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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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四つの因子

 機械の駆動音が昼夜問わず響く街、マシニカル。その騒音の街では人間達が騒いでおり、更にけたたましい音があちらこちらで鳴り響く。

 

 街の八割を超える部分が機械であるこの場所では、使用する全ての機械は魔力を使用するものである。

 さらに、この街は魔力による兵器、交通アクセスが当然のように存在するため、非常に魔力は需要が高い。

 そのため燃料となる魔力の消費量は人間界で一番多いが、魔力をもつ人間を誘拐し、売りに出すという黒い背景もある。


 第二の首都ともいわれているのではあるが、治安は決して良いとは言えない場所である。


 また空気中にあるといわれている魔力だが、この街では圧倒的に不足していた。

 その要因もあってこの街の人間のウイルスに対する抵抗力は軒並み弱く、魔力の恩恵もあって成長する木々、植物等の生息はゼロであった。

 その代わりに情報が素早く、そして拡散するスピードが恐ろしく早いことがこの街の特徴である。


 この街に住む人々はそのように自然とは遠く離れた状況で生活スタイルを送っていたが、この情報の街の中心である風説が飛び交っていた。


「どうなっているんだ?!」

「どこから発生したのかもわからないこの情報もですが、虚偽の可能性が濃厚です。しかしどうにも辻褄があってしまいます!」

「これが広まってるってのかよっ――!」


 珍しく焦燥の声を上げるのはアメジストのような透き通った髪色、そして同じ目をした細身の男。

 今現在、この男はマシニカルの治安維持施設の中で最も権力を持つ男、ブルーノ。またの名を副ギルドマスターである。

 彼が今直面している問題は、多数の情報の真偽に対する処理である。


 真偽の定かではない情報でさえ広まるのはこの街では珍しくはないことであり、対処には慣れている――はずだった。


「こんな情報どこから広まったんだよっ……! 白神の野郎しか知らねぇはずだろうがっ!」

「ではやはり真実で――」

「黙れっ!! こんなでまかせを信じる気か!?」

「っ……申し訳ございませんっ」


 恐ろしい剣幕で否定すると、秘書らしき女性は怯えた表情を作って引き下がる。


 男がでまかせといった情報を真実であると捉えた国民は、信頼のあるギルド本部に是非の程を確かめるため、本部には多数の人間が殺到していた。


 これもまた数年に一度あるかないかの出来事だが、やはり今回だけは違う。

 如何せん真偽の程を確かめようとする人間の差が数倍にも膨れ上がっているため、対処が追いつかないのだ。

 その理由は同時にいくつもの情報が出現した為でもある。


「ああクソがっ、全員殺してやれば楽なんだが……そうなればあの施設がバレちまうしなっ……」

「あの……私は――」

「出ていけよ屑野郎がっ!お前を魔物にしてやろうか!?」

「っ!? 失礼しますっ!!」


 顔を真っ青に変えて女性秘書は出ていく。しかしその出ていくようすを気にする余裕は全くなく、彼は目の前に現れるホログラムの映像を憎々しげに睨みつけていた。


「最近の魔物の増加はギルド本部が原因、裏では依頼を増やすための意図的増殖……ギルド本部は過酷な労働環境のうえ無賃金労働、口封じ殺人が当然のように行われる……最近の人間の誘拐は魔力を不足になったギルドが依頼して人間から特殊な機械を使って魔力を絞り上げている……俺が女性を大切にしない屑野郎ランキングベスト百のなかで一位だと? ふざけんじゃねぇよクソがよっ!!」


 ホログラムに映し出された記事を読み上げ、悪態を吐きながら両拳で机を叩きつける。

 彼も冒険者であったのでブランド品であり、高そうな装飾が施された机はいとも簡単に破壊される。


 陶器物が割る音は彼には届かず、必死でホログラムの下に表示されたコンピュータに何かを入力し続け、その後誰もいない空間に話し出す。


「白神のクソ野郎が!さっさと出てこい!」

【申し訳ありません、ただいま優先順位が最優先の依頼の進行中です】

「依頼は破棄だ!! さっさとこい!!」

【……了解しました。下の者に依頼中断を伝えるため、完全中断にまでおおよそ三十秒程かかりますが――】

「そんなんどうでもいい! さっさとこっちに来て手伝えよ!?」


 感情のない機械的な声に対して、凄まじい怒りをぶつけられても相手の返事は淡白なものであった。


 その命令のとおり光に包まれつつも転移をしてきた全身を白フードで覆われた人物は一礼をしたのち、定型文とも呼べる言葉を言い放った。


【マスター、ただ今戻りました】

「この情報を鎮圧しろ! 今すぐにだ!!」

【……計算結果、この騒ぎを完全鎮圧するためには洗脳処理、時間にして二日ほど必要ですが、よろしいですか?】

「遅すぎる!! 王家がもう迫ってるんだよ!! 今すぐにだ!!」

【その条件であると、大量虐殺ジェノサイドとなり、寧ろマスターが危険な立場に立たされますが、本当に宜しいでしょうか? なお、この条件ならば三秒程で完全鎮圧が可能となります】

「ああクソが! ダメに決まってんだろうが!! なんか考えろ!!」

【……只今、我が魔道具にこの噂の出処を調べさせましたが、どうにも結果が出てきません。これは何者かが関与している可能性が高いかと】


 白いフードの人物、白神と呼ばれる者は機械の左手の平からホログラムを空間に映し出しつつも言葉を述べるが、その発言が信じられなかったのか、男はありえない、といいたそうな表情を作る。


「……お前、ここがどこだか分かっているか?」

【はい】

「そうなるとなら……王家の犬(勇者)がついにこっちに気がついたってわけかよ……っ!」


 男は苦渋を味わうような表情をする。


 ギルド本部は、マシニカルの戦力全てを保有しているため、マシニカルの権力はギルド本部にある、と言われるほど強い権力を持っている。

 しかし、王家からしたら、その強大な戦力をもつ施設、いわば政治の知識がない団体が凄まじい力をもっているという事だけで恐ろしいものだ。変に刺激すれば、人間同士で戦争になることだってありえる。

 そうなってしまえば、両方とも弱っているところに魔族が進入して一気に押しつぶされることだって考えられる。

 一番最悪な結末である。


 なので可能な限りお互いに戦闘をしたくない相手――なのだが、戦力の一部でも王家が法的に保有するならば話は別だ。


 王家はマシニカルに負けず劣らずの戦力を保有しており、勇者もギルドに所属しているとはいえ、どちらかと言えば王家側だ。

 ただでさえ勇者を使われるのでさえ危険であるのに、戦力を削減させられたならば間違いなくこの街はブルーノの手から離れるであろう。

 それだけは絶対に回避したい。


「ああクソが!!」


 何度目だかわからない悪態を吐きつつも、男はマシニカルを見下ろす事の出来る大窓を殴りつけ、強化された窓ガラスには大きな亀裂が走る。

 そのようすを見ていた白神の目はひたすら冷たいものであった。


 ~~~~~~


「おい、手をうったってこの事じゃねぇだろうな?」

「あっはは。何の事だろうな」

「きいてるきいてる!」

「ちょっと展開がきになる、です」

「……ここまでやってしまうなんて。やはりユウナミは危険です」


 俺達はあの後情報が広まるのを待つため、二日程度この里に居座ろうとしたのだが、如何せん情報が広まるのが信じられないほど早い。鍛冶を終えて一日しか経っていないが、もう出発しようかどうか考えている。

 この広まり方からすると、異世界でもSNSでも開通しているのだろうか。ちょっとだけ現代っ子心が揺れ動く。


「ふっ、我ら二人にかかればざっとこんなもんよ。報酬として新たな王道バトルモノの少年漫画を所望するのじゃ」

「もしくはキラキラお目目の少女漫画でもいいんですよ?……というかここまで早いとは驚きです。マシニカルも進化したものですね」

「そうじゃなぁ、慎重だったあやつらが懐かしいの。とりあえず漫画はよう」

「お前ら欲望に素直すぎるだろ。プニプニを見習えよ」

(もう働きたくないでござります)


 何だかんだいっているが、お願いを完遂してきた聖霊たちはトレンチコートを脱いで、ブレザータイプの魔法学園の制服を着こなしていた。

 その依頼の帰りのついでに持ってきたのが、この新聞記事。現在どのような状況であるのか書かれているものである。


「ユウ、これって全部嘘?」

「ああ勿論だ。とりあえず思いついたヤツ全部入れてみたよ。特に最後はダメージでかいだろうな。因みに二位はドリュードな。実際どうなのかは知らないが」

「なんかどりゅーどさんがかわいそうに思えてきた、です」

「おい! なんだかマシニカルが騒がしいってよ!!」


 この新聞が全員の手に回り、一通り読み終えた後、どこからかドワーフの声が聞こえてくる。

 その声にピクリと反応したアーロンは声が聞こえた方向に向けて叫ぶ。


「どうせ嘘情報だ! 信じなくていい!」


 しかし、ドワーフはその嘘情報が嘘情報と思っていないようで、意外な答えを返してくれた。


「いや、意外とこれが辻褄があってるんだ! 例えば魔力搾取の件だが、大規模な機械をもってて、なおかつそんな事が出来るのはギルド本部しか有り得ねぇ! それにギルド副マスターはクズって噂があるしな!!」

「いや最後のはどうでもいいよな?」

「思いのほか、それも信憑性を高めるのに一役買っているようですね」

「ギルドマスターなら知ってるけど、二番目は知らないなぁ」

「ゆう……三位おめでとう、です」

「やめて」


 ただ単に悪意のあるランキングで貶めようとしたのだが、意外と効果があり予想外である。

 なお俺は聖霊たちによって勝手に三位にされた模様。泣くまで許さない。


「でも、これってチャンス……なのかな?」

「ああ。多分かなりいい状況だ」

「一応我らがいた時にも数人のグループがギルドに押し寄せていたのじゃ。今じゃどうなっとるか分からんな」

「わいわいですね。バーゲンセールスです」

「ば、ばーげん……? とにかく、お前ら本当に行く……んだよな?」


 アーロンが手で引き止めようとするジェスチャーを行いつつ、俺達に問いかける。こんな事をしでかしてしまったんだ。当然俺の意思は変わらない。


「ああ。まずは人質を助けないとな。あいつらが不遇すぎる」

「……何もやってないのに捕まっちゃったもんね。ボクも揺るがないよ!」

「ワタシはがんばってついてく……です!」

「ちょうどいい機会です。私をどれだけ辛い目に遭わせたか。ここで報復させてもらいましょう」


 どうやら彼女らも揺るがない意思を持っていて、覚悟を決めているようだ。

 とりあえず作戦を確認しよう。


「まずは、リンクスとミリュの確保、ドワーフの里へ転移させる。これであいつらの安全確保だ。多分この通りには行かないと思うが、途中過程は各自の判断に任せるぞ」

「あんまりわしらの里に人間を入れたくはないんだが……」

「まぁまぁ! で、その次はギルドをぱぱっとやっちゃうんだよね!」

「やるっていえばやるんだが……無理はしない程度にな?」

「分かってるわかってる!」


 アルトがキラキラと玩具を前にした子供のように輝いている目を向けてくる。相変わらず彼女は戦闘好きでちょっと怖い。それも純粋で可愛いとこでもあるのだが。


 マシニカルには魔族避けの結界が貼ってあると聞いたため、アルトに頼んでそれを無効化する魔法をアーロンが作ってくれた剣に封入させてもらった。

 魔法陣を展開するのは俺じゃないとダメらしいが、魔法を入れるのは誰だっていいらしい。

 タイミングはこちらで指示したので、アーロンの剣は充分魔道具として機能してくれるだろう。


「ワタシも頑張る……です!」

「安全第一――でわけにはいかないか。とりあえず外の獣人を舐めてる連中に訓練の成果を見せてやろうな」

「はいです!」


 彼女のブレスレットには魔法が封入されていたが、まだ入ると直感でわかったため、気絶半減を入れてあげた。

 俺の気絶回数を是非とも有効に使って欲しい。


「こんな日が来るとは思いもしませんでしたよ。全てはあの日から色々ずれ始めたんです。ユウナミのせいですね。謝罪してください」

「なんでや。とりあえず、杖には風属性を付与しておいたからな?」

「感謝を通り越しての謝罪です。このような機会を設けていただいたのですから当然感謝はしていますよ」


 笑顔で謎の言動を見せるシーナに思わず関西弁で突っ込む。

 もしかして180°回転して謝罪、ということなのかもしれない。


 シーナの杖には風属性を付与しておいた。体感的には能力創造スキルクリエイトとそう変わらなかったためほかの作業より楽に終えることが出来た。

 彼女のテクニックがあれば俺の魔法なんて軽く超えることが出来るだろう。


「確認だ。とりあえず短剣と転移石は持ってくれたか?」

「うん!バッチリ! 今すぐ使いたい気分!」

「帰ってきたらいっぱいあってちょっと怖かった……です」

「まず私はユウナミが鍛冶をすることが出来ることに関して驚きましたよ」


 短剣というのは俺が魔法を付与して旋風の短剣にしたものだ。それを属性別にして彼女達にはそれぞれ一本ずつ渡してある。

 一人につき地水火風の四属性、四本を四人分作ったため、十六本を撃ったので流石に俺の魔力は底を付きかけた。

 その時フラフラの状態だったのでアルトに突進された時は溶鉱炉に突っ込むかと思った。焦らなかったが、焦ってたらバランスを崩していたかもしれない。


 余談だが、そこら辺の石ころに転移魔法を付与したら転移石になってしまったのでもうなんだが女神の適当さに呆れたのは最近の話である。


「このベルトポーチかわいい……です」

「……お、おう! 特製だからな!」

「ありがとうございます。アーロンさん」


 アーロンが若干圧倒されていたが、やっと追いついてきたようだ。

 彼女達は俺達のように異なる空間に収納する魔法はない。流石に短剣四本も手に持って街中を歩くわけには行かないので、無理言ってアーロンにベルトポーチを作ってもらった。

 レムやシーナは小さく、子供のような雰囲気を持っているので、犯罪的な可愛さがアップしたのは言うまでもない。


「む、ユウナミ。何か変なことを考えましたか?」

「俺が考えたのはなんでランキングの三位に入ってるかってことだけだよ」

「知らんな」

「知りません」

「こいつら……」


 聖霊たちは何故か指の間の糸を組み合う遊び、あやとりをしてたが、こちらを見ることも無く軽く流された。

 もう突っ込む気すら起きなかったので俺は無言で聖霊たちを魔法陣の中へ戻した。

 批判の声が聞こえたが気のせいである。


「さて、準備はバッチリだな」

「もう行く? 行くよね?」

「あるとワクワクしてる……です!」

「ここは夜襲にした方がよろしいのでは?」

「お前ら、本当に行くつもりなのは充分わかったよ」


 ここでアーロンがやれやれ、といった表情で口を挟む。全員がそちらを見ると、胸内からなにか取り出しているようすが見て取れる。


「ほらよ。地図だ」

「ん? これって――」


 渡されたのは巻かれた羊皮紙。地図と言われたのだから書かれている内容はそのままであるのだろうが、一体何の地図なのだろうか。ギルド内部だったら嬉しいのだが、マシニカルまでならばソラとファラに案内させるため別に必要は無い。


「ドワーフの里の地図だ。一応人間界と獣人界の一部には繋がってるんだよ」

「……ってことは?」

「ここから直接マシニカルに行けるってこと?」

「ああ。その通りだ。ホントは渡したく無かったんだが、お前らの覚悟を信じてみたくなったよ。一応門番には直接話を通してある。そりゃもう驚愕してたがな」


 目の前のドワーフが神々しく感じると共に、体の中から「我ら遠回りしたんかい……」やら「遠かったのに……」という悲しげな声が聞こえた。


 それはともかく、あれだけ怒って行かせないとは言っていたものの、協力はしてくれるようである。優しいのか情緒不安定なのか。……優しいってことにしておこう。


「やるなら、最後までやりきってこいよ? ちょうどいまは朝方だ。ギルドの警備が一番あまいらしいぞ」

「うん!分かってるよ!」

「行ってくる……です!」

「任せてください」


 中途半端に荒らして逃げるという作戦はココにて潰えたのであった。

 もうこうなったらドリュードの件もあるし、少しぐらい全力で暴れてやろうか。


「さぁ、行こうか!」


???「バレンタインデー? ああ。ボク知ってるよ! バレンタインさんが撲殺されちゃった日だよね! その影響もあってかあっちの世界では男女の仲を――」

???「やめてさしあげろ。チョコだけに黒すぎるわ」



高覧感謝です♪



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