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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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決戦前夜?

「回復魔法ってホント便利だな。スタミナも回復してくれればいうことは何も無いんだが」


 そんなことを呟きながら晴れ渡った秋空歩く。もちろんアルトレムも一緒だ。

 あれから少々時間をもらって自己回復した後、今は竜人の里の上区画を強そうな竜人に案内してもらっている。目的地は遠くに見える和風なお城へ向かっている。


「結局あれが何がなんだったのかよく分かんなかったよ」

「爆発した後何が起こった……ですか?」

「俺もよく分からないが、そっちは軽い風圧だけでとくに被害は無かったんだよな?」

「そーなの。なのに魔法使ったのがはずかしい……」


 二人によればあの霧の魔法によって爆発の影響は目の前のガラスが割れただけの被害であった。

 それと霧の中にいた竜人たちが言うに、俺が聞いていた声は会場全体に響いていたらしく魔族探知の魔道具が正常に作動していていないとか、人間に混ざって魔族が攻めてきたんじゃないか説などでで話題はもちしきりで竜人の姫様の話題ににふれるものはあまりいなかった。ちょっと可哀想に思えてきた。


 竜の姫様ことリンスは動ける程度まで回復してあげた後、テュエルと他の幹部竜人にお城の方へ連れていかれた。

 彼女がタンカーもどきで運ばれる最中に口を必死で動かして城へ来いと言っていたことから、目の前を先導している竜人はリンスの願いを聞いてお城までの道案内をしてくれているのだろう。


「抜ける時大変だった……です」

「竜人様コールばっかりだったな。ゴミっぽいのを投げられたりするし、勝ったのにまた不敬って言われるんだろうか」

「うう、ボクが攻撃できればあんな奴ら……」

「おいやめろよ。本気で村が消えかねない」


 回復し終えたリンスがタンカーで運ばれて静かになったと思ったら、人間の誰かが「コノヤロォォッ!!」 と声を荒げて一個のにゴミを投げよこすと、後を追うようにそこで見に来ていた人間が同じことをし始めた。

 竜人は唖然としているものがほとんどであったが、ものを投げるという暴挙は起こさなかった。むしろ意識は魔族に対して向いていたのかもしれない。

 もしかしたらまた俺はイカサマとか言われるのではないだろうか。その当時のゴミの投げる勢いは、有名なスケート選手が演技を終えた後、観客がスケートリンクにものを投げるかのような勢いであった。


「やっぱり人間ってどこいってもあんな感じなのかな?」

「分かんない……です。でも、皆あんなふうではないはず……です」


 ぷんぷんと怒るアルトを遠まわしになだめるレム。このような流れに安心感を覚えてしまう俺がいた。


(やっぱり、相当びびってたんだな俺)


 しみじみと考えてしまうほど深く頭に残っているのはリンスとの対決前に入った、暗くて狭い部屋。

 あの部屋では幻術という魔法がかけられていたらしく、俺はまんまとその魔法にはめられた。そして心と身体を恐怖で埋め尽くされた挙句あの結果である。

 あの場所で見た光景に凶器が沢山掛けられていたが、実際にはそんなものはなかった。恐らく魔法が勝手に補完したのだろう。

 だが問題は一番のトラウマである骨、恐らく、いや確実に人骨でだったそれが転がっていた事だ。当時俺はそれに触れて冷たさを感じたが、幻術の世界でもそれをリアルに再現されて、俺の体温を全て吸い取ってしまいそうな冷たさが伝わってきた。その時にはさらに恐怖が大きくなり、全く物事が考えられなくなったのだ。

 しかし、冷静な今。考えたくなかった出来事であるが、おかしい点が多々ある。


(なんであんなところに骨があった?)


 恐らく火葬済み、もしくはお墓から取り出した骨だろう。だが、何でそんなものが家にある?


母親アイツ、一体何をしたんだ……?)

「――ユウ?顔色悪いけど大丈夫?」

「まだ怪我いたい……ですか?」

「ああ、ちょっと考え事していただけだ。悪い、心配かけて」


 気がつけばどこかの歴史ドラマでよく見るような、これまた和風テイストな門が目の前にあった。

 よく見れば小さな扉が左端に付けられている。


「おい! ユウ ナミカゼ一行を連れてきたぞ」


 何処かけだるそうな声で門に向かって話しかける竜人。こいつは道中何一つとして話しかけてこなかったが、やはり人間に対して意識は変わらないらしい。ほかの種族と違い、ただ強さを見せつけただけでは特に印象が変わったりすることはないようだ。


「おら、行くぞ人間」


 ガチャりと鍵を開けたような音が聞こえると小さな扉が開いて奥へ進めるようになった。

 何かあっさりすぎる。これがお城のセキュリティなんだろうか。


 そして、お城の中に入っても監視カメラのようなものは無く、俺が知っているような設備ばかりであった。


「なんかこの床キシキシいってるよ? 古いのかな」

「この音はわざとだ。この床は鶯張りといってな、侵入者が入ってきたら分かるようにわざと軋むように聞こえるんだ」

「なんか鳥の鳴き声みたいに聞こえる……です」


 アルトやレムは感動しているが、言ってしまえばこの施設は元の世界のパクリである。懐かしさはあってもインパクトはない。


「ここだ。無礼のないように――ってもう遅いか」


 案内してきた竜人が呆れながらに言葉を放つ。俺が行ってきた彼女に対する数々の非礼は数え切れない。何より手を上げている時点で完全にアウトである。


「邪魔するぞ」

「――やっときたか。遅いぞナミカゼ」

「……文句なら竜人こいつに行ってくれ」


 呼ばれていたので遠慮なく開ける。ここでおどおどしていたら舐められそうだ。舐められないために強く見せなくては。

 この書院の中には屈強そうな竜人が数人、そして謎の威圧感を纏う初老の竜人が数人、そして最奥の一段高い場所に座っている人影はおおよそ七十代ぐらいであろう竜人が恐ろしいまでの覇気を纏ってこちらを睨みつけていた。テュエルでさえ若干たじたじである。テュエルの隣には――


「おい、早く座れっ」


 SSランカーであるカシアがとても緊張したようすで座ることを催促していた。どうやらここに来た目的をついに果たす時が来たらしい。

 俺達は空いていた座布団に座ると、タイミングを待っていたのかテュエルが大きく咳払い。


「ごほん、これにて、人間界の戦力。すべて集まりました」

「ふむ、これでやっと話せるな」


 気配探知を使ってみると驚くことに、ここにいる全員が100レベルを超えているのである。相当な熟練者ぞろいだ。

 先程話した最奥の白髪おじいさん竜人に至っては、レベル不明と表示された。テュエルと同じ表示であるということは、それ相応の人外な実力を持っているのだろう。


「ではまず私から」


 そう言って立ち上がったのは青髪で女性の竜人。この中でのレベルは低い位置にいるものの、村にいる竜人とは比べ物にならない実力を感じ取ることが出来た。


「前回の議題である魔族の進行、そして今日の霧の魔法から聞こえた声を推測すれば、魔族が攻めてくるのは確実であると考えます」

「やはりか。しかも相手は一人でくるという噂だが?」

「偵察部隊は既に投入済みだ。だが、これといった報告が未だにない。もしかしたら既に我らの里に入り込んでいるのかもしれない――」

「確率で物事を話すのはよせ。第一我らには魔族探知ディモニックサーチという勇者サンガからさずけられた魔道具があるではないか」

「その通りだ。もし俺らの里に来ていたなら真っ先にあれが魔族を探知し、すぐさま我らの耳に届くはずだが。この里に来ている可能性はゼロと言えるだろう」

「だが、もし――」


 どうやらこの竜人達は勇者から貰った魔道具を頼って、セキュリティを保っているらしい。実はすぐ前方に魔族が居るなんて知ったらこの威圧感を出している竜人はギャグ漫画のように目玉が飛び出すのではないだろうか。

 大人しく聞いているアルトも何処か勝ち誇ったようすである。


(来る来ないにしても、魔族を探知する道具は存在したってわけか。ならあの火球は……?)


 ここで得たい情報は迫り来る魔族に対する情報だが、どうやらあちらも掴んでいないらしい。

 ソラとファラに魔道具を探させているがこちらも未だに報告がない。相当大事に隠しているのだろうな。


「質問があります」

「許す」

「この里に来る途中、ここにいる三人は何処からか飛んでくる火炎球に襲われました。今回、里の見学が遅れたのもその要因があります。もしかしたら――」

「こちらがなにか仕掛けたとでも? 言いたいのかしら、人間のお姫様」

「その可能性も、あります。詳しくはナミカゼ達からお聞きください」

「おい投げんなよ最後まで解説してくれ」

「え、そこでこっちなの?」


 アルトも予想外だったようで少しだけ声を張り上げてツッコミを入れる。もちろんテュエルはウケ狙いではないため、笑ったり、表情を崩したりはしなかった。


「話してみろ。ここにまできて変幻を使った人間共」

「またバレてるのかよ」

「貴様らっ、なぜこの後にも及んで正体を隠そうとする!?」


 テュエルが血相を変えてこちらを睨みつけ、そして声を荒らげて俺達を叱る。竜人はなぜこうも変幻見破りやすいのだろうか。先程変幻を使っていると見抜いた白髪の竜人は、とても面白そうにこちらを見ている。


「我には()()()()()()()があるものでな。一目見ただけでそのものがどれだけ強いか分かる。お前達が人間にしては相当強いこともな。よし、何なら例をあげてやろう」


 そう言って書院の一段上からびしりと俺の方を人差し指で指差し、こう語りかけてきた。雰囲気とは裏腹に意外とおしゃべりであるようだ。


「貴様の火属性魔法はレベル六。下手をしたらこの里にいる竜人より高い。なおかつほかの魔法もバランスよく育っている。多属性魔道士か。そして魔族ではないのに、なおかつ人間であるのに闇属性が突出しているようだ。レベルが見えないということはそういうことだろう。随分と面白そうな人間が来たものだな」

「……へ、へぇ、そんなところまで分かるか」

「…………」

「そこのだんまりしている人間は隠蔽スキルでも使っているのか?我が見通せない程の実力者には見えないのだがな」

「知らないです」


 アルトも流石にまずいと思ったのか、魔力を更に抑えてできる限り実力を表さないような態度をとる。俺からしてもこんな経験は初めてであるため対処に困る。そして気がつけばこの竜人はかなりおしゃべりである。圧倒されてしまった。


「そこの怯えた人間も変幻を使っているな。なにより獣人に近い身体能力。近接戦闘クラスだな」

「…………っ」


 レムも指を差されて話しかけられたが驚愕の表情を出したまま声を出すことが出来なかった。

 だが、一つだけ分かったことがある。


(使っていることは分かるらしいが、変幻しない元のアルト、レムの姿までは看破出来ないようだ。ならなんで俺は黒髪ってバレたんだ……?)


 一応俺も黒髪は目立つため、茶髪に認識されるように魔法を使っているはずなのだ。だが、こいつは見破った。どういう事なんだ?


「父上、お戯れもそこまでで」

「おお、そうだったな。すまない。最近分析目(アナライズアイ)のレベルが上がったものでな。相手が持っている魔法のレベルがこれより低いレベル分かるとつい遊びすぎてしまう」

「れべるというものが良くわかりませんが、若の言う通りです。いまは厳粛なる場。自重してください」

「すまんすまん」


 能ある鷹は爪を隠すというがこいつは典型的なそれであるのかもしれない。いかにもおしゃべり好きなおじいさんのように見せているが、実力は別の話。そこら辺の強さを猛アピールする竜人とは一味も二味も違っている。やはりこいつがトップか。


 そんなことを考えていると念話が飛んできた。


(ユウ、変幻魔法のレベルってどれくらい?)

(ああ、えっと……まだ三だ)

(ワタシ、七です……)

(多分上のレベルになってくると見破ることが出来ないんじゃないかな?)

(なにそれちょっと悲しい)


 どうやらレベルが低すぎて真の姿までバレてしまったようだ。レベルの上げ方は使用するぐらいしかないため、これからは気配探知と共に常時使っていこうと決めた瞬間であった。


「こほん、話を戻すぞ。火炎球が飛んできたということはどういうことか?」

「そのまんまだ。ただ普通にに竜人の里に向かおうとしていたら火炎球が飛んできてな。あれは魔道具の装置によるものなのか?」

「いや、そんな装置はない。あれは探知する機能しかない。我がよく知っておる」


 おしゃべりおじさん……今度から白髪Gでいいか。ゴキブリの意味じゃないぞ。

 白髪Gはよく装置について知っているようで、それを否定した。しかし、そうなってくるとあの火炎球の正体がわからない。


(ボクの感覚はそうだったんだけど……間違えたのかも)

(おいおい、自信持てよ)


「ごめん、それ儂。魔法の特訓をしていたものでじゃな」


 後ろから声が聞こえたと思ったら、そこには既に全回復している竜人の姫様のリンスがいた。何だこいつの回復力。さっきまでズタボロだっただろ。


「おお! 娘よ!! 無事であったか!!」

「かっかっか!当然であろう! なにせ父上の娘じゃからな!!」

「うーん!竜の秘薬を使ったかいがあったものだな! もっと近くにこい!」

「♪」


 そういって彼女は厳粛な空気をぶち壊してずいずい広間に入ってくる。こういうところもファラっぽいのがなんとも気に入らない。


 遠慮なく段をのぼり、そして近くにあるやわらかそうな座布団に勢いよく腰掛けるとニコニコとしながら全員に語りかける。口調のせいでどっちが年寄りなんだかわかりにくい。


「こんな会議意味はあるのかの? 相手は一人なんじゃ。我らならどうにでもなるじゃろ?」

「しかし姫、相手は魔族。何を狙ってくるかはっきりと分かった状態で戦いを挑まなくては!」

「そうです! また姫が怪我をしたらトノ様がまた心配して山を一つ壊しかねません!」

「あ、あれは悪かった。つい」


 凄まじいことが軽く流されていくのがこの世界である。

 心配で山を壊すとは近道反応もいいところだ。八つ当たりして解決ってレベルではない。なんともハイレベルである。


「なはは、一応汝も儂をも回復してくれたのじゃし、命ぐらいは助けてやったのじゃ感謝するがいい」

「……おう」


 どうやらあそこで回復しなかったらこの白髪Gが山を破壊するが如く俺を殺しにかかる既であったらしい。一つ選択を間違えていたらどうなっていたことか。


「ごほん! リンスの言う通りだ! 俺達の力なら魔族一人ぐらいどうとでも成る!」

「「…………」」


 そういって辺りは黙り込んでしまった。

 実際にこれだけ人数が揃っていればたった一人に負けることはない、という考えが全員の頭を駆け巡る。確かに俺も負けはしないとは思う。相手がソプラノとかいう化け物のような者でなかったなら。


「かっかっか! 決まりじゃの!! 流石我が兄上! 話がわかる!」

「反論はないか?」


 気がつけば兄と言われるこいつも白髪である。本当に家族なのかこいつら。なら、例に漏れずこの兄貴も何かありそうな気がする。親に然り、子にもまた然り。


「では決まりじゃの!!これにて会議を――」


 その瞬間、ゴォォォォォォッッ!!とこの大地全体が叫んでいるかのような重く、お腹に響く音が鳴り響く。突然の重低音にテュエル、カシアを含めた人間全員が臨戦態勢をとる。そして竜人たちは。


「っ!?」

「馬鹿な!?」

「約束は明日のはずだぞ?!」

「くっ、嘘だったのかっ!」


 慌ててふためいている。ということはさっきの音は魔族探知が反応したということ。反応したということは。


「魔族。わざわざ正面から来るとはいい度胸だ」


 こちらもこっちで、本気のアルトには及ばないもののそれに近い覇王の気がこの部屋の最奥から発せられる。もちろん、発したのは白髪Gだ。その急に変わった威圧感に全員が息を呑む。


「ユウ! これって……!」

「ああ。ちょっと生徒達も不味いかもな。人質を取られる可能性も否めない。魔族ならそれぐらい一人でも出来るだろうしな」

「らくなもあぶないです!!」


 まだ体力は七割ほど、魔力は自己回復に使ったため三分の一までにしか回復していない。だが、これだけ強い人達がいればまさか大丈夫だよな?


高覧感謝です♪

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