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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
150/300

vs魔族

 魔族の両手からモクモクと広がる黒い霧はあっという間に広がり、彼自身の姿を隠す。霧の濃度は比較薄く、彼の他を除いて周りを覆うほどの濃密さはなかった。

 ただ、相手の魔力が高まっていることは肌で感じれる。


「ユウ兄っ?! なんでここに?!」

「ゆうのしりあい……ですか?」


 黒い霧が足元に溜まってきてもアルトは動じないし、観察眼でも無害ということは分かっている。

 もっともスキルでは無害ということしか分からないが。


「ああ。レムもアルトも多分どっちも知らないと思うが、魔界で出会ってな」

「魔界にまた行ったの? ボクも誘ってくれれば良かったのに」

「……アルトに助けられてばかりじゃ、いざという時に守れないからな」


 お前に飛ばされた、なんて言わない。過去は過去の出来事で流すのがいいのだ。言ってしまったなら思いっきり地雷を踏み抜き、気まずくなるのが予想できる。


「人間共、死ぬ準備は終わったか?」

「そっちこそ準備は終わったか? あんまり派手にやるとさらに周りに被害が出るもんでな」

「言ってくれるな。!!」


 纏っていた霧が振り払われると、邪悪な気配が辺り一体に充満する。胸がむかむかしてどこか気持ちが悪い気配だ。それに相手から感じ取れる魔力もずいぶん上がった。


「やっと戦う気になったか」

「死体でもいいから連れてこいとの命令だ。ボクの手をわずらわせずとも終わりにしてやる。出てこい悪霊共」

『キャォァアァァッッ!!』


 何かを呼び出すような、儀式のような格好悪い動きを行うと黒い霧は集まって大きな渦となり、その渦の中心からけたたましく、そして嫌悪感を煽るような気色の悪い声が耳まで届く。


「くく、これから起こる出来事を想像できるか?」

「――らぁっ!!」


 笑いながら問いかける魔族の返事はせず、アルトは何の拍子もなく剣圧を飛ばす武芸である月閃を黒い渦に向かって放った。

 無拍子で放たれた衝撃波は地面を砕きながら突き進むものの、渦に触れる前に武芸は霧散してしまった。


「危ないな。せっかく呼び出したんだ。壊さないでくれるか?」


 霧散してしまった原因は、足元に溜まっている黒い霧が意識を持ったように動いて月閃を衝撃波ごとのみ込んでしまったためだ。

 あの衝撃波がどこに行ったのかは分からないが、渦には届かなかった事だけは感じ取れた。


「この黒い霧の流動性能、防御性能は舐めない方がよさそうだ」

「生徒の皆さん!! 逃げてください!!」


 アルトは何か考えた表情を浮かべ後、二発目の月閃も放ったが、結果は同じく霧に飲み込まれて消えてしまった。

 レムはこの隙に生徒を逃がす手段を取ったようで、生徒達は怯えながらもこの場所から逃げ出していった。これで流れ弾による被害は防げるはずだ。


「あの渦巻きって壊した方がいいと思うな」

「なんだか分からんが確かにやばそうだな 《水刃ウォーターカッター》」

「――変幻解除っ、《光閃尾ライトテールレイ》ッ!」


 俺は水の刃を放つ魔法を放ち、アルトは刀に先程より魔力と力を込めて大きく振り抜いて月閃を放つ。


 レムは変幻を解いて九尾をすべて開放。さらに光を帯びた尾先を向け、そこからレーザーのような光線を放った。

 彼女のその魔法ちょっと見惚れそうなぐらいかっこよかった。


「無駄無駄」


 そんな事を知らずに魔族は腰を手に当てつつ余裕な表情を浮かべて指を振る。すると再び黒い霧が相変わらず生き物のようにうねり、俺の魔法、レムの魔法飲み込こんでいく。


「やっぱり、魔法はだめか」

「ワタシのも通じない……です」

「ふん、そうだろ――っ!?」


 ここでやっと魔族から表情が強ばるところを確認した。

 その後彼がとった行動は、謎の渦巻きを引き連れ、羽を使って上空に舞い上がる。どうやらあの渦巻きと一緒に行動することは可能であるらしい。


「っと、危ない。まさか早速破られるなんてな。流石はソプラノ様の妹君だ」

「このボクそんな拙い魔法で何回も同じ手を食らうと思う?」

「あると、どうやったですか?」

「霧なんて吹き飛ばせばいいんだよ。こうやって……ね!!」


 アルトは飛んでいる魔族に向けてさらに一閃。その一閃はよく見てみると風魔法を帯びていた。

 どうやら風魔法には対抗できないらしく、霧が全く機能しないままあっという間に渦の元へ接近。今度こそ当たるかのように思えたが、これを直に受けるほど魔族は甘くなかった。


「流石は 全魔法を知る者 だ。いとも簡単に見破られてしまったな。知のアルトと呼ばれるだけのことはある」

「……っ、やっぱり仕留められなかった」


 アルトが不満な表情を浮かべつつ今起こった結果をじっと見つめる。

 一応彼は真っ二つにはなったのだ。なっていたのだが、流血はしない上に彼の二つに分かれた体はノイズを発生させつつ二つの分体は虚空に消えていった。彼女が不満な表情だったのは手応えがなかったためであろう。


「だが、完全に消えたわけではないようだな」


 手広げて前に出すと、風の弾丸を幾つも作り出して斜め前方に向けて遠慮なく放つ。傍から見れば何も無い空間に魔法を放っているとしか見えないだろう。

 だが、俺には観察眼サーチアイというこちらもチート級スキルがある。透明化等のでも何でも低レベルなスキルなら全てお見通しだ。


「はぁっ!!」


 こちらが勢いよく放ったのは風の弾丸なのだが、指示した場所で炸裂するようにしていた魔法である。

 こちらの魔法を発動した瞬間に相手にダメージを与えることを期待していたが、相手の行動は予測の範囲を超えていた。


 「回避されて増えて――可視化したか」

 「っ! おい後ろだ!!」


 相手の姿が自らの目で確認できたため、追撃をかけようとしたのだだが中断。赤スカーフの少年は未だに現状について来れないらしく、目の前の現実に再び頭の周りが止まる。

 その隙を、いくつにも増えた同じ姿をした魔族に狙われた。


「天雷ッ!」


 ぼーっとしている赤スカーフ少年が危ないため、最速の魔法である天雷を発動。


 荒ぶる白い雷が周りにゴロゴロと鳴り響かせながら、少年に飛びかかろうとした幾つもの魔族に直撃。


 しかし、うめき声などは一切聞こえない。


「ちっ、これは分身――」

「隙ありだナミカゼ ユウ!!」


 分身らしき魔族が消滅したのを確認して、目の前を振り向けばそこには黒革のグローブをはめた拳が目の前に。


「残念だが、この程度では不意打ちにならないな」


 慌てずに対処し、見切る。訓練の際にソラとファラからひたすら打たれる銃弾よりは確実に遅い。


 相手の拳は空を切って無防備。こちらに絶大なチャンス。一撃を顔を少しだけ右に傾け、左手で伸ばしっぱなしの腕をつかむ。


「な」

「捕まえた」


 ここで魔法纏の炎を纏い、なおかつ全身から魔力を開放。

 魔力は炎へと変換され、掴んだ腕からいとも簡単に延炎する。


「ぐっ炎……だとっ!?」


 燃え移ってしまったため、苦しみの声を上げながら掴まれた腕を振り払い、大きく俺から距離をとる。


「ボクの事、忘れてないよねッ!!」


 その先にはアルトが待機していた。右手に闇属性と炎属性を混ぜた混合魔力が怪しい光を放ってる。


「くっ!!霧よ!!」

「らぁぁぁぁっ!!」


 霧はいとも簡単に霧散し、化け物レベルの大きさを誇る亀の甲羅を破壊するほどの鉄拳が魔族に放たれた。


 直撃と同時に、爆発しているかのような重い音と衝撃波がここにいる全員敵味方問わず駆け抜ける。

 これほどまでにないほどのクリーンヒットだったのではな今だろうか。


 ことごとく住居を破壊しながらも吹き飛んだ魔族は確認するまでもなく重症だ。

 まだ生きているらしいが、そろそろソプラノに関する尋問というステップに移行しても――


「ゆう危ない!《妖体術、閃ッ》!!」

「レム後ろだ!」


 すれ違いざまにお互いの背後にいた魔族を仕留める。レムは閃光のように素早く拳打を叩き込み、俺は魔族を刀で一閃。


 魔法が使えてるって事はまたまだ戦えるということか?


 そんな時にはっと気がつけば、気配探知に映る敵が二人、四人、八人……と倍々に増えていく。


 囲まれてしまったため、四人で背中合わせになると、少々会話が生まれた。


「アルトの一撃で終わると思ったんだけどな……」

「ボクの決まったかなって思ってたよ。だけど足りなかった。ごめんね」

「気にすんな。次は数発入れてやればいい」

「えっと。レムさん、アルトさんだよな? ユウの弟分だ。よろしく頼む」

「えっと、ゆう、この人弟なんですか?」

「こいつの勝手な妄想だ」

「「「クハハハハッ!!どうだこの分身の数は!!」」」


 ほんの少し放っておいたら、魔族の数が大変なことになっていた。それも同じ顔の魔族が。

 どこの植物だとツッコミを入れたかったが、殺意が充満するこの空間では言うべきではないと考えた。


「「「さぁ! 本物を探してみろ!

 」」」

「 よし見つけた。あの渦巻きを狙い撃ちしてくれ!邪魔なやつは吹き飛ばす。《風巻き》っ!」

「「 「了解!!」」」


 観察眼がある俺にとってはなんの苦労もなく発見できた。どうやらあの黒い渦は分身を呼び出すための扉のような役割を果たしているのかもしれない。

 そしてその黒い渦は少しずつ動いている。


「お前が多属性魔道士べアリアスマジシャンなのは知っている!!対応策ぐらいなら――」

「遅いよ」


 先に俺達から離れたのアルトである。

 彼女は一瞬の間を縫って、大多数の魔族の団体の背後にいた。刀についた血を払うように振るい、鞘にしまい込む。


「暗閃」


 おおよそ二十人はいたかという魔族の影分身達が黒い一太刀を受けて一瞬にして全員消滅。


「!」


 相手の姿は、再びノイズを発生させてぶれてチカチカした後に消える。どうやらアルトが切ったのは全て霧であったようだ。


「こっちも負けてられない、です」


 次にレムが離れ、これまた十数人はいそうな団体に飛び込んでいく。アルトと同じように突撃しているが、安全性を考えればは芳しくない状況であるため支援を――


「「この……獣がっ!!」」

「《妖体術、連破》ッ」


 レムの目が一瞬光ると、そこからはどこかスローモーションを見ているような気分になった。

 突き、蹴り、たまに尻尾を使った攻撃を流れるような動きでつなげたレムは、一切のムダがなく、全てが力が最高の効率の良さで使われていた。

 瞬くまに僅か二秒足らずで数十人を倒してしまった。魔族って戦闘民族じゃなかったっけか。


「え、あ……え?」


 赤スカーフの少年は口をぽかんと開けて凄まじく驚いている。見ていて面白いが、そろそろこいつの名前を聞いてもいい頃であると気がついた。


「お前の名前なんていうんだ?」

「あ、ああ、ミカヅキだ」

「お、ずいぶんいい名前だな三日月」

「ああ! 人間のゆうしゃ? がつけてくれたんだぜ!じいちゃんの名前もゆうしゃが……」

「ああ……そう」


 そういう事だったのか。なんか元の世界で聞きそうな単語だと思っていたら実際そうであったのか。


「うーん、手応えないね。おねーちゃんの使いならもっと苦労すると思ったんだけど」

「ワタシでも、勝てます」


 アルトが余裕そうな表情を浮かべて、分身を全滅させてから帰ってくる。多分百人は超えていたと思うのだが、相変わらず魔王スペックは異常である。


「あるとはやい……です」

「やっとか貴様ら。長らく待ったぞ」

「ん?」

「……っ」


 そのことに気がついたアルトは突然表情を変えて悔しさを感じさせるものと変わる。


「なんでボクは気が付かなかったんだろ……これって意識を逸らす間法にいつの間にかはまってたってことかな……?」


 冷や汗を書きながらアルトは刀を構え直すが、何も分からないこちらとしてはなぜそのような表情を浮かべているのかも分からない。


「アルト、一体どうし――」


 その途端にぞくり、と全身が舐め回させたような気持ち悪さ、悪寒が走る。天気もいつの間にか暗く、赤く見える。


「あ、あれ……なんですか……?」


 渦の中から出てきたのは紫色の卵。

 それも直ぐに空中で割れて、中から胎児のような姿勢をした何かが見えてくる。


「うぁ……ったくおせぇな。ボクがどれだけ待ったと思っていやがる」


 卵の中から出てきた魔族はまさに悪魔であった。

 羊角ともいえる湾曲した角。鋭い爪と猫目。そして後ろに見えるのは大きなコウモリのような羽。

 どこからどう見ても悪魔である。


「《悪魔憑バフォメットコート》……」

「ん? それってシーナがやってたやつか? だがこんなに……」

「魔族と人間を比べるなよ。比較の対象にもならない」

「!! すごく……嫌な感じがします!!」

「な、何が起こってるんだ?! ユウ兄!?」


 彼は話している最中、大きく掲げた両手を勢いよく地面に叩きつける。

 外見上がったことにより力も大幅に強化されていたらしく、激しく地面が揺れ大地にヒビが入る。

 そして極めつけには大地から胸を締め付ける程の禍々しさを感じさせる霧が吹き出てて――っ?!


 《観察結果、猛毒》との表示が目の前に出現した。


「なるほど、全部分身だったのか。それに猛毒の霧か」

高覧感謝です♪

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