依頼とその覚悟
俺達が頼んだ品物は、黒々セット二つに自然の味堪能セットが一つ。黒セットは俺とアルトで、自然セットはレムだ。姫様は嫌な予感がするということで食べないらしい。
「んで、なんで姫様なんて高い立場にいるのにこんなところに来たんだ? 仕事サボったのか?」
「わ、私はそんなことはしない。こう見えて真面目だからな!」
「どーだかなー」
レムは恐らくだが、初めて会った相手のであるため、少し彼女のことが怖いようだ。それに彼女が姫と言う事を知っているならば緊張は尚更だろう。アルトからしたらこの姫様のことをよく思ってないらしいが。俺からしても別になんとも思っていないが、魔界の覇者と、敵国の準トップとなれば仲良くできないのも仕方ないかもしれない。
「あっ! ユウ君! おまた……せ……」
「よーラクナ。ん?どうしたその顔は」
「いやぁ……あはは……ちょっとここの雰囲気に驚いちゃってさ……」
彼は珍メニューの内容は知っていたため、ここは黒魔術を使うような怪しい雰囲気をもつ場所と思っていたようだ。実際は庶民的な空間であるのだが。
「あっ、仕事は大丈夫?」
「うん、とりあえず見回りだから少しぐらいなら一緒にいられるよ!」
「少し安心……です」
「む? どこかで見たような……いや、性別が違うか」
「隣、失礼しますね?」
彼は空いていた姫様の隣に遠慮なく座る。なかなか根性がある行動だな。国民でありながら、一国の姫様の隣に座ることは普通だったら戸惑う事はあるだろう。いつの間にか彼も精神的に強くなったようだ。
「えっと、ユウ君達はなんで自分を呼んだの?」
「暇してそうだからな」
「ひ、暇じゃないんだけど……それより貴方はどうしてユウ君達と話しているんですか? 」
「丁度話そうとしていたところだ。……それにしても似ているな」
「わっ!? っとと、突然何ふぇすか?!」
ムニムニとラクナの顔を触ったり、ほっぺたを引っ張ったり伸ばしたりしている。これには流石の彼も嫌そうな表情を浮かべたものの、彼女は気にしたようすもない。
「それにお前、心読み防御が貼ってあるな。生徒とは思えないほどのレベルの高さだ。突然失礼したな」
「そんなの貼った覚えはないですけど……」
「あれ? ラクナってそんな魔法使えたの?!」
「使えないよ? そもそも心読み防御ってなんだかも分かんないし」
「ラクナも……すごいです」
どうやら彼は心を読まれることを防御する魔法かアイテムを使用しているようだ。そんなものあるなら俺もこの姫に遅れを取らないために欲しいものだがな。
「さて、テュエル。話を進めてくれるか?」
ここで姫様と呼ばなかったのは彼もそのことを知ってると思い、いちいち役職で呼ぶのも失礼かと思ったからだ。
「そうだな。とりあえずここにいるお前にも話しておくが、二ヶ月後、竜人の里へ向かおうと思う。それにお前達と、数名の学園の生徒についてきて欲しいんだが……」
「「お断り(します)(です)」」
「テュエルって名前はどこかで聞いたような――ってえっ?! 竜人の里が見つかったんですか?!」
「お前達、即答過ぎやしないか?」
テュエルが半目で俺達を見つめるが、そんなことには動じないアルトとレム。まず俺達は竜人嫌いだし、それに彼女達は竜人にトラウマを与えられたし、敵意はなかなかのものだろう。しかし俺がいつものように直ぐ様このことを断れなかった理由は この学園につく前の元魔王、もとい、アルトの姉が俺に見せたあの憧憬にある。
『 今から二ヶ月後、私の配下の一人が竜人の里を攻めまーす♪ この二ヶ月で何をするのかは内緒。このままだと滅ぼされちゃうので対応してくださいね』
なるほど、こいつがここに来た理由がいまはっきり分かった。二ヶ月後というものあり、すべてつじつまがあった。この姫様は俺たちに協力を求めようとしているのだろう。俺達よりも強い人はいくらでも居るはずなんだが、何故俺たちなんだ?
「貴女も知ってるとおり、僕は竜人が嫌いなので。それと姫様なんだから、それに僕が、僕たちの国を攻撃した竜人の本拠地に行くと思う?」
「あまり調子に乗るなよ魔王、私は魔族である貴様に願っているのではなく、ユウ達に向けて【依頼】をしているのだ。魔族なんて我らの勇者がいればいつだって潰せる事を忘れるなよ」
「っ!いい加減にっ――」
「落ち着けアルト。テュエルもアルトが魔族なんてでっち上げを作るな。ラクナが勘違いするだろ」
「ま、まぞく?僕達の国……? れ、レム。どういうことだか分かるかな……?」
「あるととひめさまは、ばなちょこを食べて少し不安定です……気にしない方がいいです」
「バナチョコって……危ないものなのかな? 次から規制しなきゃ」
どうやら勘違いをしてくれたようだ。ナイスアシストをしてくれたレムに心の中でお礼を言うと、とりあえずこの場を収めるため、アルトに向けて話す。
「アルト、もっと楽観的に捉えてみた方がいいんじゃないか?」
「その必要は無い。こいつにも今の現状を理解してもらう必要がある。なにせこいつの血縁者が今回の元凶だからな」
「なにそれ、どういうこと?」
「えっと……」
来て早々不穏な雰囲気になってしまったことから、ラクナはたじたじである。これを見て、レムは今の俺からしたらとてもありがたい手段を見出し、提案してくれた。
「らくな、あっちで食べよう?」
「そ、そうだね! 自分達ちょっと違うところで食べてくるよ!」
「こっちが呼んだのに悪いな。レム、よろしくな」
そう言って二人は奥の別の場所へ向かって行った。後でレムにしっかりとお礼を言わなくてはな。さて、次はこの状況をどうするかだな。
「ねぇ、どういう事なの?」
「そのままだ。お前と同じ名字を持つものが今の魔界の魔王となっている。もう既にお前は魔王ではない」
「……おねーちゃん、なの?」
「あの化け物はお前のことを【駄作】とは言っていたな。名前も出ていたから間違いないだろうな」
「やっぱり僕の席はおねーちゃんが……魔王に戻ったんだね。そっか……そっか」
アルトは暗い表情であったが、涙は流さなかった。この状態の彼女に対して、こんな時どうすればいいのか? ずっと考えていたのだが、全く答えは出ない。数十秒程度無言の状態が続いたが、テュエルも表情を無表情にし、再び話を切り出した。
「それでだ。あの魔王、ソプラノといったか? その手下が一人で竜人の里を落とすつもりでいるらしい」
「伝説の種族だろう? その程度ならどうにかなるだろ。それに勇者はどうしたんだ?」
そのことをいうと、彼女はバツの悪そうな顔をして、淡々と語りだした。
「勇者はしばらく帰ってこない。あちらで相当強い魔族と出会ったようで未だに戦闘中だそうだ」
「手伝いに行けばいいだろ? なんのための国と勇者の協力関係だ?」
「……やはり我らが勇者に依存していることは知っていたか。まぁいいが、その魔族はあまりにも次元が違うらしく、勇者でも手を焼く程だ。我らが向かったとして足を引っ張る他ない。なので二つ星の位をもつ者を一人向かわせているが、未だに連絡なしだ」
「色々そっちも大変なんだな」
どうやらソプラノ魔王は勇者の方にも実力者をぶつけて、動きを封じているらしい。しかし、この頃から手を出し始めているということは勇者はもうやられてしまっているのではないだろうか?
数日も戦闘が続くとは思えないし、戦闘が終わったなら帰ってくるはずだ。やはり負けてしまったのだろうか。
「と、いう事でだ。竜人の里にお前達と数名の生徒を呼ばせていただきたい」
「戦場になるであろう場所に俺たちみたいな未熟な生徒を連れ出すのはどうかと思うが?」
「お前が未熟であるとは思えないが……生徒を連れていく理由は、生徒たちに竜人の里を見学させるという、竜人の里に入るための事由になってもらうためだ」
「ん? 竜人の里に入るのに条件なんてあるのか?」
「当たり前だろう。一応だが聖域と呼ばれているからな」
どうやら竜人の里には簡単には入れないらしい。一応伝説の種族だけあって、そういうところはしっかりしているようだ、だがなぜ見学はokしてくれるのだろうか?
「すー……はぁ……。で、なんで竜人は数名の生徒が入ることを許可してくれたの?」
アルトは深呼吸すると、再び会話に入ってきた。彼女はショックでしばらく口を聞けないと思っていたのだが、なんとか立ち直ることができたらしい。こうなることを予測していたり……はしないよな。
「それはだな、竜人とは信仰対象でもあるからだ。勿論神や女神を信仰するものも多いが、実際に存在する竜人というものに神意を感じるものも多いのだ。神の使いとも言われてるからな竜人は」
「質問の答えになってないぞ」
「今話すから焦るな。ごほん、簡単なことだ。竜人は実在する、ということを広めてもらうためだ。実際に竜人を見て、存在する、ということを人間が分かればそれはすぐに広まる。情報の広がり方が速いのは我ら人間の良いところでもあり、悪いところでもあるがな。だから竜人に対する信者も集めやすいということだ」
ほんとに宗教だな、としみじみ思う。それだけ信仰者を集めて何かしたいのだろうか? 魔族との戦争、もしくは竜人信仰反対派の制圧……彼らの性格なら何を出してもやりかねないな。
「と、いうことだ。どちらにせよ生徒を連れていかねばならない日で、竜人の里見学が認められる日も丁度二ヶ月後。幸か不幸かなことにその魔王の配下がくる日は丁度見学期間の間だ。生徒たちはこの間に避難させるのがいいだろう」
「……ねぇ、ほんとに救う必要はあるのかな? 僕は魔族だから偏見を持ってるかもしれないけど、竜人、という生き物にそれほど――」
「人間はな、強いものには従い、敬う。弱いものには……お前達もよく分かってるはずだ」
「それが召喚士に対する態度の現れ、といいたいんだろう。分かりやすい例だな」
まるで人事のように話す俺だが、馬鹿にされ続けてきた俺が一番わかっていると思う。こちらの世界の人間は元の世界の人間は価値観違うということも痛い程にわかる。話は変わるがアルトの立ち直り方が以前と比べてかなり早い。以前はかなり大変な動揺を見せたのだが、今回はなにか考えがあるのだろうか。それとも吹っ切れたのか? 無理しているのかも知れないので少し心配だ。
「それで? お前達には冒険者に向けて依頼、という形で頼みたいのだが、やはり断るか?」
「僕は行くよ。ユウが行かなくてもね」
「アルト……? お前……」
即答であった。大っ嫌いな竜人であるというにもかかわらずにだ。それの本拠地へ赴くというのだ。彼女の意図が全く掴めない。
「竜人に危害を与えるつもりなら、我らが全力で阻止するが? 場合によっては殺すことも考慮してくれて結構」
「竜人には手を出さないし、話もするつもりもない 」
「魔王であった貴様が本当にできるとはおもえな―― 」
「なら、これで信じてもらえる?」
アルトは不意に魔力を高め、魔法を唱える。その魔法は、竜人嫌いな彼女であり、いつもの彼女からは想像出来ない内容だった。
『アルト=サタンニアは、故意に竜人に手を出さないことを誓うっ! 契約期間は依頼が始まり、終わるまで!』
「なっ?!」
「?!」
先程の魔法は、契約書を受理する時にその契約をうやむやにしないために、その契約外の事をしてしまった時に、命を奪ってしまう呪いと似たようなよう魔法をであろう。
なにより条件がそこまで厳しくないことが何よりの驚きだ。彼女はそのような条件の時には、【こちらが被害を受けない場合】などの細かなことを儲けるのだが、彼女はそれをしない。無条件で手を出さない事を発言した。いつの間に結界を貼っていることから、変なところだけ冷静な気がする。何に焦っているんだ彼女は?
「さてお姫様、あなたの条件をお願いしますね。僕からしたら貴方たちから被害を受けないのが望むことなんだけどね」
「そ、それでいいならそれでいい。はぁ、契約を受け入れよう」
その瞬間に僅かながら二人は発光し、それはすぐに収まる。突然の事態に俺は全くついていけない。
テュエルがすぐに契約に同意したのはこれ以上条件を出されたら逆に困るからだろう。冷静なのは姫様だけであるかもしれない。
「魔王……いや、アルトは竜人の里に行くんだな?」
「うん、僕は覚悟を決めたからね」
「アルト、いったいどうしたんだ?」
「どうもこうもないよ。僕は行く。決めたから」
やはりいつのも調子じゃない。どこかなにか深くまで誤解しているような気もするし、それが彼女のようすを狂わせているのではないかとも感じられる。
そのさっきから状態であったため、彼女の現状についてなにか聞き出そうとしたら、ついに頼んだものが来た。
「黒々セット二つでーす!おまたせしましたー!」
「……黒いなほんとに」
「いただきます」
「こ、これは……」
アルトは動揺することなく、黒いラーメンのようなものをすする。ちなみにこのセット内容は餃子もどき(もちろん真っ黒)と黒いラーメンもどきである。
おもいっきり中華であった。
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