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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第九章 裏の世界と表の世界
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169話 鍛冶の才能

 俺達は気が勇みいったまま、転移によりドワーフ達の居住区へ戻る。

 シーナはこの場所に来るのは初めてであるらしいが、特に期待のようなものは抱いていないようすであった。


 着いてまず最初に向かったのは鍛冶屋。そこで行ってもらう内容は武具の修理だ。

 アーロンを助けたお礼として、新しい武具を作ってくれるとはいえ、長年使い慣れた武器を使うのが一番だろう。

 それに、二つ目の武器として所持すれば一つ目の武具が使えなくなってしまった場合に対処ができるので、とりあえずは作ってもらうことに決めた。転ばぬ先の杖ってな。


 だが――


「……あんちゃん、お嬢さん、これらは無理だわ」

「だよねー……」

「そうか」


 レムの武具、シーナの武具は快く修繕依頼を受けてくれた。しかし、俺達の修繕はどこを回っても受けてくれる者はいなかった。

 この原因は、武器のランクの高さにある。


 アルトの武器は伝説級レジェンダリーのいう位にあり、大変希少な武具だ。俺の武具だって彼女も模造品とはいえ、同じ階級である。

 レアな武具なので、漫展のように『是非受けさせてくれ!』というドワーフが大量に湧いてきても良かったのだが、寧ろ敬遠されている。


「やっぱり、この武具ってそう簡単には直せないんだよね」

「考えられる原因は一つしかないが――このまま出撃して折れてしまった、なんて考えるとな……」

「ボクのはある程度魔力で修繕が効くけど流石にそろそろ……」


 伝説級レジェンダリーであるからこそ不可能なのだ。素材もなければ、それを受け持ってくれる職人もいない。またそれは心を飲まれる、という恐怖もあるからなのかもしれない。


「うーん、どうしようか。こうなったら俺が鍛冶を――」

「冗談を言うなら他を当たりましょう。時間は限られています」


 シーナは背後から現実を見ろといいたげに冷たい視線で睨みつけられた。冗談じゃないのに……

 でも武具を量産するという事なら、俺が作ってみるのもいいかもしれない。

 投擲用とかな。


「……おじいちゃん達に聞いてみるのはどう……でしょうか?」

「それいいかも! ボクの武具を作ってくれたのはあの人達だしね!」

「長老……? ということは年齢は相当高いはずでは?」

「でも、聞かないよりはいいよ! 行こ!」


 アルト達はこの里の奥の長老宅へ向かって歩いていったが、俺は少し思いとどまる。

 未来の俺が投擲物を使っていたように、俺も使いこなせた方が良いかもしない。そのために、鍛冶の練習がてら短剣を作ってみるのもいいな。

 もちろん時間が無いのは分かっているが、鍛冶という可能性に新たな道が見いだせる気がしてならない。


「あれ? ユウ、どうしたの?」

「アルト、ちょっとやりたい事がある。先に聞いてきて貰えるか?」

「……うん。分かったよ。何かあったら念話でね?」

「では、行ってきますね」

「終ったら念話で伝えてください……です!」


 俺の表情から読み取ったのか、否定する人は誰ひとりとしていなかった。

 これで特に何もなかった、となってしまったら素直に謝るしかない。


 彼女たちが里の奥へ去っていった後、俺は初めて鍛冶に挑戦した工房へと足を踏み入れる。

 その場所では、俺の付き添いをしてくれたドワーフ以外に数人の気配が感知できた。中には他にもお客さんがいるらしい。


 工房の扉を開け、薄暗い階段を降りると、数人のドワーフたちが俺の作った剣を囲んで会話を交わしていた。

 そのうち剣を持ちあげている一人の顔つきは明らかに周りより老けており、磨かれていない剣を持ち上げて眺めるように見ている。


「これが人間が作ったって? それもお前が手順を教えただけ? ははっ、冗談はいけねぇ。年寄りをなめんなよ?」

「いやほんとなんだってば。だから俺は皆を呼んだんだろ?」

「あのな。わしが何年生きてると思ってんだ? 人間で鍛冶が可能な奴は沢山いるが、ここまでのものを作れるやつなんてそうそういねぇぞ? しかもこんな出来が良い物を作って初挑戦? お前な、こんな嘘ついて何になるってんだ?」

「いや、だからな――」


 どうやら俺の剣の出来栄えが信じられないらしい。

 彼らの心理状況を例えるなら、一般人が数学者でも難解な問題を完璧に解いてしまった驚きと疑いで頭いっぱいである、といったものだろう。一番驚いたのは俺だという自覚はあるが。


 実際そんな良いものを作れた実感はない。初めてであったため、様々なことに力不足を感じたのだ。


「話しかけられる状況じゃなさそうだが――あ、ステータスにはなんか変化はあったのか? まだ確かめてなかったな」


 久しぶりにステータスと念じてみる。最近は全く見ていなかったため、能力値の成長の度合いが気になるところだが、とりあえずはスキルページと念じて開いてみる。

 すると、思わず声を洩らしてしまうほどの大量の文章がズラズラと羅列されていた。


 ――――――――――――――――――――――――――

 所持スキル


 七属性の魔法の才能/女神の加護/双子座の加護/へパイストスの巧手/体術/観察眼/足音消去/空中歩行/気配探知/気配遮断/魔力増加/刀術/気功術/魔法纏/障壁/念話/見切り/体魔変換/毒耐性/気絶半減/召喚/

 ――――――――――――――――――――――――――



「……おう。よく分からないのが増えてるな。多分この並び順は取得順だとは思うが、昔見た時には加護系は一切なかったはずなんだがな……」


 何故だか耐性系が増えているのは、その状態を何度も何度も経験したお陰だろう。こういう点は異世界ってやはり素晴らしい。

 しかし、よく考えれば俺はこの世界に来て何回倒れているのだろう。元の世界では昏倒どころか、倒れたことは一度も無い。そういう点で考えるならば、やっぱりこの世界は素晴らしくない。


「さて、女神の加護は分かるが、へパイストス? 聞いたことないな」


 詳細を見るために念じると、ステータスに書かれていた文章を見て驚きを通り越して呆れてしまった。

 思えば、あの女神のおかげで俺は死んで、スタート地点もミスってたんだっけな。まぁ生きてる上、常人よりも強い部類に居るから許せるが。


「全くあの駄女神は。どこに振り分けをミスってんだ?」


 ――――――――――――――――――――――――――

 へパイストスの巧手


 獲得条件

 鍛冶に関するステータスが全て9999を超えた状態で、鍛冶を完遂させる。


 効果

 能力の限界突破(9999以上の数値へ伸ばす事)が可能になり、一度創った道具制作に関わる時間を半分にし、素材の使用量も半分になる。

 また、制作に使う素材以外のアイテムは壊れなくなる。

 ――――――――――――――――――――――――――


「これって、鍛冶にもステータスがあるということなのか? 確かにあの駄女神はステータスをオール9999にした、とはいってたが……」


 説明文から考えると、俺がこのスキルを入手出来ていなかったのは一度も鍛冶を経験していなかったからだと言える。

 そして、俺は転生した当初から能力ステータスではなく『鍛冶に関するステータス』を一律9999に揃えてこの世界にやってきたらしい。

 不正にも程があるだろこれは……


 それにしても、鍛冶に関するステータスってそもそもなんなんだ?


(鍛冶ステータス――って、出てくるのかよ……)


 ひたすら鍛冶ステータスと念じてみると、俺の通常ステータスが視界の端っこに表示されるように、今度は視界の右下にホログラムのような半透明な枠縁が出現。その中に書いてある文字を見て、再びため息をつく。


(思いっきり割り振ってるんだよなぁ……別のところになぁ)


 ――――――――――――――――――――――――――

 体力 9999

 精密性 9999

 高品質制作 9999

 完成速度 9999

 複製能力 9999

 魔法付加技能 9999

 素材節約 9999

 修繕技術 9999

 能力解放 9999

 経験値 9999

 ――――――――――――――――――――――――――


 何故だが見てるだけで申し訳ない気分になってくる。俺みたいな人はチーターに向いていないのかもしれない。

 それに、よく考えればこのスキルは殆どが一度作ったアイテムが対象になっている。俺が作ったのは剣の刃の部分のみ、なおかつインゴット素材なんて所持していないので、いまから作り出すのは不可能に近い。


(能力はあっても素材がないとなると……)

「おお! 噂をすれば兄ちゃんじゃねぇか!」

「やはりあの魔王のそばにいるだけあって、謎が多いな」


 ドワーフ達にはまるで総理大臣を見るかのような遠い目で見られるので、歓迎されているのかされていないのか分からない。

 状況が状況だが、せっかくなので一度ぐらい工房を貸してもらおう。無理だったら諦めるが。


「話し合っているところ悪いんだが、少し工房と短剣の素材一式を貸してくれないか?」

「ん? どうしたんだいあんちゃん。鍛冶に目覚めたか?」

「まぁ、そんな所だ。近々工房が欲しいな」


 素材は自分で集めればいいしな。ふと気がつけば本当にゲームの世界に見えてきた。

 そんな中、ひとり渋い顔をしていた長老の一人は俺を頭の先から爪先まで舐めるように見回した後、口を開いた。


「お前、もう一回やってみろ。素材はこっちが負担してやるよ」

「っし、ありがとな」

「ただしだ、中途半端なものを作ったら二度とこの里で鍛冶をやらせねぇぞ」


 その顔つきは厳しいもので冗談などではなく、本当にそのつもりで行動を見守ることは嫌でも理解出来た。中途半端な作品は許さないという事なのだろう。それにしても過激だとは思うが。


 里で作らせない、といった厳しい理由は俺の作った剣かどうか確かめるためであると予想できるが、この考えが正しいのかどうだかは分からない。ただ、ドワーフ達がどれだけ鍛冶に熱を入れているのかはよくわかる。


「じゃ、やるぞ」

「おう! 釜の準備はバッチリだ」


 その瞬間、まるで俺の中のスイッチが切り替わったように視界が変化し、やるべき事が頭の中へ浮かんでくる。


 既に火の入っている釜を見れば、その釜に入っている鉱石の割合と種類、そして釜が鍛冶に必要な温度にまで達していない事が直感的に分かる。

 そのため、左手で火炎放射のような火属性魔法を使用して更に温度を上げ、その間に鍛冶ハンマーを拾い上げてペン回しのようにクルクルと回す。なんだかすこぶる調子がいい。

 因みにこの回した鍛冶ハンマーはまだ使用しない。完全に無駄な行動である。


「そこから始める……だと? もうインゴットは既に用意してあるのだぞ……?」


 残念ながら俺に解説を求められても困る。俺自身何をやっているかいまいち分かっていないが、正しいことをやっているという事は分かる。ただ、直感に従えば完璧な仕上がりになる、という事だけは何故だが確信が持てた。


「おお、もう融解してるぞ!!」

「こんなもんでいいかなっと」


 土属性魔法を使い、刃の部分の型を作る。この型の形も脳内に浮かんでいたものをそのまま再現したものだ。この形状はトンボの羽を太く、そして短くしたような形に見える。


 この属性魔法も地道にレベルを上げていたため、融解した鉱石の温度でも自壊せず、耐えてくれた。


「えっと次は……」


 凄まじい熱気を持った釜を装置を使って傾けて全て流し込むと、型に入っている溶けた鉱石は異常とも言える速度で冷え始めている。が、まだ遅い。 まずは形を確立させなければ。


「水属性で――っ!」


 空中に水球を創り出し、型を投げ入れるようにして冷やす。ワイルドな方法で、なおかつ急激な冷やしなので壊れないかどうか心配だったが特に問題は無さそうだ。


「そんな急な冷やしだと割れちまう――」

「なんか大丈夫っぽいぞ」


 俺のセリフがなんとも頼りないが、実際に凄まじいスピードで完成に猛接近していた。


 飛び跳ねる水滴を気にせず型を取り出し、その中にある鉄塊を取り出す。


「おお……っ!?」


 ドワーフの誰からなのかは分からないが感嘆の声が聞こえた。

 素人の俺から見ても素晴らしく綺麗に固まっていて、満足感で心が満ちていくのが分かった。

 生まれて初めてのインゴット制作であるが、まるで一万回ぐらい繰り返し作ったようなうな熟練の出来である。


「こっから――」


 釜に突っ込んで加熱を加えて形を整える。ここでついに鍛冶用の槌の出番だ。

 同じ短剣を作るからか、異常に赤熱するのが早い。へパイストスの巧手が効いているのだろうか。


 道具を使って赤熱した短剣の刃の部分を取り出す。ここからは見る者を圧倒させる程の凄まじい槌捌きを見せることになる。自然と笑みが零れると共に、鍛冶の槌を振り上げ――


「――!?」


 ドワーフが驚いた声はカカカカカカッ!! と俺が槌を打つ音でかき消される。まるで工事に使用される道路を修繕する機械のように、凄まじいスピードでハンマーを振り上げ、振り下ろす。

 思い通りに行き過ぎて笑みが深まるのを抑えられなかった。


「なんという――」

「加熱してまた冷やしてっと……」


 ドワーフ達からみたら、異常な光景だろう。

 先程教えて貰ったばっかりだというのに、鉱石の状態からほぼ完璧な短剣の形に仕上げてしまうのだから。

 自分でも驚きである。オール9999は伊達ではない。


 数回の焼き入れを終えて、最後に焼き直しを終えれば、ほぼ完成。

 ギラリと鋼色に光る短剣の刃の部分の完成だ。


「か、完成……なのか?」

「いや、俺なりにアレンジを加えられそうだ」


 ここで、俺の鍛冶のステータスに魔法付加技能というものがあることを思い出した。これは考えるまでもなく名前の通りだろう。


「魔法陣を展開……?」


 もう考えるのではなく、身体が勝手に動いてると言った方が近い。

 そんな俺の行動だが、目の前の光景が正しいことを何よりも証明していた。


「……でも見たことが――いや、どっかで――」

「なんか出たな。この中に向かって魔法を放出しろってことか?」


 短剣の刃の上方に空中に浮かぶ白い魔法陣。ほとんどのドワーフが頭にハテナを浮かべているが、長老の一人は何処かで見たことあるようだ。無論、俺は見たことない。


「風魔法でいいか」


 特に理由もないが、魔法陣に向かって風魔法を放射する。すると、魔法陣に描かれた目盛りのようなものが徐々に上がっていき、満タンになる。


 その瞬間に魔法を中断すると、白い魔法陣は緑色に光り、どんどん小さくなって短剣に張り付いた。短剣の模様となったようだ。


「多分、終わりか?」


 汗が若干でていたため、腕で額を拭うとドワーフが硬直している姿が視界の端に映った。目を見開きつつこちらを見ている彼らはちょっとホラーだ。


「お、おい……攻撃魔法を封入した……よな?」

「攻撃魔法を入れたってなったら、もうそれは魔道具だぞ!? しかも攻撃魔法ってなると……」

「ああ。相当タイミングがシビアになる。それをコイツは一発でやりやがった。間違いねぇ、本物だ」

「ふぅ。我ながらいい出来だ」


 観察眼で見てみると、予想を超えた現象を引き起こす魔道具であることが分かった。


「旋風の短剣ね。名前はまんまだが、半径二十メートル以内に俺が込めた魔力分だけ風属性魔法が発動するってことか。となると、魔法が使えない状況でこれは大いに役に立つってわけか。いいなこれ」


 なんとも便利な魔道具である。着弾地点から旋風を巻き起こし、敵を吹き飛ばしてくれるのだから、魔力の節約にもなるし、殲滅にも役に立つ。

 思いの外、ギルド攻略にも役に立つかもしれない。


「これは貰ってっていいのか?」

「……ああ。ところで、お前。どこでそんな技術を学んだ? こんなものを見せられたんだから、初心者ではない事はスライムだってわかるぞ?」

「さぁな。生まれてこの方、振り分けをミスられたんでな」

「は?」

「とりあえず、私用があるから帰らせてもらうな。鍛冶施設貸してくれてたすかったよ」


 ドワーフ達には何を言っているのかは分からなかったのだろう。

 むしろこれで分かったらどんな奴であるのか警戒をする必要がある。

 さて、用事も住んだことだしアルトに念話を――


(ユウ? ちょっといいかな?)

(ああ、俺もたった今念話しようと思っていたところだ)

(そっか! それでね、ボク、やっぱりこの短期間の間に貴重な素材を集めて修繕……っていうのはやっぱり無理だと思うんだ)

(やっぱりそうだよな)

(でもユウはさ、幾つかボクの剣を持ってなかったっけ? それ使えば良くない?)


 その言葉を聞いて雷が落ちたような衝撃を覚えた。確かにその手段もあるが、模造品であるので本来の力は出せないことは最近分かったことだ。

 だが、剣の部分をインゴット化してそれを修繕に使えば修復程度の事は出来るのでは?


 幸運なことに、俺の修繕力は九が四つ並ぶほどの実力がある。恐らく可能なはずだ。


(アルト、長老達にこの里の鍛冶の施設を数時間だけを使用できるかどうか聞いてくれ)

(別に威圧すればなんとかなると思うけど……どうするの?)


 その言葉をきいて俺は何度目だか分からない不敵な笑みを浮かべて念話を返した。


(俺が修繕してやるよ)


ご高覧感謝です♪

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