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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
133/300

バックファイア理論

「うーん。誰だっけ?」

「え……えっと、Sランカーのマリ?」

「わ……怖い人……です」

「バンリだ!! わざと間違えているのか苗字無しのアルト!」


 怒ったようすでこちらに向かってこようとするバンリの両肩を後ろから誰かが引き止める。レムはこの隙にアルトの側へと移動した。やはり人間は怖いようだ。


「なにするんだ!」

「まぁまぁ落ち着いて」

「落ち着くっすよバンリさん」


 そういって彼の背中を追い越していくのは二人の男女。男性の方は坊主頭であるが、至って普通の服を着ており、女性の方もショートヘアで普通の服を着ている。特に変わったところは見受けられない。唯一点を上げるとすれば、体格や魔力が秀でているとは思えない二人が、彼の行動を押さえていることだ。


「なんで止める!」

「いや普通止めるっすよ」

「バンリ、あなたまたカッとなって動いてるわよ?」

「……すまない」


 そういって足をゆっくりと戻す彼は反省したように表情を作る。しかしキレられたこちらには何もなしだ。なんだこいつ。


「で、何の用でこちらに来たんですか?」

()達はゆっくりしていただけけなんですが、人間の貴方達はそれを邪魔しに来たの?」


 アルトの口調そして目付きは、以前の喧嘩?をしていた時のその物であった。冷酷で暗い目付きはやはりいつ見ても怖い。これの対象が俺でなくて良かったと心から思う。


「なぁ、その口調やめてくれないか?」

「嫌」

「この女っ……!」

「おい、アルトに手を出すなら俺も相応の対処はするが?」


 Sランカーとはいえ、彼女が遅れをとるようには思えないが、ある程度加減をして威圧する。威圧のスキルはないが、攻撃的な意思を含めた無害な魔力を放射することにより威圧のスキルと同じようなことが出来る。


「っ?!」


 そのようすに驚いたのか、足を一歩後退されると後ろから思いもよらぬ攻撃が飛んでくる。

 しかし対象は俺達ではなく、バンリに向けて げんこつ が飛んできた。


「ってぇ! 何をするんだ!」

「またそうやってすぐ怒る!」

「だめっすよ。バンリさんは冷静になればデキる男なんっすから頭を冷やしてくださいっす」


 げんこつはショートヘアの女性から放たれたもの。

 しかし、女性であること、なおかつ明らかに彼より弱そうであるのに、彼は反撃をする様子は全く感じられない。明らかにアルトとは違う対応である。


「くっ……だがこいつは……俺の事を――」

「はぁぁ、全く何なんだお前はさっきから。何の用があって話しかける?」

「黙れナミカゼ――って……違う?」


 今まで頭に血が上っていて気が付かなかったのか、俺の髪を凝視してずいと顔を寄せる。こちらとしめも男に顔を寄せられるのは気分が良くないため、腕をつっぱり棒代わりにして彼の肩に当てて接近を抑える。


「髪色が黒く……ない?」

「いきなり近寄ってくんな」


 彼を押し切って引き離すと、それと同時にアルトとレムがさらに嫌悪感を強くする。馴れ馴れしいと感じたのは俺だけではないようだ。


「人間、いきなりユウに飛びかかるってどういうことなの? 宣戦布告?」

「あやしい人……です」

「僕は勘違いしていたのか? てっきりこいつがナミカゼなのかと……」


 どうやら彼にとっては髪色が俺と判断できる唯一の材料であるらしい。今の俺は変幻魔法を使用しているため、彼は判断を誤ったようだ。それほど髪色重く視点を置かれるなら、黒髪のまま生活することはあまり褒められるものではないようだ。そもそもこの世界において黒髪がどのような立ち位置に置かれているのか不明であったな。


「ほら、謝るっすよ。勘違いしたんすから」

「くっ、こいつには謝りたくないんだが……」

「わがまま言わないの」


 そういって再びショートヘアの女性がバンリの頭を無理やり下げさせる。この時にも彼は文句入ったものの、反抗する事はなくスムーズに謝罪というシーンが終わった。こいつらは一体何者なんだろうか。ほんとに怪しい人達だな。


「えっと、すみませんね。ウチのリーダーが」

「まだまだ成長中っすから暖かい目で見守って欲しいっす」

「おい!この男のランクが分からないとはいえ、こいつら全員Fランカーだぞ?!なんで僕が見守られなきゃならない!」


 そうするとじっと、こちら見つめてくる男女二人。しかし、薄ら笑顔を浮かべているもののどうにも見つめ方が怪しい。もしかしたらこいつらはレムとアルトを狙っているのじゃないだろうか。

 これ以上見つめられるのは流石に何か別の意図があると思い、彼らに話しかけようとするとやっと視線をそらす。体感では七秒ほと見つめられていた気がする。体感なので正確ではないが、それほど長かった気がする。


「……では、私達は帰らせていただきますね」

「ブレイク中失礼しましたっす」

「っておい?! 帰るのか?! お前らが上から怪しい気配を感じるって言ったんだろ?!」

 

 用件も言わず、そしてこいつらが上に来た目的も話さずに彼らは背中を向けて扉の元へ歩いていく。

 怪しい気配を感じるっていうのが気になるが、俺は気配遮断をしているし、アルトもレムもだって隠しているらしいので、魔族や、獣人とバレるとは思えない。


 二人はバンリにも俺達の問にも答えることはなく、出口の扉に手をかけた瞬間


「ああ、そうだ。こっちに来た用件がありましたっすね」


 彼らが振り向くと、どろどろとした殺気に、それを発しているものとは思えない表情でこちらに語りかけてくる。このようすならいつ戦闘が始まってもおかしくない雰囲気だ。


「まず、ナミカゼ ユウ さんに伝えてほしいんっすけど、()()()()とこれ以上関わるなら、それ相応の対処が待っていることを忘れるな。ということを伝えて欲しいっす」

「また、その人の知り合いである、人類の敵、魔王にも伝えて欲しいんだけど、これ以上人間界にいるなら勇者サンガに滅ぼされるって事を伝えて欲しいな」


 ニコッと笑みを二人は浮かべるが、こちらは驚きの表情を隠すので精一杯である。こいつらは、俺達の正体を見抜いているのか……!?


「……お、前ら? こいつがナミカゼの事を知っている証拠はないだろ? それにナミカゼが魔王の知り合いってどういうことだ?」

「魔族の王と何らかのつながりがある、という噂すっよ! それとなんか知ってる雰囲気がしたっす! それだけっす!」

「もし知っているならよろしく伝えてね?」


 ショートヘアの女性がこちらにウインクを送って扉から出ていくとそれに続いて男声二人も消えていく

 その後、街の喧騒が僅かに聞こえる程度の静寂が訪れる。





「……とりあえず他に注文したいのはあるか?」

「なら、これが食べたい……です」


 そう言ってレムが指さしたのは、またもや卵パンであった。そんなに好きなものであるならストックしておいてもいいかもしれない。


「アルト、そんな考え込んだ表情してどうした?」

「えっと……ボクの正体がバレてるなら、逃げた方がいかなって……思って……」

「気にすんな。バレてるのは気のせいだ。後、あいつらが言ったが、俺とアルトが知り合い程度の関係性しかないって情報からして間違ってるしな」


 なんか自ら地雷を踏みに行ったが気にしてはいけない。痛みを別の痛みで紛らわせるバックファイア理論でどうにかなるだろう。


「……え?」

「……やっぱこれも気にしないでくれ」

「ふふ、ゆうはあるとの事……いっぱいすき……。ゆうもあるともワタシの事すき……だよね?」


 レムは笑顔を浮かべながら自分も一員であることをもう一度確認するべく、このような質問をする。この答えはその裏に含まれた意味を知らなくても一つだ。


「勿論さっきも言ったが大好きだよ」

「そそ、そうだよ! レムも大好きだよ!」


 レムの追撃もあって、アルトは再び顔を赤く染める。

 ちなみにバックファイア理論は正しい対処の仕方ではない。一時しのぎになる確率も高いが、その後に大きなお返しが回ってくる場合が多い。例えばお腹が痛い友人に対して腹パンすると倍になって帰ってくる場合があり――


「だから……ワタシともちゅー……しよ?」

「ってレム?! ちょっと待って?!」

「顔がかなり赤いぞ。一回落ち着けレム」


 このように、事態は悪化する場合が多い。なぜそこまでキスという行為に興味を持っているのかは分からないが、こんな人前でなおかつ子供にキスするのは教育上良くないと俺は思う。


「落ち着きも兼ねて、一回話変えるか」

「ワタシのこと……キライ……なんですか……」

「違うんだよ!? あのあの……ね! キスすると子供ができちゃうから――」

「ついさっきゆうが違うっていったです。それにゆうもあるともワタシ達の目の前でしてた……」


 なんとも痛いところを突かれてしまった。子供ができちゃうからダメという理由は使えないし、しないという手立てを取っても彼女を傷つける事になるだろう。

 涙目で話すレムをみてアルトはさらに慌てて、俺は急いで対処法を考える。


 やはりバックファイア理論は使う場所をじっくり考えた方がいいな……。



 ~~~~~~


 屋上から降りてきたバンリとその仲間の三人は、依頼の準備をするために手分けをして道具を買いに向かっていた。彼は一人であったが、男女二人は一緒に居た。


 しかし二人組の所在地は場所は道具屋ではなく、ギルドの隅に寄りかかっていた。


「それにしても、あれがナミカゼ ユウね。姫と同じ召喚士とはいえ威圧感がなさすぎるわね」

「アルト=サタンニアもたいした事なさそうっすね。所詮勇者のライバルってとこっすかね。そもそもレオ様を傷つける実力は見れなかったっすけどね」


 彼らは耳にかかっている 透明な何か のスイッチを切ると、透明化が解けた眼鏡が出現する。


「それにしても、この眼鏡すごいっすね。本当に何でもわかるなんてびっくりっすよ」

「変幻魔法をかけていたようだけど、全くの無駄だったね」


 持っていたものを懐にしまうと、ニヤニヤしながら観察結果に対する感想を述べ始める。その内容はどれも夕達を侮るものであった。


「それにしてもバンリ、っていうSランカーも微妙なところっすね」

「あんな簡単な儲け話に引っかかるなんてね。姫様があんな腑抜けた男を見たらどう思うことか……」

「想像に難いっすね――お、きたっすよ」


 ギルドに入ってくるのは平均的な服装をした男性。ギルド側からすれば依頼人だと考え不審者だと思うことは無い。なのでここには一般人も気軽に入れることが出来るのだ。


 男性は迷うこともなく二人の目の前に立つと、手を差しのべる。彼は同じ仲間の諜報員であった。


「この眼鏡を渡せばおっけいっすね?」

「ああ。いくら姫様でもこれだけ完璧にやれば文句はないはずだ」

「その言葉、信じるわ」


 そういって眼鏡を渡すと、彼は持ち合わせていた眼鏡ケースに入れて早々に立ち去っていく。そのようすをみて安堵したように二人は胸をなで下ろす。


「さて、これで一つ目のナミカゼユウに関する情報を収集するミッションは終了っすね」

「次は絶対にバレないように監視すること。こっちがメインだわ」


 そういって二人はなにかの箱を取り出して中身を取り出すと、目に入れる。それはコンタクトレンズのようなものだった。


「バンリってやつには悪いっすけど、記憶操作の魔法で幼なじみって事で行くっすよ。あいつナミカゼユウをしっている感じだし」

「まぁ、姫様の計画の前では同士以外存在しててもしなくても意味無いってよく先輩に言われてたしね。しっかりやるとしましょ」

「――っと、悲劇のヒーローが来たっすよ」


 買い物を終えたバンリはゆっくりと二人に歩み寄る。二人の裏の顔を知らず、操作された記憶の元に信頼を寄せ続けている。記憶操作の魔法は、違和感が大きくなると解けてしまうため、このようにして仲の良い記憶を作っていくのも大切である。


「ん? なんかいいことあったか、二人共」

「特に何もないっすよ! さぁさ早速依頼に行こうっす!」

「いえーい!」


 ~~~~~~


「凄く……はずか……しい……です……」

「これで良かったんだよね?」

「多分な……」


 結局の所、キスは二人で片方ずつレムのほっぺたにすることにした。我慢してもらえばよかったが、結果的に彼女は幸せそうなので良かったと思う。今のところ全員の顔が赤くなっている。

 ほっぺたの感触が柔らかすぎて煩悩が生まれそうであったが、必死で押さえ込んだ。ロリコンではない。


「ゆう……あると……ありがとうです……」

「こういうのは人前でやっちゃダメだからな?」

()()もすごい恥ずかしい……こんなこと長い間生きてて無かったのに……」


 今のところ全員が恥ずかしがっているので話をふるものがいない。その時に、俺がアルトに聞きたいことがあったのを思い出す。


「そうだ、アルト。俺の気のせいかもしれないが、一人称のイントネーション……というか発音が若干違くなってないか?」

「いんとねーしょん? ……それがなにか分かんないけど、この発音が気に入らなかったり……する?」

「いやいや、そんな事は無い。寧ろこっちの方が女の子っぽくて可愛いと思うぞ」


 アルトの昔の()という発音はどこか義務的な発音であった気がしたのだ。もちろんあくまでも気がした、程度であり、一回聞いたぐらいては気が付かないと思う。変化後は大きく抑揚がついた、といった感じであるわ


「ワタシも……そう思います!」

「……ユウ、レム、ありがと。ボク自身も落ち着きたいから、ちょっと落ちついた話をするね」


 そう言って彼女は一度深呼吸をした後、目を閉じてすぐにぱっと開くとゆっくりと語り出した。その内容は彼女の過去にまつわるものであった。


「ボクは魔王の次女として生まれた。魔王の家の子供にもしきたりがあってね、子供は全員男でなくちゃダメなんだ。女って性別がわかった時点で、普通はそのまま殺されちゃうの。魔界は常に強いひとがトップにいなきゃダメだから」


 彼女はお城の方を向きながら、思い出すようにぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。その姿の彼女は、先程のように 慌てているようすは まったく見えず冷製に、そしてどこか懐かしい雰囲気を感じさせた。


「でもね、おとーさんはそれをしなかった。我が子を殺さなければいけないしきたりなんて、俺が変える! っていって、色んな反対を押し切ったんだ」

「かっこいい……です」

「でもね、そう簡単に周りが認めてくれなくてさ。男でなくては魔族の上に立つものが男でなくてはいけないっていう風潮があってね、なかなか魔族一人ですら認められてなくてさ、辛かったんだ。そこでおねーちゃんと相談したのが、ひたすら男になりきる、もしくは圧倒的な実力をつける。このどっちかをやってみようってことにしたんだ」

「それで、アルトはなりきることを選んだのか」


 長女ソプラノは圧倒的な実力をつけることを選び、アルトは男になりきることを選んだ。アルトは戦闘事も好きであるらしいが、無駄な虐殺は嫌いであるらしい。ここが、長女との真逆の点であった。


「でね、まずは一人称から変えよってさ。それでボクっていう言葉を選んだんだ。もし女の子に戻る機会があったらいいなって願いも込めて……ね。でも数年では大した反応ももらえなかったんだ。だからボクは、女の子をすてて、ボク、ということばを男の子らしく、抑揚をつけないで発言すること。さらに魔法を勉強して魔族のトップに立つ分にふさわしい実力をつけようと考えたんだ」

「それで……染み付いちゃった感じ……ですか?」

「何十年の間にいつの間にか、ね。あとあだ名をつけちゃったりするのは、事務的な仲をとる時に必要な技術でさ。ついついレムにもつかちゃったんだよね。でも、レムとはもっといい関係になりたいから最近使ってないんだよ?」

「確かに……最近言われてませんですっ」

「大好きな人なら、元々の自分で話したいから……」


 なるほどな。今までのは気を張って作っていた《僕》であり、いまは元々の気持ちを表した《ボク》ってことだろうか。やっと心を許してくれたという判断をしてくれて良いのだろうか?


「気を使わせちゃって悪かったな。俺は今のアルトが一番だから、気ままでいてくれると嬉しい」

「うんっ……!」


 今の席は横一列で左から俺、レム、アルトと詰め寄っているが、俺の手は距離感を考えずアルトの頭へと伸び、優しくなでる。今回撫でたってぐらいはいいよな?

 それを見てレムも真似て、アルトの頭を優しく撫でる。


「あるとはがんばった……です」

「レムも……ありがとう!」


 アルトは幸せそうなので笑顔でこちらに返してくれる。やはり彼女の笑顔はやはり格別に素敵だ。


「さて、そろそろサイバルを歩き回るとするか?」

「お買い物……です!」

「うん! そろそろボクも行きたくなってた! 早く行こっ」

「まずどこに行きたい?」


 行く先は決まってないが、今後の予定を笑いながら話し合い、屋上から抜け出る。

 このゆったりとした時間は何にも変え難く、幸せだ。

ここでの バックファイア理論


痛みを別の痛みにより打ち消すという暴挙

効果はイマイチ実感できません(体験談)


もともとの意味は


バックファイア効果(Backfire effect)

 

自分が信じるものを否定する証拠を突きつけられると、それを拒絶し、さらに盲信するようになる心理。

らしいです。※引用しました



投稿遅れてすみません!


追記 2015/09/01

2000字程度しかかけていないのでもう少し時間をいただきます…10時頃には投稿できると思います。申し訳ございません。


高覧感謝です♪

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