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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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見計らい

 アルトが吐血しつつも倒れているのを確認すると、ほとんど無意識のうちに風魔法を発動していることに気がついた。

 それも魔力管理なんて考えていないない、全力の力を込めた突風を放つ魔法。

 大地をめくりあげながら、破壊しながら突き進む突風は彼女を覆っている霧をすべて吹き飛ばしてしまうと誰しもが思った。

 だが――


「なっ!?」

「嘘……ッ!?」

「無駄無駄。固定化してるからね」


 俺とレムが驚いた反応を楽しむように、魔族は余裕な表情で突風をふわりと跳んでかわす。


(固定化……?)


 あの魔法が固定されて吹き飛ばないことであると勝手に補完しつつ、風魔法を放ち続ける。

 もしかしたら毒の吸引を少しは抑えられるかもしれないからであるが徐々に焦りのようなものを心の隅で感じられるようになってきた。

 流石の俺でも大切な人が死にかけているのを見て落ち着いてはいられないようだ。こういう時こそ落ち着かなければ。


「魔力の固定化だって?!」

「ミカヅキ! 固定化ってなんだ?!」

「あるとに聞いたことあります……! 魔力を()()()()()()()で覆う超高等技術……らしいです」

「魔力でないもの? 何で覆ってるっていうんだ――って!?避けろ!!」


 その声を張り上げると同時にレム達も迫り来る攻撃魔法に対処するべく、散り散りに回避行動をとる。


 その攻撃魔法とは、相手の霧の魔法から出来ているであろう、細長い槍のような尖頭物が襲いかかってくるものだ。


 風切り音、そして俺の全力で放つ突風の中を突っ切ってくることから、これも固定化されたものである事が予想できる。

 さらには槍から気体が放出しているのを利用して、槍の形状をこちらに接近する事に小さくしていく代わりに、気体にのせて有毒物を振りまいているというおまけ付きだ。

 例を挙げるなら、有毒物質で出来た氷が溶けながら、そしてその有毒物質を振りまきながらこちらに接近して来ているというものである。毒ばっかりじゃないか。


 全員が離れると霧槍が着弾した場所からサクッと地面に刺さった音、ボフッとホコリっぽいような音が聞こえた後、当たりに毒霧が充満する。

 それを横目に、ある事を思いつき、距離を取りながら叫ぶ。


「レム、テュエルは頼んだ! アルトは俺が救う!!」

「助けたとしてもどーするんだよ!? あんなの吸ったら幾ら規格外なユウ兄でも、あの女の人だって!!」

「ゆう! まずは作戦を立ててから――」


 レムの言葉を最後まで聞くことはなく、身体に纏うイメージでいつものように魔力を身体全体に循環させ、そのスキルを発動する。


「《魔法纏、毒》」


 複合魔法にしない理由は消費魔力、体力を抑えるためである。

 そして毒だけで発動するのならばこの魔法纏は魔力ではなく、体力を徐々に減らしていく特殊なタイプだ。

 そしてこの属性を纏った理由は毒による効果を抑えるため。魔法纏はその属性の耐性を上げるため、少しは毒の効果は抑えられるはず。

 もう彼女を救う為に突撃あるのみだ。


(やっぱり完全に同調できないか……)


 じくじくとした痛みが体全体に発生する。これは魔法と同調できていない証拠であり、魔法纏の雷を使用した時にしびれる原因もこれである。

 錬度が低いのか主な原因だ。


「アルト!!」

「はぁ、これだから人間は。すぐ熱くなる。 やれ」

「ウ……あ……」


 高速で接近する最中テュエルがギギギと錆びたロボットの首を動かすようにかくかくと、そしてギロりとこちらを睨みつける。

 猛禽類のような殺意を含む視線がこちらに突き刺さるが、関係ない。とにかく一刻も早くアルトを解毒しなければ。


「ああもう! これでいいんだろ!?」


 真横を鎖鎌が通っていき、未だ動かないテュエルの腕をぐるぐる巻にする。あちらは攻撃されながらもアシストをしてくれるようだ。ありがたい。


「ゆう! 早く行くです!」


 未だに魔族から飛来する槍を躱し、こちらを攻撃してくる竜人を幾つもの尻尾を使って吹っ飛ばしながらレムも叫ぶ。

 これだけ手伝ってくれているのだ。成功させなければ。


「ユ……み……ぜ……」

「っ、魔法纏のタイミングを遅らせればよかったな……っ」


 真横を通り過ぎる際にボソりと悪態を吐く。

 いまは魔法纏を使っているため、毒属性以外の魔法は使用不可能。そして所持している毒属性魔法は消費魔力8000のみ。

 現在の魔力残量は5000程度であるため、残念ながら現在使用できる魔法はない。そしてこのスキルはただ単に毒の防壁にしかならない不便なものだが、毒抵抗に対しては大きな効果があると思う。確証はないが、今はそれでいい。


(あと十メートル――!)

「もちろんやらせないけどな」


 警戒はしていたのだが気配探知に映るマーカーが消失した後、突然目の前に悪魔化した魔族が真顔でアルトを覆う牢獄の前に立ちふさがる。

 出現方法がかなりホラーだが、やる事は決まっている。


「どけぇぇッ!!」


 腕を突き出し、走る速度を最大限利用した拳を放つ。

 魔族はあいもかわらず動じず、なおかつ俺と戦う姿勢すら見せない。

 あっという間に手の届く範囲に入ったと思い拳を振るったが――


「?!」

「やっぱり、勇者みたいな実力はないのか」


 相手は映像であるかのように、殴った抵抗がまったくもって感じられずただ空を切ってしまった。腕は魔族の身体を貫いているはずであるのにだ。

 そしてさらに悪い事に


「ぐぅっ……!!」


 凄まじい衝撃が両腕、そして右のこめかみからから体全体へと伝わり、意識が吹っ飛びそうになる。

 両手を盾のようにして回し蹴りから頭を守ったのだが、吹っ飛びかけて足を止めて必死で衝撃波に耐える。走っていたのだが蹴られてなお走り続けることはできず、止めたうえにうめき声を上げてしまった。


「く……そ。そっちは干渉できんのかよ」

「君は無理だがな!」


 攻撃は止まらない。相手は軽くジャンプすると、先程俺を蹴り抜いた足とは逆の方でスピンを効かせながら踵をむけて同じくこめかみを狙ってきた。


 これ以上食らってしまったなら、本当に腕が折れてしまいそうだ。


 ギリギリのところで回避を決定し、後ろに下がると目の前を破壊力抜群の足が通り、豪風が吹き荒れる。


「どんだけ威力高いんだよ――っ!」

「バ~ン」


 後ろに下がった俺の言葉を聞くことなく、魔族はさらに追撃。蹴った足を戻して両手を指鉄砲のように構えると、そこからマシンガンのように勢いよく銃弾が無数に放たれる。弾丸は当然ながら有毒である。


「近づけねぇ……」

「ほらほらほら、早くしないとあの魔王が死んじゃうよ?」

「ユウ兄後ろ!!」

「ウぁガぁッ!!」

「こっちもかよ!?」

「はぁッ!!」


 同じ人間とは思えないほどの速度で放たれた脚が俺が移動する位置まで予想されて放たれる。

 体制を崩しつつもギリギリで回避した後、俺のアシストしてくれるレムがこちらへ来てくれて、その数瞬後には彼女の拳とテュエルの拳とぶつかり合い、重い轟音が鳴り響く。

 隙をみて体制を立て直そうと思ったのだが、それを許さない者から再び弾丸の雨が。


「魔法纏を解いた方がいいのかこれは――」

「ほらほらほら早くしろよ! 魔王が死ぬぞ」

「ならその魔法をやめろっつうの!」


 壁に一度着地し、三角飛びの要領で足に力を込めてもう一度突撃。魔法纏は未だに解いていないものの、今回は若干動きを変えている。


「このっ……」


 ダッシュしながら、魔力放出をして魔法を放つかのように見せかけている。ただのフェイントだが少しぐらい効果は――


「君、毒霧の効果が出ないかと思ったら、毒耐性が有るんだね。でもそろそろ飽きてきたし、終わりにしようか」

「なッ?!」


 声が聞こえてきたのは、後ろ。

 ダッシュでこちらが迫っていたのにも関わらず、いつの間にか背後に回られている。先程まで映っていたのに、彼の姿は気配探知に映っていない。


「ユウ兄!?」

「ゆう!?」

「なんで――」

「さよならだ」


 黒く、暗い色をした魔力のようなものが拳に集まっていくことを感じ取れたが、防御魔法すら使うことが出来ない。

 全力で走っているところで、急に背後を取られてしまったため、為す術はなかった。


(対処法は――!?)


 何度も考えるが何も思いつかない。ただ、生き延びることを祈ることしか出来なかった。




「あ――」


 


 周りの音がすべて掻き消え、何も聞こえなくなる。

 記憶が曖昧である中、最後に見たのは真っ黒に染まった魔族の腕が払われて、めちゃくちゃな衝撃波が俺を襲って



 それから俺は――


「が……は……ッ……ぅ……あ」


 倒れていた。何も思い出せない事から、ある程度記憶が飛んでいるということだろう。身体を支配するのは女神の試練で感じたときとは違う痛み。それも壮絶で、気が狂ってしまいそうな、神経全部が直接擦られているような痛みがゆっくりと発現してくる。


「ぐぁぁ……」


 痛みで無理やり意識が覚醒させられ、夢ではないことをしっかりと分からせる。

 痛みで思いっきり叫びたいが、声が思うようにでない。

 痛みが俺の命の危機を全力で伝えてくる。

 痛い。痛い。痛い。


 ふと気がつけば、自分の右脇腹にも大きな霧の槍が一本突き刺さっていた。それは、俺を壁に無理やり縫い付けているかに思えた。


「ぁぐ……っあ……ぅ」

「へぇ。まだ生きてる」


 それは酷い状況だった。たったワンパンチで、内蔵は大ダメージ。防御した腕の形は見る影もない。挙句に腹部には毒々しい槍がつきささっている。

 必死で力をふりしぼり、首を動かして魔族の声が聞こえた方向まで上げる。


「人間で耐えられるとはね。周りなんてみんな衝撃波で気絶してるっていうのに」


 返事するほどの余裕はないが、言われた通りにゆっくりと首を動かして見渡してみる。


 周りにあった家々は木材一つすらない。そもそも家がたっていたのかどうかも怪しく感じるほど何も無い。倒れ伏している、レム、ミカヅキ、テュエル、そして飛んでいた竜人たち以外には。

 さらに範囲が尋常ではない。 まるで爆発でも起きたようだ。


「たった一振りでこれだからな。人間でよく耐えたと思うよ」

「ある……と……」


 痛みが感覚に追いついてこない。

 なぜアルトはいない? なぜ彼女がここにいない?


「ユウ ナミカゼ。とても滑稽だったよ。お前の実力でボクに勝てると踏んでいる姿。その結果がこれだ」


 スキルがほぼ全部使用不可能。

 魔法も使用不可能。

 そして、いくら探しても最愛である彼女が見当たらない。


「君についてはよく調べたつもりだったんだがな。仲間を守る? 笑わせるな。この程度の実力で、何が出来る?」

「ぁ……ぁ……」


 いない。どこにもいない。

 動こうとしても、槍が邪魔で激痛が走る。


「君の傲慢さが、この結果を招いたんだ。 分かるか?ユウ ナミカゼ。最初、すぐ倒せると思っただろう? だが結果はこれだ」


 俺の髪を無理やり引っ張りながら顔をあげさせられる。

 もう俺はなすがままの状態だ。

 だが未だに、思考力が戻らない。


「全部、お前が、悪い」

「アルト……レム……」

「はぁ? そんなに恋しいか?」


 すると掴んだ髪の毛を離したかと思えば、死んでしまったかのように白いアルトが虚空からどさっと落ちてきた。それを見て手を伸ばすがやはり届かない。


「こいつはな、一応まだ生きてる。だが見せしめだ。お前の目の前で殺してあげるよ」


 そういって魔力を溜めてふたたび手をアルトに向けて開く。

 やめろ。それだけは。どんなことがあっても、それだけは絶対に――


「や……め……ろ……ぉッ!」

「君は悪魔のいい素材になりそうだ」


 必至でもがくが俺の体は縫い付けられたままであり、まったく行動できない。どれだけじたばたしても血が吹き出すだけ。


「壊れな。ユウ ナミカゼ。これで壊れなかったら次はあの女狐だ」

「やめろおああああああッ!!」


「――あはは。笑えない状況だね」


 突然聞こえた声はひたすら澄んでいて、叫んでいる中でも聞こえた。そして遠くから感じ取れるほどのオーラ。

 それに気圧されたのか、突然表情を変えて魔法を中断する魔族がいた。

 必死すぎて何がなんだかわからなかったが魔族から目を逸らしてみれば、驚愕の人物がいた。


「君はさ。何やってんの?」

「お兄ちゃん!!コイツ!」

「あーっ!闘技大会の!!」

「ざまあないですね。兄さん。こいつらどうします?」

「さーて。どうしよっかな?」

高覧感謝です♪

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