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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
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甘いもの

 ざわざわと騒がしい空間に、楽しげな様子の生徒や国民を見ていると自然と頬が緩んでくる。私が王女でなかったならこのように学園生活を謳歌していたのだろうか。


 この私、テュエル=ランクルサリーは王族であるものの、子供の頃はあまり外にでなかったため専属の従者に勉強を教えて貰っていたりしていたのだ。これに対して私はなんとも思わなかったが、父上が私を外に出すことに消極的だったのはこの世の汚い部分から隔離しようという親心のためだった、というのは最近分かったことだ。だがそのおかげで政治の世界に出た時は本当に人間の汚さというものがわかった。


「一体なんだったんだあれは……あれが俗に言う演劇というものか? 見たことないから分からないが」


 演劇が始まる前はそんなことを思っていた私であったが、それが始まると意識は切り替わり演劇に対する疑問が次々に募っていくばかりであった。そもそも王族がそう簡単に外出できないのはなにより私が一番分かっているし、騎士もそう簡単に出入り口を開けないはずだ。


「この世界はまだまだ広いということか……ある意味興味深い話であったな」


 そんなことを考えながら私は変装した格好で演劇の会場を後にする。ちなみに今の格好は髪色は変えないものの、魔法により私がこの国の姫であることは判断出来ないようにしてもらった。宮廷魔術師の魔法なので安心だろう。公認の外出である。


 それとユウと話をするのは明日の約束だが、今日の日のために仕事をいつもより多めにこなして二日間だけ自由な日を獲得することが出来たのだ。初めての学園祭を楽しむために頑張って良かったといえる。


「む? これはなんだろうか?」


 手に取ったのは串刺にされた果実のようなものに、謎の茶色い液体がくっついて固まっているもの。甘い匂いが通り過ぎようとした私の身体を引き止めたのだ。


「いらっしゃいませー」

「これはなんなのだ?」

「これは私達の極秘の製法で作られた王族でも食べる事が少ないものでしてね、名前しか教えられないんですよ」

「極秘の……食べ物だと?」


 屋台に掛かっている看板を見れば『バナチョコ』とあった。この世界の食糧事情を把握するためほぼすべての食べ物を知っていると思っていたが、まさか知らない食べ物があるとは思わなかった。どうやら店員の説明によれば、この食べ物は高名な貴族が食事の最後に食べるようなものらしい。貴族がこれを食べた経験があるというのに王女であるこの私がその経験が無いとは……やはり世界は広い。


「言い値で買おう。いくらだ?」

「えっと、500Gですが……」

「なっ、貴族が食後に食べるものにもかかわらずそこまで安いだと……?!」


 私は思わず固唾を飲んだ。それ相応の代価は覚悟していたが、ここまで安いとは……いったいそれ程マニアックな食べ物なのだろうか? まぁいい。とりあえずだ。


「買わせてもらおう」

「毎度ありですー。暑いところだと溶けてしまうのでお気を付けてくださいね」


 串を掴み、渡してくる初老の男性。この学校の屋台は生徒でなくても店を展開できるため、驚くほどで店がある。勿論その店を利用するには生徒の出し物を体験することが前提である。


 少し離れた木陰の場所で私はこのバナチョコというものを凝視していた。全体的に茶色い固まった液体をかけられて、その身は曲線を描くように曲がっている。さらにその上には、桃色、黄色、青、赤といったカラフルな固形物が振りかけられている。まるで玩具のようだな。


「もしかして私は騙されてしまったのか? ……ありえるな」


 未だに食べない私はこれに少し怯えている部分があるのかもしれない。そもそもこれが違法薬物であったり、国が禁止としている魔法をかけていたらどうしたものだろうか。毒物でないとはいったが、体に害がないとはいっていない。さらにこの私が知らない食べ物ときたのだ。この国に関してはかなりの時間を費やして理解したつもりであるため、これはやはり怪しい。尚更極秘となれば――って私は何を恐れているのだ。仮にも闘魔姫と呼ばれていたのだぞ? これぐらいのことでいったい何を怖がるといういうのか。


「あっ、ユウ! あの人が持ってるあの食べ物何だろ!」

「ワタシも……気になります」

「あれは……チョコバナナか? いや、この世界にはないよな。人のことはじろじろ見るもんじゃないぞ」

「この世界? ユウって宇宙人?」

「いや、こっちの話だが宇宙人ではないぞ」

「あれが食べたい……です」


 私は驚いてしまい硬直する。バナチョコを凝視したままだ。彼らは私が姫であることとは気が付かず、手に持った紙を見るとバナチョコの販売店へと向かった。気配遮断を使っていなければ危なかったかもしれないな。視線を離して一旦周りに目を配る。


「……国民の安全のための毒味、毒味……って私には毒体制もあるじゃないか。はは、なにを恐れ――」

「ママ! 女の人がバナチョコを怖がってる!」

「しぃっ!そんな事言っちゃいけません! 貴方だって怖がってたでしょ!」

「……私が怖がっているだと?」


 親子が去って行った後、どこか吹っ切れた私はついに決心をした。このバナチョコに……勝つ!


「ええい! もうどうにでもなれっ!」


 相変わらずの姿で溶けていないバナチョコに向かって、投げやりな気持ちで噛みちぎ――


「?!」


 柔らかいだと?! しかもパリッという感覚は想像していたより全く違い、菓子とは違う柔らかさだ! そしてこの果実……甘いのは甘いのだが直接ではなく、間接的な甘さを持ち、突然お腹に入れる食べ物としても体が驚かないような優しさを感じる。いったいどんな方法で栽培されているのか?!


「ぅ……?!」


 恐らく茶色い固まった液体が口の中で溶けだしたと思えば、先ほどの優しさとは真逆の暴力的な甘さが口の中に広がり、鼻の奥、そして脳まで甘さという感覚でいっぱいになる。 いや、いまはそんなことはどうでもいい。ただ単にこの甘さが心地いい。もっと欲しい。もっと、欲しい。


「……んっ……」


 果実と茶色の個体……もう果実がバナで茶色がチョコでいいか。それが喉元を通れば体が喜びに満ち溢れ、何処からか力が湧いてくるようだ。しかし体とは逆に頭はだんだんぼーっとしてくる。酒を飲んだ時の酔いのような体感的ものではなく、意識的なものだ。実際に酔っているわけではない。


「貴様もか……っ」


 最後の追撃とばかりにカリカリな食感が私を元の世界に戻してくれる。これも勿論甘いが、チョコを味わったその後では少々物足りない気もする。だが、これの恐ろしさはそこではなかった。


「……なるほどな、貴様もバナチョコとして役割を果たすということか」


 トロンとした表情で食べかけのバナチョコを見ると、もっと食べたいという欲望が先程より強く現れるのが分かった。これはあの物足りない甘いさから来るものだろう。それにより甘さの連続で飽きさせない工夫がはっきりと感じ取れた。


「たべ終わってしまった……か」


 寂しげな表情で串を見つめていると、食欲が少しずつ静まっていく。一体どういうことだろうか? 勿論、もう数本食べたいのだが、食べている時のような食欲の波は襲ってこない。空を見上げると意識がはっきりしてきた。


「こんなものがあるとは……な。それにしてもこのバナチョコというものは――っ?!」


 ここで自らの行動を振り返る。腰は抜けて木に寄りかかっている私は、先程までどんな表情をしていたのだろうか。一体全体このバナチョコは私になにをしてくれたのか?!


「は、破廉恥……なあっ……!?」


 気がついたら、串を投げ捨てつつ距離を取る私がいた。幸いこの付近には人が少ないし、気配遮断を使っているので私の痴態に気がつくものはいなかったが、なにより公の場であのような表情をしたのは人間としておかしいとしか言いようがない。


「おお、覚えてろよバナチョコ!!」


 そう言って私は駆け出した。どこに向かうのかは私にも分からなかったが、校舎の中へと入っていった。


「あの人もポイ捨てしてるよ……」

「バナチョコってそんなにまずいのかな?」


 生徒がなにか話していたような気がするが、私に聞く余裕はなかった。



 ~~~~~~



「おお、まんまチョコバナナだな」

「すごい甘いよこれ?!」

「ふふ……幸せ……です」


 俺達はD組に向かっている途中、来校者が面白そうなものを食べている少女を見た。なにやら緊張してて食べていないようすだが、もしかしたらステマであったのかもしれない。そのおかげこのチョコバナナを買ってしまったしな。


「これってなんだろう……すごく甘いんだけど、魔界でも食べたことないよ?!」

「私の記憶でも……ありませんっ!」


 彼女たちも凄まじいまでの甘さに舌鼓を打つ。チョコを知らないなら相当驚いたことだろう。しかし、チョコレートというものは、カカオ豆から色々な手順を踏んで、砂糖を大量に消費することでやっと作れるもなのだ。カカオ豆をみつけたらすぐにチョコが作れるというものではない。とりあえず何も知らず作るのはほぼ不可能なのだ。


「んー……」

「ユウ? どうしたの?」

「このチョコレートを作るには相当大変なのだが……なんで作り方を知ってるのかどうか分からないんだよな」

「ゆうは……知ってるんですか……?!」


 レムが目を輝かせながら俺を見つめる。とてつもなく期待されているようだが、残念ながら俺はチョコレートを作るのにいろいろ面倒くさいということしか分からない。


「残念ながら俺は分からないんだ。悪いな」

「残念……です」

「ユウ、これって体に悪影響はないよね?」

「ないぞ。ゆっくり食べればいい」

「よかったぁ……これホント甘いなぁ……」


 二人は幸せそうな表情でチョコバナナを食べ続ける。彼女たちはベンチに座っているが、俺はもう食べ終わってしまったのでとなりあったゴミ箱に串は捨てたところだ。

 それにしても、食べ方がちょっと色っぽいのは気のせいだろうか? ……俺の勘違いだろう。男子高校生の性欲と妄想力は凄まじいからな。さっさと邪な考えは捨てるべきだ。


 しかしこの世界に来てチョコレートを食べることが来るとは思わなかった。勿論大好物である。昔はお菓子といえばせんべい等であったため、チョコレートを食べるのは本当に久しぶりである。


 空を見上げながらぼーっとしてたら、人に肩をぶつけられた。肩をぶつけるので不良の類いかとおもったら、ぶつかってきたのは女性であった。アルトやレムも甘くてとろけそうな表情から一気に豹変し、俺にぶつかってきた者に敵意の視線を向ける。俺の為を思ってくれるのは嬉しいが噛み付かないで欲しいものだ。


「すまない、見ていなかっ――」

「しっかり前を見て歩いてください。危ないですよ」


 俺はいたって無表情で返したのだか、彼女は驚愕の表情を浮かべてほそぼそと呟いた。


「ユウ……ナミカゼっ?! どうしてお前がここに?!」

「誰お前」


 敬語も忘れて俺は素で返してしまった。アルトたちの彼女に向ける視線はやはり冷たかった。



 ~~~~~~



「恥ずかしい……ほんとに恥ずかしい……」

「うわ、なんだこのメニュー」

「えっと、ネバネバってねばねばなの?」

「美味しくなさそうです……」


 結局俺達はD組の出しものである珍メニュー専門店に来ている。ラーメン屋のような活気ある雰囲気であるものの、お客さん達はなにやらにやついていたり、微妙な表情をしている。そしてメニューに書いてあるのは『ネバネバセット』『黒々セット』『飲み込みにくいものセット』等名前が不吉な名前しかない。


「んで、なんでお前が来てんだ? 明日約束のはずだが?」

「ユウ?どんな約束なのかな?」

「生徒会長との契約だ。どちらにせよみんなで一緒に来る予定だったがな」


 そもそもテュエルか俺を呼んだ理由は分からないし、なぜこいつが前日に来た理由も分からない。

 一つづつ聞いてみるとするか。



今日のうちに書ききれる気がしないのでここで切ります。

明日も投稿するよていです。


追記 2015/07/11


すみません、投稿できませんでした……

出かける用事が出来てしまったので執筆時間が取れなくて……


明日はしっかり投稿します。申し訳ございません。

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