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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
122/300

二度目の

「俺達は魔族だ」

「嘘をつけ!俺たちをあんな拷問にかけただろ!」

「それはお前達が同族と判断できなかったからお灸を据えてやっただけだ」

「なら! 人間界に帰りたいってなんなのよ!」

「それは勘違いだ。人間界に向かい、滅ぼしたいという意味合いが含まれている。それにだ。ただの人間が魔族の掟を知っていると思うか?」

「そ、それは……」

「無駄にしゃべるな人間」


 最後の方はかなり無理があったが、相手の反応は少し変わった。その代わりに踏みつけている足の力が強まる。周りを見れば俺の手首を魔法により縛り付けている沢山の魔族が、突然の発言に困惑を表している。さらに上を見れば、目がチカチカするような光でいっぱいだ。

 闇夜を照らす光。それは至るところから発せられていて、高いビルのようなところから漏れる光、そして地面に埋め込まれた石から発せられる光も視界を確保するのに大いに役立っている。上を見上げればスロープのようなものがビルとビルの間をつないでおり、時々スロープの中を走っている。


 こんな雰囲気でも魔界である。先程までは何も無かった草原であったのにその環境は一転し、俺達はネオン街のような雰囲気をもつ未来都市に来ている。


「はぁぁ、どうしてこんなことに……」


 ドリュードも悲しそうな目をしながら見回す。しかし彼が見ているのはネオン街ではなく、周りを取り囲む魔族だ。そして次に見たのは、情けなくも地面に転がされて、足蹴にされている俺。なお、ドリュードも同じ状態である。つまり、多数の魔族に囲まれていて、なおかつ俺達は地面にうつ伏せ、そして踏まれていた身動きが取れないという絶望的な状況である。なぜ俺達がこんな場所で、こんな状況にいるのかというと、洞窟を出た後の出来事にあった。








「さ、案内してもらおうか」

「…………」


 恨めしい表情で俺たちを睨みつける魔族。

 魔族の二人についていくこと数分間、その間は会話もなく無言の状態であったが、そのおかげで俺が行った対して考える時間があった。


 魔族に対しては、彼らがイメージする人間のイメージとはかけ離れた優しい人間の姿を見せるつもりだったが、気がついた時にはやってることはまるで同じであった。魔族が俺に抱くイメージは最悪の人間の姿そのものである。これはアルトにも顔向けできない。調子に乗りすぎたのでかなり反省している。許してもらえるとは思わないが、とりあえず謝ろうとした瞬間に、


「グァァァッ!」


 と叫び声をあげながら血走った目をしていて、体に赤いラインの入った狼もどきが、気配すら感じさせることもなく枯木の影から飛び出してきた。飛び出す速度は大したことなかったものの、気配どころか足音、殺気すらも無かったのでかなり驚いた。


「そういや、魔界だったな」

「おいおい! こいつも気配探知に写らないのかよっ!」

「っ?! シャドーウルフかっ!」

「俺達だけでも逃げ――くそっ! 囲まれてる!」


 魔族の二人はこの包囲網から逃げ出そうとしたが、狼の軍団の足は速く、既に俺たちを取り囲み、濁った血走った目で睨みつける。そうとう怖いな。


「こいつらのレベルは……」


 すかさず《観察眼サーチアイ》を使い調べる。肌で感じるのは圧倒的な飢餓感。目の前の俺達は敵という認識でなくて、食物としての対象としているかのようだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 名称 シャドーウルフ レベル130 獣族


 HP 8000/ MP 0/0


 弱点属性 無


 備考


 人の手により体内にウイルスの得た通常とは違う魔物。ウイルス恩恵により、通常の個体では考えられないような力を発揮する。ウイルスは人間でも粘膜感染する。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 まさに狂犬病のワンちゃんだなこれは。それにしても観察眼サーチアイの偉大さと共に、誰がこんなことを書いているのかが気になるところ。また女神が絡んでいるのではないだろうかとつくづく思う。


 そんなことを考えていると、周りにいる狼全員がもう待ちきれないとばかりに、一斉に襲いかかってくる。凄まじい飢餓感を感じているはずだが、これだけチームワークを取れるということは、なかなか恐ろしい事だ。


「ドリュード、攻撃に当たるなよ。あいつらと同じように、涎を垂らしながら飢餓感と共に生きる獣になりたくなかったらな」

「うっわ、こええよおい」


 魔族の二人がいた場所をちらりと見れば、その姿はどこにも見当たらなかった。もしかしたら空を飛んで逃げたのかもしれない。くそっ、貴重な案内役が……


「ガゥゥァ!!」

「二匹同時攻撃か。素手でやりたいが、噛まれたりしてウイルスに感染したら困るよな」


 引き抜いおいた刀をしっかりとにぎれば、次の瞬間に閃くようなスピードで狼たちの命を奪い取る。素振りを毎日していればこれだけ人間離れしたスピードが出せるようになる。そのことに気がついた時には、なにより自分自身が一番驚いた。


「グぉ?!」「ガオオッ?!」


「おっと、こいつらは流血するのか」


 オオカミが俺達を食いつくそうと飛びかかろうとした途中に凄まじい速さで二体同時に切りつけたが、

 前回の合成獣とは違い流血が見られた。どす黒い体液であったが、直撃は回避した。これも目とかに入ったら危なさそうだ。


「ウイルス持ちのオオカミとかっ! 聞いてねぇよ!」


 彼は悪態を吐きながら向かってくる狼を切り伏せ、その隙を狙ってきた狼を蹴りで吹きとばすといった戦法をとっている。噛まれたら状態解除ディスペルをかければいいのだが、風邪などの健康状態を脅かすようなウイルスに効果はあるのか分からないので絶対に噛まれないで欲しいところ。


「おらぁっ! ってこれ、だんだん増えてねぇか?!」

「そーだな。よほどお腹がすいてるんだろうな。これだけの狼がいた覚えはないんだがっ」


 先程からずっと葬っていたはずなのにちっとも減っていない気がするが、それは彼も感じたようで気のせいではなかったようだ。淡々と感想を呟きながら体液と攻撃に当たらないように工夫しつつ、襲いかかってくる狼達を辻斬りのようにばったばったと切りつけ、命を奪う。斬り方にもだいぶ工夫ができるようになってきた。こんなテクニックがあっても人殺しには極力関わりたくないものだ。


「うぉっと! こいつ最初から俺の足に噛み付こうと……」

「ん? なんか読まれてきたかもしれないな」


 どんどん現れる狼を全て戦闘不能にしているのにも関わらず、数は一向に減らない。それどころか、狼が捨て身で突進してくることもあるため、行動に対する妨害が多くなってきた。というわけで俺も四肢を使わざるを得ない。


「ドリュード、一気に吹っ飛ばしてみるか?」

「その提案を俺も考えてたよっ!」


 これ以上行動を読まれるのは危険と判断し、最初と比べて、立ち回りを大きく変えた狼を吹っ飛ばした後、空中歩行により空へ逃げる。狼に制服を千木られたらとてつもなく困るのでかなり余裕を持って逃げた。


「ふっ!」


 彼は短く吐息を吐くと、襲いかかってこない僅かな時間を見計らい、手に持った武器を地面に突き刺す。あの技はギルマスが使っていた相手を怯ませる技だろうか?


「食らいなっ!」


 その瞬間に彼が剣を突き刺した部分を中心として大きく亀裂が走る。その瞬間に彼の足元は陥没していたので、なかなか力が込められていることは一目瞭然だ。なお剣はヒビさえ入っていない。

 亀裂から吹き出たのは凄まじいエネルギーの奔流だ。狼たちは突然の事態に対処する余裕はなく、ド派手な爆音と共に吹っ飛ばされていく。空から見た感じだと爆弾が地面の中で爆発したような感じだ。威力も十二分である。

 今更ながらドリュードは魔法クラスではない。ギルドの検査の時に騎士の紋章の時に液体が落ちれば、戦士クラスとなる。

 魔法クラスと戦士クラスの違いは保有魔力、基礎能力の違いにある。魔法クラスは保有魔力が高く、基礎能力が低い。戦士クラスはその逆だ。それに戦士クラスでは魔法を使えない人が多いらしい。彼は使えるようだが。


「はっ!どーよ!少年!」


 煙が晴れたら彼は地面から剣を抜きつつ笑顔で俺を見る。凄まじい威力であったので、彼の足元には彼を中心としたクレーターが形成されていた。手を抜いたようだが、人の領地なのをこいつはわかっているのだろうか。って俺も無断で入ってるのか。


「いいんじゃないか? 流石は元一つ星(シングルスター)だな」

「なんでお前は上から目線なんだよ。それにお前のせいで落とされたのを忘れるなよ? 今となっちゃどうでもいいが」

「言ったな? 言質はとったぞ?」

「げっ、こいつの前で言うんじゃなかった」


 それにしてもここの魔物、そして魔族は全員と言っていいほど気配を感じられない。全員が気配遮断を覚えているというのだろうか? だとしたら流石は戦闘民族だな。


「さて、この方向にまっすぐ向かってくか」

「ん?真っ直ぐでいいのか?」

「いいんだよ。第一曲がり道も何も無いだろ?」


 周りは草原である。曲がり道どころか、本当に何も無い。奥に見える風景すら何ら変わりない草原である。方向がわかればこっちのもんだ。


「じゃ、さっさと行くぞ? レムが心配だ」

「全く過保護な少年だ」

「俺はもう十八。大人だ」


 互いに軽口をたたきながらひたすら草原を真っ直ぐに進んでいく。この時に俺は気が付かなかったが、魔族は逃げていなかったのだ。じっと観察するようにこちらを見ていたのに、俺はそれに気が付かなった。


 それからというもの数分間互いに話しながら歩いていたのだが、再び予想だにしない出来事が起こる。


「キギギィォォォ……」

「あぐぁああ!!」


 目の前に見えるのは気持ちの悪い鳴き声を発する二股の鳥の頭を持つ鶏。大きさはおおよそ2mある。意外と大きい。

 なにより俺達を驚かせたのは、レムと同じぐらいの年の魔族の男の子が宙に舞っていたことだ。血だらけのその子は受身を取ることなく地面に落ちる。いったいどうなってるんだこれは。いや、いまは考えなくていい。あの男の子を助けなくては。


「ドリュード。あの鳥頭を頼む」

「?! 魔族の味方するつもりか?!」

「あいにく差別はしない主義でね。無理なら別に構わないが、俺一人でも行くぞ」

「なら、貸一つな?」

「……はぁ、了解」


 そのとき彼は心からの笑顔だったと思う。やっと一歩リード出来たということがそこまで嬉しいのだろうか。まぁいいか。安全に変え難いものはない。


 俺はおそらく魔族であろう男の子に向け駆け出し、回復魔法を準備する。近くに来て分かったが、かなり重傷だ。こんな小さな子供を魔物と戦わせるのが魔族の教育の方針なのだろうか?


「おい、大丈夫か?」

「がはっ……」


 男の子は暗い赤髪で、魔族の証ともいえる羽もなく、角も無い。噛みちぎられてしまったのだろうか? 残念ながら腕が千切れた等、欠損 してしまった部位は回復魔法では再生できない。だが、命を取り留めるためには回復は最優先である。


「しっかりしろよ」


 この子の表情はどこかしらだか、施設の子供が大怪我をした時の顔つきに似ている。どっちにしろこの表情を見ていると辛いので全力で魔法をかけ続けた。


「おらぁ!」

「ギュェェェ?!」


 どこか嬉々とした表情のドリュードはあっという間に相手の隙を作り出し、その隙に大きく切りつける。その圧倒的な攻撃力に鳥頭は気色の悪い断末魔をあげながらこの世を去っていく。なんとか仕留めてくれたようだ。

 彼の動きがいつも以上に俊敏なのは気のせいだろうか?


「効きが悪いな」

「はぁ……はぁ」

「おしっ! 仕留めてきたぞ。貸一つな!」

「さんきゅな。無茶な願いは聞かんぞ」

「おいおい、大人の人使ったんだからこれぐらいゆずろうぜ?」


 男の子の呼吸は荒いままで、いつも行う回復魔法より効きが悪いのがよくわかる。それにしてもなぜドリュードははここまで喜んでいるのだろうか? まさかこいつは俺に対してあんなことや、こんなことをさせるつもりでは……


「まじかよ」

「えっ、なにその引きつった表情」

「いや、何でもない。人の趣味は否定しないが、俺は巻き込まないでくれ」

「お前は何を考えてるんだよ」


 彼の冷静な突っ込みを無視しつつ、回復魔法に意識をさらに集中させる。相変わらず効きが悪いが、男の子がうっすらと目を開け始める程度までは回復したようだ。真紅の双眼はまだ焦点があっていない。


「はぁ……はぁ……だ……れ……」

「俺が聞きたいところだが、いまはゆっくりしてろよ」

「なんで……こんなことを……」

「後でな」

「っ?! ユウっ?! 伏せろ!!」


 突然ドリュードが焦燥めいた声を上げるが、俺の意識はほぼ魔法に向いていたので、なんのことだか分からず身動きが取れなかった。目の端に見えるのは彼の必死な表情。そして、目の前にはナイフではなく、円柱の黒い棒。それが真横から飛んできた。


「魔法……あぐっ!?」


 魔法纏を発動させようとしたが、遅い。対処できずに脇の腹に重いっきり食らう。かなり重い衝撃だが、なにより効果が大きいのは、それを食らった途端に魔力が切れたような眩暈が数倍の強さで襲いかかってくること。


「ユウ?! 無事か――ぁっ?!」


 同じくドリュードも謎の黒い円柱の棒で攻撃を受けたらしく、俺に向けて倒れかかって来る。一発で気絶なんて情けないな。


「人のこといえないか……これは……」


 両手を地面について、眩暈に耐えるが視界はもうほぼないといっていいほど黒一色だ。だか、たしかに声は聞こえた。


「これ食らって、まだ意識あるとは……こいつどうなってやがる……」

「いいからさっさと連れてくよ!」

「この人間臭いガキはどうする?」

「捨てとけば?この様子じゃここでは生きられないだろうしね」

「じゃ、そうするか……なっと!」


 その声は俺が擽った魔族二人の声に似ていた。実そうだったのだが、そこで俺の意識は凄まじい頭部からの衝撃により途切れてしまったのだ。


 そして、今に至る。


「信じるわけないだろ?! もっとましな嘘考えろよ?!」

「嘘じゃねぇわ。嘘だとしてもお前はそんな大声でいうんじゃねぇよ」

「やはり嘘だったか!」

「牢に入れて拷問しろー!」

「ソプラノ様にささげろー!」


 俺の冷静な突っ込みを起爆剤とし、周りにいる魔族達は大いに盛り上がる。というか最後のだけはなんとしともご遠慮したい。絶対逃げなくては。


「ちっ、やっぱり魔法はできないか……」

「ほう、ずいぶん抵抗しているようだな人間。最初に意識を挫いて、ソプラノ様に捧げるのがいいと思うのだが、皆の衆よ。ソプラノ魔王様にサプライズプレゼントとしてこいつらを送るのはどうだ?」


 それを聞いてさらに盛り上がる魔族。プレゼントされる側としたらとんでもなく困る。というかかなりやばい。正直いまの魔王には俺が五人いても勝てる気がしないし。


「では、ここに決定した! くれぐれもあのお方には内密に! あのお方はこういうのが昔から好きだっからな」

「おい……俺達これからどうなるんだよ……」

「このままだったら、拷問されて、あの意味のわからない強さの女性に引き取られる。これだな」

「……はぁぁ?! ふざけんじゃねぞぉぉぉ!!」

「黙れ人間!」

「ぐぅぁ?!」


 ドリュードは今更ながら言われていることの全て理解したようで急に大声を上げる。そのため、魔族に踏みつけられて呻き声をあげた。ソプラノはドリュードにとって相当なトラウマの人なのだな。俺にとってもだが。

 一応あてがあるしそこまでなことにはならないと思うが。ていうかなったら本当に死ぬ。


「おら! こい!」

「無理やり引っ張んなよ」

「くそぉぉ!」

「暴れるな!」


 牢獄へ連れられる最中、石などの投擲物を投げれられたが、卵のような匂いか強いものは投げれなかった。

敵国なので仕方ないとは思うが、この待遇には納得いかない。魔界に観光に来る人たちは皆こんなことになるのだろうか? 観光者なので優しくして欲しいのだがな。ちなみにドリュードは無駄な抵抗により無駄に攻撃に被弾している。さすがに可哀想になってきた。てか、また牢獄なのかよ。異世界に来て何度目だよ?!



高覧感謝です♪

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