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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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無礼者には

 それからさらに歩いて見える景色は、江戸時代を思わせるような特徴的な土蔵造りの一軒家や長屋の家々が連なっている。

 通りは大きな道が自然と出来ていて、その脇に店や家があるというものだ。どっからどう見ても元の世界の歴史の中にあった景色そのものである。

 教科書等でこの風景は知ってはいたものの、ここまで再現度が高いと流石に驚きを隠せない。


「ゆう……さっきからきょろきょろしてます」

「そんなに竜人の里の方がいいのかな? ボク達の方が発展してるよ?」

「そうじゃなくてだな……」


 元の世界の歴史に残る光景にそっくりである、という事を伝えようとすると突然 リリリン!! と強い鈴の音が多数向かい側から聞こえる。目の前には見えないが誰か来ることは確かである。この音色も何度も聞いた事のある音だ。


「避けよ、避けよ!」


 同じ言葉が何度も繰り返されると同時に音色は大きくなる。それにつれて近くにいる竜人、働いている人間達は急に慌つつ、真ん中から離れるように動き始める。まるでその場から早く退かなくてはいけないという意志を感じさせるほどであった。

 そのようすをみた目の前にいた生徒達、そしてテュエル達もその周りにいる竜人たちに習って小走りで右端、はたまた左端に急いで移動し始めた。


「……なんだ?」

「ん、なんだろね」

「みんな端に寄ってる……です」

「とりあえず移動しておくか」


 これ以上目立って面倒ごとを起こすのも嫌であるため、生徒達の方へ移動する。向かった際に選抜の女子生徒達から物凄い嫌悪の視線をぶつけられたが知ったことではない。人がいっぱいいる中でキョロキョロするのも不審に思われるため生徒会の方を向くと、それはもう目線すら合わせてくれないという事態に陥っていた。これはいけない。竜人に対して態度がでか過ぎた。


「避けよ! 避けよ!」


 緩い坂道の上から出てくるのは、鈴のついた棒のような物を地面に叩きつけつつ鳴らしながら接近してくる男が数人。その後に重そうな荷物を大量に担いだ人々がのっそのっそと終わりの見えない列を作って現れた。鈴を鳴らす竜人以外全員が人間である。


「参勤交代かこれは……」

「さんきん?」

「こうたい……ってなんですか?」

「簡単に言えば服従していますって事の証拠だな」


 その光景はまたも知っている出来事であった。

 参勤交代とは主従関係を見せびらかして自覚させたり、経済を圧迫させたり……等の目的があった気がするが、この世界でこれを行う目的は恐らく前者であろう。脇にいる竜人は得意げな顔をしていたり、その付近にいる人間は息を飲んでまじまじと見守っていた。


「ふーん、なんか竜人ってめんどくさいね」

「ああ。同意見だ」

「ゆうっ! あると! 周りを見るです!!」


 レムの声を抑えた叫び声により一人の視線がアルトとに釘付けになっていることに気がつく。

 これは好意のようなものではなく、純粋な怒りをぶつけるような視線であった。


「おい、貴様……今なんといった」

「はぁ、竜人風情が気軽に僕に話しかけないでもらえるかな」


 目の前の竜人の怒気を吹き飛ばすように、息一つ吐いて完全に流す。視線は一度たりとも竜人の方へ向けない。

 さり気なく「君なんて相手する価値もないよ」といいたげなオーラを発しているので、またも彼女は竜人を挑発していくらしい。


「すみません、言葉が過ぎました。命だけは助けてください」

「…………」


 繰り返しになるが、これ以上面倒ごとは嫌なのでわりと心を込めて言い放った。しっかりと謝ったので一応謝罪感は出せただろう。俺が口だけ男と言われる日もそう遠い日では無さそうだ。もちろんお断りだが。


 ただでさえ狭い場所であったのに、俺達と竜人の間から嫌悪な雰囲気を感じ取った一人二人消えていく。喧嘩が始まる前のような雰囲気なので事の一因である俺も離れたい。


「おい、男は布教者であるな。命は取らないでおこう。なら人間の女。話を聞いてるのか?」

「はぁ? なんで僕が聞かむごむご……?!」

「すいませんね。ちょっとあれがあれなもんで」


 アルトの口を手で抑える。ことばが出なかったための あれ なので この代名詞に決まった意味は無い。だが、この言葉の受取り方によっていろいろ変わることが出来る魔法の定型文だ。ボキャブラリーがないわけではない。


「……あまり俺の目の前をうろちょろするなよ人間。次はない」

「すみませんね」


 イライラしたのか目の前にいた竜人はすっと目の前から消えていく。なんとか助かったようだ。周りに竜人は居ないのでもう大丈夫だろうか?


「ぷはっ、ユウ! なんで止めるのさ!?」

「それは止めるだろ? 戦闘になったら手を出せないんだぞ?」

「あると、ゆうが止めて正解……です」

「……あっ契約で竜人には手を出せないんだっけ?」

「また忘れてたのかよ……」

「また忘れてたんですか?!」

「えへへ、危ない危ない」


 まさか忘れているとは思わなかった。本当に危ないな……。

 するとここで鈴の音、物音が全てしないことに気がつく。半径10m以内に人もいない。なにかすごい嫌な予感がして三人目を合わせる。


「なにやら楽しそうじゃな。ええ?」

「……ファラ?」

「は?」


 三人同時にそっと声の方向を見ると、そこには八人が持たなければいけないほど大きな駕籠があり、その中で白髪の美しい竜の角が生えた女性がすごく美しなくない体勢でこちらを見ていた。美しなくない体勢とは、横になりつつ頬杖を突きながらもう片方の手で焼き芋をほおばっている状態であった。いうなれば休日の親父である。


 とりあえずファラじゃない。


「何じゃ貴様ら。儂を目の前にして……どんなもぐもぐ……と思っとる。もぐもぐ」


 年齢は恐らく20代中盤。こんなだらしないのに、身体は引き締まっていていつでも戦闘が開始できることを予感させる風格であった。そして口調がファラと同じ。


「は、はぁ」

「ふむふむ、髪色しか変えない変幻魔法とな。汝、その二人より()()()が低いの。こんなものしか出来んのか?」

「「!?」」


 いきなり変幻魔法を使っているということがバレてしまい、戦慄が走る。アルトもレムも同様に驚愕の表情は隠せない。


「うーぬ、やはり同じ人間にもこんな差があるのじゃの。かなしいのもまた風流じゃ。しかし汝には興味が失せた。目の前から消え失せよ」

「……は?」

「儂はあの姿でこれ程までのレベルの変幻魔法を使える人間は見たことなくての。そこの人間の女二人近う寄れ」

「いやちょっと待」

「まだおったのか。二度はいわぬぞ? 儂はそこら辺のゴミとは語らうことはしない主義なんじゃ。なおかつ男は苦手での」

「ほら、戻れ人間。姫様の機嫌がいいうちにな」


 どんっと近くにいた竜人の護衛に押されて少しだけ後ろに下がる。周りを見れば周りの人間達から慰めの目線が飛んでくる。なんだこの状況。


「……そんなわけでどうじゃ、儂の嫁に成らんか?」

「え、僕無理です」

「お嫁さん……?!」

「くっくっく、返事は聞かぬともわかる。さぁ、早速儀式の準備をしなければの!!」

「無理です。心に決めた人がいるので。しかも同性は興味無いんです」


 アルトは即答。レムは困惑してパニックになっているのが良くわかる。周りに耳を傾けて見ると色々な声が聞こえてきた。


「まただよ竜姫様の突然告白。あの立場だから俺達人間は絶対の断れないんだよなぁ。何たってただでさえ権力の高い竜人様の姫様なんだからな」

「もうこれで十七人目だっけ?」

「いや、多分十八人目でしょ。それも全員が女の子だった気がするわ」

「私も告白されないかしら……」


 どうやらこれが初めての事態ではないらしく、住民は捨てられた猫のような視線で俺のことを見ていたらしい。

 それと彼女は男には興味が無いらしい。


「は? それは誰なのじゃ。まさか竜人である儂より強いんじゃろうな?」

「ええ。少なくとも貴方には負けないでしょうね。あの人は!」

「け、けけ……こっ、こん……およめさん……好きな人……」


 そのアルトがこちらを向いた瞬間、レム以外のここにある全ての視線が一気に俺に集中する。驚きと興味の目。先程まで待った慰めの視線が誰からも送られなかった。レムは未だにパニック状態である。


 次はとことこと歩いてきてアルトはニコッと笑う。


「ね、ユウ?」

「ほう、その人間を炭にすれば汝は我のものに成るんじゃな?」

「受けて立つよ!」

「いや俺まだ何も言ってない」


 その後に白髪女竜人は体を起こすと持ち合わせていた焼き芋一瞬で焼失。そして一言。


「ならさっさとやるとするかの。開始時間は此方が指定させてもらう。構わんな?」

「いや、俺が認めてないです。そもそもそちらの一方押し。人の話を聞いてください」


 珍しく敬語を使ってできる限り刺激を与えないように、話を聞いてくれるように説得したのだが、こいつには全く聞く考えはないようで


「そのことばの不敬。灰色のめこに免じて許そう。だが、誰が汝の意見を聞いたのじゃ? 儂はこの灰色髪の女子と語ろうておるのじゃ。ゴミはゴミなりに儂に消し炭にされるまで大人しくしておれ」

「ほぉ? 言ってくれるじゃねぇか? 人の女を勝手に取ってタダで済むと思うなよ脱皮女」

「……ふ、勝てないと見込んで吹っ切れおったか」


 ぷっつんきたので敬語中断。今のところこいつに何言っても聞かなそうだ。アルトは何故かニヤニヤしながら正気に戻ったレムと話している。そういえばなんでこうなっただろうか。


「ならそうじゃな、このクソ生意気なゴミが無様に負けるのを見てもらうために上区画の一番大きいどぅじょーをとっておこう。そこで決闘を行うことにしようかの。ククク、人間が竜人に逆らうとどうなるかの礎となるのじゃな。時間は――」

「お待ちくださいっ!!」


 と、ここでテュエルが前に出てき――?!


 ドゴォッッ!! という音が聞こえた時には完全に頭を地面に叩きつけられていた。障壁があったため直撃は回避したが、衝撃波で脳震盪を起こしかける。


「ユウ?!」

「ゆう?!」

「ってぇ、何しやがる……?!」

「この度は誠に申し訳ございません!!」


 叩きつけたと同時にテュエルも頭を下げる。社会もっとも謝罪の姿勢で本気が伝わるという角度90°の謝罪お辞儀だ。本気の姿勢である。


「こいつはどうにも実力差というものが分かっていないためこのようなことが起こりました! これは竜人様に対する反抗的な態度を直せなかったこの私が責任を取ります! だから、どうか怒りを抑えてください!!」

「「「……………」」」


 空間が一気に静まり返る。姫と姫の体面だな、なんて思っている場合ではない。事はめちゃくちゃ重い。テュエルは自己犠牲により俺と国を救おうとしているようだが、返された言葉は。


「なら汝、こやつを殺し、女子めこ二人を儂の物とみとめよ」

「っ!?」


 まさかそうなるとは思わなかった。テュエルもこれは予想をしていなかったら直ぐには返せることは無かった。 国民である俺を殺して、なおかつ二人を差し出せという命令であった。


 チラリとテュエルがこちらを見る。どちらにせよ国民である俺達に被害が及ぶことは百も承知。だが、逆らえない()()()|である以上、国の信頼を落とすわけにはいかないと感じたのだ。


「……わ……私……が」

「だから俺がお前を潰せば万事解決だろ?」

「ほう。まだいうか人間。貴様にそんなことができる確率などゼロじゃ」

「なら、そのゼロを覆せたなら、二人に手を出さないことを除いて、被害料として三つぐらい何でも従うことを約束してもらおうか」

「……ふ、はははははははっ!! 何を言ってるんだ汝は!! 面白い、約束しよう! もっとも勝つことは相変わらずゼロだろうじゃがな!!」


 人間が竜人の姫と対等に話すことはおろか、話すことすら仲介が必要である程の存在であるのに、ここまでの状況まで広がったことであたりは凄まじく静まっていた。ニヤついているのはアルトだけである。


「なら、貴様の死に場所はドージョーでいいじゃろう!時間が出来次第上区画のドージョーという場所に来るが良い!!時間は夜の九時までじゃ」

「ああ、上等だいってやるよ。案内よこせよ」

「ふ、いいじゃろう。怖じ気ずいて泣いて謝ってもいいのじゃぞ?」

「はっ。ほざきやがれ」


 そういって竜の姫は両手をパンパンと手を二回叩くと駕籠カーテンが降りて再び行列が歩きはじめる。


長い長い列が通り過ぎるとその後にわいわいと来た当初の雰囲気が戻り始める。その話の源となっているのは俺であった。


「と、いうわけだな」

「……ユウ・ナミカゼ。一発殴らせてくれ」

「普通だったら通報だからなそれ。王族さん」

「おい、ちょっといいか。お前流石にまずいぞ。なんとか許してもらえる手立てを考えねぇと」

「うん、ウィンの言う通り」


 生徒会長とピンク髪が珍しく心配するような声をかけてくる。が、俺もここで折れるのはような男でない。SSランカーのカシアは呆れてしまったようで頭を抑えていた。


「さて、いまから要所巡りだな」

「おい?! お前死ぬのが怖くないのか?!」

「ふふふ、ボクのユウが竜人になんて負けるわけないからね」

「でも、ゆう……やりすぎ……です」

「おい、ナミカゼ」


 レムに対してそれは反省すると言った後、テュエルが怒気を含めた表情で頬をぴくつかせていた。


「殴るのがダメなら、少々いいたいことがあるんだが。いいよな?」

「……短めで頼む」


 結局俺の要所巡りは怒られながら進められる事になった。


高覧感謝です♪

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