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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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幾度となく見たもの

「ユウ?! ねぇってば!?」

「あると! 回復魔法をお願いします! ワタシは先生を呼んでくるです!」

「お願いレム! ――ユウっ、ボクが今すぐに治してあげるからね!」


 夕の呻きながらの声が聞こえなくなると、すぐさまレムは動き出して変幻を使うこともなく対処を言い伝えて部屋を出ていった。

 アルトは白い病衣を腕をまくり、苦手であるものの、聖属性の回復魔法を全力で使い始める。

 使い慣れていないためか、無駄な魔力の使用により風が巻き起こりその結果医療器具を吹き飛ばし炸裂音が響く。が、そんなことは彼女はお構い無しだ。


「なにこれ……っ!?」


 魔法をかけてすぐにあることに気がつき、驚愕の声を上げる。

 その驚きの原因となっていることは、魔族との戦いで幾どとなく目にした黒い霧。そしてその霧が彼を包み込んで、回復のための魔法を阻害していることだ。

 周りの破壊には目もくれていない。


 だかしかし、感じる魔力、そして発動したのが夕であるため次々に彼女の頭の中に疑問が湧き続ける。


「自分の魔法が勝手に発動する? そんなの聞いたことないし、使用者が意図しない魔法阻害なんてことも聞いたことない……考えられるのは精神封印スプリットシールの魔道具の効果……?」


 阻害されていても、少しでも回復の効果を求めてさらに魔力を強める。しかし、回復の効果が目に見えないのは彼女の感覚でよく分かっていた。


「ユウが戻ってきてくれれば少しは――」

「あると! 連れてきました!」

「獣人がどこから入ったのか分からないけどなんでこんなめちゃくちゃになって――っ! 一度下がりなさい!」


 竜人の看護婦が慌てて近寄るとアルトは大人しく魔法をかけるのを中断し、レムに専門家を連れてきてくれた感謝を述べる。

 黒い霧に包まれた夕をみて竜人はゴム手袋のようなものを装着すると、躊躇せずに夕に触れた。


「くっ……!?」


 魔法の効果であろうか、霧の中に入った手袋はすぐにズタズタになってしまう。

 苦痛の表情を浮かべつつも、夕の裏返っていた両手のひらを裏返し、すぐさま手を引き抜く。引き抜いた竜人の手は多少血がにじんでいた。


「あの……これ……っ!」

「絶対に彼に触れてはいけません。私みたいになりますよ。だけど、思った通り魔法の影響を食らっていますね」

「……このボクが、見たことない魔法陣だって? へぇ。誰かの挑戦かな?」


 夕の両手の平に赤く発光しているのは、 五芒星のような魔法陣。それは妖しい光を発しながら彼の魔力を使用し続けていた。


「これはトノ様に聞いてきます。何かわかるかも知れません。貴方たちは決してそれに触れないように。それと、その霧には汚染属性が付加されています。幸いこれ以上は広がらないようですが」


 痛々しげな表情を浮かべつつも、ビンに入った綺麗な水を両手に掛けながら二人に語りかけ、そのまま出ていった。

 ゴム手袋は彼女のブレスで燃やされた。


 患者も危険ということで、誰もいなくなった部屋で二人は話し始める。


「あると、まず汚染属性ってなんですか? すごく……危なそうです」

「汚染属性っていうのはね、対象の魔力を徐々に減らしてく、いわば魔力に効果を発揮する毒みたいなものなんだ。でもそんな禁術でもあるこの系統の魔法、そんなものはユウが持ってないと思うんだけど……」

「この魔法陣が関係してる……ですか?」

「多分……というか、絶対そうだろうね」


 まるで心臓が跳ねる動きと同調するように妖しく点滅を繰り返す赤い魔法陣に嫌な感覚を覚える二人であったが、一体いつそのような魔法が付加エンチャントされたのか、また何故二人にはかけられなかったのかが疑問であった。


(それにこの赤い魔法陣も夕に少しだけ魔力が似てる気がする)


 アルトは頭の中にあるありとあらゆる知識を引き出しつつ目の前の魔法陣と比較するが、やはり解読はできない。


(でも、こんな魔法はおそらく精神にも影響があるはず。そうなれば、ユウは精神の世界で知らない魔法自体と戦ってるってことになるのかな)


 冷や汗を浮かべながらアルトは深く考える。

 彼女だから分かるが、彼は比較的精神的に責める魔法に弱い。メンタル面も一般的な人間とほとんど同じである。

 そんな彼が自分の考えか及ばない魔法に捉えられて戻ってこなかったら――なんて考えにたどり着いて焦って首を振る。


「レム! 聖霊達を探そう!」

「……聖霊さん?」

「多分だけど情報のやりとりぐらいは可能なはずだよ。精神的なつながりが強いって聞いたことあるし!」

「なるほどです!」

「多分こっち! ユウ!負けちゃダメだからね?!」

「はい! 分かりました!」


 二人は包まれている夕に挨拶をした後、部屋から出ていく。鍵となるのは長い時を生きてきた竜人の長の知恵。

 そして精神的なつながりをもった聖霊である。



 ~~~~~~




 気がつけば俺は固くて冷たい床の上に転がされていた。畳なんてレベルではない。石のような硬さである。


 そして身体の痛みは貫くような痛みからうってかわり、体全体に痺れのような痛みが走っていた。


「ああくそっ、最近闇魔法がおかしくて使えないと思ったら……」


 これまで感じた闇魔法によるデメリットは激しい頭痛。悪寒。身体のだるさ等の風邪をひいてしまったかのような身体への悪影響があったが、今回ばかりは魔法からアプローチをかけてきた。

 全くもって予想がつかない形で。


「なんだ? こちらの世界へいらっしゃーいって。テレビ番組かっつうの」


 明らかにテンションがおかしい。

 というか上げてなければこの空間ごと恐怖に押しつぶされそうなのだ。

 まわりを見渡せば、既視感のある光景が目に見える。


 青い炎が空中でゆらゆらと揺れて、煤けた床をぼんやりと照らしている。

 さらに奥には重々しくて城の大門のような大きな扉や、周りに溶け込むように鎮座する重厚感のある黒い鎧。何よりも目を引いたのが奥に見える貫禄のある玉座。

 そう。その光景は闘技大会の時にアルトが無理やり引き込んだ「僕の世界」と瓜二つであった。


「だけれども、なんで怖いかって事だよな」


 言い放つ声が震えている理由は恐怖のため。

 だがその原因は見回してもどこにも見当たらないし、この空間の装飾にもなんら恐怖の印象を受けることは無い。

 では、何故か。


「よう。何にびびってるんだ?」

「……!誰なんだよお前は……」


 突然正面から聞こえた声に全身の毛が逆立つような嫌悪感を覚える。

 俺の声とまるで同じであり、イントネーションすら似ている気がする。そして謎ではあるが、明らかな殺意の波動が伝わってくるのだ。

 こつり、こつり、と足音が大きくなってくるうちにやはり恐怖心が増幅するような気持ちになる。

 間違いない。こいつに俺は恐怖しているのだ。


 そして遂に足音が止まる。


「よーう」

「――はは」


 俺の喉から乾いた笑いが漏れる。

 それもそのはず。俺の目の前に現れた人の形をした影が色付されていくと、毎日のように鏡で見ている顔が浮かび上がってきたからだ。服装も魔法学園の制服である。

 ただ全く同じではなく、違う点はいくつも挙げることができる。まずは背丈、一回りほど大きく、相手の両目がどちらも赤く光っていて片方の目には五芒星の紋章が浮かび上がっているのだ。

 どれもこれもかけ合わさって、中二臭いことこの上ない。


「まぁ、その嘲るような笑い方からしてこの目をバカにしてるんだろ?」

「分かってるじゃないか。だがな俺と同じような顔をしてる、なおかつ声も大体同じっていうのはどういうことだ? 見ているこっちも恥ずかしいんだが」

「――くははははっ!」


 ドッペルゲンガーは出会ってしまうと死ぬということをよく聞くが、そんなことは無かったようだ。

 警戒を最大限にまで高めつつも、相手の様子を探る。するとそのようすが面白かったのであろうか、急に笑い出した。

 俺ではない俺の声が暗幕が貼られた暗い空間に響き渡る。

 少々半目になりながらも質問をふたたび投げかけようとしたら、相手から声が返ってきた。


「あーあ。やっぱり俺は俺だな」

「だからお前は一体何なんだよ」

「説明してやるから落ち着けって」


 自分の態度に苛ついている俺もどうかと思うが、俺の形をしたナニカはケタケタと癪に障る笑い方をする。俺の笑い方ってこんな感じなのだろうか。


「はぁ。分かっているとは思うが、俺はお前だ。何なら受け答えをしてやろうか? 俺がどのようにして()()()に来させられたのか、とかな?」

「……なんとも説得力があるな」

「当然だろう? 同じ人物なんだからな」


 この質問で相手が自分であるという確証がついた。では、なぜこんなことになったのか。


「お前が俺をこっちに引き込んだんな?」

「ああそうだ。見覚えがあるだろう? 闘技大会においてアルトが引き込んだ空間だ」

「それは見れば分かる。さっさと質問に――っ」


 喋りかけている途中に殺意の奔流が顔面に貫くような気持ち悪さ、俺だから分かる「相手を殺す」という意志と同時にそれは来た。

 ほぼ直感で頭を動かしたのに、頬を浅く切り裂く黒い刃が壁に突き刺さる。その投げられたものはクナイのような投擲物。忍者が使っていそうなそれであった。

 もし先ほど首を動かさなかったら、額の真ん中に突き刺さって赤い花が咲いていただろう。

 切り裂かれた痛みがあることからこれは夢ではない。そしてこの世界も現実と同じく死がある。


「なんで避ける? 波風 夕」

「――っ、お前が俺を殺すのには理由があるのか?」

「あるに決まってんだろ。何当然な事を言ってるんだ?」

「せめて説明してからにして欲しいのだが」

「悪いな。そんなだるい事はしたくない」


 相手の体がゆらりと動いたのを認識した途端、俺の方もほぼ無意識のうちに刀を召喚し虚空に向けて全力で振るう。


「脆いな」

「嘘だろっ――!」


 鍔迫り合いはほんの一瞬。

 ピキリと亀裂が走り、俺の異世界での生活を支えてくれた刀の一本が完全に砕ける。

 相手の刀は刃こぼれすらしてない上、どこか鋭さが増したように見える。


「こっの……!」


 心にポッカリと穴が空いてしまったような虚無感が重く残るが、今は目の前の刃の対処が先。

 放たれた勢いのままに横なぎに払われる刃を最低限だけ後ろに下がってすぐに接近。そして隙を攻めるが如く中段を狙った回し蹴りを放つ。




 しかし手応えは全くない。

 今の状況はただ、俺の蹴りが虚空を貫くのみであった。相手の影はないうえ、気配すら感じ取れない。


『過去の俺が今の俺に攻撃を当てられるはずがないだろう?』

「過去の俺――ってことはお前は未来の俺ってことか。なるほどな」

『さっきのを避けたんだ。気が変わった。すぐには殺せなさそうだから攻撃を一つ交わす事にこの俺に関するヒントを一つづつ与えてやろう』

「随分上から目線だな? まぁ、こういう手の空間は魔法の使用者をボコれば消える。だよな?」

『……俺って勝てない相手に対してこんなうざったいことを言ってたのか。周り奴らに忸怩たる思いでいっぱいだ。やっぱり終わらせるか』


 相手はわざと難しい言葉を使っているのだろうか? それとも先程見たあの姿がいずれなりうる俺であるのか。


「どっちにせよ。一筋縄ではいかなそうだ」


 幸いながら、腹部の強い痛みはない。

 本調子とはいえないが戦える状況だ。

 なんだか分からないが、恐らく俺本人ってことはないはずだし、一つずつ、確実に攻めていけば勝利を見いだせるはず。


「もう、油断なんてするかよ」


 頭を掠めるのは魔族との戦い。途中がどうであれ、待ったためにあの結果であったのだ。

 折れた刀の柄を魔法陣に投げ入れると新しいものを取り出し、魔力を全開に、そして限界まで高める。

 だが魔法纏はすぐには使わない方がよさそうだ。もし俺を模倣した者であるなら、デメリットは知っているはず。


「かかってこいよ。勇者にも勝てない今のお前じゃ、俺には勝てない」

「そうだろうな。だが俺だかこそ、俺になら攻めどころがあるんだよなッ!」


 目の前にいつの間にか立っていた中二臭い俺を見据えて、俺は自分を殺すために駆け出した。


改変内容のお知らせ


・68話、大切なモノあたりで魔化とありましたが、悪魔纏に変更させていだたきました。

・73話まで三点リーダー修整、誤字修正を行いました


高覧感謝です♪

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