンダントを無理やり引きちぎり、それをオレに渡す。
その死を受け入れようとする行動と発言を聞いて、オレは涙が止まらなくなる。
『受け取れねぇよ!? 無理とか言うんじゃねぇッ!』
『お姉ちゃん!?そんな事言わないでよ!?』
『あった! これを飲め――』
手渡そうとした瞬間、彼女の腕がポーションの便を弾き、吹き飛ぶ。
目の間で落ちていくポーションを見て、オレは絶望することしか出来なかった。なんで……なんだよ!?
『はっはは……手が滑った……こんな魔力のない私が愛されて……私は……幸せだよ……』
『なんで――何でなんだよ!? お前はオレの家族だろ!? なんで拒否するんだよ!? オイ!!』
『なんで……なの?! ねぇっ!?』
『遅かれ早かれ……私はもう持たないんだよ……っ、病気が、な……』
彼女の病気はかなり進行していたらしい。それを気が付かず風邪だと思っていたオレは、ここでまた再び遥か高い場所から叩きつけられたような衝撃を覚える。
なぜ、気がついてやれなかったのか。
『ああ。なるほど……これが死の淵なんだね。いま、すっごい幸せ……』
『変な事言うなよ!? 絶対お前を助けるから――』
『ならっ!!』
そう彼女は死力を尽くして声を張り上げると優しく語り出す。
『せめてソフィだけでも……守ってやってくれ……』
『私はいいからっ! お姉ちゃんは!? 義兄さん!早くポーションを!!』
『……ないんだよ。もう……この傷じゃ……もう……』
その時にオレは所持していたポーションは非常用の時に備えていた一本のみ。
もう、ない。
『二人とも、愛して……る……』
そう言って力なく首がダランと傾ける彼女。目の前の現実が理解出来ない。あれだけ元気にしてたんだからナイフの一本ぐらいじゃピンピンしてるだろ? なぁ?おいっ――
『クーリア――っ!?』
【了解しました。マスター】
そんな機械的な声が耳に届いた瞬間、体に電撃が走る。比喩ではなく、本当の電撃が。
あまりにも突然すぎる痛みと痺れに頭がついていけない。
『ぁぁぁぁぁ!?』
『キャぁぁぁぁっ!?』
ソフィも電撃を受けたようで、ビリビリと嫌な音を立てながら俺達は地面に倒れ付す。
気絶する寸前に見えたのが、白くて長い髪と、真っ白で、全身を覆うローブ。
電撃を放ったのは白神だった。顔は覚えていないが注射器を持っていたことだけは覚えている。
気絶から目が覚めた時にオレだけ。
その倉庫では誰ひとりとして人影ない。ソフィも、ニーナも、ギルドの手下でさえ。
あったのは、置き手紙一つと、あいつの形見であるロケットペンダントのみ。その手紙に書かれていた内容は、とても簡潔なものであった。
『ギルドに加入せよ。さもなくば、貴様の妹の命はない』
その後、ソフィは病人として身柄をギルドに隔離され、オレはそこから彼女を開放するために色々な依頼をこなしてるって訳だ。
彼女の状態は年を経ることにだんだん悪くなっている。一刻も早い救助が必要なのだ。
目を開いて、現在聞こえる状況を確認すると、男達に服を引きちぎられて白い下着が顕になっている金髪の少女がいる。
状況は違えど少年の目は激しい怒りと無力感に染まっており、俺のように間違った選択、そして間違った進路に進まされることを強制されるかもしれない。
「止めろよこの野郎がぁぁぁっ!!」
「嫌ぁぁっ!? 助けてっ助けてっ!!」
「さっさとやってよね? はぁ、ホント男ってめんどいわ」
「じゃぁ!! いただくとしよう――!!」
「はぁ。結局オレもお人好しなのかね」
タンッ! という乾いた音が聞こえると、連鎖反応を起こすようにいまにも下着へと手をかけようとしていた男が少女へ寄りかかるように前へ倒れる。オレの少ない魔力でさえ、人一人殺せる弾丸は作れるため、やはりこの魔道具は凄まじい。
「キャァァァッッ!!」
「誰だ!?」
「まさか侵入者――」
「若少年。お前はオレみたいになるなよ」
軽くひとっ飛びして、手錠につながれた二人の目の前に現れる。二人の反応は呆然としていて、何が起こったか理解出来ていないようであった。
「おい! 誰かと思えばSSランカーのドリュードじゃないか」
「こんなことをして、ギルド本部が黙ってると思うの!? 貴方は同士を殺したのよ!?」
「お前らだって似たようなことしてきただろ?」
この隙にオレは魔道具の銃モードのまま手錠の鎖をピンポイントで打ち抜く。
銃を向けた瞬間、殺されると思ったのか、二人は強く目をつぶっていた。鎖が破壊される甲高い音と拳銃の炸裂音だけが静まり返った倉庫に木霊する
「「……え?」」
「……お前、さっきからなにをやってるんだよ」
「……なににせよ。貴方は私達の味方ではなさそうね。ここで消えてもらいましょう」
短剣を携えて駆けてくる男は構え方から見てかなりの熟練者だということが予想できる。
だが、オレの敵ではない。
「そんなもんじゃ、オレには遠く及ばないな」
怒りのためか、フェイントも何もせ、縦に大きく切りつけようとしてきたので、ひらりと横に回避。
後ろにいる少年少女の二人に被害が及ばないように、攻撃を空振りして隙だらけの襟首をつかむ。
「おじさん、怒らせると怖いよ? とりあえず、離れな。ちびっこ共」
「は、はい!」
「ミリュ、とりあえず離れよう!」
襟首を掴まれてわなわな暴れている男はやっと現状を理解出来たようで怒りの表情でオレの手を振り払う。
「この野郎なめやがって!!」
「どきなさい!私が仕留める!पवन ब्लेडों! 風刃っ! 」
「甘いな」
風の刃が完全に発射されるまでには少々時差がある。この間に近づければ
「何の問題もない。よな?」
「なっ!?」
一瞬にして接近したオレは、魔道具を大剣モードに切り替え、その勢いのまま振り抜く。
驚いた声が上がったのは、杖が真っ二つに叩き切られたためだ。
彼女に軽く鳩尾にフックを打ち込むと、すぐに気絶してしまった。とりあえず寝ていてもらおう。
「このぉぉぉっ!」
奥にいた男は大鉈を振りかぶって、その勢いのままに切りつけようとする――が、やはり攻撃が正直すぎる。
大剣を横に構え、大鉈の縦ぶりの一撃を上へと受け流すと、相手はその力に逆らえず掴んでいた鉈は上へと舞い上がる。彼の体制はバンザイをしているかのような両手を上げた格好になっている。
「無様だな」
嘲笑いながらも、大剣の刀背の部分で振り抜けば、爆発でも巻き込まれたかのように吹っ飛んでいく。
この場には数人しか居ないようで、いまのギルド本部に所属しているAランク程度の人物ではオレを止めることはできないってことがよく分かった。
まぁ、当然っていえば当然なんだが。
「……ふぅ、終わりか。だいぶ修行したもんな。師匠の頃と同じ訓練は今でも死ぬかと思うぜ……あの人はどうしてっかな」
「す、スゲェ……」
「あの人数をこの一瞬で……これが冒険者……」
赤の他人にキラキラした目で見られるのはあまり心地いいものではない。
ユウとかスカしているやつにあんな表情をさせたいものだ。
「ちびっこ共。とりあえず、ここから出るぞ。魔法学園のやつらだろ?」
「は、はい!」
「お、お願いします!」
緊張したようすでオレの下へくる二人は恐らくカレカノの関係なのだろう。
お手手なんか繋ぎやがって――ん? そう言えばこいつらは……
「あ、そうだ」
「えっと、なんでしょう?」
「お金の事ですか? えと、私達あんまりお金はなくて……でもいつか必ずこのお礼は――」
「金なんて要らねぇよ。とりあえずお前らに言いたい事があるんだ」
「っ、何でしょうか……」
再び緊張した顔を作る二人はどんな内容が降りかかってくるのか恐ろしく思っているようにも見える。だけれども、これは言わなければオレの気が済まない。
「いいか、心して聞けよ」
「……はい」
「大体のことなら従います」
「――お前らな、全体的に演劇が下手過ぎる。学園祭なんて酷いもんだったぞ?」
「「……えっ?」」
その後、オレはいいたいことを言った。
恐らく二十分ぐらいの間だったのであろうか。それほどあの演劇は酷いもんだったんだ。
投稿遅れて申し訳ないです
高覧感謝です♪