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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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vs竜の姫

「魔法纏!」


 何はともあれ暑さ対策のために、魔法纏の水を纏う。これで、もし生身で突っ込んでも一瞬で焼け死ぬことはないはずだ。


「グルウアアアアアッ!!」


 相手はこちらを目で捉えた後、再び爪を構えながら一直線に突撃してくる。炎を纏いながら突撃してくるので、彼女自身が火炎球であるかのようだ。バーサーカーのような単純な攻撃であればこのくらいの攻撃の回避はたやすいのだが――っ!?


「下からもかよ」


 ポコポコと下から何かが湧き上がるような振動。そして地面の急激な赤熱。これはなにか熱いものが間近に迫っていることは即座に理解出来た。そのため、迎撃する魔法を中断。回避に専念する。


 間欠泉のように地面から飛び出してきたのは、再び溶岩の触手。出てくる温泉ってレベルではない。触れてしまえば上手に焼けるどころかすぐさま焦げ肉だ。全力で左に向かってダッシュする。火球となった彼女に掴まれないための左だ。勿論攻撃の手はこちらだって緩めない。


「《水刃ウォーターカッター》っ!」


 走りながらも刃を火球となった彼女に向けて振ると、刀の直線上に水の刃が放たれる。アルトの月閃をイメージしたものだ。彼女のそれより威力は劣るが、動きを止めることぐらいなら――


「くっ」


 だめだ。全然効果が見受けられない。幾つも放った水刃は彼女にぶつかると一瞬で蒸発してしまった。溶岩の触手を回避しながら走っているのだが、竜人はグイグイ差を詰めてくる。そろそろ貫かれそうだ。


「ならこれで……っ!」


 ムーンサルトの要領で大きくジャンプ。勿論触手の事を考えて、俺が焦げ肉にならないように配慮して、来ないであろう位置に飛んだ。


 ジャンプをすると、相手は軌道変化について来れられず、そのまま壁へと爆砕音をたてて衝突する。

 まるで戦闘機が壁にぶつかってしまったような迫力である。あんなのが当たってしまったら、人体への影響はトラックに引かれるどころの騒ぎではない。


「隙ありだっ!」


 俺が放ったのは水属性魔法。しかしその魔法は他の槍のように放つ魔法とは違う。

 空中に何本も作り出すのでなく、ライフルを何発も打ち出すような点による集中砲火。そんな感じの魔法である。イメージはSFアニメのレーザー銃だ。


「グアアアッ?!」


 竜人の苦悶に満ちた声がこちらまで届く。

 どうやら炎のバリアを突破してちゃんと体表まで届いたようだ。これでやっと追撃のチャンスが見いだせた。


「そろそろこの溶岩触手をどけてもらおうかっ」


 迫り来る触手を避けながら地面に着地、その勢いのまま砂煙で姿の見えない彼女に向かって走りつつ武芸を発動し、勝負を決めようとしたのだが


「ウォォォォッッ!!」


 けたたましく、野獣のような叫び声を上げて砂煙を振り払う竜人。傷の具合は、少々胴体に血がにじむ程度であり痛撃は与えられていないようである。


「くっ……! まだ終わらせる気がないってか」

「――トウゼンじゃァァッ!!」


 甲高い金属同士がぶつかる音か大きく響いた後。遂に女性らしい、というか人間らしい言葉を発し、彼女の赤熱した爪は武芸を使用した刀と鍔迫り合いになる。武芸で強化された刃であるのに、結果は火花が散っているだけで、相手を切りつけることは出来なかった。

 なおかつ、このまま鍔迫り合いになれば、人間の俺が再び負ける。


 このままなら、な。


「二度も吹っ飛ばされてたまるかってのっ」

「ぐォッ?!」


 闘技大会の時、アルトと戦った時にも使用したこの技は、ただ単に鍔迫り合いの最中に力を振り絞りながら円を描くように刃をずらし、相手の大きな隙を作り出す技である。どうやら彼女にも効果はあったようだ。


「ォォォォッ!!」


 攻撃をずらされた事により相手はもう片方の腕を使って爪を立てて俺を貫こうとしているが、それは予想できていた。片方が通じないならもう片方を使えばいい。この一瞬が勝負を決める場では当然とも言えることであるためだ。


「分かってたよ」


 迫り来る大きな手を回避しながら、魔法纏を解除。続けて雷の魔法纏を使用。攻撃は分かっていたので、回避と同時に行うことが出来た。

 意識を軽くなった刀から離した左手に集中し、武芸の形である発勁の構えをとる。数瞬なら魔法纏の効果は残るため火傷する確率はそこまで上がらないはずだ。


「くらいな、《雷鎚》」


 薄白く発光する左手にバリバリと青白い電気のような閃光が走る。この技はソラとファラと戦う時に使用したもので、威力は十二分にある。消費体力も大きいが、その分の効果は出るはずだ。


「グアゥアア!?」


 攻撃が当たったと同時に落雷が落ちたような爆音と閃光が上がる。発勁を受けた彼女からはこれまでにない手応えを感じ取れた後、激しい速度で三度壁へと飛んでいく。そういえばひたすら狭いなここ。


「……はぁ」


 魔法纏を解きながら聞きなれた爆音を遠くに感じつつ勝利を確信できていた俺であったが、気配探知によりそれが間違っている事だと気がつく。


「――と、まだなのかよ」

「クカカ……そう簡単に終わると思うかの? 儂は、竜人ぞ?」


 流石に無傷とはいかなかったらしいが、相変わらず元気なようすで砂煙の中からのしのしとでてくる。俺的には本気で仕留めたつもりであったのだがな……


「いい加減倒れろよ。無抵抗なのにお前にやられた打撲で全身がぼろぼろなんだ」

「汝、儂の初めてを奪っておいてなんてことを言うのじゃ。儂は汝のような木偶の坊が初めてで非常に腹がたっておるのじゃ」

「勘違いするだろうが。殴られたことないのかよお前」

「当然じゃ。誰と心得る」

「親父にもぶたれたことは」

「ない」

「ああ……そうか。なら、二度もぶってやるよ。次は個人的な理由じゃなくて、俺のアルトとレムを奪おうとした報いのな」

「それも十分個人的な理由じゃろう?」


 どうやらこれだけの会話を出来るほどの体力が相手にもあるようだ。なおかつ相手は笑顔。これが竜人のタフさってやつか。

 正直体力を使いすぎて身体は重いし、全力で走りすぎた。会話により体力回復を試みたが、そう簡単にはいかない。


「…………」

「クカカ……汝が竜人や魔族であったなら勝負は分からなかったの。だが不運なことに汝は人間。最弱の種族じゃ」

「そんな人間の……最弱のクラスに負けたら、竜人の権威はどうなるんだろうな」

「それはありえん……なァッ!」

「く……」


 再び灼熱の熱気が辺りを覆う。やはり水魔法纏無しでは目も開けることすらままならない。

 仕方なく魔法纏を使用したときには、竜人は既に目の前。この一瞬で移動されたか。


「ガァアアアァッ!」

「ちっ――」


 左手は竜の鱗を殴ったことにより血が滴っている。無理に動かせば無駄な神経を使うことになりそうだ。なので素直に刀を両手持ちに切り替えて迎え撃つすることにする。


「フッ!!」


 吐息とともに一閃。再びの甲高い音と共に魔法纏を使っていてもなお熱い熱気が届いてくる。使用していなかったらどうなっていたことか。


「ウォォォォッ!!」


 獲物を切り刻むが如く重く、鋭い一撃が急所や、致命傷を狙って連続して放たれる。

 攻撃一つひとつが重すぎるため、刃も欠ける。

 そもそもすべて受け止めることは不可能であるため。出来る限り後ろに下がりつつ、必死の連撃回避しながらなんとか反撃の手口を必死で探っていた。が、その行為にも限界が訪れる。


「ほれぇ!! まだまだじゃっ!!」

「ぐっぅぅう……!?」


 上から降り注ぐ攻撃に対して刀を横にして守るものの、重すぎる攻撃に肩膝をつく。

 さっきからどんどんめまいが強くなってくる。これは魔力切れではなく体力切れの――


「ん、どうしたのじゃ? 随分息が荒くなっておるの。先ほどの威勢はどうしたのじゃ」

「うるっ……せぇっ!」


 地面から水流を吹き上げる魔法を放ったが、竜人はそれを難なく回避。そしてお返しとばかりに再び五つの追尾性溶岩触手が放たれる。


「なら――こっちだって……っ!」


 急いで立ち上がりつつ、走り、触手の進行ルートを推測。通るであろう位置に水属性魔法を発動。その魔法は初めて使用したため、名前なんてつけている余裕はない。

 俺の放った魔法は迫り来る触手を迎撃するための水の壁を地面から吹き上げるものだ。

 しかしながら作ったところで大変なことに気がつく。


「たしか、水蒸気爆発って――っ!?」


 考えついた時には身体に走る痛みを無視して既に空中へ。突然の進路変更によりなかなかのGが身体にかかるが、そんなことは気にしてられない。さらに加速を重ねて出来る限り上へと逃げる。

 竜人の彼女はまたまた方向転換について来れられずに再び壁に激突したようだが、こちらが逃げるためにはラッキーとも言える。


「アルト!レム! 可能な限りの防御を貼れっ!!」

「っ!」


 アルトは何かを察してくれたようで、行動は凄まじく早かった。レムは何のことだか分かっていなかった顔をしてたが、アルトの魔法である黒いシェルターのようなものに包まれ、顔が見えなくなった瞬間に


 ズドォォォォォォォォッ!!!!


 と視界が真っ白に包まれた一瞬の後に鼓膜を破らんばかりの凄まじい爆音。


 爆音が世界を埋め尽くす中、こちらはありったけの魔力を注いで自らを中心とした立方体の水の箱を三重に作り終えていた。音とほぼ同時に来るのは、すべてを破壊する衝撃波である。


「これ――大丈夫なのか?」


 初めて爆発に巻き込まれる俺はそんな感想を抱いたのであった。


 ~~~~~~


「竜姫様が人間と戦ってるそうだぞ!!」

「いや、それならすぐ決着がつくだろ」

「それがなかなか手ごわい相手らしくてな! 見りゃわかる!」

「ほう、それは気になるな。ドージョーへいくとしよう」


 夕が戦ってる中、竜人の里の中にある中区画でまだ子供の姿の竜人が宿で食べ物を食べながらそんな会話を耳にした。


「人間が……あの竜姫様と互角? そんなことあるわけねぇだろ」


 もぐもぐとカウンターでハンバーグのような食べ物を咀嚼する彼にはそう言い切れる自信があった。

 彼には彼女の強さが痛いほどわかっている。それは何度も勝負を挑んだ為だ。


「竜人の中でも結構強いオレが勝てないんだ。人間なんかが勝てるわけが――」


 ここである出来事を思い出す。それは魔界の牢獄から脱出した後の出来事だ。


『ん、なんだよ?』

『ユウ兄ってほんとに人間?』

『むしろ人間じゃない部分ってなんだ?」

『だって人間はそんなに――!』


「……ちょっとオレも行ってみようかな。もしかしたらユウ兄かもしれないし!」


 そう言って立ち上がり、お金を払うとピュん!と風のようにかけだす。目指すは上区画のドージョー。人間なんかが、まさかこの国を代表とするものにはかなわないと思っていたが、ある爆音がすべてを目指せさせる。


 ズドォォォォォォォォッ!!!


「……?!?!」


 突然の爆音と爆風に道行く人々は伏せて身の安全をとる。もちろんこの少年だって例外ではない。


「おいおい……まさかユウ兄じゃないよな?!」


 そう言って赤いスカーフをたなびかせながら男の子はユウの元へと向かっていった。

 そのスカーフは、間違いなくユウがこの少年のそれをみつけたものであった。

心の距離感の章はどうもびびっとくる修整になりませんでした。もう少し手を加えるので、お待ちいただければ幸いです


高覧感謝です♪


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