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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
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ゆっくりとした時間

 ゆったりとした時間の中での買い物は柄の悪そうな人にも絡まれることはなく、笑いながら過ごせたと思う。

 ちなみに今日は雑貨屋、服屋、飲食店。そして損傷した装備の修理を依頼するために鍛冶屋に向かった。

 幸せな時間は過ぎるのが早いもので、時刻は午後十一時であたりは真っ暗であるこの頃。いまは学園への帰路についている。

 話しながら帰ろうということで、お金を払って馬車での帰宅となっている。転移魔法で一気に帰るのもあじけないもんな。

 また、今回の買い物により時間がはっきりと分かるようになった。懐中時計を買ったのだ。


「ふふ……おそろい……です」

「ボクもこれ気に入ったなぁ……

「懐中時計なんて初めて実物で見たよ」


 それぞれが思いを馳せながら懐中時計を眺める。ちなみに各々の懐中時計の蓋の裏には単語が彫ってあり、それぞれの蓋の裏の単語は別々のになっている。そしてそれは三人全員がいれば読めるというロマンチックな作りとなっているのだ。

 ちなみに考案したのはアルトだ。見ているだけであったとはいえ恥ずかしかったが。


「……これで、ボク達ずっと一緒だね」

「はいっ……ずっと一緒です」

「もう喧嘩は懲り懲りだな」

「ユウ、そこは空気読も? 俺もだぜって言うとこだよね?」

「恥ずかしくて言えるかよ」


 笑いながら答えたと同時に馬車が止まる。どうやら学園についたようだ。とっくに学生寮の消灯時刻は過ぎているのは内緒である。

 馬車はこちらに何も言わずに、俺達を下ろした後まっすぐ突き進んでいった。こちらが生徒だと気が付かなかったとは思えないが、何も言わないのはありがたい。


「さ、転移魔法で送るぞ」


 実は寮は消灯時刻をすぎると鍵がかかってしまい、玄関からは入れなくなるのだ。入るにはわざわざ事務室に向かって先生に申し出なくてはいけない。エリート学校であるため、夜遊びしている人はそれ相応の対処をするということだろう。


「うん! 今日は楽しかったよ!」

「すごく……楽しかったです」

「ああ。またふらふらしような。お休み」

「お休みっ!」

「おやすみなさい……です」


 片手で手を振りながら転移魔法により彼女達を寮の中へと送る。流石に女子寮は入ったことがないので送り先は食堂である。

 これから先はいつも通り訓練である。出掛けていたので少々疲れたが、訓練はしっかりと効果があることを実感しているので休むのは自身のプライドが許せない。


(ずいぶん楽しんだようじゃの)

(我らもゆっくりさせて頂きましたけどね)

(なはは! まぁの! 主殿の魔力で回復しつつまんがを読んでいたからの!)

(ごろごろ生活にはまんがは欠かせませんね。戦闘にも使えそうな技もあり、とても有意義な時間でした)


 突然に頭に響く二つの声は言わずともしれた二人の聖霊。どうやら記憶の書庫?というものから漫画を読み漁っていたらしい。俺の記憶がなくなるわけではないので別に構いはしないが、二人は一度も声をかけてこなかったので、存在をやや忘れていた。


「それだけゴロゴロ出来たのだから、体力は回復出来ただろ?」

(当然じゃ。いつも通り訓練を始めるんじゃな? えーと今日は……戦闘系の訓練じゃったかの)

(ははは、今日もぼっこぼっこにしてやります)


 聖霊が仲間になってからというもの、訓練の質が上がった。一人でやる訓練よりかなりの能力向上になっているので、やはりそのような意味でも聖霊が仲間になって良かったと思う。

 訓練は一日ずつ分けていて、戦闘系と魔法系に分けている。戦闘系は身体を使って回避などの動きを向上させる訓練であり、魔法系は魔法纏などのクオリティを上げるための訓練である。



「さ、行くぞ」


 転移魔法により、竜人の里前、それを経て魔界の中の俺が転生をした場所で魔法が止まる。竜人の里の前に来ていなかったらどれだけの間ここに来れなかったのだろうか……。因みに来れない場合であったときには、遠方の森林のような場所で始めるつもりであった。


「出てこいソラ、ファラ」


 ゆっくりと光が固まって顕現される二人は相変わらずにやけている。先ほどぼっこぼっこにするとは言っていたが、彼女達も訓練には全力ではないため、そこまで痛めつけられることは無い。


「なはは、さて、今日も最初はいつものアレじゃな?」

「ああ。だが今日は少々力を強めてくれ」

「にやり、分かりました」


 更に深い笑みを浮かべた後、二人はシュンっと忍者のように左右に大きく距離をとると、洞窟全体に磁力魔法をかける。これにより下への引力がかかるようになった。


「ファラ、固定化が完了したのじゃ」

「こちらもぴしっと安定しています。想具の魔力の装填は充分ですか?」

「バッチリなのじゃ。あとは主殿の準備待ちじゃな」


 ただ単に魔力を湖に向かって放出する。この目的は魔力0である場合の戦闘を仮定するためだ。

 魔力がほぼ0であるときは、目眩、気分の悪さなどが伴う。この状態で戦闘をしなくてはいけない場面もあるかもしれない。そのため、魔力のない状況を作り出すため、魔力を放出しているのだ。

 また、現魔王への対策、そして自身の身体能力を上げるためなので、魔力による身体強化も気功術による強化もなしだ。現魔王は魔法を奪うことが可能であるため、何らかの原因によりスキルが封印される可能性もあるからな。


「……さて、やるか」

「最初と比べて顔色はマシになってきたの。魔力のない世界で住んできたからなのじゃな?」

「すぅ…………始めてくれ」

「なはは、答えるのは後でということじゃな!主殿っ!」

「なら、遠慮なくばんばんいきますよ。マスター!」


 声を高らかに発すると共に、いくつもの魔力の銃弾が想具から大きな音を発して俺へと向かってくる。

 彼女達の気遣いにより体を貫通するほど威力はないが、当たったらめちゃくちゃ痛い。


「ふぅ……っ!」


 集中力を高め、目を瞑りつつ回避行動を開始する。

 最近は慣れてきたので目視ではなく、風の流れ、音、などのすべての感覚で攻撃を感じ取って避けることを練習している。最初は難しく被弾しかしなかったが、だいぶ慣れてきた。


 キュイン!キュィン!と身体のすぐそばを音速と同程度のスピードを持ったの弾丸が通る。避けているのが不思議なくらいだが、避けることが出来るのでそれ以上考えるのは無駄であろう。

 邪魔な考えを捨てて暗闇の外から飛んでくる弾丸を避けづづける。弾丸は数手先まで把握しておかなければ身体の動きが間に合わないのでより神経を使う。これが身になることを祈るばかりだ。




 しばらく経つと弾丸の雨がおさまり、声をかけられる。その声に含まれているのは感嘆であった。


「おうおう、だいぶ慣れてきたの! 最初では我らのパンチですら回避できなかったのじゃがな!」

「なら我らも移動しながらばんばん撃って差しあげることにしましょう!」

「……!!」


 訓練は次のステップへ。次は360°不特定の場所から放たれる弾丸をひたすら回避していくというもの。ただでさえ彼女達は動きが凄まじく速いので、規則的に回られても全方向から銃弾が来るのとあまり変わりがないがない。


「っぅ……!流石に見ないときついな」


 銃弾が太ももを掠める。いつもは動きを見て回避するのだが、いずれこれも見ないで回避できるようになりたいので、できる限り見ないで回避に専念する。

 また、ずらす ことの出来ない素手では限界を感じたため、刀を取り出しつつ、更には目を瞑りつつ回避できない攻撃をいなす。

 さらにこれは身体にあたっても痛みにより行動を中断しないための訓練でもある。地味なようで大事な我慢のポイントだ。


 ひたすら回避、撃墜、回避。

 以前はアルトの剣戟に追いつけていない部分も多々あった。なのでこの訓練には特に力を入れておきたいものだ。




 そうして永遠にも思える時間であったこの嵐が突然ピタリ、と止まる。



「ふぅ……ソラ、そろそろこれは止め時かの? まだ先があるわけじゃし、魔力を使い切るには早いのじゃ」

「そうですねファラ。こちらがカラカラになっては前途多難ですね」

「はぁ……はぁ……きっついな……」


 目を開けてみると、ソラとファラがこちらに向かって歩いてきた。どうやら回避訓練は終わりのようで、想具を光として消してしまった。いちど休憩のため、二人も魔法陣に戻して魔力を回復させる。

 体魔変換しなければ彼女らの魔力は回復はできないため、それを行って二人を魔法陣に戻す。


(ぬぬぅ……それにしても魔力無しでここまでもう動けるとはの)

(本当にカラカラなのでしょうか?)

「そうじゃなきゃ……意味無いだろ?」


 魔法陣からタオルを取りつつ座り込み、汗が凄くなっている体を拭く。筋肉もだいぶついてきたので目指せ細マッチョってところだな。


 飲み物を魔法陣から取り出して一気に流し込み、水分補給を終えると、時間を無駄にしないためにさっさと召喚する。


「?! 早いのじゃ!」

「もう、やるんですか?」

「ああ。できる限り時間は有効に使いたいもんでな。付き合ってもらうぞ?」


 突然召喚されたため驚きを表す二人だが、どこか覚悟は出来ていたようで、やれやれと言いながらも次のステップの準備を始める。


 二人は少し離れるとタンタンとステップを取りつつ、何も無い空間に、ボクシングのジャブを繰り出す。どうやら漫画に影響を受けたらしい。そんなわけで今から行うのは格闘の模擬戦である。


「うぬぬ……なかなかやりずらいのぉ」

「ぐいっと捻ってぐりっと打つんですね。分かりました。そのための左ですね」

「こっちは準備完了だ。そっちはいいか?」

「バッチリなのじゃ。時間は我らが把握しておるので任せよ。まぁ、すぐやられる主殿ならすぐ終わりでいいかもしれぬが」

「いつも通り遠慮せずにガンガン来てください。もっとも、マスターが我らに攻撃を当てられるとは思いませんがね」


 模擬戦になると挑発をしてくる二人。ここまでいつも通りだ。もちろんこのまま二体一で戦う。

 気功術も、魔法纏も纏わないので、いまの状態ではどちらにも99.9%勝てないだろう。だが、あくまで俺の予測だ。0.1%でも勝てる可能性はあるのだから、これに掛ける。


「約束は覚えてるな?」

「なはは、主殿を名前で呼べということじゃろ?」

「まず我らに一撃を与えることからですね。ばっちこいです」

「はぁ、じゃ――行くぞ!」

「「かかってくるがよい!」」


 これが模擬戦開始の合図だ。相手は手を抜いてくれるものの普通に顔や急所を二人で分けて狙ってくるので、模擬戦ってレベルではない。真面目にやらなければ再起不能になってしまうため、全力で戦うのだ。


「名前で……呼びやがれぇぇ!!」



 ~~~~~~


「えー、このため竜人は人間の関係はほぼ決まったのです。やはり、竜人様は偉大な存在でありますね」

(寝るのではないぞ。主殿)

(つまらないのは分かりますが、ぐーぐーだめです)

「…………」

「ゆう……? ねぶそくですか?」

「眠いだけだよ」

「Zzz……」



 いつも授業中はある程度板書をとってから寝ている。というか、寝ようとしている。アルトはもういつも通りだ。

 テストがあるのかどうだかは分からないが、ある程度理解しているので大丈夫だろう。

 ただ、少々心配なのが、シーナを最近まったく見ないことだ。今日なんてリンクスや、ミリュが授業を受けているのに、彼女はどこにも見当たらない。彼女は一体何を抱えているんだろうか?


 と、ふと思いにふけっていると急に教室がざわつき始めた。先生の話によるものだとは思うが、ほとんど聞き流していたため気が付かなかった。


「えー、そういうわけで、こちらが選んだ優秀な生徒は、竜人の聖域に入ることが出来るのです!」

「まじか!?」「うそっ……!?」「俺は知ってたぜ!」


 竜人の里について説明していたらしい。そういえば学園祭の時にテュエルが「竜人の里が~~」とか言っていた記憶がある。その後の方が大変だったが、結果的に仲良くなれたので良い結果に進んだといえる。


「もう少し声を小さくしてくださいね。竜人の里に入る条件は優秀な生徒であること。なので、近々テストを行います」

「「ええ?!」」


 どうやら選出するためにテストを行うらしい。俺達はどっちにしろ行くので、ほかの生徒のように緊張を覚える必要はなさそうだ。


「緊張……します」

「大丈夫だ。行きたいなら俺達に付いてくればいいからな」

「ワタシ頑張り……ます!!」


 ここの付いてくるは、学力的に付いていくではなく、

 実際に付いていくことだ。どうやらレムは勘違いしたらしいが、勉学に励むことは良いことなので暖かく見守っておこう。

 俺はやる気がない。異世界のテストは若干気になるところもあるが、やる気がない。


「うへへー……二人ともまてー……」

「……こいつもやる気がなさそうだな」


 ぐっすりと熟睡しているアルトを見て頬が緩んでしまう俺であった。


遅ればっかりでごめんなさい!

高覧感謝です♪

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