仲間を知るために
あの日から数日。色々な事が変わった。変わったといっても、変なヤツが目の前に現れることは無く、平和で何も無いような日々がやってくる。なお変わったのは彼女と周りの態度だけである。
「……もう朝か」
朝日が眩しくて何もかもが億劫なこの時間。恐らくいつも通りの時間に起きて、いつも通りに身支度を整える。卒業したなら寝れる場所ってどうすればいいんだろうか。家を買うとかか? ……まぁいいか。
どうでもいいことを考えながら外に出る準備を済ませると、図ったかのように脳内にズザザッと念話が入る着信音がする。昨日は寝坊しないように起こしてくれることをアルトとレムに頼んだので、モーニングコールをしてくれるのだ。しっかりとかけてもらえると人がいることにかなり幸福感を感じる。
(えっと……ユウ? 起きてるかな?)
(朝……ですよ!)
(おー。ありがとな二人とも。 今行く)
男子階を降りると、階段のすぐ脇に彼女がいた。だが昔とは違い、朝から顔を赤らめてこちらを真っ直ぐ見つめ返さずにそっぽを向き、もじもじとしている。これが彼女の変わった事だ。
「おはようアルト」
「お……おはよう!ユウ」
「またか。いつも言ってるが、素の態度で全く構わないぞ?」
「あ、あははー……」
「ゆう、おはようです」
「ああ。おはよう」
彼女は朝、俺を見るたびに緊張している。好きという感情のためなのか、それとも関係が変わったことの気まずさなのかは俺には分からない。どちらにせよこちらも恥ずかしくなってくるため早く慣れて欲しいものだ。
レムにしては何やら俺達への笑顔が増えた気がする。何かあったのだろうか?
「レム? なんかあったのか?」
「ゆうとあるとが仲が良くて嬉しい……です!」
「あ、あはは……」
今回はいつもより増して、食堂の周りに人は少なめである。理由としては連休という学生大喜びのイベントの初日であるからだ。
連休の過ごし方として、自宅へ帰る者、どこかに出かける者、はたまた勉強に費やす者も居るだろう。なので俺達はこの休日を利用して、各々のことを深く知る時間を設ける事にした。
レムの一件も然り、アルトの一件もまた然りで、お互いの理解が足りなかったことが原因で大事となってしまった。
そのため、このような事態を二度と起こさないようにこのような機会を少しずつ増やしていくことに決めた。
しかし現段階で決まっていることとは正直いってしまえばサイバルの街の散策である。それの食事時にゆっくり話せればいいという事で話は決まった。
また、シーナも誘ったが、外せない用事があるらしく、顔も見れなかった。
「ええっと、朝ごはんどうしよっか」
「ご飯がここでっていうのもなんかな」
「ワタシ……あのパンが食べたいです」
「パンって――ああ。あれか」
「あっ、分った! レムが初めて食べたあのパンね!」
「それ……です! あれが久しぶりに食べたい……です」
レムが初めて食べたパンとは、宿屋にて物質創造で創り出した卵パンである。どうやら彼女にとってはとても思い出の品であるらしい。これにより大食いのレムになったのかもしれないが、ここには首は突っ込まないでおこう。
「あれってどこに売ってるんだろうな」
「うーん、ギルドかな? あの闘技大会もギルド主催だし、売店もきっとギルド主催だと思うよ」
「行きたい……です!」
「ならギルドに行ってみるか。丁度野暮用もあるしな」
変幻魔法により髪色を変えるのでなく、外からは黒く見えないようにして魔法を自身にかける。これにより魔力の消費量が格段に減るのだ。
実はレムとのアルトもそうしていたようで、髪色を直接変えるのではなく、相手から見えないようにしているだけらしい。じつは隠しているだけと話してくれればよかったと思う。
そんなわけで、彼女達の変幻魔法は俺に対して無効化ということにしてくれたそうで、今見える光景はアルトの髪は灰黒色に、両目は赤と青のオッドアイに変わったのものの、羽は相変わらず見えない。(本人曰く羽はしまっているそうだ)、そしてレムはケモミミとフサフサとした尻尾が見られるようになった。
「こういうことは最初からいってくれよ……」
「ふふふ、知らなかったとは思わなかったんだよ」
「しってると……思ってました」
「まぁなんだ、やっぱり二人ともその姿の方がいいな」
少し照れてながら言い放ってしまったため、二人も何処か気恥ずかしそうな雰囲気を出し始める。なんか俺の発言はもうちょっとデリカシーさを考えた方が良いのかもしれない。
「とりあえず行こうか。転移魔法でギルド付近まで飛ぶとしよう」
「うん! そうだね!」
「ご飯……です!」
アルトの調子もレムの調子もだいぶ普通な状態に戻ってきたようだ。無駄な気遣いが無くなるため良かったといえる。
学生寮から出て人気のない場所に移動すると、すぐさま転移魔法を使う。この転移魔法が起動するまでの時間は、最初の頃と比べてかなり早くなったものの、戦闘中に離脱などのとっさの起動は不可能である。将来的には使えるようになりたいものだ。
ギルドに直接転移するとまた変な目で見られるため、そのギルドの近くにある鳥の方舟という懐かしい宿付近に転移することにした。昔はそこを拠点としたので少し懐かしさも感じる。
「ここからは歩いていくか」
「うん。ボクも賛成かな」
「空腹はすぱいす……? ですよね?」
「そうだな」
やはりこの数日間で彼女の一人称である 「僕」 のイントネーションが変わったような気がする。まぁどちらにせよ気にすることはないが、突っ込んでいいんだろうか? 地雷であったら踏みたくはないのだが。
歩きながらそんな事を考えていると、いつも通り黒髪だ、召喚士だ、と周りがざわつく事がなく、こちらに対して誰も嫌悪感を示していないことに気がついた。全く気が付かなかったが、黒髪って相当珍しいんじゃなかったのではないだろうか。
「二人とも。歩きながらで悪いが、黒髪ってこの世界ではどんな扱いなんだ?」
「人間の事はあまり分からないけど……不幸の象徴とかいわれてたりするね。ボクはこんな髪色だけど、気にしたことはないかな」
「この世界? この世界ってどういうこと……ですか?」
レムが無垢に疑問をぶつけてくる。そういえばレムに教えていなかったっけ。完全に盲点であった。
異邦人は嫌われたりするのかどうだか分からないが、あんまり言いふらしていい事でないのは確実だな。
「ユウ。本当にレムにも言ってなかったの?」
「……本当にお前だけしか教えてないよ」
「ふふふ……そっか」
「?」
「レムになら、言っていいよね?」
彼女は顔をほんのりピンクに染めながら見つめてくる。いろいろな出来事があったため、いつもよりドキドキしてしまうのば仕方ないはずだ。
話を戻すが、レムになら大丈夫だろうと思う。あまり長い時間見つめ合うといろんな人から不審に思われてしまうので早く返さないと。
「ああ。レムなら大丈夫だ」
「ならよかった! レム、ちょっと耳貸して?」
「なんですか……?」
「ごにょごにょ……」
「……ふぇ!?」
一度足を止めてアルトはしゃがみこみ、レムに耳打ちをする。アルトは常時笑顔であったが、レムの反応は面白いくらいにはっきりと分かった。
まず最初に目を見開くと同時に狐耳がピンと尖ったように真っ直ぐになり、俺を見つめる。そして質問されたことをアルトにもう一度聞き返し、お互いの耳打ちを繰り返すと、すぐに幾つかの尻尾もピンとたったのが分かった。
「ゆう……いせかいから来たって……本当ですか……?」
「ああ。びっくりしただろ?」
「ボクも勿論驚いたけどね。でもユウだったらなんかそんな気がしたんだ」
「ゆう……だから分からないことおおいんだね……」
「うっ……」
最後のは若干心にきたが、彼女が心から素直に言ったことなのだ。もうすこしこの世界について知らなくては。それにしても彼女は態度で本当にわかりやすいな。
「さ! いこっ!」
「そ、そうだな」
笑みを浮かべつつ言葉を返したが、それは引きつった笑みであったのかもしれない。何故か頬が貼ってる気がした。とにかく朝ごはんを食べに向かうとしよう。
ギルドに到着して中に入ると、いきなり殴りかかるギルドメンバーが――ということはなく、彼らから嫌な視線や嫌がらせを貰うことはなかった。もっともこの場合は俺の正体に気がついていないということが正しいのだと思う。入った時にちらりと見られた程度で、大きな反応は見せなかった。髪色を変えただけでこの違いか……黒髪はやはり相当目立つらしい。
シーナと話をしたこともある、ギルド中の喫茶店のような場所で今日は朝ごはんをとることにした。彼女達もかなりお腹が空いていることだろう。
ちなみに今回はカウンター席ではなくテラス席をとることにした。いい意味で目立たないって素晴らしい。
「いらっしゃい」
「うーん、ボクこれにしようかな」
「ならこれとこれと――レムはこれでいいか?」
「それがいい……です!」
「…………」
この店員は前来た時と同じ店員のようだが、誰に対してもこの無愛想でお塩な対応をしているらしい。
テラス席はギルド屋上にあり、ギルドとして機能するほか、ごく普通に喫茶店としても利用できる。もっとも、冒険者には柄の悪いものも多いため、一般人が利用することはかなり少ない。
品物は作り終えたら運んでくれるらしいので、飲み物を受けとってテラス席でゆっくりすることに決めた。
またテラス席では、洋風の町並みであるサイバルを一望することができる。ゆっくり話をするにしてもここが良いだろう。
階段を登りきり軽めの扉を開ければ、眩しい日差しが差し込んでくる。まだ朝の日差しであるのでそこまで強烈な日差しではない。
屋上ではテラステーブルが幾つもあるのものの、誰もいなかった。
「わぁ……!」
「へぇ、意外といいな」
「とても綺麗です……!」
日差しを気にせずにテラスに出れば、洋風な建物と、朝の日差しが連なってとても美しい後継が広がっていた。
煙突が生えている薄い色の住宅街に、大きな橋。そしてそこを運河として通る船など、見ていると元の世界の英国を思い出す。もちろんその国には行ったことはないが、いまはそこにいるような気分である。
「わぁぁ……!!」
「人間界ではあんまり気にしなかったけど、改めて見てみる綺麗な景色だね……」
「今度はアルトのコネで魔界に連れてってくれると嬉しいんだがな」
そういいながら飲み物をストローから吸い出す。この飲み物の味はバナナとメロンの酸味が主体のフルーツ牛乳の味だ。不味くはない。
「で、でも今の魔界にはおねーちゃんが……」
「気にしなくていいだろ? 戦いを挑むわけじゃないんだしな」
「あるとの街、行ってみたいです」
「二人とも……うん。分かった!ボクが絶対連れてってあげるからね!」
「ふふ……あると大好きです……」
そういって優しい抱擁を受け止めるアルト。親愛の抱擁である。決して百合な雰囲気は出ていない。メロとセリヌンティが抱きしめ合うあれと同じだ。
「…………」
「どうも」
テラステーブルの真ん中に置かれたのは、以前ギルドで食べたモーニングセットが三個並べて置かれ、次な大きなフランスパンのような物が入っている大きなバケットが置かれる。この中にレムの目的の卵パンであるが二個いっているようだ。
「何かあったらこちらまで」
そういって、どこから出したのか分からないが、ことり小さな水晶が置かれる。これで店員を呼べるようだ。そうして、やることをやった後に店員は去っていった。案外気の効く人なのかもしれないな。
「おーい。アルト、レム。食べるぞー」
「あっ、もう来たんだ」
「ご飯……!!」
花より団子……でも無いようだが、レムは目の色を変えて椅子につく。その時彼女は珍しく、うずうずと我慢できないようすを見せる。何時もは我慢できているだ、今日は特にお腹がすいていたのだろうか。
アルトがにこにこしながら席につくとレムは待ちきれないとばかりに必死に料理を見つめる。
「ふふふ……たべよっか!」
「ああ。いただきます」
「いただきます……です!」
前と同じ味で一安心しながらゆっくりと食を進める。アルトもゆっくり食事はであったのだが、レムはなかなか速度が早い。
「焦らなくていいからな?」
「もぐもぐ……美味しい……です」
「そうか……ならいいんだが」
別に急かしているつもりは無いが、彼女にとってはこれが一般的な食べる速度であるのかもしれない。食べるペースは人それぞれだ。俺がいうこともないだろう。どうにも俺は心配で声をかけてしまうな。過保護なのだろうか。
結局そのペースで彼女は食べ続け、俺達が食べ終わる前に食べ終えてしまった。だが、ここで事件は起きた。アルトがレムに料理を食べさせてあげる時である。
「はい、レム。あーんして?」
「あ……はむっ……」
「美味しい?」
「おいしい……です」
「ふふふ、良かった」
ここまでなら高校生ぐらいの姉と小学生ぐらいの妹がスキンシップしているだけに思えるだろう。しかし、まさかの火種がレムから放たれた。
「あると、ゆうにもやらないの?」
「……えっ?」
「ん?」
街を見ながら忍者のような動きをするためにはどのように動けばいいのか、はたまた手裏剣はこの世にあるのか、ということを考えていたので聞き返してしまった。アルトをみれば動きが止まっている。
「あるともゆう……すきだよね? あっ……そういえば、二人でちゅー? してた……よね? えっと……子供……つくるんですか?」
流石のレムも恥ずかしくなったのか、顔を赤く染めながら俺達をちらちらと見てくる。その瞬間に俺は三つの考えが湧いた。
その一、キスをしていたことに対する弁明を行い、アルトの出方を観察。危険度中くらい。 キスだけに、とかは関係ない。危険度が、中くらいなのだ。
その二、子供の作り方に対しての弁明。危険度極めて高い。
その三、話題を切り替える。これがもっとも安全。
(その二は駄目だろ……まぁ、ここは三が妥当だろうか)
「そういえばこのモーニングセットってうまい――」
「レムも……見てたの?」
「あれが……あい……ですよね?」
アルトの顔はいっきに真っ赤になっている。もう爆発してしまうのではないかと思うくらいだ。
「ええ……えっとねレム! ききき……キスで赤ちゃんは出来ないんだよ!?」
「え……そうなんですか?! なら一体どうやってできるの……ですか?! 」
「落ち着けアルト。逆に状況は悪化してるぞ」
レムはたいへん興味深そうにアルトと俺の目を必死で見つめる。だが、この知識は彼女にはまだ不要である。真実を教えてはいけない。
「ゆうは……分かるんですか?」
「ああ。大人になればすぐ分かるよ」
「あぅあう……」
「大人まで……待てません……です」
彼女は大人がどんな汚い手を使ってくるかはまだ分かっていない。(主にドリュードのような存在が居るため大人が汚いというのがわかる)そのため、毒されないように純粋な子は純粋なままでいて、いつか知る時が来ればいいのだ。
「レ、レム? そういう事だからこの話題はこれで――」
「なら……ちゅーをなんでしたんですか……?」
「レムっ?!」
「…………そういえば何でだ?」
「ユウ?!」
まさかの裏切りにアルトが裏返った声を上げ、さらに顔を紅くする。あのシーンを思い出してしまえば、いくら俺でも顔は熱くなるし、めちゃくちゃドキドキする。
「あると、何で?」
「えっ……あ……あの……う……」
「まぁ、俺の好きって気持ちがさ、と、止まらなかったんだよ」
「ゆうが……あるとのことを……すき?」
「ああ」
かなり言葉が詰まってしまったが、一応言えた。俺も顔が熱いので真っ赤であるのだろう。彼女をフォローした理由として、こちらまで敵に回ってしまったら彼女がへそを曲げてしまうかもしれないからだ。
まだ時間は朝であり、本当は恋愛トークをしに来たわけではない。これから先も出かける予定なのだ。気まずくなりたくない。
でもこの会話、どちらかといえばお互いを知るというコンセプトは得ているのだよな。
「なら……ワタシは?」
「もちろん、好きだぞ?」
「なな、なら……」
「ちょっと待って?!どんな流れなのこれ?!」
「……分からん」
アルトの突っ込みによりそれ以上の展開は抑えられた。あのまま行けば確実に大変なことになってただろう。心の中で親指を立ててグッジョブと送っておいた。
「ならゆう達は……いまでも……ちゅーが……出来ますか?」
「?!」
「レム。そういうのはな、隠れてするものであって――」
「へぇ、相変わらず綺麗な景色――って貴様っ!?」
どこか聞き覚えのある声。そして甲冑がこすれる音がやたら耳に残る。そしてこの赤髪。もしかして……こいつは……?!
「うーん。誰だっけ?」
「え……えっと、Sランカーのマリ?」
「わ……怖い人……です」
「バンリだ!! わざと間違えているのか苗字無しのアルト!」
なんか面倒くさそうな人とその取り巻きがゾロゾロと屋上に入ってきた。そういえばここって一応ギルドだったよな。
追記
この時間まで書いていたのですが、スマホの電池が警告ともに消えてしまい、その書いていた内容も消えてしまいました……
更新はもうしばらくお待ちください




