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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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説得

 それからというもの、俺達はアーロンのが居るという工房へ向かい、それぞれ欲しいものを作ってもらった。


 彼は長老の座にいることもあって鍛治の技術や完成度は目を見張るものであった。

 なお、この工房も他の一般のドワーフの工房とさほど変わらず壁の周りにはパイプが貼りめぐされ装飾という概念を一切捨てたすすけた床、そして窓が一つだけ。そんな薄暗い空間であった。


 今現在、俺達は各々が作られた道具を装備してみたり、振り回したりしていた。


「へぇ、いい剣だ」

「だろ? 全員の武具にアダマンタイトっつうめっちゃ硬い鉱石をふんだんに使ってるからな!……勝手に奪ったお前さんにはその貴重さがお前らじゃ分からないかもしれんが」

伝説級レジェンダリー……にまではいかなそうだけど、いい品であることに変わりないね!」

「でもなんだか魔力を感じる……です」

「アダマンタイトなんてオリハルコンと同様に相当貴重な素材であったはずでは……?」

「はっはっは! 気にすんな……後で返してもらうからよ」


 アーロンが無駄に暗い表情をしているが、ほんの少しだけ嬉しそうな様子も読みれる。素材が惜しいとはいえ、結局貴重なインゴットを使って打ちたかったのだろう。


 この素材はプニプニにコピーさせてから作って欲しかったが、その事を思い出したのは完全に道具を作り終えた後であった。


 素材が貴重であったためか家にも鍵をかけないドワーフ達が、この倉庫では何重にもセキュリティを固めて保存していた。

 アダマンタイトが保存されていた宝物庫とも言える場所には、蒼くてぼんやりとした光を纏ったインゴット。黒塗りで謎の重圧感を放つインゴットなどなどがあったが、どれもこれもがドワーフ達が血のにじむような努力のために得られたものらしい。

 努力を語られ、泣き泣き語るドワーフをみて俺はその素材で作ってくれとは言えなかった。あくまで俺は、だが。


 そんな貴重なインゴットを素材にしてくれたのは、彼らの経歴を語っている最中にアルトが大事にしてたアダマンタイトを人知れず倉庫から抜き出したのがきっかけである。

 そのお陰でここに情緒不安定なドワーフが誕生した。俺は悪くない。


「魔法ってこうやって使うんだよね?」

「……はぁぁ……」

「そんな落ち込むならそれで作るなよ」

「ドワーフさん、いつか返す、です!」


 一度インゴットを取り出されたら、鍛冶の本能が収まらない! と言い出して武具を作り始めたのは紛れもなく彼自身であることを忘れてはならない。結局は自分で決意したのだ。


 因みにだが、俺とアルトは剣を作ってもらい、レムにはブレスレット。シーナには杖を新調してもらった。

 また、一番素材の使う量が少ないと思われがちなレムのブレスレットだが、魔法が込められているため、配合率が一番高い。俺達が三人でインゴットの五割を使用したのだとしたら、彼女一人でもう半分を使用しているらしい。

 彼女の歳が歳なので批判するつもりは全く無い。守ってくれればいいと祈るばかりだ。


 それと、ドワーフとはいえ純正アダマンタイトで四人分を作るほどの素材の持ち合わせはない。

 そのため、鉱石と配合をして剣などを打ってもらったのだ。それに文句があるなら自分で取ってこいとのこと。

 ド正論だ。


「それにしても、ほんの少し混ぜただけだろ? 硬くなるものなのか?」

「この世に出回ってる遺宝級アーティファクトなんてだいたいそんなもんだ。それくらいスゲェ物質って思ってくれればいい」

違宝級アーティファクトって呪い付いてたんじゃなかったか……?」

「遺跡にあるものは、ですね。一応無いものもありますよ」

「おそろい……!」


 肩をすくめて彼女に相槌を打ち、作ってもらった剣を眺める。


 スラリとした西洋型の剣は、まさに中世の時代の甲冑と共にセッティングされているロングソードにそっくりだ。

 アルトの作ってもらった剣も形状は同じだが、俺の刀身には青い線が一筋浮かんでおり、彼女の刀身には赤い一本筋が浮き上がっている。模様がお揃いチックなのは彼なりの配慮だろう。ちょっと恥ずかしい。


「だけど、ちょっと重いな。戦闘には影響はなさそうだが……まぁちょっと気になるな」

「流石にあんちゃんたちの武具には及ばねぇよ。素材が相当豪華らしいからな」

「アルト、どんなの使ったんだ?」

「ふふっ、ないしょ!」

「しーなの杖はどう……ですか?」

「信じられないくらいに魔力がスムーズに流れますね。素晴らしいですね……」


 シーナもアルトもレムも新たな道具を作ってもらってかなり上機嫌だ。

 まるで遠足のおかしを買ってもらった子供のように目をキラキラ輝かせていた。


 これでメインとなる武具の準備はバッチリだ。

 これからはドワーフから素材を買って先程作った魔道具を増産しようと考えていると、アーロンから声がかかる。


「ところで、あんちゃん。こんな急に武具が欲しいって言ってたが……なんか理由はあるのか?」

「……ん? ああ。ギルド本部から喧嘩を売られたんでな。倍にして返してやるってところだな」

「……は?」

「ユウ、ちょっとボク達新しい武器(これ)に慣れるから、あのダンジョンで試し斬りしてきていいかな? 」

「ああ、もちろんだ。俺もちょっとやりたいことがあるから、終わったら合流するよ。それと、試し斬りするなら比較的浅い所でな」

「わかった……です!」

「では、また」


 アーロンの表情が笑顔のまま固まる。まるで彼の周りだけ時間が止まってしまったかのようだ。

 硬直した彼を差し置いてアルト達は嬉々とした表情で扉から出ていき、気配は遠のいていった。


「ん? なんか問題点でも?」

「い、いや……わしの聞き間違いだよな……? なんだかギルド本部から喧嘩を売られたから買う、なんて馬鹿な内容が聞こえた気がするんだが……」

「何だそんなことか。間違いないぞ」

「……はぁぁぁぁ!?」


 俺達二人だけになった部屋で、彼は救急車のサイレンより大きな驚愕の声を上げる。思わず耳を塞いでしまったほどだ。


 叫ぶだけ叫んだ後に一歩、二歩とフラフラと近づいて俺の両肩を背伸びしてがっしりとつかんだ後、真っ青な表情で俺を見据える。


 おっと、これはキスする寸前じゃないか。背丈のギャップが――ってふざけんな。

 だれがしわしわのじいさんとするかよ。


「俺にはそんな趣味ないんだが」

「そんなふざけたこと言ってる場合じゃねぇだろ!? お前はわしの話を聞いてたのか!? ああ!?」

「ああ。聞いてたよ。そうだ、ついでに助け出し――」


 言い放とうとした言葉は俺の顔面へと伸びる素手によって中断された。

 何度も戦闘を経験した俺にとって特に素早くもないドワーフの拳は簡単に受け止められる――はずだった。


 彼の視線からは、まるで親父が本気で俺を叱っているかのような厳格さが感じ取れたのだ。

 そのため、受け止めようとした右手は目標の場所へまで上がらず、俺の顔面には彼の外見の割に大きな拳が襲いかかる。


「…………っ」

「あのなぁっ!お前はギルド本部を舐めすぎてるだろ!? わしが何度警告していると思ってるんだ!?」

「別にふざけてなんてない。俺もアルトもレムも、シーナもだって本気で挑みに行くんだ」


 殴られた勢いのまま、顔は彼から背けて俺は語り継ぐ。殴られて痛くないなんてことはない。

 だが今は頬に感じる感覚より、彼の怒りについて意識が向いていた。


「はぁ!? 馬鹿かお前は!? お前だけでも行かせたくねぇのになんでお嬢ちゃんたちまで連れてく必要がある!?」

「あいつらの意思だからだ。それに人質が取られたんだよ。誰だって向かいたい気持ちにはなるだろ?」

「ギルドに対してその気持ちは要らねぇ!! 人質を取られたとしても危険なとこに行かせるんじゃねぇよっ! 男なら女の子を安全な場所に置いておくのが筋なんじゃねぇのか!?」

「ああ。それは重々承知している。竜人の里の一件でよく分かったよ」

「ならよ――!」

「だがな」


 ここで俺は相手の言葉を区切りつつ正面を向いて薄く不敵な笑みを見せる。

 その笑みは勝利への確信を含んだ笑みにしたつもりだ。


「今回の俺は違う。本気で計画を練って、本気で潰しに行く。そして、絶対に彼女達あいつらを守り抜いてみせる。この奪還戦はな。そのことが可能であるという証明でもあるんだよ」

「お前ってやつはっ!ギルドを舐めて――!」

「おっと、勘違いするなよ。この発言はギルドを舐めているんじゃない。いずれ戦うことになるギルド本部以上の化物を想定してのことだ」


 こんな所で怯え、怖気づいていたのならソプラノどころか、勇者に勝つ事さえ確実に不可能だろう。

 弱者の立場である彼らに対して、俺がギルドに怯えている連中に言いたいのはたった一言だけである。


「一回や数回、ギルド本部に勝てなかったぐらいで辛い思いをした。それは分かる。だがな、これから先ずっと戦わないのは間違いだ」

「ワシらだって全力で戦った!!だが、やはりギルド本部には勝てないんだ! それで何人が犠牲になったと思っていやがる!?」


 彼は急に俺の胸ぐらを掴むと、再び俺を見据え、強く言い返してくる。

 だが俺はそれにものおじせず、淡々と返した。


「だったら、もう一回戦力を整えて敗北からやり直せばいい。お前ら、まさかとは思うが敗北の原因ぐらい考察はしたんだろうな?」

「するに決まってんだろ!? それでも勝てねぇんだよ!!」


 再び拳が俺の鼻先へと迫ってくるが、笑みを浮かべたまま左の手のひらで受け止める。そのようすを見てアーロンはより一層機嫌を悪くしたようだ。


「考察が足りないんだよ」

「あぁ!?」

「その時に冷静に考えたか? 焦ってないか? 復讐心に囚われすぎてないか?」

「…………」


 ついにアーロンは口ごもり、反論の手が止む。どうやら仲間を大切にするドワーフの一族には多々当てはまることがあったのだろう。とりあえずはここからは俺のターンだ。


「俺の故郷では戦闘において重要なのは人数や武具だけじゃないんだよ。戦略だって重要で必要不可欠な武器だ。それに、こんな言葉がある。 『ペンは剣よりも強し』ってな」

「どういう……ことだ?」

「言論の力は武力より上、ってことだな。それと、こんな会話をしている間にも俺は着実に周りを潰してるからな?」

「…………」


 ドワーフから手を離し、ソラとファラに状況を確認してみたところ、俺が流した情報はまるで流行病のように広がっていき、ギルドの信頼は著しく減っているようだ。その報告を聞いて思わず笑みを深める。


「お前ら、本気……なんだな」

「さっきも言ったろ?」


 その俺の表情でをみてを覚悟が決まったのか、それとも呆れたのかは分からないが大きなため息を一つ吐く。

 そのようすからはなにか吹っ切れたような気もした。


「……ギルド本部を潰すって話。信じてもいいんだな?」

「ああ。無理だったらもう一度いろいろ組み立ててから挑戦するさ」


 アーロンは怒りの顔つきから、どこか期待しているような顔つきに変わった。その期待はもしかしたら、俺達がギルドへの驚異となりうることを予想したものだったのかも知れない。


「ところで、ギルド本部を潰すために必要な鉱石が足りないんだが……くれないか?」

「……お前達を信じるぞ?。ならこっちも手助けを妥協しねぇぞ!!いいな!!」

「ハイハイ。ありがとな」


 なにやら彼らなりに納得がいったようである。なんだかんだ言って彼を丸め込んだが、いまの目標は素材の確保である。


 風の魔道具だけでなく。多属性で作ればほかの種類もできるはずだ。役に立つこと間違いない。

 アルトたちが来る前にパパっと作ってしまおう。

高覧感謝です♪

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