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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第八章 身分と種族と個人と
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落ちた先に

「……俺はいいから二人とも回避に専念しろっ!」


 狙われているのは俺だけではない。アルトにもそしてレムにも大量の火炎球が迫ってきているため、必死で空中歩行を発動しながら体制を整えつつ叫ぶ。高い所を飛んでいなかったら地面に叩きつけられて発動に間に合わなかったかもしれない。


「そんなこと……ってあぶないなぁっ!」


 アルトは魔法を空に向けて反射しながらレムの元へ飛びよるが、なかなかに火炎球の勢いが激しく近寄りにくい放っている相手は気配探知には反応しないし、分からない。一体何なんだ?


「あると! だいじょうぶ?!」


 レムは完全に空中歩行を使いこなし、攻撃を空振りさせることにより強烈な風を巻き起こし、それによりワイバーンを守っている。ワイバーンにまで攻撃が及ぶとは思っていなかったが、空中で包まっているワイバーンを守るのはいかにも彼女らしい。


「レム!大丈夫そうだね――ってあれ?」


 アルトが反射の魔法の範囲を広げると、火炎球がさらに勢いを増す。しかし彼女の魔力量は凄まじいので、その程度では辛そうな顔色一つ見せずに魔法をすべて反射していく。そしてその最中でとある現象が目に入った。


「下で魔法が……打ち消されてます……!」


 とてつもなく大きな火事にでもなろうかと思えるほどの火球の量だが、全て尖った木々にぶつかる前に火球は霧散して山火事になることは無かった。

 この地形といいこの攻撃といい、確実に殺しにかかってる。もうテュエル達のワイバーンはどこにも見えないし、気配探知の外に行ってしまって帰ってくる気配もない。空飛んでいる最中はかなりのスピードだったから、ついてきているのが当然と思っているのだろうか?


 来る来ないにしても、眼下に広がる樹海は火炎球が飛んでこない安全な場所であることは確かだ。降りない手はない。


「アルト、レム! 樹海は多分この弾幕は来ない! 一度下で落ち合おうっ!」

「うんっ! ――ちょっとぐらいやり返してから行くよっ!……いい?レム」

「むしろお願いします……です!」


 どうやら彼女には相手を把握出来たらしい。後で教えてもらうにしても、かける声は決まっている。


「おおごとにするなよっ!」

「任せてっ!」

「がんばれ……です!」


 彼女達はこの程度では被弾すらしないだろう。ここは彼女のやりたいようにするべきだ。こっちとしてもやり返してくれるなら万歳――


「ってダメだ! アルト!下からなにか来るっ!」


 どころではない。急に現れたのは黒い影。酷いことにこいつも気配探知には映らない。最近こればっかりだな。

 叫んだと同時にこちらは空を駆けて、加速で勢いが数倍にも膨れ上がったライダーキックを謎の影に決め入れていく。もちろんスピードは全力だ。


「ググヤァッ!?」


 自分でいうのもなんだが、鍛え抜かれたスピードを乗せたライダーキックは、影の胴体らしき部分に喰らいこみ、めり込む。

 メキリとした感覚が足から伝わり、数瞬後に接近してきたスピードと同じような速度で黒い影は弾丸のように飛んでいく。ちょっと気持ちいい。

吹っ飛ばした後体制を整えると、アルトしたに降りるよう伝える。


「とりあえず一旦降りた方がいい。さっきみたいに全方向から攻撃が来ないことが否めない状況になってきたしな」

「……わかった。今回は諦めるよ」

「あると、安全第一です」


 少々残念そうな顔をしているが、こんな状況でも火炎球の嵐は止まない。アルトの《広範囲反射(ワイドリフレクション)》はまるで問題ないように反射しているが、流石にこのまま止むまで空中に佇むわけには行かないので降りることにする。


 ワイバーンもどこか悔しそうな顔をしているが、これは不意に被弾してしまったという悔しさからなのだろうか? 竜のプライドは良くわからないが、とりあえず俺達が襲われたってことをテュエル達に伝えてもらわなければ。

 彼女は心を読めるらしし、ワイバーンでも人間でも関係ないだろう。


「おい、レム。こいつと意思疎通は可能か?」

「はい……です! 普通におはなしできます……!」

「良かった。ならこいつに テュエル達の元に行って助けをよこせ と伝えてくれ」

「わかり……ました!」


 レムがふわふわと近づいた後、ワイバーンに耳打ちをする。彼女が話終わるとワイバーンは頷いたように首を動かす。どうやら伝わったようだ。


「まさか、人間でも避けることの出来る火の玉が回避不能ってことは、ないよな?」


 軽い挑発をすると、ワイバーンは ふんす! と鼻を鳴らし、二度も当たってたまるか という顔を見せる。本で読んだのだが、一応魔物としても実力は高いらしいのでこの程度の火の玉を避けることは可能だろう。


「お願いします、ワイバーンさん……!」

「グオオオオオオッ!!」


 一際大きな声をあげた後、羽を広げてアルトが展開している魔法から外に出て、火の玉の嵐をかいくぐって先に行ったワイバーンを追いかけていく。不意打ちでなければ回避可能なようだな。これで助けは来るだろう。


「あれ?ユウ、あのワイバーンに乗っていけば良かったんじゃないの?」

「その考えもあったが、どうせならやり返したいだろ? 何はともあれ、下に降りて作戦を立てようか」

「あっ、ボクてっきり逃げると思ってたよ。ボクとしてもそれはありがたいかな!」


 にっこりと笑顔を浮かべるアルトはやはり魔族であるのだなとしみじみ思う。にげたって別に俺は構わないのだが、彼女達魔族は戦闘を前に逃げるなら自害する道を選ぶ人もいる程の武士道的精神を持ち合わせている。そうなるとやはりこの手段が妥当であろう。




 そこらじゅうに火炎球を撒き散らす……というか反射しながら樹海に降りると、ぴたりと火の玉の嵐は止まり、何事もなかったかのような樹海の不気味さを取り戻す。木々はまったくもって無傷であった。


「……ほんと火の玉がに来なくなったね」

「はぁ、いきなり面倒臭い事になったな」

「びっくり……でした」


 この樹海は光が届いているといえばいるのだが、あまりにも光量が少ない。洞窟にでもいるかのようだ。まわりには魔物の気配は一匹たりともない。こういう場所にないのはあまりにも不自然だ。


「とにかく、アルト。こんな事をやってきた奴は把握出来たのか?」

「うん、バッチリ。でもちょっとやりにくい場所にあってさ……ここからでも攻撃できるんだけど、下手したら周りに被害が及びそう」

「やりにくい……ばしょってどこですか?」

「それがさ、竜人の里の中なんだよね。それも大掛かりな施設からあの火の玉が飛んできたの」


 レムが心配そうな表情で伺うとバツの悪そうな顔をしてアルトが返す。

 と、いうことは俺達は完全に招かざる客ってことか?


「あいつらが俺達のことを招待したんだろ?」

「うん、ボクもそう思ってもう一回調べたんだけど、やっぱり施設から攻撃されてるって結果が出るんだ」


 どうやらアルトのスキルではどうやってもその結果が出るようだ。一体どんなスキルなのかは気になるところだが、彼女を信じることにしよう。


「……そうなると、なぁ……」

「うっ、そういえばあの人間の姫と契約を一方的に切るところだった。里を攻撃したら契約の対象を破壊したって事になりかねないからね……危ない危ない」

「アルト?! それってかなり危ない……!」

「そ、そうだね」

「おいおい……」

「わざと攻撃しなきゃ大丈夫だよ……多分」


 契約の対象である竜人の里すら契約の対象で、攻撃ができないらしい。事故であれば大丈夫であるらしいが……なんとも微妙なところだ。潜入任務と同じでバレなければどうということはないのだろうか。とにかく今回は彼女が竜人の里の中で戦闘をすることは避けた方が良さそうだ。それにしても霧が濃くなってきたな。


「ゆう……これ……きのせいじゃない」

「どんどん濃くなってきているのか?」

「ほんとだ。全然気が付かなったけど、いつの間にこんな濃くなってたんだろ……」


 気がつけば手前3mほどまでしか見えなくなるほど霧が濃くなっていた。

 着地した当初には霧どころか湿っぽいこともなかったのだが、今になって急にここまで濃い霧が現れる事に驚きを隠せない。


「二人とも、ここの敵は気配探知に映らないやつばっかりだ。俺も最大限警戒するが、守りきれないこともあるかもしれない。そっちも警戒していてくれ」

「もちろん。ボクがユウを守ってあげるんだからね!」

「守る……です!」

「……ありがとな」


 こっちが二人を守ると遠まわしに言ったつもりだったが、逆に守ってあげると言われてしまった。男として頼りがいがないのかと思ってしまい、ちょっと悲しい。二人に頼られるほど、もっと強くならなければな……。


「……でも、やっぱりこの霧は魔法の類かも。さっからどんどん濃くなってるし」

「こんなに濃くなかったよな」

「ゆう……あると……てをつないでくださ――」


 レムが話終える前に、ごうっ!と強い風が吹き抜ける。霧もその風によって吹き飛ばされていくが、それに運ばれたように嫌な予感が背中になすりつけられるような感覚が起こる。


「……レム?」


 差し出された手はない。霧は晴れて着地した頃の光景が目の前に広がるが、レムの姿はない。それどころか気配も感じとれない。


「アルト?」


 姿もなければやはり返事も返ってこない。もう一度あたりを見回して気配を探っても結果は変わらない。それどころか、状況はもっと悪い方向へ進んでいく。


「っ……?」


 脳裏に映る気配探知に途端にかかるノイズ、そして砂嵐。昔のテレビでよく見るアレと似たようなものだ。こちらが魔力を感じることもなく、突然であったため全くもって対応策が思いつかない。


「これも竜人の里からなのか? どれだけ来て欲しくないんだっつうの……」


 とりあえず一緒にいた二人を探すために歩き出すことにする。ここに佇んでいたって仕方がないし、アルト達も心配であるからだ。

 気配探知は使えないものの、自身が感覚として掴める気配は感じることは出来る。警戒して歩いていかなければ。




 ザクザクと木の葉を踏む音だけが小鳥の声、虫の声一つとない不気味な樹海に響く。周りをしっかり観察しなが歩いているので、歩行スピードは比較的ゆっくりだ。

 もちろん急いではいるのだが、この怪しい樹海で余計な面倒を起こして時間をとる方が時間がもったいない。なので丁寧に探索を続けている。


「……音がしたな」


 確信を持って呟いたのは自身の感覚が信じられるほどに研ぎ澄まされたということ。訓練の結果が出ていて少しだけ嬉しいが、いまは音のなった方へ進むことに集中する。その方向は道は獣道ですらなく、草木が生い茂っている。


 グチャり……ぺちゃり……という音が近づくにつれて大きくなっていく。気配を遮断しながら音の原因を考えるが、聞こえる限りいい予感はしない。


(魔物が魔物を捕食しているってのが、可能性として一番大きいが、どうにも嫌な予感がするな。アルト達が魔物に遅れをとることはないと思うが……)


 魔物が魔物を捕食することは当たり前のように考えられている。この世界では動物が捕食するのと同じようなことらしい。

 だが、感じる気配はライガーと対面した時の竜人のような雰囲気。しかし気配探知が使えないので確信は持てない。

竜人に関しては少ししか知らないが、魔物を生で食べるような人間ははどこを探してもいないだろう。


(とりあえず武装しておくか。っとそうだ。ソラとファラ起きてくれ)

(……お主今どこにおるのじゃ?)

(ひゅーっと飛んで竜人の里にむかったのでは?)


 鈍く輝く刀を魔法陣から取り出しておいて、ソラとファラにもすぐに召喚に応じてもらえるような準備を伝える。

 二人は寝ていたのか眠そうな声だ。睡眠が必要ないと言っていたはずなんだが、強りがりだったのだろうか。


(まぁ、色々あってな)

(うぬぅ、ずいぶん強固な結界の中におるんじゃのぉ。普通なら魔法すら使えない場所じゃぞ。主殿達はレベルが高いから効果を受けんらしいがの)


(この霧の正体も、周りの樹林が発しているものです。霧により相手を惑わせた後、特殊な水滴を含んだごうっとした強い風を発して転移させる。マスター達がバラバラになったのはこれが原因でしょう)


(ちなみにじゃが、これが転移石の素材となっている液体が発せられる樹じゃぞ。それとこの場所では転移が使えないので注意が必要じゃ)


「…………おう」


 いきなりすごい勢いで語られたのでなにも返せなかった俺である。聖霊たちはいつも寝ていたため気が付かなかったが、アルト並の知識を持ち合わせているのであったな。

 古来より生きてきたからなんやかんや、という自慢を二人がしていていた記憶がある。


(主殿、その先にいるものは我らでも分からぬ。いつでも呼んでたもう)

(すばっと飛んでいきますよ)

(そうしてもらえると助かる)


 そして再び意識の全て音の方に向けて集中する。

 断続的に聞こえる音は間違いなく咀嚼している音。噛みちぎってぶちり、とした暴力的な音もその状況の生々しさを伝えてくる。


(この先は開けてるな。そこら辺に隠れた方が良さそうだ)


 音をたてないように木の影に身を隠す。暗いのでよくわからなかったが、奥は開けていて、謎の黒い影の塊が見えた。おそらくあれが音の正体だろう。


 影からはぐちゃぐちゃと顔を上げて噛んで、ごきゅりと音を立てて飲み込み、キョロキョロと周りを見渡し後、もう一度黒い塊に口をつけて食事初めていた。明らかに捕食のお時間であった。

 まだこちらには気がついていないようだが、形が良くわからない。誰が捕食しているのか、特徴を見るために近づこうとしてふみだすと、その踏み出した足からぐにゃりとした気持ちの悪い感覚が起こった後に、ずぷぷぷと沈んでいく感覚。そしてそれはすぐに収まった。


「プニィィィ?!」 

「……え?」


 その声に頭が真っ白になった。その声は踏み出した足から発せられるものであり、足元を見れば虹色に輝くゲル状の物質。そしてそれが足首を完全に覆っている。触れても濡れた感覚はない。


「プニィ……!」

「何お前」


 ぴりぴりとした雰囲気が完全に吹っ飛ぶ。ゲル状の物質はもぞもぞと俺の足元をよじ登るようにして挙句の果てに俺の胴体にまで登ってきた。体の大きさは両腕で抱えられる程である。


「プニプニ! ニプー!」

「いや、分かんねぇよ」


 思いっきり叫びながら俺の胴体をぐるんぐるんと回るゲル状のスライムもどき……おそらく魔物であるが、異世界で初めてのスライムとの対面である。水色のやつならアニメ等で知っていたが、虹色に光るそれは見たこともない。

 それにしてもこいつは俺に対して攻撃しているのだろうか?全くダメージを受けた感覚がないんだが。


 と、ここで飢えた狼のような威圧感が背中から襲いかかってくる。

 まるで、獣人界にいた時に対面した合成獣(キメラ)のような圧力だ。


「……そりゃ聞こえるよな」

「プニー?」


 案の定こちらの位置がバレてしまった。しかも、こちらへ向けられるのは殺意ではなく、純粋な食欲であった。やはりこれも獣人界で感じた時のようなそれと似ている。


「おい、虹色スライム。お前を殺すのは後にしてやる。その代わり……離れるか、このまま俺にしっかり掴まっているか後で俺に殺されるか、0.2秒以内に選べ」

「ギヤァアアアアアアアアアア!!」


 身のけもよだつ叫び声が聞こえた途端に大きな羽を広げて、恐ろしいまでのスピードでこちらに向かってくる。それは、血濡れこそしているものの、間違いなく竜人そのものであった。食べていたのはよく見えなかった。


「時間切れだ。あとで殺す」

「プニー♪」


 虹色スライムはどこかうれしげだか、放っておく。

 このまま戦うと虹色スライムが原因でどんな悪いことが起こるかわかったもんじゃない。例えば重みで動きが遅れたりとかな。逃げるに限る。

 こいつのせいで見つかったのだから、ぶん投げて餌にしてもらう手もあるが、擽る魔法が魔物に効くのかどうかはまだ試していないので、この機会に実験するのが良いだろう。

 なお、ソラとファラに使ったところ、抱腹絶倒という四字熟語そのものであり、二度とふざけたことはしない。と約束してもらった。どうやらいまでもいろいろな部位が筋肉痛であるらしいが、色々あいつらのせいで迷惑したので知ったことではない。


「まぁ、竜人にきくかどうかだなっ」

「ギャアアアアアッッ!!」


 全力で竜人から逃げるとともに擽る魔法を当てていく。樹海なので本来の速さは得られないが、逃げるスピードには十分だ。

 獣道――という名の人が通ったような道に戻るとそこから道なりに走る。

 走っている最中に飛びながら追いかけてくる竜人に向かって擽る魔法を当てると、謎の ぽわーん という効果音が聞こえる。これは魔法が相手に当たったことを教えてくれるものだが


「キャャァァァッッ!!」

「やっぱ効かないか、痛みも感じてないようだし感覚自体が鈍ってるのか?」

「プニープニー」


 相手は樹海の木々を頭突きや体当たりでなぎ倒しながらスピードを緩めず、痛みに対して鈍感であると予測する。

 いまの気分は某探検家が転がってくる大岩から逃げている気分だ。

 それにしてもこの虹色スライムは何がやりたいのかわならない。俺の胸の辺りでくっ付いていて、体表の色を赤、青、黄、緑、赤……と変更しながら発光して、まるで床屋のサインポールのように、流れるように分けながら色を変えている。応援してるのかよこれ。


「ギャアアアアアッ!」

「っと、追いつけないと考える程度には頭が回るか」


 飛んできた物体を交わすために大きく道を逸らす。次は木をなぎ倒すだけではなく、そのなぎ倒した木を投げつけてくる。何とかして俺の動きを止めようと必死なのは分かる。だが、遅い。


「プニプニプ!!」

(ああもう!やかましいのじゃ!!主殿は、我らの、主殿なのじゃ!! )

(いい加減にしないとぼっこですよ?!)

「プニニニニ……!!」

「この時になってお前らは何を話してるんだよ……ソラ、ファラ。アルト達を見つけられるか?」

(こやつに隙を見せるのは悔しいが、いまの我らも同じ状況なのじゃ。気配探知が使えなくての……)

(ぺこり、すみませんマスター。ただ、この虹色くんには然るべき魔法を与えてやってください)


 こんな会話をしているが、いまは逃げている最中である。木々も弾幕のように飛んでくるので、結果的にこの竜人らしきものは貴重な木を折りまくっている。

 転移石を作る会社と社会には品不足になるのだろうか? 俺は悪くない。悪いのはこの七色スライムだ。


(そんな事考えている場合じゃないのじゃ! 正面は行き止まりじゃぞ!)

(マスター!空中をぴょんぴょんしてください!)

「ちょうどいいとこに壁があったなっ」


 一度壁をタッチしてから一気に空へと駆ける。そこから発動した魔法はその壁からすり鉢状の尖った土の刺が生えて攻撃となる魔法であり、それが竜人に向かって猛襲する。


「ギがァぁァァッ!!」


 ドゴドコ!!と炸裂音と共に見事にヒット。耐久力はそこまで無いらしく、激しく何かをまき散らしながら竜人もどきは進んでいた方向とは真逆の方向へ木々をバコバコと破壊しながら吹っ飛んでいく。俺は悪くない。


 壁というか崖を登りきった後、追ってこないことを確認してやっと一息つける。


「はぁぁ……ってなかなか酷いな」

(主殿が通ってきた道がはっきり分かるのぉ)

(パシャってチャリで来たってやりたいですね)

「ほんとに余計なところまで知ってるなお前ら」

「プニニニニ……」


 通ってきた道が全て木々がなぎ倒されているために、高いところから見ると大文字焼きの場所のように木が生えていないのだ。砂埃もたっているし、明らかに事件として対処されてもおかしくないレベルである。なにやらこの虹色スライムが悔しそうにしているが、何をこいつは考えてるんだろうか。ちょっと二人に聞いてみるか。


(なぁ、こいつ一体なんなんだ?)

(ここまで色が――というか他属性を持ち合わせているのは珍しいのじゃが、所詮スライムじゃな。ただのスライムじゃ)

(ええ。所詮ぷよぷよです)

「プー! プニプニー!」


 なにやら混ざった虹色になったこいつには不満がありそうだが、この世界ではスライムはゴブリンに並ぶほどの初心者向けの魔物とされている。というわけでおそらく魔物としてのランクはFランクぐらいだろう。実験にはうってつけである。


「おーいっ!!」

「アルトか。良かった無事で」


 安心した表情で走ってくるのは、無傷で無事なアルトとレム。二人の無事な姿を見てこちらも安心だが、二人は俺のそばに近寄ると、肩を凝視している。なんかあったか――


「え、ユウどうしたのそのスライムっ……!!」

「かわいい……ですっ……!!」

「プニーン!」


 ぼちゃりと地面に落ちるとゲル状の体が次はピンクに染まる。照れてるのかよこいつ。ていうか感情あるのかよ……


(アルトとレムの可愛さの判定が分からないのじゃ……)

(ぷよぷよでしかないのに……)

「同意見だ」


 ギャォォっという声が遠くから聞こえる。どうやらしっかりと送り出したワイバーンは仕事をしてくれたらしい。


「プニー」

「こいつどうしようか」


 謎の人気を得た虹色スライム……いまは全身ピンクだが、殺すに殺せなくなっていた。


高覧感謝です♪

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