第17話 まともな食事とまともな寝床
俺はあの後何事も無かったような顔をして、倉庫から出て行った。
アルトが誘拐されていた倉庫からは戦闘音などの爆音が非常に漏れていたらしく、憲兵らしき人物が幾つか来た。
なので俺はスキルの気配遮断を使ってこっそりとその場から立ち去った。
死体等は埋めて置いたので心配は無いだろう。
俺がやったことは普通に死体遺棄だが。
魔力を消費せずにしっかりと仕事を行ってくれるので、スキルは本当に有能である。魔法ももちろんのことすさまじいのだが。
お腹が空いたので俺は背中にアルトを担ぎながら割と速めに移動する。
先程のように屋根や屋上を飛び移りながらだ。
時間帯はもう真夜中だ。先程鐘の音を聞いたが十一回だったので、元の世界の時間でいう午後十一時だと思う。
この街には時計がない。鐘の音で大体の時間を計っているらしいけど。
そんなこんなで宿屋につく。しばらく世話になるこであろうこの宿屋の名前は鳥の箱船というらしい。
腕の中のアルトは結構揺れていた筈だが、起きない。魔法でも使っているのだろうか。いつか安眠の魔法を創ろうと思う。
それと先程初めて使用した天雷という魔法は俺が魔法創造により創った魔法である。あの魔力の突風は魔法創造によるものであったのだ。風魔法は使用していない。
初めて魔法創造を使用したのが外――まぁ一応屋内でもあるが、その場所だったから良かった。室内でやれば魔力の渦で部屋が大変な事になっていただろう。
やはり魔法というものも凄まじい力を持っているために、創るのにもよほどのエネルギーが必要なのだろうな。
「お帰りなさい……召喚士狩りの連中は? それと、その子は――」
遠慮なくアルトを担いで宿に入ると、受付の場所におばさんがいた。
驚いた様子で彼女に俺に問いかけるが、それを軽く受け流すように伝えたいことを伝える。
「憲兵に伝えて潰してもらった。俺の味方だ。それと背中に担いでるのは分かってる通りアルトだよ。それより腹が減ったなぁ」
通報すらしてないが嘘をつく
「まさか無傷で戻ってくるとは思いませんでした。……随分とお強いんですね。このようすなら冒険者ランクは飛び級できるかも知れませんね」
「……残ってないのか?」
「……すみません。まさか本当に帰ってくるとは思ってなかったので片付けてしまいました」
なん……だと? 残しとけと言ったはずなのに。残してなかったということは俺が死ぬとでも思っていたのだろうか。
「つ……作って貰うことは無理か?」
「……男を見せましたね。是非とも作りましょう」
何とかご飯にありつけるようだ。ありがたい。
「ありがとう。んじゃ取り敢えず俺はアルトを部屋に寝かせてくるよ」
アルトを持ち上げ直しながら俺は話す。
「ええ。分かりました。出来たらお呼びしますので部屋でゆっくりしていて下さい」
「ああ」
アルトはやはり起きない。どうやったら起きるのだろうかと逆に考えるくらいだ。
「全く……」
部屋に入り、そっとベットにアルトを置く。
相変わらず幸せそうな表情だ。
ふと気がついたが……そういえば彼女は一体何者なんだろうか?
魔族なのは分かるが、最初に追われてる、ということも気になるが。
って明日本人に聞けばいいか。一応食堂では会えるのだ。
「おやすみ」
俺は一声かけてから部屋を出る。鍵はかかっていないが何かあれば《気配探知》が仕事してくれるだろう。
部屋から出るといい匂いがする。何だかんだいって、おばさんもある程度は用意していてくれたらしい。
そう考えてみると、これって初めてまともな食事じゃないのか?
異世界生活をしばらく経験しているが、まともな食事は初めてだ。ついにか。ついに普通の食事が食べられるのか。
早足で食堂へと急ぐ。
おばさんは既に配膳を済ませていた。
食欲をそそるいい香りが俺の鼻を刺激する。
これまでに激マズわかめ、リューグォの角しか食べていない俺にはとても感動だ。
「ははは……顔が緩むのを抑えれないな」
「結構作りましたので慌てずゆっくりとお食べ下さい」
「……ありがとう」
俺は遂に異世界で初めての食事を口にする。
「今日は麦ゴハンに、ローストオークの豚カツ、スープはコンソメウルフのスープとなっています。」
俺はいただきます。としっかりと声に出し、最初にスープを飲む。
すると、
「これは……!!」
飲むと、口の中でコンソメに似た香りが広がり、俺に食事の開始を告げる。このスープのおかげでこれからの食事をより一層美味くしてくれそうだ。
ここまで美味しいスープは飲んだことがない。
ああ、幸せだ。
次は麦ゴハンだ。
スプーンを使い、ご飯を沢山乗せて俺の口へと運ぶ。
「あぁ旨い……」
麦ゴハンかと思っていたが、口の中に広がるバターとガーリックを混ぜたような香りが俺の味覚と嗅覚を刺激する。
喉を通ると、麦ゴハンは一粒一粒が存在を主張するように旨みが喉の奥で爆発する。
「これは……っ」
「ふふふ。美味しそうに食べて頂き私も満足です」
やばいな。これは手が止まらなくなりそうだ。
そして俺は一番気になる物に手を出す。
「……とんかつ……」
そう、それは とんかつ であった。元の世界と同じ綺麗な狐色。
俺は一気に齧り付く。
すると噛んだところから肉汁がじゅわーっと出てくる。まるでハンバーグのようだ。とんかつなのに……!
「旨い……っ!」
思わず泣きそうになった。ああ。異世界に来てよかった。
それからというもの、焦らずゆっくりと味わいながら食べ終わった。
部屋に戻り、べットにボふっと飛び込み、俺はこれからの事を考える。
俺は明日からギルドで依頼をこなすつもりだ。
このまま生活するにもお金が必要だからな。流石に角ばっかり売るのにも怪しまれる。一本でも充分怪しまれたのだからもう、あそこで売ることは不可能だしな。
それとあの時は聞き流していたが、ギルドにはランクがあり、そのランクは低い順から
F、E、D、C、B、A、S、SS、一つ星 、二つ星、三つ星の十一段階がある。
そして、一つ星以上は世界で三十人もいないという。
さらに最上位である三つ星は世界で一人しかいないらしい。
自分的にはある程度楽に生活できるランク、Cぐらいまで行けたら俺は良いかな、とか思ってたりしてたりする。
それとこれだけランクがあることはそれだけ冒険者が多いということだ。できる限りいざこざはご遠慮したいものだが。
そういえばアルトはどうするのだろうか。
あいつはあいつの目的がある。だから人間界に連れてってもらったのだ。俺はここまで彼女に便乗してきただけだしな。その恩を今回返したといえる。
彼女にはできる限りこの世界について教えてもらいたいが、彼女にもやりたいことがあるのだろう。それを遮るのは俺にできない。
あぁ……眠くなってきたな。明日考えよう
そういって俺は目を瞑り、眠りについた。
~~~~~~
鐘の音が音が聞える。うっすらと意識が浮上していく。目を瞑っているが部屋が明るい。どうやら朝のようだ。
久々の柔らかい寝床だったから寝すぎたのかもしれない。
俺は異世界にいるとは気がつかず、目を閉じたまま携帯で時間を調べようと、手をベットの中から上げようとする――が途中でふにふにとした柔らかい物に手が当たる。
(なんだ……これ。柔らかくてあったかく、て……)
嫌な予感が頭を過ぎり、俺を目を開く
「んぁ、ぁっ……」
まだ眠っているのかアルトは目を瞑っている。
……なんでお前がここにいるんだよ。
「んぁ? ゆー……おはよう」
ぼーっと見てるとアルトは起きたようで片目をあけ、真紅の瞳で俺の目を見つめて朝の挨拶をする。
「夢か。夢まで出てくるとは俺は相当意識してるのか。まぁ美少女だったしな」
俺は寝返りをうち、目を閉じ、再び眠ることにした。
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